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現パロ/学生/拍手お礼SS
「よしっ。これで終わりかな」
自分は今図書室で本の整理をしており運動場の外では放課後のため体育部たちが声を出して部活動に励んでいるのが聞こえてくる。
図書室は運動場に面した校舎の3階にあるため窓辺に立つとよく見えた。
「すみません」
窓の桟に腕を置き体を預けて外を見ていたら声をかけられた。「はい」と返事をして振り向くと長身で優しそうな男子生徒が立っていた。
彼はここ最近よく図書室に足を運んでくれており少し会話をする程度の仲までになった。
「ベルトルトくん、もう読んじゃったの?」
「うん」
彼は無口であまりものを話さないがニコリと笑うその笑顔はとても優しいもので心が温かくなる。彼は今交換留学でドイツから日本へやって来ておりこの学校に来て1ヶ月が経っていた。
「ベルトルトくんは勉強熱心だね。日本語上手なのに」
「いや…まだまだだよ」
外国人なのになんて謙虚なんだろう、と感心しながら彼が借りていた本をスキャンして返却棚へ置く。
「あの…僕のことは呼び捨てにしてもらえませんか?」
「えっ?でも…」
「呼び捨ての方が慣れてるから」
彼は自分を呼び捨てにしろと言うのでこちらもある条件を出してみることにした。
「じゃあ、名前で呼ぶ代わりに私のことも呼び捨てでいいし敬語もやめるように」
人差し指を立ててキリッとしながら彼を見上げ話す。
彼は最初驚いていたが「分かった」と微笑む。
「次の本を借りたいからオススメを教えてほしい」
「OK」
彼に本を紹介してくれと頼まれるため何冊か選んで机に並べる。
「これにするよ」
「うん。返却期限は守ってね」
ニマリとしながらスキャンした本を渡すと「もちろん」と受け取り彼は図書室を出て行った。
ーーーーーー
それからまた1ヶ月が経った頃。
ガヤガヤと廊下が騒々しい。
何事かとみんなの視線の先を見ると廊下の壁に先日のテスト上位者が張り出されていた。
「なぁ。これってあいつだろ?」
「あぁ…交換留学で来たっていう。教室じゃ随分と大人しく過ごしているようだけど…」
そんな話が聞こえてきてそれが彼だと言うことがすぐにわかった。少し背伸びをして張り紙を見てみると一年の一位に彼の名前があり驚いた。
ーーベルトルト…頭いいんだ……
少し前には体育の授業で身長を活かしてバスケをしたらしく並外れた身体能力を見せたらしい。バスケだけじゃなくてスポーツ全般そつなくこなすとか。
おかげで色んな部活動から声がかかり放課後は引っ張られるようにして連れて行かれるのを何度か見かけたことがある。それに女子のファンも増えつつあるようで彼が図書室に来る機会が減り会える時間がなくなっていった。
ーーまぁ寂しいけど彼がこの学校に馴染めるのはいいことだよね…
それでもみんなに彼がとられたような気持ちになって気分が沈む。外から彼の名前を呼ばれる声が聞こえて窓から見るとサッカーをしているようだ。
彼はパスを受けると可憐にシュートを決めていた。
おぉ、と思わず感嘆の声を漏らして微笑むと彼がこちらを見たような気がした。でもさすがに遠いので気のせいかと思っていると運動場の脇で女子達がキャーキャーと黄色い声が聞こえてきた。
彼はその女子達から名前を呼ばれると小さく手を挙げて応えているのを見てしまいズキリと胸が痛んだ。
ーーあれ…?今胸が苦しくなったけど…なんで?
