その瞳に捕らわれてーafter storyー
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貴女の声が聴きたくて
ホワイトデーデートから一週間後。
今は公安の仕事で外に出ていたがそれも終わり車に乗り込む。一息入れ胸ポケットからスマホを取り出しとある番号に着信を入れた。だが、数回コールを鳴らせど出ない。
—— 寝ているのか?
時間は夜の23時を過ぎていた。さすがに遅いか、とエンジンをかける。そしてあの日の記憶を辿りながら車を発進させた。
デートの夜は何度も彼女を抱いて甘い時間を過ごした。とても幸福なひと時だったが急に仕事の連絡が入りかなり早い時間に家を出なければならなかった。彼女は眠っていたため起こさず支度を済ませ家の鍵とメモを残して仕事へ向かった。それから彼女に詫びの連絡を入れようと以前スマホに登録した番号を画面に出してはcallボタンが押せずに日だけが過ぎてしまう。ポストに手紙を入れても良かったのだが折角だから電話で話をしたい。
—— やっとボタンが押せたというのに出ないとは、
「もっと早めにするべきだったな」
自嘲気味に笑いハンドルを握り締め、彼女が隣に住むマンションへと帰る。部屋に入った所でスマホのバイブが揺れた。風見かと思ったが画面を見て口元が緩む。
「はい、」
『…もしもし、あの…着信が入ってたのですが、どちら様でしょうか?』
何とも他人行儀な彼女に小さく吹き出しそうになったが堪えて話しかける。
「おかしいですね。名前を登録しておいたはずですが?」
『よかった!本当に零さんだった』
声で彼女が嬉しそうに笑っている姿が想像でき自分も顔が綻ぶ。
「こんな夜更けに折り返しの電話ですか?」
『あ、ごめんなさい!履歴に零さんの名前があったから慌ててしまって…』
すみません、と落ち込む彼女の声が聴こえてきた。
「いえ。僕が時間を考えなかったのが悪かったんです。すみません」
『ううん。まだ起きてたから、』
「お肌のゴールデンタイムは過ぎてますよ」
『むっ、分かってます』
「お肌に堪える年齢に差し掛かってるんですから」
『—— っ!もう!零さんっ!電話切りますよ!』
「それは残念。あまりにも貴女との会話が楽しくて」
『…ほんとに、調子狂います』
今頃顔を赤くしているのだろう。
『でも何で私のスマホに零さんのが?』
「だいぶ前から登録はしていました」
貴女が寝ている間にこっそりと、という部分は伏せて答えた。
『…全然気が付きませんでした』
「だろうな」
『今、馬鹿にしました?』
「いや、してないが」
『絶対してます!今みたいな話し方をする零さんは意地悪なんだから!』
電話越しでも怒ってる姿が容易に想像できるのは一緒にいる時間が長いからか。
「怒っても無駄な努力だ。そんな貴女も可愛らしいと何度も言ってるじゃないか」
『—— っっ、零さんのばか、』
「何とでも」
こんなたわいも無い会話でも心が満たされるのは自分の中で彼女の存在が大きくなっている証拠。声を聴くだけでこんなにも愛おしい気持ちが増すとは。
—— これは今すぐにでも、
「…会いたくなる(小声)」
『ん?今何か言いました?』
「いえ。何も」
『そぉ、ですか?それで何か用が…?』
急ぎの用?、と電話向こうの彼女が聞いてくる。壁一枚隔てた向こう側に彼女がいるというのが何だか焦ったい。
「…先日は貴女を残したまま部屋を後にして申し訳なかった」
伝えたかった言葉を口にする。電話の向こうで息を飲む声が聞こえた。
『それで電話を…?そっか、連絡ありがとう。私なら大丈夫。最初は誰も居なかったから驚いたけど…お仕事なら仕方ないから』
気丈に振る舞って話すその声は大丈夫では無い事が分かる。あれだけ抱いておきながら朝起きたら自分が居ないのだから。そして今日まで連絡をしなかったためきっと不安だったに違いない。
彼女を想うと居ても立っても居られなくなり気が付けば玄関を出ていた。
「今家に居ますよね」
『うん、』
「玄関を開けてください」
『ぅん?ちょっと待って下さい』
電話向こうでパタパタと音が聞こえ次に玄関の鍵を外す音が電話越しと目の前から聞こえる。通話ボタンを消しスーツに仕舞った。玄関ドアが開いた瞬間勢いよく開けて彼女を腕の中に閉じ込める。シャワーの後なのだろうか。ほのかに香る石鹸の匂い。それだけで彼女への想いが溢れて堪らず抱き締める腕に力を込める。
