朝、手を繋いで
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3.
「…泣くな」
「何よ…あんたには関係ないでしょ」
「ああ?そんな面して何言ってやがる…黙ってその汚ねぇ面をどうにかしろ」
そう言われて投げつけられたのは白いハンカチ。言葉は乱暴なのにその几帳面に折り畳まれている事に驚く。
「…あなた…彼女でもいるの?」
その女子力の高さに思わず出た疑問。彼は舌打ちをして何も言わない。そうか、こんな彼にも大切な人がいるのか…そう思うと彼はそこまで悪い人間ではないのかもしれないと思うのと同時に先程までの自分の態度が恥ずかしくなる。人は見かけによらず、とはこの事だ。涙を拭いて彼に向き直った。
「さっきは…ごめんなさい…言い過ぎたわ…」
「別に構いやしない。事実だからな。だが、仲間を侮辱する事だけはやめろ。あいつらはどんな理由があっても此処の一員になった。俺も、命を賭した彼奴らも、お前も…平等だ。そうだろう?」
地面に座り直し、酒をまた口にして話す彼の言葉が意外でしばし呆ける。どうやら彼は仲間を大事にする人らしい。
「……意外です…」
「どういう意味だ」
「いえ…地下街のゴロツキなんて悪いイメージしかなくて…」
「当然だ。無法地帯だからな…だからと言って仲間を悪く言われるのは胸糞悪りぃ…」
彼のその言葉に何も言えず罰が悪くなる。なんと返せばいいのか…。
「…星が、見事だな」
重苦しい空気が漂う中、突拍子もなくそんな事を言い出す彼に時が止まる。彼が星を愛でるとは。また意外だと言えば彼の機嫌を損ねかねないのでそれには触れず応える。
「…そうですね…今晩は一層綺麗です…リヴァイ、さんは星座と言うものをご存知ですか?」
「…なんだそれは」
「星で形とったもので、たくさんあるんです。中には夜の暗闇での道標となったり…誕生日を星座で分けたりもされています。それが12個あって…」
「ほう…お前物知りだな」
「昔、親の仕事関係で街の書物庫に入り浸っていて…読んだ事があるんです。古びた本で…とても興味深かったです」
彼が星を好きなのか定かではないが自分は好きだ。だから思わずペラペラと話してしまう。けれど、自分は彼に対していい印象を持っていなかった。流されちゃいけないと思いながらも話が止まらない。気まずい空気を気遣って話題を変えてくれたのか…兵士である自分が嗜好の話をする事なんて滅多にないから熱が入る。
「何でも神話からきているらしく…見た事もない形がたくさんあります」
そして星空を仰ぎ見て今見えている星座を幾つか彼に教えた。
「なかなか興味深いものを聞いた。礼を言う」
「礼には及びません。兵士には必要のない戯言です」
「そうでもねぇんじゃねぇか?少なくとも俺は新しい知識を得た。今後の夜の楽しみになるだろう」
自分の話をそんな風に言って貰えたのは初めてで何だか照れくさくなる。さっきまで自分を殺そうとしていたのに…変な男だと思った。そして自分も夜の星を通し彼の一部に触れた事でここに来た時の感情が薄らぐ。何だか複雑な気分だ。
「そんな事を言われても嬉しくないです…仲間として受け入れますが私はまだ貴方の事を認めてませんから」
やはり何となく彼に流されてるような気がして慌てて取り繕うように言い放った言葉。彼はそれを聞くと「そうか」、それだけ言って何も言わなくなった。
ここに居ても気まずいだけ。失礼します、一声かけて踵を返す。やり残した報告書を纏めなければ。彼に対しての蟠りが少しだけ払拭されペンが進む。少しだけ認めてやろう……上から目線だろうが関係ない。静かな自室に蝋燭の燃える音と紙の上を滑るペン先の音が夜の闇の中へ消えていく。
手を動かしながら先程の彼とのやり取りを思い出す。そして彼の小さな呟きも。本当に小さな声で幻聴だと思った。けれどもしあの呟きが本当なら…聞こえたと認めれば胸の苦しさが増してしまう気がした。
ポタ、パタ……
気が付けば手元の書類に幾つか染みを作ってしまう。彼の前で止めてしまったそれが今になってまた溢れ出す。机の隅に後で洗濯しようと持って来た彼のハンカチが目に止まる。もう一度それで目元を拭い彼の呟きと失った仲間達の顔が浮かんでは楽しかった日々の記憶を思い返した。
もうあの日々は戻って来ない。誰も居ないけれど声を押し殺し静かに、涙を流した。ハンカチから鼻腔を通る香りに何故だか安心感を抱いたのは自分だけの秘密。
