物語の続きを君と
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10.
ヒロイン side
彼と密会してからある日の事。買い物から家に帰って来るとリビングに父の思い詰めてる姿を見つけた。頭を抱えて悩んでいるようだ。
「お父様、」
「ああ…ハルか、お帰り」
「ただいま。どうかしたのですか?」
「いや。すまないね…」
「謝らないで。お父様が苦労してるのは知ってます」
「いや…これからのお前の事だよ、」
「私の?」
「…そうだ。お前には苦労をかけることになる…」
「何のことか分からないですがお父様の役に立てるなら受け入れます。だから謝らないで?」
苦渋の表情を浮かべる父の姿を見たくなくて笑顔で答えた。今そのことを聞く時ではないのだろう。父はいつもそうだ。その時になったら必ず教えてくれるがそれまでは何があっても口を割らなかった。だから今も何も聞かずに父の隣に腰掛け背中をさすった。
「そうだ。あのお話を聞かせて?」
「あれは子ども向けの話だろう」
「でも好きなんです」
「お前も物好きだな」
「お父様こそ、」
小さく笑ったのち、父は昔聞かせてくれた物語を話してくれる。それは冒険のお話だけれどこの壁の世界にはない風景を思い起こさせてくれ惹かれるものがあった。そして何故か父は私にだけ聞かせてくれ私もまた楽しげに話す父が好きだった。
それからだ。外の世界に興味を持ち出したのは。父に壁の外にはどんな世界があるのかよく聞いていた。父は人が居るところでは怒って話てはくれなかったが夜、おやすみの挨拶をする時に怒ってすまなかったと申し訳なさそうにしながら質問の答えを教えてくれた。だから自分は人が居るところでは質問しなくなり父が一人の時や夜寝る前の僅かな時間に話をするようになった。
「外には巨人がいるのね」
「そうだ。とても危険だ」
「じゃあ人類はもう二度と外には出られないの?」
「それは分からない。調査兵団という兵士達が勇敢に立ち向かってる」
「調査、兵団…」
「先に言っておくが兵士にだけはなるな」
「どうして?」
「お前が大事だからだよ。可愛い娘なんだ…命を、大事にして欲しい…」
「うん、分かった…でもお話は聞かせてくれる?」
「勿論だとも」
「ふふ、ありがとうお父様っ」
父とのそんな遠い記憶を思い出した。
でもいつからか、そんな外の世界の話すらもしなくなった。父の様子も時折変だし、貴族の付き合いも変わったようだった。父の事が心配だったところに今回このような事があって正直戸惑っている。
それからまた一週間後。
調査兵団の彼が屋敷に再来した。
どんな話をしているのか気になったが部屋で待つように言われ落ち着かない。そこへ父の秘書が。
「お嬢様。主がお呼びです」
「お父様が?」
もう話は終わったのか、そう思いながら応接間へと向かう。中に入れば父は窓辺に立ち、彼が、エルヴィン・スミスが椅子に座っていた。
「来たか……」
父は自分の姿を見ると複雑な表情をしている。
「お父様、一体どうされたのですか?」
「少し話をしよう。お前に関係ある話だからね…」
父の側まで行くと肩に手を置かれる。そして彼の方へ向き直り父とともに歩み寄った。兵服を身にまとっている彼も立ち上がり向かい合う。
「初めまして。私は調査兵団分隊長、エルヴィン・スミスです」
胸に手を宛て軽く会釈をする。兵士の敬礼ではないそれに一瞬違和感を感じて小さく笑ってしまう。彼はごく自然に慣れた仕草だったが今の彼にそれは似合わない。彼に対する複雑な心境もこの瞬間だけはなくなり、小さく微笑んだまま両手でスカートをそっと広げる。
「私はハル・ジェンキンスと申します。初めまして、分隊長スミスさん」
挨拶を交わした後に視線が交わると彼もまたふわりと微笑む。その表情に胸が高鳴ってしまい慌てて視線を逸らした。彼の微笑む姿は久しぶりに見る。
「…君もそのような顔をするのだね」
「残念ながら私も人間ですので」
「君は分隊長ながらに冷酷と言われておるようだな…そんな君が、笑うとは…」
父との会話を耳にしていたが不意に父が席に座るよう促される。席に着くと父も彼も座り空気が一気に変わった。
