朝、手を繋いで
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7.
————……
翌日。
「なんで私がこんな羽目に……」
自分は今、執務室の空き部屋を掃除している。自分が使うのかというとそれは違う。この部屋の持ち主は無類の綺麗好きで容赦のない彼だ。ハンジさんの執務室にある書類を整理していたところに何故か声をかけられた。昨日、部屋の掃除をしようとした所でハンジさんに捕まったのだとか…。だけど昨日の今日で何だか気まずい。それは自分だけなのだろうけど…
「私は召使いじゃない」
「そりゃ悪かったな」
「わぁぁあ!リヴァイさん!?」
扉の近くに居たが、開けっ放しにしていたところに彼が腕に荷物を抱えてやって来た。気配に気付かずボヤキが聞こえたようで……
「俺は召使いなんぞ思っていないが?」
「うっ……だってこうも掃除の度に声をかけられるとそうも思いますよ…」
項垂れながらも正直に話す。彼は自分にチラリと視線だけ投げ、奥にある机に荷物を置いた。
「他の奴じゃなめた掃除をするからな」
そう言って机の反対側に回るとその裏を手のひらでなぞった。その瞬間、緊張が走る。それをやられて何度やり直せと言われたことか。だが、彼は何も言わず荷物を整理し始めた。
「あの……どうでしょうか?」
「ああ、悪くねぇ」
それを聞いて安堵する。それならば自分はもう用はない。掃除道具をまとめて部屋を出ようとしたが、「待て」と彼に止められた。
「まだ何かあるんですか?」
半ば嫌そうに態度に出しながらも彼の次の言葉を待つ。だが、彼は何も言わない。黙って距離を縮められ目の前に立つリヴァイ。身長はさほど変わらないが威圧的な眼差しはいつもと変わらない。この視線にもだいぶ慣れてきた。
「あの……私まだ任務の途中なので失礼します」
黙ったまま何も言わない彼を少し怪訝に思いながら敬礼をする。すると彼は徐に腕を伸ばした。驚きのあまり体が硬直する。
「これはどうした?」
彼の指先が左頬に触れて問われる。そこは掃除中に怪我をしたもの、大した傷ではないのでそのまま放っておいた。
「これは掃除していた時に引っ掻いてしまって……」
これくらいの傷すぐ治りますよ、早口で伝え彼の手から一歩距離を取る。
「馬鹿野郎。小さな傷でもそのままにするな。そう教わらなかったか?」
「それは…でも本当に大した傷じゃ……っ!?」
ないです、言葉を続けようにも出来なかった。だって彼が……頬を、舐めたから。頬に添えられた手は少しひんやりしているが、ペロっと舐める舌は温かい。突然の出来事に体が動かず声も出なくて、箒の柄を持つ両手に力がこもる。
彼が一度離れ、至近距離で視線が交差する。切れ長の瞳に自分の姿が見えた。どうしていいのか分からなくてそのまま見つめればまた顔が近付く。
「…んッ、」
また頬をなぞる熱い舌。思わず瞼を閉じてその刺激に耐える。傷口を舐める行為は応急処置の一環だと分かってはいても彼の舌が艶めかしく感じるのは気のせいだろうか。思わず出た自分の声に顔が熱くなる。
この行為はいつまで続くのだろう。そう思うくらい時間を長く感じた。
「…なんて面してやがる……」
最後に舌先でチロリと傷をなぞられた後に彼が発した言葉。どんな面をしているのか分からないが自分は恥ずかしさと動揺でなんでこんな事をするのか疑問でいっぱいだ。
「…消毒のつもりだったんだが…すまねぇ。後で医務室へ行って手当てをしてもらえ。いいな?」
彼の言葉にしばし呆けたが、時間差で返事をすれば慌てて部屋を出る。一体何が起きたのだろうか…廊下を足早に進んで一つ角を曲がった所で立ち止まる。胸が苦しくて思うように呼吸が出来ない。自分を落ち着かせようと数回深呼吸をしているところで背後から声をかけられた。
「ハル、丁度良かった。リヴァイさんの手伝いが終わったんだね。これからハンジ分隊長の書類整理を……どうしたんだい?」
「も、モブリットさん……」
ゆっくりと振り返ればモブリットさんが心配そうに眉尻を下げて尋ねる。
「顔が赤いな……熱でもあるんじゃないか?」