不思議に思いながらも残っている作業を終わらせるためにカウンターへと戻る。しばらくして奥まった場所で本の整理をしていると入り口から音がして人が入って来たのがわかった。ちょうど本を並び終え棚の影から出たところで既に帰ったと思っていた彼が居て何やら急いでいる様子だ。
「あれー?ベルトルトくんいないね」
どうしたのかと話しかけようとしたらまた入り口のドアが開き女子の声が聞こえて来た。彼はハッとした表情を見せると自分の手を引いて先程本の整理をしていた場所まで連れて行かれ奥の壁と彼に挟まれるようにして立たされる。そして手で口を塞がれ「静かに」と小声で話す。何が起きているのか分からず焦っていると足音が近づいてきて何故か緊張して体が強張った。
すると彼は口から手を離すと頭と腰に腕を回して抱きしめてきたのだ。彼は身長が高いためスッポリとおさまっているのだがそれどころではなく心臓が早鐘のように速く脈を打ち付けた。
「ねぇ。そっちは気味が悪いからもう出ようよ」
「そうだね…彼帰っちゃったのかもしれないね」
あと一歩で姿を見られそうになるところで彼女達は立ち止まり図書室を出て行ってしまった。ピシャリと扉の閉まる音がしてホッと体の力を抜く。静かになった図書室に外から部活に励む生徒の声と彼の鼓動とやけに大きく聞こえる自分の鼓動の音が聞こえてくる。
彼はまだ離してはくれず彼の温もりに微かに香る汗と洗剤の匂いを感じていた。
「あ、ごめん」
彼は思い出したかのように体を離すと謝る。
「ううん…でも、なんで…?」
つい先程までの出来事にまだ鼓動は落ち着かないがなぜこんなことをしたのか気になった。彼は困ったように笑うと自分を見下ろしながら話し出す。
「君に会いに来たんだ」
「えっ?」
ーー今私に会いに来たって…?
彼の発言に頭がついていかず呆けていると彼は今度はしっかりと自分を見る。
「さっき窓から見てくれてたよね。だから会いに来たんだ。でも女子達に見つかって…」
参ったよ、そこまで話を聞くと顔を赤くさせて俯いてしまう。
ーーそんなこと言うなんて…反則だよ…
普段からそんなこと言わないであろう彼から会いに来たと言われると思わず期待してしまう。
ーーあ、でも彼は外国から来てるからこういうことはよくあるのかな…
自分でそんな考えに至たるもショックを受けて余裕がないのは自分だけだと思いため息をつく。
「ごめん…いきなりあんなことして嫌だったよね…」
彼は眉を下げて謝るため慌てて首を振った。
「ううん!嫌じゃないよ!驚いただけ!」
だから大丈夫、そう伝えると彼はまた優しい笑顔を向けてくれる。
「よかった。嫌われたのかと思って」
「そんな…ベルトルトのこと嫌いじゃないよ?」
ふふっと笑うと視界が暗くなるので見上げると真上に彼の顔があり思ったより近くて焦る。彼は真剣な瞳をしており心臓がまた脈を打つ。
「それじゃあ…僕のこと好きかい?」
「……っっ!」
いきなりそんなことを聞かれどう答えていいか分からなかった。思わず後ずさりをするがすぐ背中に壁が当たるので逃げられなくなる。彼は一歩ずつ近付いて来てもう目の前だ。
「僕は君の事が好きなんだ」
「そ、それは人としてでしょう?」
「違う。ちゃんと女の子として君を好きだよ」
ーー彼が自分を好き…?
