朝、手を繋いで
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6.
「エルヴィン分隊長。頼まれていた資料をお持ちしました」
「すまない。君は私の班の者でないのにな」
「そんなことを言われたらハンジさんの班にはたくさん人が駆り出される時もありますから。資料の頼まれごとくらいお安い御用ですよ」
エルヴィン分隊長の執務室に入れば少しばかり申し訳なさそうにする彼を見て苦笑しながら応えた。冬になれば雪も降るため壁外調査は出来ない。暖を取るための物資が余計に増え、尚且つ寒さ故に緊急時に上手く対応出来ない可能性もあるからだ。そのため冬の間兵達は鍛錬や訓練の合間に溜まっていた執務をこなしていく。
だから自分もハンジさんの分もサポートしながら書類を整理していたところにエルヴィン分隊長から声をかけられたのだ。資料を手渡し敬礼をすると部屋を後にしようと踵を返した。
「一つ、聞いてもいいか?」
扉のドアノブに手をかけたところで声をかけられた。向き直ってドアの前に立つ。分隊長が自分に質問するなんて稀なこと。緊張しながらもどんな内容なのか胸を膨らませた。
「なんでしょうか?」
「彼……リヴァイとは上手くいっているのか?」
エルヴィン分隊長からまさかの問いに呆然とする。一体どういう事なのか質問の意味が分からない。瞬きを忘れ問いかけにも無言のまま、テーブルに就いている上司をガン見した。
「…すまない。変な事を聞いたな」
「あ、いえ……その、どういう事でしょうか…」
やっと声が出たけれど弱々しい声だ。彼とどうとは、何がどうなってそんな疑問に繋がったのか…。
「彼は此処に入団して数ヶ月経つ。初めての壁外調査で仲間を失ってどうなるかと思っていたが……どうやら彼は君を気に入っているようだ」
「へっ?!」
分隊長からの言葉に素っ頓狂な声が漏れ出た。慌てて手で口元を押さえ謝罪する。
「…何を見てそう思われたのか分かりませんが…私は彼に殺されかけたのですよ…?」
「彼が君をか?」
「…はい。私が悪いのですが…」
エルヴィン分隊長は初め驚いていたようだがことの事情を説明すると納得していた。
「…そんな事があったとはな。知らなかったよ」
「こんな事、誰に話せますか…」
ハンジさんでさえ知らない事だ。確かに掃除に付き合わされているけれど…ただの兵士同士の付き合い程度だ。
「だが、君といる時の彼は楽しげに見えるがな」
「どこがですか…ちくちく小姑みたいに言ってきて……こっちはたまったもんじゃないです」
そこまで口にすると溜息を漏らす。まぁ…何だかんだでよく見てくれていて、褒められる事もあるからそんな時は嬉しくなるけど。そうするとまた頑張ろうと思えたり…だからと言って彼に褒められたい訳ではない。断じてそれはない。
「はは、君にそんな顔をさせるとはハンジの他に彼だけだ」
「そんなに変な顔でしたか?」
「いや。魅力的な顔だ」
「…エルヴィン分隊長…それ、本気で言ってます…?」
「冗談だ。引いてしまったか?」
「ええ、まぁ少し」
思はずはっきり応えてしまい、しまった、手で口を覆う。エルヴィン分隊長の顔色を伺えば苦笑いをしているがそこまで機嫌を損ねた訳ではないようで安堵しつつも姿勢を正し謝罪する。
「すみません…思わず本音を…」
左胸に拳をあてるが彼は片手を挙げてそれを制す。
「いや。私が悪かった。だから謝る必要はない」
「しかし…」
それでも上司に対して失礼な事を言ったことには変わりない。もう一度謝罪しようとしたその時、扉が勢いよく開いて誰かが入って来た。
「エルヴィン!居たな!ああ、君も居たのか」
「ハンジ分隊長、慌てた様子でどうされたんですか?」
危うく扉にぶつかりそうになるのを寸でで避け、登場人物に少々驚きながらも声をかけた。
「また余計な事を考えているんじゃないだろうな」
「違うよ、エルヴィン。実は来月に彼の誕生日があるからみんなでお祝いしないかと提案しに来たんだ」
「彼、とは……リヴァイの事か?」
「そうさ。彼が来てから歓迎会らしきものはしていないだろう?丁度いいと思ってね」
エルヴィン分隊長からリヴァイの名前が聞こえて何故か体に緊張が走った。なんだか居てはいけない気がし、自分には関係ないだろうと部屋を後にしようとしたのだが…
「待ってくれ。良かったらハルも参加しないかい?」
「いえ、私は結構です。任務が入る可能性もあるので…」
「任務が入らなければいいんだね?」
まさかの誘いに断りを入れる。彼の誕生日なんて知ったこっちゃない。それに先程のエルヴィン分隊長との会話で変に意識してしまった。なのにハンジさんの眼鏡が光ってこれは仕組んででも参加させられる予感。
「ハンジ…無理強いはよくない。任務が入らなければでいいだろう?」
そこへエルヴィン分隊長が助け舟を出してくれる。この感じだと強制参加ではなくなりそうだ。少し安堵しつつ2人に向き直る。
「参加は任務次第ということでお願いします」
2人は自分の言葉に承諾してくれ今度こそ部屋を出た。ゴツゴツ、と靴音を廊下に響かせながら誕生日だという彼の事を考える。地下街ではお祝いなどするのだろうか…。美味しい料理や飲み物をみんなで囲み、プレゼントをもらって有意義で特別な時間を過ごす事を知っているのだろうか。そんな事が頭を過ぎるが自分が考えたところでどうにもならない。
「誕生日会、か…」