そう言って額に手のひらを宛てられる。「やはり熱い…」確信したのかモブリットさんが真剣な表情になった。
「君は今から休むといい。風邪の引き始めなら早めに休息をとればすぐによくなる。ハンジさんには僕から伝えておくから」
道具も返しておくよ、荷物を素早く取られ流石にと思ったのだが彼に怒られてしまう。
「無理して長引かせる方が周りに迷惑をかける。こっちの事は大丈夫だからしっかり休んでくれ」
今度何かあったらハンジさんの事を頼むよ、苦笑いしながら引き返すモブリットさんの背中を見送り自分はまだ冷めない頬の熱に戸惑いながら一度医務室に寄り、自室に戻った。けれど、ベッドに横になっても彼の熱い舌を思い出し休める訳がなく数時間ゴロゴロしたのちにいつの間にか眠っていた。
その日の夜、休んだお陰で本来の調子を取り戻した自分は遅めの夕食を摂りに食堂へ足を運ぶ。
「あ?お前…今から飯か?」
食堂の入り口でバッタリと出会したのは昼間、風邪を引いたと間違われるほどの事をした張本人。一番会いたくなかった人物だ。
「…誰かさんのせいでこれからなんです」
「その誰かというのは俺か?」
「さぁ……ご自分の胸に聞いてみたらどうです?」
せっかく冷めた熱がぶり返しそうになり、気付かれないように早口で話して「では」と彼の横を通り過ぎようとした。
「待て」
それなのに腕組みをして壁に寄りかかるようにして立ち塞がり進めなくなった。壁際を歩いてしまった自分を恨む。
「な、なんですか…」
「お前、風邪でも引いたらしいじゃねぇか」
「なんのことですか?私は元気ですよ?」
「ほう……ならばモブリットが嘘をついていると?」
モブリットさんの名前が出てきて身体が小さく跳ねる。彼の視線が痛い。思わず壁の方へ視線を流したが「こっちを見ろ」と威圧的な態度を取られる。反抗すればまた何をされるか分からない。そう思って彼に向き直り視線を上げる。
「…まだ熱でもあるんじゃねぇか?」
顔が赤ぇ、額と額がくっついて間近にある三白眼に吸い込まれそうだ。モブリットさんは手だったのに何故彼はわざわざ額で熱を確かめるのだろう。また、驚きと疑問と羞恥心のせいで体温が上昇し、その熱が体中を巡回しているようだった。
————……
翌日。
「なんで私がこんな羽目に……」
自分は今、執務室の空き部屋を掃除している。自分が使うのかというとそれは違う。この部屋の持ち主は無類の綺麗好きで容赦のない彼だ。ハンジさんの執務室にある書類を整理していたところに何故か声をかけられた。昨日、部屋の掃除をしようとした所でハンジさんに捕まったのだとか…。だけど昨日の今日で何だか気まずい。それは自分だけなのだろうけど…
「私は召使いじゃない」
「そりゃ悪かったな」
「わぁぁあ!リヴァイさん!?」
扉の近くに居たが、開けっ放しにしていたところに彼が腕に荷物を抱えてやって来た。気配に気付かずボヤキが聞こえたようで……
「俺は召使いなんぞ思っていないが?」
「うっ……だってこうも掃除の度に声をかけられるとそうも思いますよ…」
項垂れながらも正直に話す。彼は自分にチラリと視線だけ投げ、奥にある机に荷物を置いた。
「他の奴じゃなめた掃除をするからな」
そう言って机の反対側に回るとその裏を手のひらでなぞった。その瞬間、緊張が走る。それをやられて何度やり直せと言われたことか。だが、彼は何も言わず荷物を整理し始めた。
「あの……どうでしょうか?」
「ああ、悪くねぇ」
それを聞いて安堵する。それならば自分はもう用はない。掃除道具をまとめて部屋を出ようとしたが、「待て」と彼に止められた。
「まだ何かあるんですか?」
半ば嫌そうに態度に出しながらも彼の次の言葉を待つ。だが、彼は何も言わない。黙って距離を縮められ目の前に立つリヴァイ。身長はさほど変わらないが威圧的な眼差しはいつもと変わらない。この視線にもだいぶ慣れてきた。
「あの……私まだ任務の途中なので失礼します」
黙ったまま何も言わない彼を少し怪訝に思いながら敬礼をする。すると彼は徐に腕を伸ばした。驚きのあまり体が硬直する。
「これはどうした?」
彼の指先が左頬に触れて問われる。そこは掃除中に怪我をしたもの、大した傷ではないのでそのまま放っておいた。
