朝、手を繋いで
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9.
——————………
「大丈夫?」
「ハルさん……すみません…」
「いいのよ。ゆっくり休んで?任務の代わりは私が引き受ける」
「そんな……今日は大事な用があると言われてたのに…」
「いいのいいの。用があると言っても大したものじゃないから」
気にしないで?、ベッド脇の椅子に座って苦しげな顔で横たわる後輩に声をかける。額に濡らしたハンカチを乗せて一度部屋を出た。いつもより静けさが増している調査兵団本部の廊下に自分の足音が響く。喉の乾きを潤すため食堂に立ち寄りテーブルに就いた。グラスに入った水に映る自分の顔をぼんやりと見つめる。ポケットから取り出したそれをテーブルに乗せ小さく息を吐いた。
「…エルヴィン分隊長に報告しなきゃ…」
今日は"彼"の誕生日を祝う日。
自分は参加しないつもりでいたが、運も重なってか任務も予定も入らず参加する羽目になっていた。だから不本意ながらも一応プレゼントを用意していたのだ。自分の意思ではない。決して。
けれど、今朝になって後輩が熱を出し、当番になっていた任務を代わりにする事にしたのだ。これで誕生日会に参加せずに済む。ただ、これを知った分隊長達はどんな反応をするのだろう。
重い腰を上げて食堂を出た。エルヴィン分隊長の部屋まで来たのはいいとして中に入りずらい。何故かというと、それは……
「おい、金髪。何がおかしい?」
「いや。なんでもないさ。君は意外と繊細なんだな」
「あ?気色の悪いことを言うな。削ぐぞ」
「はは、一度削がれかけた事はあるが?」
「……チッ、口を動かす暇があるなら手を動かせ」
中からエルヴィン分隊長と"彼"の声が聞こえてきた。よりによってこんな時に何故いるのか。拳を作ってはその役目を果たせず、結局扉に背を向けて今度はハンジさんの執務室へ向かった。
コンコンコン…、
「はいはーい。開いてるよ〜」
ノックをすれば聞こえてくる声。この声は……"忙しいけど楽しくてわくわくしている感じ"、だろうか。ハンジさんは裏表がないからはっきりしていて凄く分かりやすい。調査兵団に入ってハンジ班に配属されてから数年経つけれど……声だけでどんな様子かが分かってしまうようになってしまった。
「ハルです。失礼します」
中に入りハンジさんは机に向かって何かと睨めっこしている。こちらを見ていなくても姿勢を正して敬礼をした。
「こんな時にやって来るなんてね〜…誕生日会の事かい?」
何も話していないのに分かってしまう上司に脱帽だ。勘が鋭い。
「はい…その事でお話が」
そして誕生日会には参加困難である事を伝えた。ハンジさんは残念そうにしていたが案外あっさりとしている。もっと引き留められるかと予想していたから少し拍子抜けた。
「任務なら仕方ない。ちなみに何の任務だい?」
「見張り番です。夜なのでこれから仮眠をとって準備します」
「そうかい…分かったよ。寒過ぎてくれぐれも任務を放棄しないようにね」
「何言ってるんですかハンジさん。あなたじゃないんですから。ちゃんと任務は果たしますよ?」
「それならいいんだ。頼んだよ」
そう話すハンジさんの顔が若干ニヤけてるように見えるのは気のせいだろうか。気のせいだと言うことにしておこう。
執務室を出て、後輩の様子を見たのちに自室に戻って準備をする。今は昼過ぎでこれから仮眠をとるには丁度いい時間だ。部屋着になってベッドへ横になる…けれどすぐには眠れず兵服の間に挟んだものを取り出す。
「せっかく用意したのにな……」
ポツリと呟き、手に持つ"それ"は茶色い紙に包まれ赤いリボンで結われている。こんなもので喜んでくれるのだろうかと散々悩んだ挙げ句の結果が、これだ。きっと渡せば喜んでくれる、彼はそういう人だ。だが参加できなければ意味がない。
