物語の続きを君と
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9.
Erwin side
彼と初めて顔を合わせるが他の貴族とは何か違う雰囲気を感じた。それは自分とも似ている気がしているからか。互いに距離をとりにこやかな会話をするが探るような目を向けている彼にこちら側が掴んでる事実を告げると一気にその表情が変わった。
厳しい視線にたじろぐ事もなく彼に言葉を続ける。
「私はあなた方を救うことも貶めることもできる。こちらとしてはどちらでも構わない。あとはあなたの判断に委ねましょう」
そんな彼にそれだけ伝え立ち上がり部屋を後にする。が、一度立ち止まり体を半分だけ彼に向けて彼女のことを口に出した。
「貴方の娘があの男のご子息と婚姻されるそうで。おめでとうございます」
「そんなことまで知ってるのか!」
「あの男の事を調べているのです」
当然知ることになる、そう告げると彼は更に眉をひそめ立ち上がる。
「だったらなんだと言うのだ」
「どうもしません。ただ事実を知った時、彼女はどう思うのだろうかと」
「まさか…君は…娘に近付いたのか…?」
口調は静かだが声色に怒気を含み表情も険しい彼に一言伝える。
「……いえ。顔も見たことありません」
目を閉じ前を向くがその瞼の裏には彼女の笑う顔が浮かぶ。目を開けると彼の屋敷を後にするため足を踏み出した。そこには彼女の笑顔はもう写ってはいない。
ーーーーー
それからすぐに彼の秘書と名乗る男から連絡があった。彼の娘が自分に会って話がしたいというのだ。
──恐らく彼女だろう
彼女に会える喜びよりもどんな反応をするのか気になった。きっと幻滅されるに違いない、と。ならばそれでいいのではないか、そう思ってしまうのもまた事実。自分は調査兵団に属しておりいつ命が尽きるのか分からない。大切なものを作ってしまうと判断が鈍る、優先順位が自ずと変わってくる……彼女と距離を置くのがいいのだと言い聞かせた。
彼女とは馬車で密会する事に。
待ち合わせの場所に着くと彼女はマントを深く被っており乗りにくそうにしていた。手を差し出すと躊躇なくその手を握る。その手は細く小さいが微かに温かくずっと握りしめていたい衝動に駆られた。
自分を抑制するように分隊長、エルヴィン・スミスとしての仮面を被り前に座る彼女を見据えた。マントを外した彼女と視線がぶつかると驚愕している。声をかければ絶望したような表情になった。
「こんな形で君と会うことになるとは」
そう声をかけるとショックを受けているようだった。
「あなたは…調査兵団の…?」
「ああ」
「分隊長、エルヴィン・スミス…?」
「そうだ」
「そんな……」
じっと彼女を見つめて話す。
今にも泣き出しそうな表情になり今すぐその体を引き寄せて腕の中に閉じ込めたくなった。本当に彼女を前にすると余裕がなくなるようで心の中で自嘲気味に笑う。
「父と何を話したのですか…?」
父親の事を気にしている彼女。
それはそうだろう。彼は表と裏の顔があるのだ。彼女は恐らく全てではなくとも断片的にその裏の顔を知っている。だからあんなにも外へ興味を示していたのだと推測ができる。
「君が知ってどうする」
「父のあんな姿を初めて見ました。父と何をお話されたのか分かりません。でもあんな姿はもう見たくないのです…」
泣きそうな顔で訴える彼女にもう何もしない、会わないと言いたかった。だが、そういうわけにはいかない。人類の希望、それよりも自分の信念のため、父の仮説を立証するため、邪魔するあの男を放っておくわけにはいかなかった。利用できるものは利用しなければ。
そしてそれを彼女に教えるのは残酷な事に違いない。
「君は…知らない方がいいだろう…」
「何故っ?!」
彼女は怒気を含んだ声で立ち上がったが馬車が揺れ倒れそうになるため手を伸ばして彼女を支えた。馬車の床に座り込むがその腕の中には彼女がいる。細く小さな体から花のような甘い匂いがほのかに香った。
──…っっ!