「れ、零さん?!」
自分が帰って来ていることに気付いていなかったのだろう。驚いている彼女の声を聞いてそれが分かった。体を離して彼女の部屋に入り玄関ドアを閉める。視線を下ろせばまだ驚いてる彼女の顔を見て頬が緩んだ。
「来てしまいました」
「…ビックリした。着信があったから帰ってると思わなくて…」
「連絡を入れようと思っていたのですが…遅くなって申し訳ない」
彼女を優しく包み込む様に抱き締める。彼女も背中に腕を回してくれ温もりが伝わってきた。
「…零さんの事だから訳があるのかと思ってたけど、心配しました」
「すまなかった、」
「いえ、だってそもそも私達は…」
彼女はそこまで言って言葉を続けなかった。
「…大丈夫。私は、大丈夫だから」
そう話す言葉はまるで彼女が自分自身に言ってるように聞こえ胸が苦しくなる。
「辛くないのか?」
気が付けばそんな事を聞いていた。何が辛くないのか、彼女はきっと察しただろう。
「…辛い、よ?」
小さく呟いた彼女の言葉に心が痛い。
「でも私は零さんのこと信じてる。きっと言えない事情があるんだって…だから私も、」
何も言わない、そう言って胸に擦り寄る彼女を力を込めて思い切り抱きしめた。「零さん、痛い」と彼女が漏らしても力を緩めなかった。
「僕は…貴女が、」
言いそうになったが止まった言葉。
いざ言おうとすると言えなかった。伝えたくて仕方がないものなのに。自分が情けない。
「、零さん…さすがに苦しい、」
「悪いっ!」
苦しむ彼女の声が聞こえ慌てて彼女を離す。ケホッと小さくむせ込み涙目で見上げる彼女の表情は少し困った顔をしていた。
「力強すぎ、です」
「すまない。加減が効かなかった」
「ん。…零さんだから許す」
そう言ってふわりと笑う彼女の手を取り唇にキスをした。
「今日はこのまま」
彼女を抱き上げるとベッドへ向かった。寝かせた後にネクタイを緩めながらキスを落とす。首筋、鎖骨……ちゅッ、小さくリップ音を立てれば漏れ始める甘い声。鼻を通る彼女の香りに声も重なり自分の中心に熱が集まりだす。体を服の上から優しく撫でた後、その隙間から手を忍び込ませた。
「だ、ダメ!!」
唇で口を塞いでいたと言うのに、手が体に触れた瞬間に離れて拒否される。声も大きくあからさまな拒否をされ、少々面食らった。
「今日はまた…随分と珍しい反応ですね…」
「そんな事ない、よ?」
「じゃあ何故……」
「その…今はちょっと出来なくて、」
モニョモニョと口ごもる彼女の様子から察した。
「それは残念だ」
「この間たくさんしたから、」
「僕は毎日だって貴女が欲しい」
「〜〜っっ!ま、毎日はさすがに、」
隣に寝れば彼女は顔を赤くしながら慌てふためいていた。まるで恋人同士のような会話にくすぐったさを感じる。
「そういえば、隣に住んでるから電話じゃなくても良かったんじゃ?」
最もな意見を彼女が口にするのだがどうせなら電話が良かった。
「それはそうだ。でもそうしなかったのには理由がある」
「理由?」
どんな理由なの?、と聞いてくる彼女を見つめて答える。
「ハルの声が聴きたくなった」
「——っ、そんな理由で…」
「これも大事な理由じゃないか」
「ぅ、そんなはっきり言われると返す言葉が…」
だが結局会いに来てしまったのだから電話の意味がなかったが…
—— またかければいい、
彼女なら笑ってる声も怒ってる声も甘い声も…どんな声だっていつまでも聞いていたい。時間が空けば彼女とまた電話で話してみようと思ったのだった。
ーーー
「そうだ。零さんに家の鍵を返さなきゃ」
「それは貴女に持っていてほしい」
「えっ?!流石にそれは…!」
「構わない。僕の特別なお隣さんですから」
「—— れ、零さん…」
こうして番号の次は自分の家のスペアキーを渡した。あまり使うことはないだろうが渡しておいて損はない。
ーーー
次の日。
「降谷さん。来月末の事はご存知ですか?」
「ああ。既に設計図は手にしているが内部の設備情報などはまだ確認出来ていない。点検日数日前に届きそうだ」
「何もなければよいのですが」
「そうだな。実際目にすると違う視点から物事が見えてくるものだ。その点抜かりなくな」
「了解です」
来月末。
ある事件が起きて彼女との関係が変わる。それは家の鍵を渡した時から始まっていた—— …
貴女の声が聴きたくて
fin.