そんなこと……だって彼はまだ日本に来たばかりで…
頭の中が混乱して思うように働かない。
顔に熱が集まるのが分かり俯いてしまう。
「でも…女の子たちから人気だからその中にいい子がいるんじゃない?」
さっきも外で嬉しそうだったよ?、自分でも何でこんなこと聞いているのか分からなかった。何かの間違いなのか、からかわれているのか…不安に思ったのかもしれない。自分で聞いておきながら彼が他の女子と仲良く喋ったり手を繋いだりしているのを想像するとまた胸が痛んだ。
ーーあぁ…私、彼の事好きになってるんだ…
そこで自分の気持ちに気付いたが恥ずかしくて言えない。彼は何も言わない代わりにふわりと今度は優しく抱きしめられた。
「えっと……」
「女の子たちの声に応えるのは仕方なくだよ」
ここで上手くやっていくため、そう言葉を続けると彼の腕に力がこもったのが分かった。
さっきから心臓がうるさくて敵わない。
落ち着かせようとするも上手くいかなくてそれどころかどんどん速くなり自分の気持ちにも気付いた今、彼の言動一つ一つが嬉しい。
「そっか…人気者も大変なんだね…」
でも彼とはいつも二言三言しか言葉を交わさなかったのでこんなに会話をする事自体が初めてで緊張する。何を話していのか分からない。
「ドイツからやってきて日本語は勉強してても不安で…先生に本をすすめられたんだ。ここで君と出会って君の優しさに触れて…凄く頑張れたんだ」
「ベルトルト…」
「僕はやらなきゃいけない事があるからまたドイツに戻るけど…それでも君と一緒に過ごしたいんだ」
彼の声が胸に響いて感極まる。
嬉しくて涙を静かに流すと彼が離れ頬を包むようにして涙を拭ってくれた。
「なんで泣いてるんだい?」
「だって嬉しくて…ベルトルトがそんな風に思ってたなんて知らなかった…」
「今言ったからね」
クスリと彼は笑うと背中を丸め目線を合わせてきた。自分の目の高さに彼の瞳が目前にありまた心臓がうるさくなる。
「それで…僕のことは好き?」
目がそらせず見つめあったまま彼はまた聞いてきた。
ーーうっ…いざ言おうとするとなかなか言えない…
口を開きかけたが恥ずかしさで声が出ず俯いてしまう。
「やっぱり嫌いなんじゃないか…?」
彼は声のトーンを落として寂しそうに話す。
「そ、そんなことないよっ!私もベルトルトの事好きだもん!」
誤解して欲しくなくて思わず顔を上げて口走った言葉。彼は優しい笑顔で見つめており自分の今の言葉を思い出して赤面してしまう。
ーーやっちゃった…
逃げようと彼の脇を潜り抜けるもいとも容易く彼に捕まってしまう。
「逃げないで」
「でも恥ずかしい…」
「どうして?僕は嬉しいのに」
今の言葉はもちろん男としてだよね?、掴んでる手を引っ張りまた彼の胸の中に収まってしまると彼が聞いてくる。
そんなのこと聞かなくても彼は分かってるのにあえて聞いてくるところはちょっと意地悪だな、と思ったがあそこまで言って否定するのもおかしいのでコクリと頷く。
「僕たち両想いだね」
頭上からそんな言葉が聞こえてきて更に顔が赤くなった。体まで熱くなってきている。もうこの際だ。改めてちゃんと言おうと思い体を少し離し顔を上げる。
「うん。ベルトルト、好き…です」
顔から煙が出るんじゃないかと思うくらい熱くなってすぐに俯いてしまう。が、彼に強く抱き締められて恥ずかしがってるどころではなくなってしまう。
ーーく、苦しい…
苦しくてうまく息が出来ないでいたが彼は割とすぐに離れた。
「はぁ…はぁ…力強いよぉ…」
少しだけ涙目になって息を整えなごら彼に訴えた。
「ごめん。君があまりにも可愛いことを言うから」
抑えが効かなかった、申し訳なさそうに言う彼に怒る気力もなくなる。
そこへ17時を知らせるチャイムがなり自分の仕事も終わることを告げた。
「一緒に帰ろう」
彼はいつもの笑顔でそう言ってくれるため「うん」と頷き本棚の影から出て帰りの支度をする。
下駄箱まで来ると靴を履いて彼と並んで歩き出す。
正門まで来るといきなり手を繋がれたので驚いてしまう。
「そんなに驚くことはないだろ?」
「だって…ここ外だから…」
クスクスと笑っている彼とは正反対に余裕がなくて顔を背けてしまう。
「外でも堂々としてたらいい」
反対側の手が頭に乗るとポンポンと撫でてくれ彼の優しくて大きな手にコクンと頷く。
「だって僕たちは恋人同士になったんだから」
その言葉にまた顔を赤くして彼の顔は見られない。でもその代わりに握られた手に力を込めて握り返した。
彼は「行こう」と優しく促しまた歩き出す。
今度は肩を並べてしっかりと手を繋いで。
手を繋いで一緒に
fin.