「…泣くな」
「何よ…あんたには関係ないでしょ」
「ああ?そんな面して何言ってやがる…黙ってその汚ねぇ面をどうにかしろ」
そう言われて投げつけられたのは白いハンカチ。言葉は乱暴なのにその几帳面に折り畳まれている事に驚く。
「…あなた…彼女でもいるの?」
その女子力の高さに思わず出た疑問。彼は舌打ちをして何も言わない。そうか、こんな彼にも大切な人がいるのか…そう思うと彼はそこまで悪い人間ではないのかもしれないと思うのと同時に先程までの自分の態度が恥ずかしくなる。人は見かけによらず、とはこの事だ。涙を拭いて彼に向き直った。
「さっきは…ごめんなさい…言い過ぎたわ…」
「別に構いやしない。事実だからな。だが、仲間を侮辱する事だけはやめろ。あいつらはどんな理由があっても此処の一員になった。俺も、命を賭した彼奴らも、お前も…平等だ。そうだろう?」
地面に座り直し、酒をまた口にして話す彼の言葉が意外でしばし呆ける。どうやら彼は仲間を大事にする人らしい。
「……意外です…」
「どういう意味だ」
「いえ…地下街のゴロツキなんて悪いイメージしかなくて…」
「当然だ。無法地帯だからな…だからと言って仲間を悪く言われるのは胸糞悪りぃ…」
彼のその言葉に何も言えず罰が悪くなる。なんと返せばいいのか…。
「…星が、見事だな」
重苦しい空気が漂う中、突拍子もなくそんな事を言い出す彼に時が止まる。彼が星を愛でるとは。また意外だと言えば彼の機嫌を損ねかねないのでそれには触れず応える。
「…そうですね…今晩は一層綺麗です…リヴァイ、さんは星座と言うものをご存知ですか?」
「…なんだそれは」
「星で形とったもので、たくさんあるんです。中には夜の暗闇での道標となったり…誕生日を星座で分けたりもされています。それが12個あって…」
「ほう…お前物知りだな」
「昔、親の仕事関係で街の書物庫に入り浸っていて…読んだ事があるんです。古びた本で…とても興味深かったです」
彼が星を好きなのか定かではないが自分は好きだ。だから思わずペラペラと話してしまう。けれど、自分は彼に対していい印象を持っていなかった。流されちゃいけないと思いながらも話が止まらない。気まずい空気を気遣って話題を変えてくれたのか…兵士である自分が嗜好の話をする事なんて滅多にないから熱が入る。
「何でも神話からきているらしく…見た事もない形がたくさんあります」
そして星空を仰ぎ見て今見えている星座を幾つか彼に教えた。
「なかなか興味深いものを聞いた。礼を言う」
「礼には及びません。兵士には必要のない戯言です」
「そうでもねぇんじゃねぇか?少なくとも俺は新しい知識を得た。今後の夜の楽しみになるだろう」
自分の話をそんな風に言って貰えたのは初めてで何だか照れくさくなる。さっきまで自分を殺そうとしていたのに…変な男だと思った。そして自分も夜の星を通し彼の一部に触れた事でここに来た時の感情が薄らぐ。何だか複雑な気分だ。
「そんな事を言われても嬉しくないです…仲間として受け入れますが私はまだ貴方の事を認めてませんから」
やはり何となく彼に流されてるような気がして慌てて取り繕うように言い放った言葉。彼はそれを聞くと「そうか」、それだけ言って何も言わなくなった。
ここに居ても気まずいだけ。失礼します、一声かけて踵を返す。やり残した報告書を纏めなければ。彼に対しての蟠りが少しだけ払拭されペンが進む。少しだけ認めてやろう……上から目線だろうが関係ない。静かな自室に蝋燭の燃える音と紙の上を滑るペン先の音が夜の闇の中へ消えていく。
手を動かしながら先程の彼とのやり取りを思い出す。そして彼の小さな呟きも。本当に小さな声で幻聴だと思った。けれどもしあの呟きが本当なら…聞こえたと認めれば胸の苦しさが増してしまう気がした。
ポタ、パタ……
気が付けば手元の書類に幾つか染みを作ってしまう。彼の前で止めてしまったそれが今になってまた溢れ出す。机の隅に後で洗濯しようと持って来た彼のハンカチが目に止まる。もう一度それで目元を拭い彼の呟きと失った仲間達の顔が浮かんでは楽しかった日々の記憶を思い返した。
もうあの日々は戻って来ない。誰も居ないけれど声を押し殺し静かに、涙を流した。ハンカチから鼻腔を通る香りに何故だか安心感を抱いたのは自分だけの秘密。