「、ハルにまだ言ってないことがある」
「なんでしょう…改まって言うことなのですか?」
「そうだ…お前に…」
「お父様…?」
話そうとした父だったが言い淀んでいる。気になり先を促せば重たいのであろう口を開いた。
「…お前に、婚姻の話があってな」
「えっ……」
婚姻、思ってもみない話で動揺が隠せない。まだお姉様たちだって婚姻はしていないから自分は先の話だと勝手に思い込んでいた。
「お相手の方は…?」
「…ヴォルフのご子息だよ…」
「!!」
知ってる。私もその人の名前は耳にした事がある。貴族の中でも実権を握っていて…でもあまりいい噂を聞かない。父はそんな彼と会うのを見たことがあり心配していたが、まさか婚姻の話が出ているとは…。
貴族のパーティーでご子息と話した事あるが我が物顔に振る舞う姿に困惑したのを思い出す。そんな彼と婚姻だなんて嫌に決まってる。
「…私は…嫌です。お断りは出来ないのですか?」
「出来ない。どうにも出来ないのだよ…分かってくれるね…」
父のその言葉を聞いて納得した。私は売られたんだと…もしくは人質と言ったところか…。父は彼に脅されているということが表情とその言葉を聞いて一瞬で理解した。自分が嫁に行かなきゃ父が…もしかすると家族や屋敷のみんなが危険な目に…。
「っ、分かりました……。その婚姻、受け入れます」
拳を固く握り締め応えた。本当は嫌で嫌で仕方がない。好きな人と一緒になりたかった……涙を堪え感情を抑えるのに必死になっていると、彼が静かに口を開く。
「私に提案があります」
「本当か?!」
「提案…?」
父と私の声が重なったが父が身を乗り出すように食い付いている。父は本当は自分を嫁に出したくないのだと、その気持ちが嬉しくなる。
「はい。彼女には調査兵団に入団して頂きます」
「なっ?!」
「えっ?!」
自分が調査兵団に入団…訓練も経ていないのに何故…と頭が一気に混乱する。彼は一体何を考えているのか。
「娘を兵士にはさせん!そんな危険があるところに…行かせるわけがないだろう?!」
「貴方の意見は分かります。ただ、入団と言っても兵士になる訳ではありません。彼女には事務的な仕事をして頂こうと思案しているところです」
なるほど。そういう事ならば出来そうだ。でも何故調査兵団なのだろうか。
「憲兵は言わずとも分かるかと。駐屯兵団でもよいですが生憎、信頼出来る人脈が少ない…調査兵団であればここから距離のある山の中に本部があり尚且つ信頼出来る部下がたくさんいる…彼女に万が一の事があっても迅速に対応が可能です」
「だが…何故兵団なのだ…」
「ここに居ても彼女の身の安全は保障されない」
「待って…どういうこと…?」
私の身が危ない?、万が一の事?、訳が分からず途方に暮れて父と彼の顔を交互に見つめる。
「君に婚姻の話がきているがその暁には、逃げないように閉じ込めると言っているそうだ」
「!!」
閉じ込める…それは自由がないということ。そんなのは嫌だ。ただでさえ街の外にも出た事がないというのに…。
「それを聞いた貴女は屋敷を抜け出し調査兵団に潜り込む。当然、父君は知らぬフリをして話を進めていく。そこで君を調査兵団に留めるある提案を、父君があの男にする…」
「ある提案とは…?」
「密偵だ」
「なっ?!」
密偵などそんな事出来るはずがない。困惑したまま彼を見つめていると小さく笑われる。
「あの男は私の事を探っているようだ。だから君に私を探らせる…そういう事だ」
「私にはそんな事…」
「ではよいのか?断れば君の命も、恐らく皆の命が危険に晒される」
「……っ、」
それを聞いて悩んだが答えは1つしかない。
「分かりました…。調査兵団に入団します」
「ハル!!」
「お父様、いいのです。やってみせます」
「っっ、……すまない」
黙って首を振り父の手を握ってた。
「話は纏まりました。手続きはこちらで手配します」
ではまた、と彼は立ち上がり今度は兵士の敬礼をすると部屋を出て行ってしまう。兵士の彼は冷酷で本当に冷たい瞳をしていた。けれど、それとは別に何か熱いものを感じたのも事実。何かを決意して成し得ようとしている、そんな瞳だった。