「これは掃除していた時に引っ掻いてしまって……」
これくらいの傷すぐ治りますよ、早口で伝え彼の手から一歩距離を取る。
「馬鹿野郎。小さな傷でもそのままにするな。そう教わらなかったか?」
「それは…でも本当に大した傷じゃ……っ!?」
ないです、言葉を続けようにも出来なかった。だって彼が……頬を、舐めたから。頬に添えられた手は少しひんやりしているが、ペロっと舐める舌は温かい。突然の出来事に体が動かず声も出なくて、箒の柄を持つ両手に力がこもる。
彼が一度離れ、至近距離で視線が交差する。切れ長の瞳に自分の姿が見えた。どうしていいのか分からなくてそのまま見つめればまた顔が近付く。
「…んッ、」
また頬をなぞる熱い舌。思わず瞼を閉じてその刺激に耐える。傷口を舐める行為は応急処置の一環だと分かってはいても彼の舌が艶めかしく感じるのは気のせいだろうか。思わず出た自分の声に顔が熱くなる。
この行為はいつまで続くのだろう。そう思うくらい時間を長く感じた。
「…なんて面してやがる……」
最後に舌先でチロリと傷をなぞられた後に彼が発した言葉。どんな面をしているのか分からないが自分は恥ずかしさと動揺でなんでこんな事をするのか疑問でいっぱいだ。
「…消毒のつもりだったんだが…すまねぇ。後で医務室へ行って手当てをしてもらえ。いいな?」
彼の言葉にしばし呆けたが、時間差で返事をすれば慌てて部屋を出る。一体何が起きたのだろうか…廊下を足早に進んで一つ角を曲がった所で立ち止まる。胸が苦しくて思うように呼吸が出来ない。自分を落ち着かせようと数回深呼吸をしているところで背後から声をかけられた。
「ハル、丁度良かった。リヴァイさんの手伝いが終わったんだね。これからハンジ分隊長の書類整理を……どうしたんだい?」
「も、モブリットさん……」
ゆっくりと振り返ればモブリットさんが心配そうに眉尻を下げて尋ねる。
「顔が赤いな……熱でもあるんじゃないか?」
そう言って額に手のひらを宛てられる。「やはり熱い…」確信したのかモブリットさんが真剣な表情になった。
「君は今から休むといい。風邪の引き始めなら早めに休息をとればすぐによくなる。ハンジさんには僕から伝えておくから」
道具も返しておくよ、荷物を素早く取られ流石にと思ったのだが彼に怒られてしまう。
「無理して長引かせる方が周りに迷惑をかける。こっちの事は大丈夫だからしっかり休んでくれ」
今度何かあったらハンジさんの事を頼むよ、苦笑いしながら引き返すモブリットさんの背中を見送り自分はまだ冷めない頬の熱に戸惑いながら一度医務室に寄り、自室に戻った。けれど、ベッドに横になっても彼の熱い舌を思い出し休める訳がなく数時間ゴロゴロしたのちにいつの間にか眠っていた。
その日の夜、休んだお陰で本来の調子を取り戻した自分は遅めの夕食を摂りに食堂へ足を運ぶ。
「あ?お前…今から飯か?」
食堂の入り口でバッタリと出会したのは昼間、風邪を引いたと間違われるほどの事をした張本人。一番会いたくなかった人物だ。
「…誰かさんのせいでこれからなんです」
「その誰かというのは俺か?」
「さぁ……ご自分の胸に聞いてみたらどうです?」
せっかく冷めた熱がぶり返しそうになり、気付かれないように早口で話して「では」と彼の横を通り過ぎようとした。
「待て」
それなのに腕組みをして壁に寄りかかるようにして立ち塞がり進めなくなった。壁際を歩いてしまった自分を恨む。
「な、なんですか…」
「お前、風邪でも引いたらしいじゃねぇか」
「なんのことですか?私は元気ですよ?」
「ほう……ならばモブリットが嘘をついていると?」
モブリットさんの名前が出てきて身体が小さく跳ねる。彼の視線が痛い。思わず壁の方へ視線を流したが「こっちを見ろ」と威圧的な態度を取られる。反抗すればまた何をされるか分からない。そう思って彼に向き直り視線を上げる。
「…まだ熱でもあるんじゃねぇか?」
顔が赤ぇ、額と額がくっついて間近にある三白眼に吸い込まれそうだ。モブリットさんは手だったのに何故彼はわざわざ額で熱を確かめるのだろう。また、驚きと疑問と羞恥心のせいで体温が上昇し、その熱が体中を巡回しているようだった。