2019.3.6
現パロ/学生/拍手お礼SS
「よしっ。これで終わりかな」
自分は今図書室で本の整理をしており運動場の外では放課後のため体育部たちが声を出して部活動に励んでいるのが聞こえてくる。
図書室は運動場に面した校舎の3階にあるため窓辺に立つとよく見えた。
「すみません」
窓の桟に腕を置き体を預けて外を見ていたら声をかけられた。「はい」と返事をして振り向くと長身で優しそうな男子生徒が立っていた。
彼はここ最近よく図書室に足を運んでくれており少し会話をする程度の仲までになった。
「ベルトルトくん、もう読んじゃったの?」
「うん」
彼は無口であまりものを話さないがニコリと笑うその笑顔はとても優しいもので心が温かくなる。彼は今交換留学でドイツから日本へやって来ておりこの学校に来て1ヶ月が経っていた。
「ベルトルトくんは勉強熱心だね。日本語上手なのに」
「いや…まだまだだよ」
外国人なのになんて謙虚なんだろう、と感心しながら彼が借りていた本をスキャンして返却棚へ置く。
「あの…僕のことは呼び捨てにしてもらえませんか?」
「えっ?でも…」
「呼び捨ての方が慣れてるから」
彼は自分を呼び捨てにしろと言うのでこちらもある条件を出してみることにした。
「じゃあ、名前で呼ぶ代わりに私のことも呼び捨てでいいし敬語もやめるように」
人差し指を立ててキリッとしながら彼を見上げ話す。
彼は最初驚いていたが「分かった」と微笑む。
「次の本を借りたいからオススメを教えてほしい」
「OK」
彼に本を紹介してくれと頼まれるため何冊か選んで机に並べる。
「これにするよ」
「うん。返却期限は守ってね」
ニマリとしながらスキャンした本を渡すと「もちろん」と受け取り彼は図書室を出て行った。
ーーーーーー
それからまた1ヶ月が経った頃。
ガヤガヤと廊下が騒々しい。
何事かとみんなの視線の先を見ると廊下の壁に先日のテスト上位者が張り出されていた。
「なぁ。これってあいつだろ?」
「あぁ…交換留学で来たっていう。教室じゃ随分と大人しく過ごしているようだけど…」
そんな話が聞こえてきてそれが彼だと言うことがすぐにわかった。少し背伸びをして張り紙を見てみると一年の一位に彼の名前があり驚いた。
ーーベルトルト…頭いいんだ……
少し前には体育の授業で身長を活かしてバスケをしたらしく並外れた身体能力を見せたらしい。バスケだけじゃなくてスポーツ全般そつなくこなすとか。
おかげで色んな部活動から声がかかり放課後は引っ張られるようにして連れて行かれるのを何度か見かけたことがある。それに女子のファンも増えつつあるようで彼が図書室に来る機会が減り会える時間がなくなっていった。
ーーまぁ寂しいけど彼がこの学校に馴染めるのはいいことだよね…
それでもみんなに彼がとられたような気持ちになって気分が沈む。外から彼の名前を呼ばれる声が聞こえて窓から見るとサッカーをしているようだ。
彼はパスを受けると可憐にシュートを決めていた。
おぉ、と思わず感嘆の声を漏らして微笑むと彼がこちらを見たような気がした。でもさすがに遠いので気のせいかと思っていると運動場の脇で女子達がキャーキャーと黄色い声が聞こえてきた。
彼はその女子達から名前を呼ばれると小さく手を挙げて応えているのを見てしまいズキリと胸が痛んだ。
ーーあれ…?今胸が苦しくなったけど…なんで?
