進撃の小言
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彼(ら)のおかげ
シリアス/優しくハグ/リクthanks スナヲ様♡*•
→ 850年。トロスト区攻防戦の後。女型巨人捕獲前に既に2回の壁外調査に出ている設定。
調査兵団本部から離れた場所にある、とある広場。自分が調査兵団に入って初めてここへ来た。
そこにはたくさんの石碑が建っており自分は今その一つの前に花束を持って立ち竦んでいた。その花束は白い一輪の花で何本も小分けにされている。その一本一本を名前を確認しながら手向けていく。
空を見上げればどんよりと曇って雨は降らないにしても今の自分の気持ちを表しているようだった。一層の事、雨が降ってさえいれば…そんなことを思った。
ーーどうしてこの世界は残酷なんだろう…
仲間を失った今。
自分に出来ることは何だろうか。
そんな事を考えていた。
ーーーー
壁外調査前。
カラネス区より出発するために調査兵団本部を出たところだった。既に二回は調査に出ているというのに緊張や恐怖は拭えない。
「なんだよハル…怖ぇのか?」
隣に来て話しかけてきたこの男。ジャンは自分の同期なんだがいつも余裕たっぷりに嫌味を言ってくる。今も嘲笑うかのような表情でこちらを見ている。
「何よ。悪い?ジャンこそ怖くて足が竦んでんじゃないの?」
「バカ言え。俺は上位10番以内で訓練兵団を卒業してんだ。立体機動の扱いも長けてる。ハルよりはマシだ」
「あらそう。ならなんで手綱を持つ手が震えてるのかな?」
「な、何言ってんだ!これは…その、武者震いに決まってんだろっ!」
「やっぱり怖いんジャン?ジャン坊ぉ?」
名前を引っ掛け尚且つ母親からの呼び名を言うと「うるせぇ!それで呼ぶな!」と怒号が飛び周囲に響き渡る。
「そこの新兵二人!私語は慎めっ!」
「「はっっ!!」」
あぁ、ジャンのせいで怒られた。そんなことを思っていたが話す前よりは気持ちが落ち着いた気がする。ジャンのくせに生意気な。チラリと彼を見ればパチッと目が合い「前向けよ(小声)」と嫌そうな顔をしながら言うので腹が立ってくる。腹の内にムカムカと怒りを溜めたまま出発の準備が整った。
門が開き鐘が街に響き渡った。
「これより第59回壁外調査を行う!前進せよぉおーー!!」
「「「おぉおーー!!!!」」」
エルヴィン団長の号令が聞こえ自分も声を張り上げ前が動き出したのと同時に馬の腹を蹴って走り出す。近くにはジャンやコニー達同期が数名いる。街を抜けると索敵陣形の展開指示が下りる。
「みんな死なないでね」
「ったりめぇだ!」
「俺様が死ぬ訳がねぇよ!ハルも気ぃつけろよ!」
「うんっ!」
一番近くにいたジャンとコニーに声をかけると指示通りに展開する。みんなと離れると予備の馬をもらい周囲に目を配らせた。自分がいるのは左側後方だ。400mほど離れてる右列にはジャンの姿が見える。それもやがて小さな点になってしまう。すると左前方から赤の信煙弾が上がるため自分も打ち上げる。やがて緑の信煙弾が上がりその方向が右を示してるため手綱を引っ張り右へと進路を変えた。そうやって何度も進路を変え半分ほど距離を進んだだろうか。また左前方から信煙弾が上がる。今度の色は黒だ。
ーー奇行種!
恐らくそれに違いない。
手綱を握りしめている手に力が入り緊張が全身に駆け抜ける。深呼吸をして黒の煙弾を打ち上げた。左側に意識を集中しすぎたせいか右側からの気配に気付かなかった。それに気付いたのは大きな足音が自分の数十m横から聞こえてからだった。
ーー巨人だ!
姿を確認した直後、緑の煙弾が右側を示していた。しかしそちらに向かうと巨人とぶつかる。まだ自分より左側にいる仲間に知らせなければと急いで赤の煙弾を上げる。が、手間取ったせいでいつの間にか巨人がすぐそこまで来ていた。15m級くらいだろうか。その巨体を目の前にして体が思うように動かない。必死に逃げるが追いつかれそうだ。
あまりに必死になりすぎて今自分がどこに居るのか分からなくなってしまった。巨人はまだ追いかけて来るし、逃げるのに精一杯だった。いつのまにか森の中に入ってしまい視界が悪くなる。すると左側から大きな音が聞こえ巨人数体と先輩達が応戦しているのが見えた。
ーーこのままでは先輩達とぶつかってしまう!