ポツリと呟いたそれは静かな廊下を響かせる靴音に掻き消された。
「エルヴィン分隊長。頼まれていた資料をお持ちしました」
「すまない。君は私の班の者でないのにな」
「そんなことを言われたらハンジさんの班にはたくさん人が駆り出される時もありますから。資料の頼まれごとくらいお安い御用ですよ」
エルヴィン分隊長の執務室に入れば少しばかり申し訳なさそうにする彼を見て苦笑しながら応えた。冬になれば雪も降るため壁外調査は出来ない。暖を取るための物資が余計に増え、尚且つ寒さ故に緊急時に上手く対応出来ない可能性もあるからだ。そのため冬の間兵達は鍛錬や訓練の合間に溜まっていた執務をこなしていく。
だから自分もハンジさんの分もサポートしながら書類を整理していたところにエルヴィン分隊長から声をかけられたのだ。資料を手渡し敬礼をすると部屋を後にしようと踵を返した。
「一つ、聞いてもいいか?」
扉のドアノブに手をかけたところで声をかけられた。向き直ってドアの前に立つ。分隊長が自分に質問するなんて稀なこと。緊張しながらもどんな内容なのか胸を膨らませた。
「なんでしょうか?」
「彼……リヴァイとは上手くいっているのか?」
エルヴィン分隊長からまさかの問いに呆然とする。一体どういう事なのか質問の意味が分からない。瞬きを忘れ問いかけにも無言のまま、テーブルに就いている上司をガン見した。
「…すまない。変な事を聞いたな」
「あ、いえ……その、どういう事でしょうか…」
やっと声が出たけれど弱々しい声だ。彼とどうとは、何がどうなってそんな疑問に繋がったのか…。
「彼は此処に入団して数ヶ月経つ。初めての壁外調査で仲間を失ってどうなるかと思っていたが……どうやら彼は君を気に入っているようだ」
「へっ?!」
分隊長からの言葉に素っ頓狂な声が漏れ出た。慌てて手で口元を押さえ謝罪する。
「…何を見てそう思われたのか分かりませんが…私は彼に殺されかけたのですよ…?」
「彼が君をか?」
「…はい。私が悪いのですが…」
エルヴィン分隊長は初め驚いていたようだがことの事情を説明すると納得していた。
「…そんな事があったとはな。知らなかったよ」
「こんな事、誰に話せますか…」
ハンジさんでさえ知らない事だ。確かに掃除に付き合わされているけれど…ただの兵士同士の付き合い程度だ。
「だが、君といる時の彼は楽しげに見えるがな」
「どこがですか…ちくちく小姑みたいに言ってきて……こっちはたまったもんじゃないです」
そこまで口にすると溜息を漏らす。まぁ…何だかんだでよく見てくれていて、褒められる事もあるからそんな時は嬉しくなるけど。そうするとまた頑張ろうと思えたり…だからと言って彼に褒められたい訳ではない。断じてそれはない。
「はは、君にそんな顔をさせるとはハンジの他に彼だけだ」
「そんなに変な顔でしたか?」
「いや。魅力的な顔だ」
「…エルヴィン分隊長…それ、本気で言ってます…?」
「冗談だ。引いてしまったか?」
「ええ、まぁ少し」
思はずはっきり応えてしまい、しまった、手で口を覆う。エルヴィン分隊長の顔色を伺えば苦笑いをしているがそこまで機嫌を損ねた訳ではないようで安堵しつつも姿勢を正し謝罪する。
「すみません…思わず本音を…」
左胸に拳をあてるが彼は片手を挙げてそれを制す。
「いや。私が悪かった。だから謝る必要はない」
「しかし…」
それでも上司に対して失礼な事を言ったことには変わりない。もう一度謝罪しようとしたその時、扉が勢いよく開いて誰かが入って来た。
「エルヴィン!居たな!ああ、君も居たのか」
「ハンジ分隊長、慌てた様子でどうされたんですか?」
危うく扉にぶつかりそうになるのを寸でで避け、登場人物に少々驚きながらも声をかけた。
「また余計な事を考えているんじゃないだろうな」
「違うよ、エルヴィン。実は来月に彼の誕生日があるからみんなでお祝いしないかと提案しに来たんだ」
「彼、とは……リヴァイの事か?」
「そうさ。彼が来てから歓迎会らしきものはしていないだろう?丁度いいと思ってね」
エルヴィン分隊長からリヴァイの名前が聞こえて何故か体に緊張が走った。なんだか居てはいけない気がし、自分には関係ないだろうと部屋を後にしようとしたのだが…
「待ってくれ。良かったらハルも参加しないかい?」
「いえ、私は結構です。任務が入る可能性もあるので…」
「任務が入らなければいいんだね?」
まさかの誘いに断りを入れる。彼の誕生日なんて知ったこっちゃない。それに先程のエルヴィン分隊長との会話で変に意識してしまった。なのにハンジさんの眼鏡が光ってこれは仕組んででも参加させられる予感。
「ハンジ…無理強いはよくない。任務が入らなければでいいだろう?」
そこへエルヴィン分隊長が助け舟を出してくれる。この感じだと強制参加ではなくなりそうだ。少し安堵しつつ2人に向き直る。
「参加は任務次第ということでお願いします」
2人は自分の言葉に承諾してくれ今度こそ部屋を出た。ゴツゴツ、と靴音を廊下に響かせながら誕生日だという彼の事を考える。地下街ではお祝いなどするのだろうか…。美味しい料理や飲み物をみんなで囲み、プレゼントをもらって有意義で特別な時間を過ごす事を知っているのだろうか。そんな事が頭を過ぎるが自分が考えたところでどうにもならない。
「誕生日会、か…」
ポツリと呟いたそれは静かな廊下を響かせる靴音に掻き消された。