2019.5.3
2020.2.3
ホワイトデーデートから一週間後。
今は公安の仕事で外に出ていたがそれも終わり車に乗り込む。一息入れ胸ポケットからスマホを取り出しとある番号に着信を入れた。だが、数回コールを鳴らせど出ない。
—— 寝ているのか?
時間は夜の23時を過ぎていた。さすがに遅いか、とエンジンをかける。そしてあの日の記憶を辿りながら車を発進させた。
デートの夜は何度も彼女を抱いて甘い時間を過ごした。とても幸福なひと時だったが急に仕事の連絡が入りかなり早い時間に家を出なければならなかった。彼女は眠っていたため起こさず支度を済ませ家の鍵とメモを残して仕事へ向かった。それから彼女に詫びの連絡を入れようと以前スマホに登録した番号を画面に出してはcallボタンが押せずに日だけが過ぎてしまう。ポストに手紙を入れても良かったのだが折角だから電話で話をしたい。
—— やっとボタンが押せたというのに出ないとは、
「もっと早めにするべきだったな」
自嘲気味に笑いハンドルを握り締め、彼女が隣に住むマンションへと帰る。部屋に入った所でスマホのバイブが揺れた。風見かと思ったが画面を見て口元が緩む。
「はい、」
『…もしもし、あの…着信が入ってたのですが、どちら様でしょうか?』
何とも他人行儀な彼女に小さく吹き出しそうになったが堪えて話しかける。
「おかしいですね。名前を登録しておいたはずですが?」
『よかった!本当に零さんだった』
声で彼女が嬉しそうに笑っている姿が想像でき自分も顔が綻ぶ。
「こんな夜更けに折り返しの電話ですか?」
『あ、ごめんなさい!履歴に零さんの名前があったから慌ててしまって…』
すみません、と落ち込む彼女の声が聴こえてきた。
「いえ。僕が時間を考えなかったのが悪かったんです。すみません」
『ううん。まだ起きてたから、』
「お肌のゴールデンタイムは過ぎてますよ」
『むっ、分かってます』
「お肌に堪える年齢に差し掛かってるんですから」
『—— っ!もう!零さんっ!電話切りますよ!』
「それは残念。あまりにも貴女との会話が楽しくて」
『…ほんとに、調子狂います』
今頃顔を赤くしているのだろう。
『でも何で私のスマホに零さんのが?』
「だいぶ前から登録はしていました」
貴女が寝ている間にこっそりと、という部分は伏せて答えた。
『…全然気が付きませんでした』
「だろうな」
『今、馬鹿にしました?』
「いや、してないが」
『絶対してます!今みたいな話し方をする零さんは意地悪なんだから!』
電話越しでも怒ってる姿が容易に想像できるのは一緒にいる時間が長いからか。
「怒っても無駄な努力だ。そんな貴女も可愛らしいと何度も言ってるじゃないか」
『—— っっ、零さんのばか、』
「何とでも」
こんなたわいも無い会話でも心が満たされるのは自分の中で彼女の存在が大きくなっている証拠。声を聴くだけでこんなにも愛おしい気持ちが増すとは。
—— これは今すぐにでも、
「…会いたくなる(小声)」
『ん?今何か言いました?』
「いえ。何も」
『そぉ、ですか?それで何か用が…?』
急ぎの用?、と電話向こうの彼女が聞いてくる。壁一枚隔てた向こう側に彼女がいるというのが何だか焦ったい。
「…先日は貴女を残したまま部屋を後にして申し訳なかった」
伝えたかった言葉を口にする。電話の向こうで息を飲む声が聞こえた。
『それで電話を…?そっか、連絡ありがとう。私なら大丈夫。最初は誰も居なかったから驚いたけど…お仕事なら仕方ないから』
気丈に振る舞って話すその声は大丈夫では無い事が分かる。あれだけ抱いておきながら朝起きたら自分が居ないのだから。そして今日まで連絡をしなかったためきっと不安だったに違いない。
彼女を想うと居ても立っても居られなくなり気が付けば玄関を出ていた。
「今家に居ますよね」
『うん、』
「玄関を開けてください」
『ぅん?ちょっと待って下さい』
電話向こうでパタパタと音が聞こえ次に玄関の鍵を外す音が電話越しと目の前から聞こえる。通話ボタンを消しスーツに仕舞った。玄関ドアが開いた瞬間勢いよく開けて彼女を腕の中に閉じ込める。シャワーの後なのだろうか。ほのかに香る石鹸の匂い。それだけで彼女への想いが溢れて堪らず抱き締める腕に力を込める。
「れ、零さん?!」
自分が帰って来ていることに気付いていなかったのだろう。驚いている彼女の声を聞いてそれが分かった。体を離して彼女の部屋に入り玄関ドアを閉める。視線を下ろせばまだ驚いてる彼女の顔を見て頬が緩んだ。