応戦していた一人の先輩が自分に気付き後ろにも巨人がいるのを目視したのを見た。
「ハル!右へ逃げろ!」
先輩の声が聞こえその通りに右へ行く。振り返って先輩達を見ると自分を追ってきた巨人は先輩達の元へと向かって行くのが見えた。先輩達はまだ2体の巨人と戦っている。そこへ自分が来てしまったためにもう1体巨人が増えてしまった。このままではさすがの先輩達にだって数が多すぎる。
ーー自分が冷静さを欠いたから…
よりにもよって奇行種が出た方向へと向かって来てしまい判断ミスをした事に気が付いた。
ーー自分のせいで誰かが死ぬのは嫌だっ
気が付いた時には予備の馬を離し先輩達の元へと駆けつける。
「来るな!お前は逃げろ!」
「しかし!私が連れて来てしまったのです!1体は私が引きつけます!」
「馬鹿野郎!早くこの場から離れろ!一人でも多く生き残れっ!」
そう言って先輩が話している内に注意を自分に向けていた先輩が巨人に捕まってしまう。それを助けようと頸に切り込もうとしたもう一人の先輩も自分が連れてきてしまった巨人に捕まり二人ともあっという間に食べられてしまった。
ーー『逃げろっ!』
自分と話していた先輩が飲み込まれる瞬間に発した最期の言葉。目の当たりにした悍ましい光景が脳裏に焼きつき恐怖で震えたがその言葉を思い出し馬を蹴ると巨人のいる反対の方向へと急いで逃げ出した。ここから脱出しなければ意味がない。先輩達の声や顔が頭から離れず涙が次から次へと溢れて宙へ流れていった。
どれぐらい走っただろうか。途中まで巨人が追ってきていたか燃料切れか1体も追ってこなくなった。ひたすら右前方へと馬を走らせていると他の仲間が見え安堵した。その人の所まで向かい姿を確認するとジャンだった。
「お前っ!持ち場に戻れっ…っておい…どうしたんだよ…」
「……」
ジャンが話しかけてくるが何も喋れなかった。ただただ生きてる仲間、それも同期に会えたのが嬉しくて安心してまた涙が頬を伝うのだった。ジャンはそれ以上は何も言わず。並走してくれていた。
そしてその日の夜。
拠点の一つにしている古城の跡地に着くと自分の隊の班長に報告しに行った。
「そうか…あいつらは心臓を捧げたのか…」
「班長…すみません…自分が判断ミスをしたばかりに…」
「いや。よく生き残ってくれた。反省するのは壁内に戻ってからだ」
班長は肩を叩くと自分を残して去って行く。
それからはいつも通りに振る舞おうと努めた。コニーとサシャの馬鹿に付き合ったりエレンの兵長の勇姿を聞いたりなるべくいつも通りに過ごした。
次の日からは自分の任務に集中しようと頑張った。
巨人と応戦する場面にも遭遇し自分を奮い立たせ先輩の指示通りに動いた。補佐に成功して巨人を倒しても嬉しいのは一瞬だけでまたあの時の光景が脳裏に浮かぶ。
何故今みたいに出来なかった?
何故動けなかった?
いや、動こうとしなかった?