そして彼の居なくなった部屋に訪れる沈黙に、暖炉の薪が音を立てるのをただ耳にするばかりだった。
ヒロイン side
彼と密会してからある日の事。買い物から家に帰って来るとリビングに父の思い詰めてる姿を見つけた。頭を抱えて悩んでいるようだ。
「お父様、」
「ああ…ハルか、お帰り」
「ただいま。どうかしたのですか?」
「いや。すまないね…」
「謝らないで。お父様が苦労してるのは知ってます」
「いや…これからのお前の事だよ、」
「私の?」
「…そうだ。お前には苦労をかけることになる…」
「何のことか分からないですがお父様の役に立てるなら受け入れます。だから謝らないで?」
苦渋の表情を浮かべる父の姿を見たくなくて笑顔で答えた。今そのことを聞く時ではないのだろう。父はいつもそうだ。その時になったら必ず教えてくれるがそれまでは何があっても口を割らなかった。だから今も何も聞かずに父の隣に腰掛け背中をさすった。
「そうだ。あのお話を聞かせて?」
「あれは子ども向けの話だろう」
「でも好きなんです」
「お前も物好きだな」
「お父様こそ、」
小さく笑ったのち、父は昔聞かせてくれた物語を話してくれる。それは冒険のお話だけれどこの壁の世界にはない風景を思い起こさせてくれ惹かれるものがあった。そして何故か父は私にだけ聞かせてくれ私もまた楽しげに話す父が好きだった。
それからだ。外の世界に興味を持ち出したのは。父に壁の外にはどんな世界があるのかよく聞いていた。父は人が居るところでは怒って話てはくれなかったが夜、おやすみの挨拶をする時に怒ってすまなかったと申し訳なさそうにしながら質問の答えを教えてくれた。だから自分は人が居るところでは質問しなくなり父が一人の時や夜寝る前の僅かな時間に話をするようになった。
「外には巨人がいるのね」
「そうだ。とても危険だ」
「じゃあ人類はもう二度と外には出られないの?」
「それは分からない。調査兵団という兵士達が勇敢に立ち向かってる」
「調査、兵団…」
「先に言っておくが兵士にだけはなるな」
「どうして?」
「お前が大事だからだよ。可愛い娘なんだ…命を、大事にして欲しい…」
「うん、分かった…でもお話は聞かせてくれる?」
「勿論だとも」
「ふふ、ありがとうお父様っ」
父とのそんな遠い記憶を思い出した。
でもいつからか、そんな外の世界の話すらもしなくなった。父の様子も時折変だし、貴族の付き合いも変わったようだった。父の事が心配だったところに今回このような事があって正直戸惑っている。
それからまた一週間後。
調査兵団の彼が屋敷に再来した。
どんな話をしているのか気になったが部屋で待つように言われ落ち着かない。そこへ父の秘書が。
「お嬢様。主がお呼びです」
「お父様が?」
もう話は終わったのか、そう思いながら応接間へと向かう。中に入れば父は窓辺に立ち、彼が、エルヴィン・スミスが椅子に座っていた。
「来たか……」
父は自分の姿を見ると複雑な表情をしている。
「お父様、一体どうされたのですか?」
「少し話をしよう。お前に関係ある話だからね…」
父の側まで行くと肩に手を置かれる。そして彼の方へ向き直り父とともに歩み寄った。兵服を身にまとっている彼も立ち上がり向かい合う。
「初めまして。私は調査兵団分隊長、エルヴィン・スミスです」
胸に手を宛て軽く会釈をする。兵士の敬礼ではないそれに一瞬違和感を感じて小さく笑ってしまう。彼はごく自然に慣れた仕草だったが今の彼にそれは似合わない。彼に対する複雑な心境もこの瞬間だけはなくなり、小さく微笑んだまま両手でスカートをそっと広げる。
「私はハル・ジェンキンスと申します。初めまして、分隊長スミスさん」
挨拶を交わした後に視線が交わると彼もまたふわりと微笑む。その表情に胸が高鳴ってしまい慌てて視線を逸らした。彼の微笑む姿は久しぶりに見る。
「…君もそのような顔をするのだね」
「残念ながら私も人間ですので」
「君は分隊長ながらに冷酷と言われておるようだな…そんな君が、笑うとは…」
父との会話を耳にしていたが不意に父が席に座るよう促される。席に着くと父も彼も座り空気が一気に変わった。
「、ハルにまだ言ってないことがある」