「来てしまいました」
「…ビックリした。着信があったから帰ってると思わなくて…」
「連絡を入れようと思っていたのですが…遅くなって申し訳ない」
彼女を優しく包み込む様に抱き締める。彼女も背中に腕を回してくれ温もりが伝わってきた。
「…零さんの事だから訳があるのかと思ってたけど、心配しました」
「すまなかった、」
「いえ、だってそもそも私達は…」
彼女はそこまで言って言葉を続けなかった。
「…大丈夫。私は、大丈夫だから」
そう話す言葉はまるで彼女が自分自身に言ってるように聞こえ胸が苦しくなる。
「辛くないのか?」
気が付けばそんな事を聞いていた。何が辛くないのか、彼女はきっと察しただろう。
「…辛い、よ?」
小さく呟いた彼女の言葉に心が痛い。
「でも私は零さんのこと信じてる。きっと言えない事情があるんだって…だから私も、」
何も言わない、そう言って胸に擦り寄る彼女を力を込めて思い切り抱きしめた。「零さん、痛い」と彼女が漏らしても力を緩めなかった。
「僕は…貴女が、」
言いそうになったが止まった言葉。
いざ言おうとすると言えなかった。伝えたくて仕方がないものなのに。自分が情けない。
「、零さん…さすがに苦しい、」
「悪いっ!」
苦しむ彼女の声が聞こえ慌てて彼女を離す。ケホッと小さくむせ込み涙目で見上げる彼女の表情は少し困った顔をしていた。
「力強すぎ、です」
「すまない。加減が効かなかった」
「ん。…零さんだから許す」
そう言ってふわりと笑う彼女の手を取り唇にキスをした。
「今日はこのまま」
彼女を抱き上げるとベッドへ向かった。寝かせた後にネクタイを緩めながらキスを落とす。首筋、鎖骨……ちゅッ、小さくリップ音を立てれば漏れ始める甘い声。鼻を通る彼女の香りに声も重なり自分の中心に熱が集まりだす。体を服の上から優しく撫でた後、その隙間から手を忍び込ませた。
「だ、ダメ!!」
唇で口を塞いでいたと言うのに、手が体に触れた瞬間に離れて拒否される。声も大きくあからさまな拒否をされ、少々面食らった。
「今日はまた…随分と珍しい反応ですね…」
「そんな事ない、よ?」
「じゃあ何故……」
「その…今はちょっと出来なくて、」
モニョモニョと口ごもる彼女の様子から察した。
「それは残念だ」
「この間たくさんしたから、」
「僕は毎日だって貴女が欲しい」
「〜〜っっ!ま、毎日はさすがに、」
隣に寝れば彼女は顔を赤くしながら慌てふためいていた。まるで恋人同士のような会話にくすぐったさを感じる。
「そういえば、隣に住んでるから電話じゃなくても良かったんじゃ?」
最もな意見を彼女が口にするのだがどうせなら電話が良かった。
「それはそうだ。でもそうしなかったのには理由がある」
「理由?」
どんな理由なの?、と聞いてくる彼女を見つめて答える。
「ハルの声が聴きたくなった」
「——っ、そんな理由で…」
「これも大事な理由じゃないか」
「ぅ、そんなはっきり言われると返す言葉が…」
だが結局会いに来てしまったのだから電話の意味がなかったが…
—— またかければいい、
彼女なら笑ってる声も怒ってる声も甘い声も…どんな声だっていつまでも聞いていたい。時間が空けば彼女とまた電話で話してみようと思ったのだった。
ーーー
「そうだ。零さんに家の鍵を返さなきゃ」
「それは貴女に持っていてほしい」
「えっ?!流石にそれは…!」
「構わない。僕の特別なお隣さんですから」
「—— れ、零さん…」
こうして番号の次は自分の家のスペアキーを渡した。あまり使うことはないだろうが渡しておいて損はない。
ーーー
次の日。
「降谷さん。来月末の事はご存知ですか?」
「ああ。既に設計図は手にしているが内部の設備情報などはまだ確認出来ていない。点検日数日前に届きそうだ」
「何もなければよいのですが」
「そうだな。実際目にすると違う視点から物事が見えてくるものだ。その点抜かりなくな」
「了解です」
来月末。
ある事件が起きて彼女との関係が変わる。それは家の鍵を渡した時から始まっていた—— …
貴女の声が聴きたくて
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2019.5.3
2020.2.3
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