物語の続きを君と
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3.*
Erwin side
彼女との時間はとても楽しかった。
自分が行かないような場所も訪ね壁内の勉強にもなる。夢中になって眺めていたのだが、何度も咳払いをして我に返る、これを繰り返していた。それを彼女が優しい表情で見ているのを横目で何度も見かけた。
「私の方が楽しんでしまったようだ」
今は小さな喫茶店でお茶を飲んでいる。
「ふふっ。本当に見ていて微笑ましかったです」
その時の様子を思い出したのかクスクスと笑い始める彼女。
「君は呆れただろう」
「そんな、まさか!別の一面が見られて嬉しかったです」
ニコリと笑う彼女に鼓動が僅かに跳ねる。
あまりにも見つめていたのだろう、彼女は不思議そうにこちらを見ていた。そんな彼女に触れたくなり頬に手を伸ばす。その滑らかな肌に親指を何度か滑らせもっと触れていたい……
「あの……」
そこで彼女から声が。ハッとして彼女を見れば顔を真っ赤にして俯いているではないか。手をゆっくり離し彼女に声をかけた。
「すまない……気にしないでくれ」
「は、はい…」
その後はお互い無言になり時間だけが過ぎていった。お手洗いに行くフリをして先に会計を済ませ彼女の元に戻る。窓から空を見上げて物思いにふけっている彼女の姿が目に入った。
「空に、何かあるのか?」
「いえ…ただ私も空が飛べたらな、と…」
「なぜ?」
「私は壁の外はおろかここ内地からも出た事がないのです…この街しか知らない…空を飛べたら高いところから見られるでしょ?一度でいいから見てみたい…壁の外がどんなところかも…」
最後の方は独り言のように小さく呟いていたがしっかりと聞こえた。
「ここではそんな発言は慎んだ方がいいだろう。誰が聞いているか分からない。ましてや内地だ。王都も近いから気をつけなければ」
彼女の身に何かあってはいけないと思い、つい厳しい口調になってしまう。彼女を見ると悲しい瞳をしていた。
「あなたも父と同じようなことを言われるのですね…すみません。今の発言は迂闊でした。どうか忘れて下さい」
出ましょう、彼女はそう言って会計を済ませようとするが既に支払い済み。店員から事情を聞いた彼女が申し訳なさそうにしながらお礼を言われた。
店を出た後も気まずい雰囲気が漂う。
彼女の一歩後ろを歩いていたが突然彼女が立ち止まり振り返った。
「ここで大丈夫です…」
彼女を見ているとこれで最後のような気がした。自分でもおかしいと思うが気がついたら彼女の手を引いて細い路地に入り彼女と向き合った。
「先程はすまなかった。キツく言いすぎた…」
「いえ。大丈夫です。慣れてますから…」
彼女は初め驚いている表情をしていたが謝罪に微笑みを返してくれる。
「ああ言ったのは君を危険な目に遭わせたくないからだ。知りたい気持ちは分かるが知ろうと真実に近付けばどうなるか…私は知っている…」
だから、と言いかけたが彼女の人差し指が口に。そのせいで言葉を飲み込む羽目に。
「えぇ…私も知っています。父から聞いて…父やあなたが心配して言って下さる気持ちは分かるのですが知りたい気持ちは止められません」
どうしようもないですね、と彼女はおちゃらけて笑っている。
「なので父の事を思って私はその話をしなくなりました…だけど何故でしょう…あなたには話したくなったのです」
ごめんなさい、と彼女は俯きながら謝っている。
──違う…彼女に謝ってほしいのではない…
「ハル」
初めて名前で呼ぶ。
顔を上げた彼女の瞳は驚きの色だ。彼女の瞳を覗き込むように見つめ、伸ばした手を頬に滑らせ先程よりも馴染むように撫でる。
徐々に顔を赤くする彼女が可愛らしく愛おしい。ゆっくりと顔を近付け、その唇に自分のを重ねた。
ほんの少し触れるだけの口付け。
すぐに離れ彼女と視線を交わらせ、もう一度それを重ねる。今度は優しく啄み、彼女の感触を、体温を味わうように…。
「んッ…」
彼女の吐息が漏れ体の内から欲望が溢れ出てきた。
──もっと彼女の声が聞きたい
もっと彼女に触れたい
もっと彼女の事が知りたい…
その気持ちを今の口付けに込め、そっと腰に腕を回し彼女の体を引き寄せた。何度も角度を変え口付けを交わす。「ふッ…ん、」、彼女の小さな甘い声が情欲を煽る。
これ以上は流石にまずいと静かに離れる。潤んだ瞳でこちらを見上げる彼女と視線が絡む。
──…っっ!