はぁ、と小さく息を吐きそれをまた兵服の上に乗せて睡魔の訪れを瞼を閉じて待った。
——————………
「大丈夫?」
「ハルさん……すみません…」
「いいのよ。ゆっくり休んで?任務の代わりは私が引き受ける」
「そんな……今日は大事な用があると言われてたのに…」
「いいのいいの。用があると言っても大したものじゃないから」
気にしないで?、ベッド脇の椅子に座って苦しげな顔で横たわる後輩に声をかける。額に濡らしたハンカチを乗せて一度部屋を出た。いつもより静けさが増している調査兵団本部の廊下に自分の足音が響く。喉の乾きを潤すため食堂に立ち寄りテーブルに就いた。グラスに入った水に映る自分の顔をぼんやりと見つめる。ポケットから取り出したそれをテーブルに乗せ小さく息を吐いた。
「…エルヴィン分隊長に報告しなきゃ…」
今日は"彼"の誕生日を祝う日。
自分は参加しないつもりでいたが、運も重なってか任務も予定も入らず参加する羽目になっていた。だから不本意ながらも一応プレゼントを用意していたのだ。自分の意思ではない。決して。
けれど、今朝になって後輩が熱を出し、当番になっていた任務を代わりにする事にしたのだ。これで誕生日会に参加せずに済む。ただ、これを知った分隊長達はどんな反応をするのだろう。
重い腰を上げて食堂を出た。エルヴィン分隊長の部屋まで来たのはいいとして中に入りずらい。何故かというと、それは……
「おい、金髪。何がおかしい?」
「いや。なんでもないさ。君は意外と繊細なんだな」
「あ?気色の悪いことを言うな。削ぐぞ」
「はは、一度削がれかけた事はあるが?」
「……チッ、口を動かす暇があるなら手を動かせ」
中からエルヴィン分隊長と"彼"の声が聞こえてきた。よりによってこんな時に何故いるのか。拳を作ってはその役目を果たせず、結局扉に背を向けて今度はハンジさんの執務室へ向かった。
コンコンコン…、
「はいはーい。開いてるよ〜」
ノックをすれば聞こえてくる声。この声は……"忙しいけど楽しくてわくわくしている感じ"、だろうか。ハンジさんは裏表がないからはっきりしていて凄く分かりやすい。調査兵団に入ってハンジ班に配属されてから数年経つけれど……声だけでどんな様子かが分かってしまうようになってしまった。
「ハルです。失礼します」
中に入りハンジさんは机に向かって何かと睨めっこしている。こちらを見ていなくても姿勢を正して敬礼をした。
「こんな時にやって来るなんてね〜…誕生日会の事かい?」
何も話していないのに分かってしまう上司に脱帽だ。勘が鋭い。
「はい…その事でお話が」
そして誕生日会には参加困難である事を伝えた。ハンジさんは残念そうにしていたが案外あっさりとしている。もっと引き留められるかと予想していたから少し拍子抜けた。
「任務なら仕方ない。ちなみに何の任務だい?」
「見張り番です。夜なのでこれから仮眠をとって準備します」
「そうかい…分かったよ。寒過ぎてくれぐれも任務を放棄しないようにね」
「何言ってるんですかハンジさん。あなたじゃないんですから。ちゃんと任務は果たしますよ?」
「それならいいんだ。頼んだよ」
そう話すハンジさんの顔が若干ニヤけてるように見えるのは気のせいだろうか。気のせいだと言うことにしておこう。
執務室を出て、後輩の様子を見たのちに自室に戻って準備をする。今は昼過ぎでこれから仮眠をとるには丁度いい時間だ。部屋着になってベッドへ横になる…けれどすぐには眠れず兵服の間に挟んだものを取り出す。
「せっかく用意したのにな……」
ポツリと呟き、手に持つ"それ"は茶色い紙に包まれ赤いリボンで結われている。こんなもので喜んでくれるのだろうかと散々悩んだ挙げ句の結果が、これだ。きっと渡せば喜んでくれる、彼はそういう人だ。だが参加できなければ意味がない。
はぁ、と小さく息を吐きそれをまた兵服の上に乗せて睡魔の訪れを瞼を閉じて待った。