巨人を倒す度にそればかりが頭の中を埋め尽くしていく。
出発して四日後。
無事カラネス区へ帰還したが出発した時よりも兵士の人数が3〜4割減っていた。当然その中には脳裏に浮かぶ先輩達が含まれているわけで無事に帰ってきたというのにやりきれない気持ちになった。
帰還から数日後。
先輩達の墓が建てられたというので花屋で白い花を数本買い、馬に乗ってここまで来た。仲の良かった先輩達も数人弔われておりその人達にも花を手向ける。
空を見上げていると近くで足音がし視線を向けた。
「ジャン…」
そこにいたのは同期のジャンで同じように花束を手に持っていた。そしてその花を自分が置いた場所に何も言わず手向けていく。ジャンはそのまま自分の隣に立って墓を見ていた。
「…私行くね」
この空気に耐えられなくなり逃げるようにその場を離れようとした。
「待てよ」
ジャンに腕を掴まれそれは叶わなかった。
「離して…」
「なんでだよ」
「今は…何も話したくない」
視線を逸らして吐き捨てるように小さな声で言った。本当に今は誰とも話したくなかった。声に出して話してしまえばまた泣いてしまいそうだったから。今だってジャンが現れたことで泣きそうだ。でも泣けば何を言われるか分からない。どうせからかわれるに決まってる。
「…なぁ。この先輩達の最期を見たんだってな」
ジャンがおもむろにそんなことを聞いてきた。
先輩達の最期、それを聞いて胸が一気に締め付けられた。なんでそれを今ここで聞いてくるのか。自分を責めに来たのか…ジャンの質問には答えず未だ俯いたまま先輩達のことを考えた。
「どんな最期だった?」
「……っ!」
あの時の状況を聞いてくるジャンに腹が立った。
「どんな最期かなんて…そんなの巨人に食べられたんだよっ?!いいわけないじゃないっ!!」
自分の中にあった感情をぶつけるように声を荒げた。
「巨人と応戦していた先輩達のところに巨人を引き連れた私が現れて…私も参戦しようとしたのを先輩が止めようと…その隙に巨人に食べられたの!もう一人の先輩もその人を助けようとして私が連れてきてしまった巨人に…っ!!」
そこまで話すと我慢していた涙が溢れ頬を濡らしていく。
「全部私のせい…私のせいで先輩達は…!!」
涙を拭っても次から次へととめどなく目から零れ落ちていく。ジャンにはこんな姿を見せたくなくて背を向ける。
「お前のせい?それはそうかもしれねぇな。お前の判断ミスが招いたことだろうよ」
背後からジャンの声がしてその言葉に悔しさと悲しさと責められたことで余裕がなくなり更に涙が溢れる。
「でもな…前にも言ったが誰しも劇的に死ねる訳じゃねぇ…巨人を相手にしてるんだ。俺たちが死ぬときはお前が見たような最期だ」
静かに話すジャンの声に耳を傾ける。
「確かにお前の判断ミスが招いた事かもしれねえがそれに負けたのは先輩達だ」
「…そんな言い方っ!!」
先輩達を侮辱するような言葉が聞こえジャンに向き直ると怒った。けれどジャンは真っ直ぐに自分を見下ろして真剣な顔つきをしている。
「…お前は悪くねぇよ」
「なんで、そんなこと…」
「壁外に出れば予想外の事が起きる。冷静でいられなくなのは当然だ。それが俺たち新兵なら尚更、な…」
「でも私は先輩達を目の前にして動けなかった…他の巨人は倒せたのにあの時はそれが出来なかった!!」
悔しくて悔しくて拳を強く握りしめるとジャンが強く握りしめたその手を解くように掴む。
「動けなかったのは怖かったんだろ……で、他の巨人が倒せたのは自分が許せなかったからだろ…死ぬつもりで行ったんじゃねぇのか?」
「……っっ!」
図星だった。
あの時巨人が数体居てとても怖くて体が竦んでしまった。それでもなんとかしなければと先輩達に駆けよったがすぐにまた動きを止めてしまったのだ。次の日からはそんな自分が嫌で彼の言う通り死ぬつもりで巨人に立ち向かって行った。
「いいんじゃねぇのか?巨人を怖いと思うのは当たり前だ。だが…命は粗末にするのは間違ってる…」
コニーとサシャはやかましいぐらい『怖ぇ!』って言ってんぞ、と呆れるように言い、それがまた想像出来てしまい思わず笑みが零れてしまう。
「やっと笑ったな」
顔を上げるとジャンが小さく笑っていた。
「…あっ」
「あれからちゃんと笑ってねぇだろ」
そうかもしれない。いつも通りにみんなと接していたが自然と笑みが零れたのは壁外から戻って初めてだった。
「でも私なんかが…生き残って…」
「何言ってやがる!お前が生き残って嬉しいに決まってんだろ!」