このまま彼女が欲しい、だが気持ちを抑えるように瞼を閉じる。そして彼女から離れ距離をとった。
「急に、すまない…」
「いえ……でも初めてのキスがあなたでよかった…」
ふわりと照れ笑いをする彼女の表情と初めての言葉に嬉しくなる。しかし顔には出さないように努めた。
「初めてがこんな自分で申し訳なく思うよ」
「ふふっ。あなたはとても素敵な方だと思いますよ?」
少なからず私はそう思います、柔らかい笑みを零す彼女に少し罪悪感が増す。彼女は"兵士"である自分を知らない。
──兵士の私を知っても尚、
君はその笑顔を向けてくれるのだろうか…
「買いかぶり過ぎだ」
「そう思うのは私の勝手ですよ?」
クスクスと笑いいつもの彼女に戻ったのを見て安心するが罪悪感は残ったまま。これ以上は一緒には居られない…。帰るように促し路地から出る。
「また…会えるでしょうか?」
「それはどうだろう。会える確率の方が低い」
そうですか…、と寂しげに俯く彼女を見て心が痛んだ。
「強く願えば会えるのではないか?」
気が付けば先に口が動きそんなことを言っていた。どうも彼女といると自分を抑制出来ない。
しかしその言葉を聞いて彼女は優しい笑顔で頷いてくれる。
そして歩き出した彼女の姿が見えなくなるまで見送った。時折彼女が振り返り小さく手を振りこちらも手を挙げ応えた。
──また会えるだろうか…
それは神のみぞ知ること。
──それも神がいればの話だが
自嘲気味に小さく笑い、彼女からかりた本が入っている鞄をしっかり抱え空を見上げた。
空は夕刻を知らせるように淡い橙色だ。
Erwin side
彼女との時間はとても楽しかった。
自分が行かないような場所も訪ね壁内の勉強にもなる。夢中になって眺めていたのだが、何度も咳払いをして我に返る、これを繰り返していた。それを彼女が優しい表情で見ているのを横目で何度も見かけた。
「私の方が楽しんでしまったようだ」
今は小さな喫茶店でお茶を飲んでいる。
「ふふっ。本当に見ていて微笑ましかったです」
その時の様子を思い出したのかクスクスと笑い始める彼女。
「君は呆れただろう」
「そんな、まさか!別の一面が見られて嬉しかったです」
ニコリと笑う彼女に鼓動が僅かに跳ねる。
あまりにも見つめていたのだろう、彼女は不思議そうにこちらを見ていた。そんな彼女に触れたくなり頬に手を伸ばす。その滑らかな肌に親指を何度か滑らせもっと触れていたい……
「あの……」
そこで彼女から声が。ハッとして彼女を見れば顔を真っ赤にして俯いているではないか。手をゆっくり離し彼女に声をかけた。
「すまない……気にしないでくれ」
「は、はい…」
その後はお互い無言になり時間だけが過ぎていった。お手洗いに行くフリをして先に会計を済ませ彼女の元に戻る。窓から空を見上げて物思いにふけっている彼女の姿が目に入った。
「空に、何かあるのか?」
「いえ…ただ私も空が飛べたらな、と…」
「なぜ?」
「私は壁の外はおろかここ内地からも出た事がないのです…この街しか知らない…空を飛べたら高いところから見られるでしょ?一度でいいから見てみたい…壁の外がどんなところかも…」
最後の方は独り言のように小さく呟いていたがしっかりと聞こえた。
「ここではそんな発言は慎んだ方がいいだろう。誰が聞いているか分からない。ましてや内地だ。王都も近いから気をつけなければ」
彼女の身に何かあってはいけないと思い、つい厳しい口調になってしまう。彼女を見ると悲しい瞳をしていた。
「あなたも父と同じようなことを言われるのですね…すみません。今の発言は迂闊でした。どうか忘れて下さい」
出ましょう、彼女はそう言って会計を済ませようとするが既に支払い済み。店員から事情を聞いた彼女が申し訳なさそうにしながらお礼を言われた。