不思議に思いながらも残っている作業を終わらせるためにカウンターへと戻る。しばらくして奥まった場所で本の整理をしていると入り口から音がして人が入って来たのがわかった。ちょうど本を並び終え棚の影から出たところで既に帰ったと思っていた彼が居て何やら急いでいる様子だ。
「あれー?ベルトルトくんいないね」
どうしたのかと話しかけようとしたらまた入り口のドアが開き女子の声が聞こえて来た。彼はハッとした表情を見せると自分の手を引いて先程本の整理をしていた場所まで連れて行かれ奥の壁と彼に挟まれるようにして立たされる。そして手で口を塞がれ「静かに」と小声で話す。何が起きているのか分からず焦っていると足音が近づいてきて何故か緊張して体が強張った。
すると彼は口から手を離すと頭と腰に腕を回して抱きしめてきたのだ。彼は身長が高いためスッポリとおさまっているのだがそれどころではなく心臓が早鐘のように速く脈を打ち付けた。
「ねぇ。そっちは気味が悪いからもう出ようよ」
「そうだね…彼帰っちゃったのかもしれないね」
あと一歩で姿を見られそうになるところで彼女達は立ち止まり図書室を出て行ってしまった。ピシャリと扉の閉まる音がしてホッと体の力を抜く。静かになった図書室に外から部活に励む生徒の声と彼の鼓動とやけに大きく聞こえる自分の鼓動の音が聞こえてくる。
彼はまだ離してはくれず彼の温もりに微かに香る汗と洗剤の匂いを感じていた。
「あ、ごめん」
彼は思い出したかのように体を離すと謝る。
「ううん…でも、なんで…?」
つい先程までの出来事にまだ鼓動は落ち着かないがなぜこんなことをしたのか気になった。彼は困ったように笑うと自分を見下ろしながら話し出す。
「君に会いに来たんだ」
「えっ?」
ーー今私に会いに来たって…?
彼の発言に頭がついていかず呆けていると彼は今度はしっかりと自分を見る。
「さっき窓から見てくれてたよね。だから会いに来たんだ。でも女子達に見つかって…」
参ったよ、そこまで話を聞くと顔を赤くさせて俯いてしまう。
ーーそんなこと言うなんて…反則だよ…
普段からそんなこと言わないであろう彼から会いに来たと言われると思わず期待してしまう。
ーーあ、でも彼は外国から来てるからこういうことはよくあるのかな…
自分でそんな考えに至たるもショックを受けて余裕がないのは自分だけだと思いため息をつく。
「ごめん…いきなりあんなことして嫌だったよね…」
彼は眉を下げて謝るため慌てて首を振った。
「ううん!嫌じゃないよ!驚いただけ!」
だから大丈夫、そう伝えると彼はまた優しい笑顔を向けてくれる。
「よかった。嫌われたのかと思って」
「そんな…ベルトルトのこと嫌いじゃないよ?」
ふふっと笑うと視界が暗くなるので見上げると真上に彼の顔があり思ったより近くて焦る。彼は真剣な瞳をしており心臓がまた脈を打つ。
「それじゃあ…僕のこと好きかい?」
「……っっ!」
いきなりそんなことを聞かれどう答えていいか分からなかった。思わず後ずさりをするがすぐ背中に壁が当たるので逃げられなくなる。彼は一歩ずつ近付いて来てもう目の前だ。
「僕は君の事が好きなんだ」
「そ、それは人としてでしょう?」
「違う。ちゃんと女の子として君を好きだよ」
ーー彼が自分を好き…?