「えっ…?」
「俺だけじゃねぇ。エレンやミカサ、アルミン、コニー、サシャ、クリスタ…みんなお前が生き残ってくれて喜んでたぞ」
先輩達には申し訳ねぇけどな、小さな声でそう話すジャンの言葉に今度は嬉しくて目頭が熱くなった。
「…みんな…」
「もう泣くな」
「ごめん……ジャン??」
泣くなと言われ涙を拭っているとふわりと何かに包み込まれた。手を目から離すと目の前にジャンの体があり抱きしめられていた。
「じゃ、ジャン?!」
「うるせぇ。じっとしてろ」
「う、うん…」
抱き締められて戸惑ったが何も言い返さずそのままジャンの温もりに身を預けた。
トクントクン…
ーージャンは生きてる…
私も生きてる…
ジャンの鼓動が聞こえて安心する。
自分はここに居てもいいのだとそう思えて体を小さく震わせながらジャンの腕の中でまた涙を少しだけ流した。
「…私怖いの…またあそこへ戻ることになったらどうすれば…」
涙が止まった後もジャンの腕の中で小さく呟いた。
「なんだよ。ビビってんのか?」
「…悪い?…巨人も怖いけどそれよりも…自分のせいで誰かが死ぬのはもう見たくない…」
それが一番怖い、そう呟けばジャンの腕に少しだけ力が入った。
「そうだな…それが一番辛ぇ…」
「うん…」
「だがよ。おめぇはやれば出来んだ。自信持って戦えばいいんじゃねぇのか?」
「そんなこと…」
「あるだろ。俺ぁ知ってんだぞ」
自主トレ頑張ってるだろ、彼の言葉に驚いた。確かに自主トレを毎日欠かさずやってる。それは走り込みだったり筋トレだったり空いていれば模型を使った練習もやったりしてる。みんなには内緒にしてたけどジャンが知ってるとは。
「お前はやれば出来る…だから今回の調査の事を次に活かせばいい…それと、一人で抱え込んでんじゃねぇよ」
「俺でも誰でもいい…甘えりゃいいだろ」
その言葉が嬉しくて自然と笑みが零れ彼の背中に腕を回した。温もりを分かち合うように噛み締めた。
「うん…ありがと…ジャン」
と、そこまではよかった。
なんだか周りが騒がしいので顔を上げたのと同時に「わぁー!」「おいっ!」などと複数の声が聞こえてきた。
ジャンと顔を見合わせた後周囲を探すと近くでエレン達が倒れていた。
「ぉめぇら!!」
「ど、どうしたの?!」
大丈夫?!、と慌てて駆け寄る。
「なんだよ…元気じゃねぇか。ハルが調査から戻ってから元気ねぇしみんなで話してたんだ」
「うん。そしたらジャンがほっとけとか言うから…」
「ジャンが出かけるのが見えて追いかけて来た」
エレン、アルミン、ミカサが話す。
「俺達もエレン達がどっか行くのを見かけてよー。着いて来たんだが…ジャンおめぇ…ぷぷっ…」
「そうですよー!みんなで抜け駆けしてるんですから…それにしてもジャン…ぶふっ…」
コニーとサシャが続けて話すが顔が気持ち悪いくらいにやけている。
「もう大丈夫なの?ハル…心配したんだよ?」
「あんたが慰めなくてもジャンが仕事してるよ」
クリスタとユミルも口を開く。クリスタは相変わらず天使だ。
「みんな…ありがとう…」
「ハルは笑ってる方がいい」
あまりそんな事を言わないミカサが言うので照れてしまう。
「まぁ、これでめでたしだ!」
帰るぞー、とエレンが声をかけみんなで歩き出す。
「それよかよー、ジャン」
コニーがジャンの脇を小突きながらニヤケている。
「ハルとはチューしたんですか?」
サシャもニヤケながらチュウとか言ってる。
はっ?私がこのジャンとキス?
「なっ?!んなもんするかよ!」
「そうよ!こっちから願い下げよっ!」
「あちゃー。可哀想ですね、ジャン…」
「おい、何気にハルひでぇな」
ジャンの声の後に自分も咄嗟に叫ぶ。それにコニーとサシャが哀れむような視線をジャンに向け当のジャンはというと俯きふるふると肩を震わせていた。
「てめぇら、余計なことを…」
おらぁー!、と大きな声を上げてコニーとサシャを追いかけ始めた。
「ちょ!ジャン落ち着けぇー!」
「ひぇー!来ないで下さい!チェリー野郎ぉ!」
「それを言うんじゃねぇえー!!」
この芋女がぁー!
コニー、サシャ、ジャンの叫び声が響きジャンは真っ赤になりながらコニー達を追いかけて行った。
全く馬鹿ばっかりだと思ったが彼…彼ら?のおかげで今こうして笑う事が出来ている。そういう点では感謝しなければ。
「…自分が今、出来ることを…」
先輩達の墓石に今一度視線を向け決意をするとジャン達を追いかけるため走りだした。
彼(ら)のおかげ
fin.