「なんでしょう…改まって言うことなのですか?」
「そうだ…お前に…」
「お父様…?」
話そうとした父だったが言い淀んでいる。気になり先を促せば重たいのであろう口を開いた。
「…お前に、婚姻の話があってな」
「えっ……」
婚姻、思ってもみない話で動揺が隠せない。まだお姉様たちだって婚姻はしていないから自分は先の話だと勝手に思い込んでいた。
「お相手の方は…?」
「…ヴォルフのご子息だよ…」
「!!」
知ってる。私もその人の名前は耳にした事がある。貴族の中でも実権を握っていて…でもあまりいい噂を聞かない。父はそんな彼と会うのを見たことがあり心配していたが、まさか婚姻の話が出ているとは…。
貴族のパーティーでご子息と話した事あるが我が物顔に振る舞う姿に困惑したのを思い出す。そんな彼と婚姻だなんて嫌に決まってる。
「…私は…嫌です。お断りは出来ないのですか?」
「出来ない。どうにも出来ないのだよ…分かってくれるね…」
父のその言葉を聞いて納得した。私は売られたんだと…もしくは人質と言ったところか…。父は彼に脅されているということが表情とその言葉を聞いて一瞬で理解した。自分が嫁に行かなきゃ父が…もしかすると家族や屋敷のみんなが危険な目に…。
「っ、分かりました……。その婚姻、受け入れます」
拳を固く握り締め応えた。本当は嫌で嫌で仕方がない。好きな人と一緒になりたかった……涙を堪え感情を抑えるのに必死になっていると、彼が静かに口を開く。
「私に提案があります」
「本当か?!」
「提案…?」
父と私の声が重なったが父が身を乗り出すように食い付いている。父は本当は自分を嫁に出したくないのだと、その気持ちが嬉しくなる。
「はい。彼女には調査兵団に入団して頂きます」
「なっ?!」
「えっ?!」
自分が調査兵団に入団…訓練も経ていないのに何故…と頭が一気に混乱する。彼は一体何を考えているのか。
「娘を兵士にはさせん!そんな危険があるところに…行かせるわけがないだろう?!」
「貴方の意見は分かります。ただ、入団と言っても兵士になる訳ではありません。彼女には事務的な仕事をして頂こうと思案しているところです」
なるほど。そういう事ならば出来そうだ。でも何故調査兵団なのだろうか。
「憲兵は言わずとも分かるかと。駐屯兵団でもよいですが生憎、信頼出来る人脈が少ない…調査兵団であればここから距離のある山の中に本部があり尚且つ信頼出来る部下がたくさんいる…彼女に万が一の事があっても迅速に対応が可能です」
「だが…何故兵団なのだ…」
「ここに居ても彼女の身の安全は保障されない」
「待って…どういうこと…?」
私の身が危ない?、万が一の事?、訳が分からず途方に暮れて父と彼の顔を交互に見つめる。
「君に婚姻の話がきているがその暁には、逃げないように閉じ込めると言っているそうだ」
「!!」
閉じ込める…それは自由がないということ。そんなのは嫌だ。ただでさえ街の外にも出た事がないというのに…。
「それを聞いた貴女は屋敷を抜け出し調査兵団に潜り込む。当然、父君は知らぬフリをして話を進めていく。そこで君を調査兵団に留めるある提案を、父君があの男にする…」
「ある提案とは…?」
「密偵だ」
「なっ?!」
密偵などそんな事出来るはずがない。困惑したまま彼を見つめていると小さく笑われる。
「あの男は私の事を探っているようだ。だから君に私を探らせる…そういう事だ」
「私にはそんな事…」
「ではよいのか?断れば君の命も、恐らく皆の命が危険に晒される」
「……っ、」
それを聞いて悩んだが答えは1つしかない。
「分かりました…。調査兵団に入団します」
「ハル!!」
「お父様、いいのです。やってみせます」
「っっ、……すまない」
黙って首を振り父の手を握ってた。
「話は纏まりました。手続きはこちらで手配します」
ではまた、と彼は立ち上がり今度は兵士の敬礼をすると部屋を出て行ってしまう。兵士の彼は冷酷で本当に冷たい瞳をしていた。けれど、それとは別に何か熱いものを感じたのも事実。何かを決意して成し得ようとしている、そんな瞳だった。
そして彼の居なくなった部屋に訪れる沈黙に、暖炉の薪が音を立てるのをただ耳にするばかりだった。