店を出た後も気まずい雰囲気が漂う。
彼女の一歩後ろを歩いていたが突然彼女が立ち止まり振り返った。
「ここで大丈夫です…」
彼女を見ているとこれで最後のような気がした。自分でもおかしいと思うが気がついたら彼女の手を引いて細い路地に入り彼女と向き合った。
「先程はすまなかった。キツく言いすぎた…」
「いえ。大丈夫です。慣れてますから…」
彼女は初め驚いている表情をしていたが謝罪に微笑みを返してくれる。
「ああ言ったのは君を危険な目に遭わせたくないからだ。知りたい気持ちは分かるが知ろうと真実に近付けばどうなるか…私は知っている…」
だから、と言いかけたが彼女の人差し指が口に。そのせいで言葉を飲み込む羽目に。
「えぇ…私も知っています。父から聞いて…父やあなたが心配して言って下さる気持ちは分かるのですが知りたい気持ちは止められません」
どうしようもないですね、と彼女はおちゃらけて笑っている。
「なので父の事を思って私はその話をしなくなりました…だけど何故でしょう…あなたには話したくなったのです」
ごめんなさい、と彼女は俯きながら謝っている。
──違う…彼女に謝ってほしいのではない…
「ハル」
初めて名前で呼ぶ。
顔を上げた彼女の瞳は驚きの色だ。彼女の瞳を覗き込むように見つめ、伸ばした手を頬に滑らせ先程よりも馴染むように撫でる。
徐々に顔を赤くする彼女が可愛らしく愛おしい。ゆっくりと顔を近付け、その唇に自分のを重ねた。
ほんの少し触れるだけの口付け。
すぐに離れ彼女と視線を交わらせ、もう一度それを重ねる。今度は優しく啄み、彼女の感触を、体温を味わうように…。
「んッ…」
彼女の吐息が漏れ体の内から欲望が溢れ出てきた。
──もっと彼女の声が聞きたい
もっと彼女に触れたい
もっと彼女の事が知りたい…
その気持ちを今の口付けに込め、そっと腰に腕を回し彼女の体を引き寄せた。何度も角度を変え口付けを交わす。「ふッ…ん、」、彼女の小さな甘い声が情欲を煽る。
これ以上は流石にまずいと静かに離れる。潤んだ瞳でこちらを見上げる彼女と視線が絡む。
──…っっ!
このまま彼女が欲しい、だが気持ちを抑えるように瞼を閉じる。そして彼女から離れ距離をとった。
「急に、すまない…」
「いえ……でも初めてのキスがあなたでよかった…」
ふわりと照れ笑いをする彼女の表情と初めての言葉に嬉しくなる。しかし顔には出さないように努めた。
「初めてがこんな自分で申し訳なく思うよ」
「ふふっ。あなたはとても素敵な方だと思いますよ?」
少なからず私はそう思います、柔らかい笑みを零す彼女に少し罪悪感が増す。彼女は"兵士"である自分を知らない。
──兵士の私を知っても尚、
君はその笑顔を向けてくれるのだろうか…
「買いかぶり過ぎだ」
「そう思うのは私の勝手ですよ?」
クスクスと笑いいつもの彼女に戻ったのを見て安心するが罪悪感は残ったまま。これ以上は一緒には居られない…。帰るように促し路地から出る。
「また…会えるでしょうか?」
「それはどうだろう。会える確率の方が低い」
そうですか…、と寂しげに俯く彼女を見て心が痛んだ。
「強く願えば会えるのではないか?」
気が付けば先に口が動きそんなことを言っていた。どうも彼女といると自分を抑制出来ない。
しかしその言葉を聞いて彼女は優しい笑顔で頷いてくれる。
そして歩き出した彼女の姿が見えなくなるまで見送った。時折彼女が振り返り小さく手を振りこちらも手を挙げ応えた。
──また会えるだろうか…
それは神のみぞ知ること。
──それも神がいればの話だが
自嘲気味に小さく笑い、彼女からかりた本が入っている鞄をしっかり抱え空を見上げた。
空は夕刻を知らせるように淡い橙色だ。