2019.3.26
シリアス/優しくハグ/リクthanks スナヲ様♡*•
→ 850年。トロスト区攻防戦の後。女型巨人捕獲前に既に2回の壁外調査に出ている設定。
調査兵団本部から離れた場所にある、とある広場。自分が調査兵団に入って初めてここへ来た。
そこにはたくさんの石碑が建っており自分は今その一つの前に花束を持って立ち竦んでいた。その花束は白い一輪の花で何本も小分けにされている。その一本一本を名前を確認しながら手向けていく。
空を見上げればどんよりと曇って雨は降らないにしても今の自分の気持ちを表しているようだった。一層の事、雨が降ってさえいれば…そんなことを思った。
ーーどうしてこの世界は残酷なんだろう…
仲間を失った今。
自分に出来ることは何だろうか。
そんな事を考えていた。
ーーーー
壁外調査前。
カラネス区より出発するために調査兵団本部を出たところだった。既に二回は調査に出ているというのに緊張や恐怖は拭えない。
「なんだよハル…怖ぇのか?」
隣に来て話しかけてきたこの男。ジャンは自分の同期なんだがいつも余裕たっぷりに嫌味を言ってくる。今も嘲笑うかのような表情でこちらを見ている。
「何よ。悪い?ジャンこそ怖くて足が竦んでんじゃないの?」
「バカ言え。俺は上位10番以内で訓練兵団を卒業してんだ。立体機動の扱いも長けてる。ハルよりはマシだ」
「あらそう。ならなんで手綱を持つ手が震えてるのかな?」
「な、何言ってんだ!これは…その、武者震いに決まってんだろっ!」
「やっぱり怖いんジャン?ジャン坊ぉ?」
名前を引っ掛け尚且つ母親からの呼び名を言うと「うるせぇ!それで呼ぶな!」と怒号が飛び周囲に響き渡る。
「そこの新兵二人!私語は慎めっ!」
「「はっっ!!」」
あぁ、ジャンのせいで怒られた。そんなことを思っていたが話す前よりは気持ちが落ち着いた気がする。ジャンのくせに生意気な。チラリと彼を見ればパチッと目が合い「前向けよ(小声)」と嫌そうな顔をしながら言うので腹が立ってくる。腹の内にムカムカと怒りを溜めたまま出発の準備が整った。
門が開き鐘が街に響き渡った。
「これより第59回壁外調査を行う!前進せよぉおーー!!」
「「「おぉおーー!!!!」」」
エルヴィン団長の号令が聞こえ自分も声を張り上げ前が動き出したのと同時に馬の腹を蹴って走り出す。近くにはジャンやコニー達同期が数名いる。街を抜けると索敵陣形の展開指示が下りる。
「みんな死なないでね」
「ったりめぇだ!」
「俺様が死ぬ訳がねぇよ!ハルも気ぃつけろよ!」
「うんっ!」
一番近くにいたジャンとコニーに声をかけると指示通りに展開する。みんなと離れると予備の馬をもらい周囲に目を配らせた。自分がいるのは左側後方だ。400mほど離れてる右列にはジャンの姿が見える。それもやがて小さな点になってしまう。すると左前方から赤の信煙弾が上がるため自分も打ち上げる。やがて緑の信煙弾が上がりその方向が右を示してるため手綱を引っ張り右へと進路を変えた。そうやって何度も進路を変え半分ほど距離を進んだだろうか。また左前方から信煙弾が上がる。今度の色は黒だ。
ーー奇行種!
恐らくそれに違いない。
手綱を握りしめている手に力が入り緊張が全身に駆け抜ける。深呼吸をして黒の煙弾を打ち上げた。左側に意識を集中しすぎたせいか右側からの気配に気付かなかった。それに気付いたのは大きな足音が自分の数十m横から聞こえてからだった。
ーー巨人だ!
姿を確認した直後、緑の煙弾が右側を示していた。しかしそちらに向かうと巨人とぶつかる。まだ自分より左側にいる仲間に知らせなければと急いで赤の煙弾を上げる。が、手間取ったせいでいつの間にか巨人がすぐそこまで来ていた。15m級くらいだろうか。その巨体を目の前にして体が思うように動かない。必死に逃げるが追いつかれそうだ。
あまりに必死になりすぎて今自分がどこに居るのか分からなくなってしまった。巨人はまだ追いかけて来るし、逃げるのに精一杯だった。いつのまにか森の中に入ってしまい視界が悪くなる。すると左側から大きな音が聞こえ巨人数体と先輩達が応戦しているのが見えた。
ーーこのままでは先輩達とぶつかってしまう!