離れようとする彼女を抱きとめたがそのまま離さなかった。
彼女は自分が貴族と知った上で近付いたのか聞いてきた。あの本屋で出会った時貴族とは思わなかったが…それならそれでよいのかもしれないと思ってしまう。
──彼女を遠ざける事で守れるのならそれで…
「だとしたらどうする。私の事を嫌いになるか?」
あえて突き放すような言い方をすれば彼女の顔は悲しげなものに変わる。
「今のあなたは嫌いです…」
彼女に嫌いだと言われたが何故かショックではなかった。むしろそのような反応が返ってくるだろうと。
──これでいい…
小さく笑うと彼女と隣同士で座る。その方が顔を見なくて済む。
「君は、あの本屋にまだ通っているのか?」
しばらく黙っていたがふと聞いてみた。
「はい…」
「そうか」
それだけ。たったそれだけの会話だったが彼女がまだあの本屋に通っているのを知り胸が温かくなった。それ以上は何も言わず彼女を見送る。彼女の父親とはいずれまた会う事になる。その時は恐らく彼女とも会う事になるだろう。
──彼女が選ぶ方を尊重しよう、
一人になった馬車の中で彼女の感触がまだ微かに残る右手を見つめたのち、外の景色に視線を移した。
Erwin side
彼と初めて顔を合わせるが他の貴族とは何か違う雰囲気を感じた。それは自分とも似ている気がしているからか。互いに距離をとりにこやかな会話をするが探るような目を向けている彼にこちら側が掴んでる事実を告げると一気にその表情が変わった。
厳しい視線にたじろぐ事もなく彼に言葉を続ける。
「私はあなた方を救うことも貶めることもできる。こちらとしてはどちらでも構わない。あとはあなたの判断に委ねましょう」
そんな彼にそれだけ伝え立ち上がり部屋を後にする。が、一度立ち止まり体を半分だけ彼に向けて彼女のことを口に出した。
「貴方の娘があの男のご子息と婚姻されるそうで。おめでとうございます」
「そんなことまで知ってるのか!」
「あの男の事を調べているのです」
当然知ることになる、そう告げると彼は更に眉をひそめ立ち上がる。
「だったらなんだと言うのだ」
「どうもしません。ただ事実を知った時、彼女はどう思うのだろうかと」
「まさか…君は…娘に近付いたのか…?」
口調は静かだが声色に怒気を含み表情も険しい彼に一言伝える。
「……いえ。顔も見たことありません」
目を閉じ前を向くがその瞼の裏には彼女の笑う顔が浮かぶ。目を開けると彼の屋敷を後にするため足を踏み出した。そこには彼女の笑顔はもう写ってはいない。
ーーーーー
それからすぐに彼の秘書と名乗る男から連絡があった。彼の娘が自分に会って話がしたいというのだ。
──恐らく彼女だろう
彼女に会える喜びよりもどんな反応をするのか気になった。きっと幻滅されるに違いない、と。ならばそれでいいのではないか、そう思ってしまうのもまた事実。自分は調査兵団に属しておりいつ命が尽きるのか分からない。大切なものを作ってしまうと判断が鈍る、優先順位が自ずと変わってくる……彼女と距離を置くのがいいのだと言い聞かせた。
彼女とは馬車で密会する事に。
待ち合わせの場所に着くと彼女はマントを深く被っており乗りにくそうにしていた。手を差し出すと躊躇なくその手を握る。その手は細く小さいが微かに温かくずっと握りしめていたい衝動に駆られた。
自分を抑制するように分隊長、エルヴィン・スミスとしての仮面を被り前に座る彼女を見据えた。マントを外した彼女と視線がぶつかると驚愕している。声をかければ絶望したような表情になった。
「こんな形で君と会うことになるとは」
そう声をかけるとショックを受けているようだった。
「あなたは…調査兵団の…?」
「ああ」
「分隊長、エルヴィン・スミス…?」
「そうだ」
「そんな……」
じっと彼女を見つめて話す。
今にも泣き出しそうな表情になり今すぐその体を引き寄せて腕の中に閉じ込めたくなった。本当に彼女を前にすると余裕がなくなるようで心の中で自嘲気味に笑う。
「父と何を話したのですか…?」
父親の事を気にしている彼女。
それはそうだろう。彼は表と裏の顔があるのだ。彼女は恐らく全てではなくとも断片的にその裏の顔を知っている。だからあんなにも外へ興味を示していたのだと推測ができる。
「君が知ってどうする」
「父のあんな姿を初めて見ました。父と何をお話されたのか分かりません。でもあんな姿はもう見たくないのです…」
泣きそうな顔で訴える彼女にもう何もしない、会わないと言いたかった。だが、そういうわけにはいかない。人類の希望、それよりも自分の信念のため、父の仮説を立証するため、邪魔するあの男を放っておくわけにはいかなかった。利用できるものは利用しなければ。
そしてそれを彼女に教えるのは残酷な事に違いない。
「君は…知らない方がいいだろう…」
「何故っ?!」
彼女は怒気を含んだ声で立ち上がったが馬車が揺れ倒れそうになるため手を伸ばして彼女を支えた。馬車の床に座り込むがその腕の中には彼女がいる。細く小さな体から花のような甘い匂いがほのかに香った。
──…っっ!
離れようとする彼女を抱きとめたがそのまま離さなかった。
彼女は自分が貴族と知った上で近付いたのか聞いてきた。あの本屋で出会った時貴族とは思わなかったが…それならそれでよいのかもしれないと思ってしまう。
──彼女を遠ざける事で守れるのならそれで…
「だとしたらどうする。私の事を嫌いになるか?」
あえて突き放すような言い方をすれば彼女の顔は悲しげなものに変わる。
「今のあなたは嫌いです…」
彼女に嫌いだと言われたが何故かショックではなかった。むしろそのような反応が返ってくるだろうと。
──これでいい…
小さく笑うと彼女と隣同士で座る。その方が顔を見なくて済む。
「君は、あの本屋にまだ通っているのか?」
しばらく黙っていたがふと聞いてみた。
「はい…」
「そうか」
それだけ。たったそれだけの会話だったが彼女がまだあの本屋に通っているのを知り胸が温かくなった。それ以上は何も言わず彼女を見送る。彼女の父親とはいずれまた会う事になる。その時は恐らく彼女とも会う事になるだろう。
──彼女が選ぶ方を尊重しよう、
一人になった馬車の中で彼女の感触がまだ微かに残る右手を見つめたのち、外の景色に視線を移した。