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朝、手を繋いで

name change

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2.


数日後———……

前方に高い高い壁が見え始め、近付く頃には鐘の音が鼓膜を揺らした。数日の壁外調査も終え自分は生きて帰還する。今回はいつもより被害が少ない方だ。それでも悪天候に見舞われ犠牲者が出た事には変わりない。ただ、被害が少なく済んだのも全部彼、ことリヴァイの力量があってのもの。帰還する頃には彼の実力を認める者が大勢居た。

ハル、今回の報告書は君にお願いしよう」

ローゼの調査兵団本部に到着してハンジさんに指示される。各々で報告書を書かなければならないのだが、ハンジさんが言ってる事は恐らく隊の報告書。いつもはモブリットさんが纏めていたはず…。

「構いませんが…何故ですか?」
「モブリットが手を痛めたんだよ」
「?!大丈夫ですか?!」

モブリットさんの怪我なんて自分達、ハンジ班の存命危機だ。誰がハンジさんの暴走を止められるのか…。

「大丈夫だよ。数日もすれば治るはずだ」

それを聞いて安堵する。それならばと報告書を追加で作成していく。自分の分を書き終えた後に隊の分を書くが…

「釈に触るなぁ……」

 所々に出てくるあの男の名前。今回の調査で自分達は何度か彼に助けられているのだ。握るペンを置き背伸びをする。窓から外を見れば既に闇が訪れていた。体感的に今は深夜を過ぎたくらいだろうか。

外の空気を吸おうと部屋を後にした。いつも不眠時に足を運ぶ場所へ歩を進めたが既にそこには先客が。後ろ姿でその人物が分かり胸にある塊が更に重さを増す。

「…俺に用か?」

 部屋に戻ろうとしたが足音がどうやら彼の耳に届いたようだ。そんなに大きな音ではなかったが……地獄耳だ。

「いえ、別に……貴方に用がある訳ではありません」
「そうか…ならばガキはさっさと寝るんだな」

 チラリとこちらを見やる彼の物言いに溜まっていたものが一気に溢れ出した。

「…貴方こそ。こんな時間に、こんな所で何をしてるの?」

拳を強く握り締め、語気も強くなる。

「あ?ただ酒を飲んでるだけだ」
「支給された酒を勝手に飲むなんて……これだからゴロツキは…」

 自分でも酷い言い草だと思った。けれど、彼に対して抱いている負の感情が相まって攻撃的な言い方になり止まらなかった。彼も応戦するように睨みを効かす。

「な、何よ。どうせ地下でもくすねてたんでしょ!」

 その鋭いまなこにたじろぎながらも吐き捨てる。何か言われる、そう思ったが彼は何も言わず酒を口にした。さも眼中にないですと言わんばかりの態度に腹が立つ。何なんだこの男は。そこで一緒に地下街からやって来た2人が巨人に殺られた事を思い出した。

あれは出発してから数日後の事だった。嵐のような雨に濃霧という悪天候に見舞われ視界不良になり、巨人の存在に気付かず幾つもの隊が壊滅したのだ。彼と一緒の班だったフラゴン分隊長も…同期も……彼だけ生き残っていたのだと。あれだけ強いなら何故…。

「…今回の調査で死んだ仲間だって地下にいた方が良かったんじゃないの?巨人に喰われるよりゴミだめの中で死んだ方がよっぽど…」

 更に握る拳に力が入る。色んな感情が混ざりそれが言葉となって目の前の男にぶつけた。

「…やめろ。それ以上は言うな」

 ここでやっと彼が口を開く。それでも視線は酒に注がれこちらを見ない。

「本当の事でしょ…?わざわざ死にに来なくなって…まぁどうせ死んだって誰も何も思いやしな……っ!!」

 何が起きたのかすぐに理解出来なかった。一瞬のうちに彼に胸ぐらを掴まれ呼吸が苦しくなる。同じ背丈ぐらいだというのに体が浮く。それでも目の前の男を見下ろし睨んだ。

「…このまま喋れなくしてやってもいいが?」
「や、やれるものなら…やって、みなさい、よ…そうすればまた…汚い地下に…戻れるかも…よ?」

 息も絶え絶えに話す。掴んでいる手に力が入り更に気管が狭くなる。酸素が肺に上手く入らず流石にヤバい。意識が遠のきそうになる中、薄目で彼を見下ろした。星明かりの元、照らされる彼の瞳は鋭いまま。でも微かに光って見えるそれに何故だか胸が……

「…く、苦し……」

 呼吸が出来ず、自分はここで死んでしまう…やっと壁内に戻って来れたのにこんなところで…しかも人間に…自責の念を感じながらも虚しさが襲い、目から涙が零れる。それが頬を伝う頃、胸元から手が離れた。地面に崩れ落ちた体を僅かに起こし、急速に気管を通る酸素にむせ込む。

「…なんで…?」
「女を殺るのは主義じゃねぇ」
「…こほっ…あんたや仲間を、貶したのに…?」
「あ?自覚があるなら殺った方が良かったか?」
「嫌よ!人に殺される、なんて…調査兵団の恥よ!」
「ほう…人間以外になら殺られてもいいのか?」
「うぐっ…そ、それは…というか、なんで殺られる前提なのよ!そんな簡単に死にやしないわ!」

 失礼な男だ、そんな事を思って激怒する。そうさせたのは自分なんだけれども。

「威勢のいいガキだな」
「な…っ!ガキじゃない!」
「何言ってやがる。そうやってピーピー喚いてんじゃねぇか。ガキで充分だ」
「な、なんですって…!」

 人を子ども扱いするなんてやめてほしい。自分はもう19歳だというのに。この男こそガキなんじゃないかと思わずにはいられない。

「…あんたこそ口は悪いし背も小さいんだからガキなんじゃ……ぅぶっ?!」
「…おいてめぇ……二度とその事には触れるな…さもなくば…」

 片手で頬骨を思い切り挟まれこれはこれで痛い。ミシミシと骨を伝わり音が直接脳に響く。あまりの痛さに何度も頷けば数秒睨まれた後解放される。頬を擦りながら男を見上げた。

「…いたた…容赦ないのね…」
「当然だ。こっちは貶されてんだ。怒るだろう」
「…何よ…それでも余裕そうじゃない…これじゃ本当に、私がガキみたい……」

冷静な彼と自分との間に得体の知れぬ何かがある事だけは分かった。でもそれがまた自分を惨めな思いにさせて情けなくなる。それに同期や仲間を失った悲しみも加わり気が付けば頬に冷たいものが伝っていた。彼に見られまいと急いでジャケットの袖で拭う。





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