応戦していた一人の先輩が自分に気付き後ろにも巨人がいるのを目視したのを見た。
「ハル!右へ逃げろ!」
先輩の声が聞こえその通りに右へ行く。振り返って先輩達を見ると自分を追ってきた巨人は先輩達の元へと向かって行くのが見えた。先輩達はまだ2体の巨人と戦っている。そこへ自分が来てしまったためにもう1体巨人が増えてしまった。このままではさすがの先輩達にだって数が多すぎる。
ーー自分が冷静さを欠いたから…
よりにもよって奇行種が出た方向へと向かって来てしまい判断ミスをした事に気が付いた。
ーー自分のせいで誰かが死ぬのは嫌だっ
気が付いた時には予備の馬を離し先輩達の元へと駆けつける。
「来るな!お前は逃げろ!」
「しかし!私が連れて来てしまったのです!1体は私が引きつけます!」
「馬鹿野郎!早くこの場から離れろ!一人でも多く生き残れっ!」
そう言って先輩が話している内に注意を自分に向けていた先輩が巨人に捕まってしまう。それを助けようと頸に切り込もうとしたもう一人の先輩も自分が連れてきてしまった巨人に捕まり二人ともあっという間に食べられてしまった。
ーー『逃げろっ!』
自分と話していた先輩が飲み込まれる瞬間に発した最期の言葉。目の当たりにした悍ましい光景が脳裏に焼きつき恐怖で震えたがその言葉を思い出し馬を蹴ると巨人のいる反対の方向へと急いで逃げ出した。ここから脱出しなければ意味がない。先輩達の声や顔が頭から離れず涙が次から次へと溢れて宙へ流れていった。
どれぐらい走っただろうか。途中まで巨人が追ってきていたか燃料切れか1体も追ってこなくなった。ひたすら右前方へと馬を走らせていると他の仲間が見え安堵した。その人の所まで向かい姿を確認するとジャンだった。
「お前っ!持ち場に戻れっ…っておい…どうしたんだよ…」
「……」
ジャンが話しかけてくるが何も喋れなかった。ただただ生きてる仲間、それも同期に会えたのが嬉しくて安心してまた涙が頬を伝うのだった。ジャンはそれ以上は何も言わず。並走してくれていた。
そしてその日の夜。
拠点の一つにしている古城の跡地に着くと自分の隊の班長に報告しに行った。
「そうか…あいつらは心臓を捧げたのか…」
「班長…すみません…自分が判断ミスをしたばかりに…」
「いや。よく生き残ってくれた。反省するのは壁内に戻ってからだ」
班長は肩を叩くと自分を残して去って行く。
それからはいつも通りに振る舞おうと努めた。コニーとサシャの馬鹿に付き合ったりエレンの兵長の勇姿を聞いたりなるべくいつも通りに過ごした。
次の日からは自分の任務に集中しようと頑張った。
巨人と応戦する場面にも遭遇し自分を奮い立たせ先輩の指示通りに動いた。補佐に成功して巨人を倒しても嬉しいのは一瞬だけでまたあの時の光景が脳裏に浮かぶ。
何故今みたいに出来なかった?
何故動けなかった?
いや、動こうとしなかった?