そんなこと……だって彼はまだ日本に来たばかりで…
頭の中が混乱して思うように働かない。
顔に熱が集まるのが分かり俯いてしまう。
「でも…女の子たちから人気だからその中にいい子がいるんじゃない?」
さっきも外で嬉しそうだったよ?、自分でも何でこんなこと聞いているのか分からなかった。何かの間違いなのか、からかわれているのか…不安に思ったのかもしれない。自分で聞いておきながら彼が他の女子と仲良く喋ったり手を繋いだりしているのを想像するとまた胸が痛んだ。
ーーあぁ…私、彼の事好きになってるんだ…
そこで自分の気持ちに気付いたが恥ずかしくて言えない。彼は何も言わない代わりにふわりと今度は優しく抱きしめられた。
「えっと……」
「女の子たちの声に応えるのは仕方なくだよ」
ここで上手くやっていくため、そう言葉を続けると彼の腕に力がこもったのが分かった。
さっきから心臓がうるさくて敵わない。
落ち着かせようとするも上手くいかなくてそれどころかどんどん速くなり自分の気持ちにも気付いた今、彼の言動一つ一つが嬉しい。
「そっか…人気者も大変なんだね…」
でも彼とはいつも二言三言しか言葉を交わさなかったのでこんなに会話をする事自体が初めてで緊張する。何を話していのか分からない。
「ドイツからやってきて日本語は勉強してても不安で…先生に本をすすめられたんだ。ここで君と出会って君の優しさに触れて…凄く頑張れたんだ」
「ベルトルト…」
「僕はやらなきゃいけない事があるからまたドイツに戻るけど…それでも君と一緒に過ごしたいんだ」
彼の声が胸に響いて感極まる。
嬉しくて涙を静かに流すと彼が離れ頬を包むようにして涙を拭ってくれた。
「なんで泣いてるんだい?」
「だって嬉しくて…ベルトルトがそんな風に思ってたなんて知らなかった…」
「今言ったからね」
クスリと彼は笑うと背中を丸め目線を合わせてきた。自分の目の高さに彼の瞳が目前にありまた心臓がうるさくなる。
「それで…僕のことは好き?」
目がそらせず見つめあったまま彼はまた聞いてきた。
ーーうっ…いざ言おうとするとなかなか言えない…
口を開きかけたが恥ずかしさで声が出ず俯いてしまう。
「やっぱり嫌いなんじゃないか…?」
彼は声のトーンを落として寂しそうに話す。
「そ、そんなことないよっ!私もベルトルトの事好きだもん!」
誤解して欲しくなくて思わず顔を上げて口走った言葉。彼は優しい笑顔で見つめており自分の今の言葉を思い出して赤面してしまう。
ーーやっちゃった…
逃げようと彼の脇を潜り抜けるもいとも容易く彼に捕まってしまう。
「逃げないで」
「でも恥ずかしい…」
「どうして?僕は嬉しいのに」
今の言葉はもちろん男としてだよね?、掴んでる手を引っ張りまた彼の胸の中に収まってしまると彼が聞いてくる。
そんなのこと聞かなくても彼は分かってるのにあえて聞いてくるところはちょっと意地悪だな、と思ったがあそこまで言って否定するのもおかしいのでコクリと頷く。
「僕たち両想いだね」
頭上からそんな言葉が聞こえてきて更に顔が赤くなった。体まで熱くなってきている。もうこの際だ。改めてちゃんと言おうと思い体を少し離し顔を上げる。
「うん。ベルトルト、好き…です」
顔から煙が出るんじゃないかと思うくらい熱くなってすぐに俯いてしまう。が、彼に強く抱き締められて恥ずかしがってるどころではなくなってしまう。
ーーく、苦しい…
苦しくてうまく息が出来ないでいたが彼は割とすぐに離れた。
「はぁ…はぁ…力強いよぉ…」
少しだけ涙目になって息を整えなごら彼に訴えた。
「ごめん。君があまりにも可愛いことを言うから」
抑えが効かなかった、申し訳なさそうに言う彼に怒る気力もなくなる。
そこへ17時を知らせるチャイムがなり自分の仕事も終わることを告げた。
「一緒に帰ろう」
彼はいつもの笑顔でそう言ってくれるため「うん」と頷き本棚の影から出て帰りの支度をする。
下駄箱まで来ると靴を履いて彼と並んで歩き出す。
正門まで来るといきなり手を繋がれたので驚いてしまう。
「そんなに驚くことはないだろ?」
「だって…ここ外だから…」
クスクスと笑っている彼とは正反対に余裕がなくて顔を背けてしまう。
「外でも堂々としてたらいい」
反対側の手が頭に乗るとポンポンと撫でてくれ彼の優しくて大きな手にコクンと頷く。
「だって僕たちは恋人同士になったんだから」
その言葉にまた顔を赤くして彼の顔は見られない。でもその代わりに握られた手に力を込めて握り返した。
彼は「行こう」と優しく促しまた歩き出す。
今度は肩を並べてしっかりと手を繋いで。
手を繋いで一緒に
fin.
2019.3.6
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