巨人を倒す度にそればかりが頭の中を埋め尽くしていく。
出発して四日後。
無事カラネス区へ帰還したが出発した時よりも兵士の人数が3〜4割減っていた。当然その中には脳裏に浮かぶ先輩達が含まれているわけで無事に帰ってきたというのにやりきれない気持ちになった。
帰還から数日後。
先輩達の墓が建てられたというので花屋で白い花を数本買い、馬に乗ってここまで来た。仲の良かった先輩達も数人弔われておりその人達にも花を手向ける。
空を見上げていると近くで足音がし視線を向けた。
「ジャン…」
そこにいたのは同期のジャンで同じように花束を手に持っていた。そしてその花を自分が置いた場所に何も言わず手向けていく。ジャンはそのまま自分の隣に立って墓を見ていた。
「…私行くね」
この空気に耐えられなくなり逃げるようにその場を離れようとした。
「待てよ」
ジャンに腕を掴まれそれは叶わなかった。
「離して…」
「なんでだよ」
「今は…何も話したくない」
視線を逸らして吐き捨てるように小さな声で言った。本当に今は誰とも話したくなかった。声に出して話してしまえばまた泣いてしまいそうだったから。今だってジャンが現れたことで泣きそうだ。でも泣けば何を言われるか分からない。どうせからかわれるに決まってる。
「…なぁ。この先輩達の最期を見たんだってな」
ジャンがおもむろにそんなことを聞いてきた。
先輩達の最期、それを聞いて胸が一気に締め付けられた。なんでそれを今ここで聞いてくるのか。自分を責めに来たのか…ジャンの質問には答えず未だ俯いたまま先輩達のことを考えた。
「どんな最期だった?」
「……っ!」
あの時の状況を聞いてくるジャンに腹が立った。
「どんな最期かなんて…そんなの巨人に食べられたんだよっ?!いいわけないじゃないっ!!」
自分の中にあった感情をぶつけるように声を荒げた。
「巨人と応戦していた先輩達のところに巨人を引き連れた私が現れて…私も参戦しようとしたのを先輩が止めようと…その隙に巨人に食べられたの!もう一人の先輩もその人を助けようとして私が連れてきてしまった巨人に…っ!!」
そこまで話すと我慢していた涙が溢れ頬を濡らしていく。
「全部私のせい…私のせいで先輩達は…!!」
涙を拭っても次から次へととめどなく目から零れ落ちていく。ジャンにはこんな姿を見せたくなくて背を向ける。
「お前のせい?それはそうかもしれねぇな。お前の判断ミスが招いたことだろうよ」
背後からジャンの声がしてその言葉に悔しさと悲しさと責められたことで余裕がなくなり更に涙が溢れる。
「でもな…前にも言ったが誰しも劇的に死ねる訳じゃねぇ…巨人を相手にしてるんだ。俺たちが死ぬときはお前が見たような最期だ」
静かに話すジャンの声に耳を傾ける。
「確かにお前の判断ミスが招いた事かもしれねえがそれに負けたのは先輩達だ」
「…そんな言い方っ!!」
先輩達を侮辱するような言葉が聞こえジャンに向き直ると怒った。けれどジャンは真っ直ぐに自分を見下ろして真剣な顔つきをしている。
「…お前は悪くねぇよ」
「なんで、そんなこと…」
「壁外に出れば予想外の事が起きる。冷静でいられなくなのは当然だ。それが俺たち新兵なら尚更、な…」
「でも私は先輩達を目の前にして動けなかった…他の巨人は倒せたのにあの時はそれが出来なかった!!」
悔しくて悔しくて拳を強く握りしめるとジャンが強く握りしめたその手を解くように掴む。
「動けなかったのは怖かったんだろ……で、他の巨人が倒せたのは自分が許せなかったからだろ…死ぬつもりで行ったんじゃねぇのか?」
「……っっ!」
図星だった。
あの時巨人が数体居てとても怖くて体が竦んでしまった。それでもなんとかしなければと先輩達に駆けよったがすぐにまた動きを止めてしまったのだ。次の日からはそんな自分が嫌で彼の言う通り死ぬつもりで巨人に立ち向かって行った。
「いいんじゃねぇのか?巨人を怖いと思うのは当たり前だ。だが…命は粗末にするのは間違ってる…」
コニーとサシャはやかましいぐらい『怖ぇ!』って言ってんぞ、と呆れるように言い、それがまた想像出来てしまい思わず笑みが零れてしまう。
「やっと笑ったな」
顔を上げるとジャンが小さく笑っていた。
「…あっ」
「あれからちゃんと笑ってねぇだろ」
そうかもしれない。いつも通りにみんなと接していたが自然と笑みが零れたのは壁外から戻って初めてだった。
「でも私なんかが…生き残って…」
「何言ってやがる!お前が生き残って嬉しいに決まってんだろ!」
「えっ…?」
「俺だけじゃねぇ。エレンやミカサ、アルミン、コニー、サシャ、クリスタ…みんなお前が生き残ってくれて喜んでたぞ」
先輩達には申し訳ねぇけどな、小さな声でそう話すジャンの言葉に今度は嬉しくて目頭が熱くなった。
「…みんな…」
「もう泣くな」
「ごめん……ジャン??」
泣くなと言われ涙を拭っているとふわりと何かに包み込まれた。手を目から離すと目の前にジャンの体があり抱きしめられていた。
「じゃ、ジャン?!」
「うるせぇ。じっとしてろ」
「う、うん…」
抱き締められて戸惑ったが何も言い返さずそのままジャンの温もりに身を預けた。
トクントクン…
ーージャンは生きてる…
私も生きてる…
ジャンの鼓動が聞こえて安心する。
自分はここに居てもいいのだとそう思えて体を小さく震わせながらジャンの腕の中でまた涙を少しだけ流した。
「…私怖いの…またあそこへ戻ることになったらどうすれば…」
涙が止まった後もジャンの腕の中で小さく呟いた。
「なんだよ。ビビってんのか?」
「…悪い?…巨人も怖いけどそれよりも…自分のせいで誰かが死ぬのはもう見たくない…」
それが一番怖い、そう呟けばジャンの腕に少しだけ力が入った。
「そうだな…それが一番辛ぇ…」
「うん…」
「だがよ。おめぇはやれば出来んだ。自信持って戦えばいいんじゃねぇのか?」
「そんなこと…」
「あるだろ。俺ぁ知ってんだぞ」
自主トレ頑張ってるだろ、彼の言葉に驚いた。確かに自主トレを毎日欠かさずやってる。それは走り込みだったり筋トレだったり空いていれば模型を使った練習もやったりしてる。みんなには内緒にしてたけどジャンが知ってるとは。
「お前はやれば出来る…だから今回の調査の事を次に活かせばいい…それと、一人で抱え込んでんじゃねぇよ」
「俺でも誰でもいい…甘えりゃいいだろ」
その言葉が嬉しくて自然と笑みが零れ彼の背中に腕を回した。温もりを分かち合うように噛み締めた。
「うん…ありがと…ジャン」
と、そこまではよかった。
なんだか周りが騒がしいので顔を上げたのと同時に「わぁー!」「おいっ!」などと複数の声が聞こえてきた。
ジャンと顔を見合わせた後周囲を探すと近くでエレン達が倒れていた。
「ぉめぇら!!」
「ど、どうしたの?!」
大丈夫?!、と慌てて駆け寄る。
「なんだよ…元気じゃねぇか。ハルが調査から戻ってから元気ねぇしみんなで話してたんだ」
「うん。そしたらジャンがほっとけとか言うから…」
「ジャンが出かけるのが見えて追いかけて来た」
エレン、アルミン、ミカサが話す。
「俺達もエレン達がどっか行くのを見かけてよー。着いて来たんだが…ジャンおめぇ…ぷぷっ…」
「そうですよー!みんなで抜け駆けしてるんですから…それにしてもジャン…ぶふっ…」
コニーとサシャが続けて話すが顔が気持ち悪いくらいにやけている。
「もう大丈夫なの?ハル…心配したんだよ?」
「あんたが慰めなくてもジャンが仕事してるよ」
クリスタとユミルも口を開く。クリスタは相変わらず天使だ。
「みんな…ありがとう…」
「ハルは笑ってる方がいい」
あまりそんな事を言わないミカサが言うので照れてしまう。
「まぁ、これでめでたしだ!」
帰るぞー、とエレンが声をかけみんなで歩き出す。
「それよかよー、ジャン」
コニーがジャンの脇を小突きながらニヤケている。
「ハルとはチューしたんですか?」
サシャもニヤケながらチュウとか言ってる。
はっ?私がこのジャンとキス?
「なっ?!んなもんするかよ!」
「そうよ!こっちから願い下げよっ!」
「あちゃー。可哀想ですね、ジャン…」
「おい、何気にハルひでぇな」
ジャンの声の後に自分も咄嗟に叫ぶ。それにコニーとサシャが哀れむような視線をジャンに向け当のジャンはというと俯きふるふると肩を震わせていた。
「てめぇら、余計なことを…」
おらぁー!、と大きな声を上げてコニーとサシャを追いかけ始めた。
「ちょ!ジャン落ち着けぇー!」
「ひぇー!来ないで下さい!チェリー野郎ぉ!」
「それを言うんじゃねぇえー!!」
この芋女がぁー!
コニー、サシャ、ジャンの叫び声が響きジャンは真っ赤になりながらコニー達を追いかけて行った。
全く馬鹿ばっかりだと思ったが彼…彼ら?のおかげで今こうして笑う事が出来ている。そういう点では感謝しなければ。
「…自分が今、出来ることを…」
先輩達の墓石に今一度視線を向け決意をするとジャン達を追いかけるため走りだした。
彼(ら)のおかげ
fin.
2019.3.26
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