Levi Ackerman
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彼の背中
シリアス/流血+
私には憧れの人がいる。
その人は小柄で背は他の男性よりも低いがその体に秘められた力は一個旅団並み。
彼は調査兵団の大事な戦力。
ーーー
「ハル!補佐をしろ!」
「はいっ!」
今は壁外調査中で馬で班長と駆け抜けているところに背後から巨人が迫って来ている。信煙弾を発射させるがもう陣形が崩れ対処するしかない。
「ハルは踵を削げ!」
「了解!」
馬の背に乗りアンカーを巨人の足へ噴射させワイヤーを引き寄せると勢いよく巨人に刃を向けた。
「こんのぉお!!!っふんっっ!」
班長が気をそらせているうちに自分のブレードが踵を削ぎ巨人がバランスを崩し膝をつく。頸を班長がとらえ斬りつけようとしたその時、木の影から10m級の巨人が勢いよく飛び出し班長が足を噛まれた。
「うっ!!」
「班長っっ!!」
自分の馬を呼んで飛び乗るように跨り班長の元へ向かおうとするが制される。
「こっちに来るな!お前まで死ぬぞ!逃げるんだっっ!!」
「そんなっ!!班長!!」
「いいから行けっ!っっ!うあぁぁあ!!」
「班長っっーーー!!」
班長の足が噛み砕かれ血飛沫が舞う。巨人の手に捕まり今にも捕食されようとしているそれを涙を流し眺めることしかできなかった。自分にはどうする事も出来ず思い切り目を閉じる。次に目を開けた時には馬を蹴りその場から背を向けた。
数十メートル離れた時、後方でドシン、ドシンと二回大きな音が。振り返ると先程まで班長を掴んでいた巨人と踵を削いだ巨人二体が倒れていた。蒸気を上げているのを確認し慌てて班長の元へと駆けつける。近付くにつれ見えてくるそれ。その脇には小柄な彼の姿があり一瞬で誰か分かった。
「リヴァイ兵長っ!!」
馬で近寄ると彼は班長に手を貸し立たせていた。
「こいつを乗せてずらかるぞ。急げっ!」
「はいっ!」
班長を見ると顔を歪め痛みに耐えている様子だった。本隊と合流し壁内へと無事帰還した。
「班長っ!班長っ!」
診療所へと着いたが班長の顔色はよくない。足からの流血が止まらずダラダラと流れ出ていた。班長が寝ているベッドは血で真っ赤だ。巨人に思い切り捕まれ骨は粉砕し恐らく内臓も損傷している可能性があると医師は言った。そんな…、絶句し目からは涙がとめどなく零れ落ちた。
「ハル…うっ……」
「班長っ!」
「新兵の時から、面倒見てきたが…よくここまで、成長した……」
「そんな!私はいつも班長に助けられてばかりでっ…!」
班長の手を掴むと思い切り握り締める。
「いや、…もう十分ベテランだ……後は…まかせた……」
「班長っっ!」
班長は呼吸が浅くなっている口元を小さく動かし笑うと呼吸の音が小さくなってやがてそれも聞こえなくなった。そして握り締めた手にズシリと重みが伝わる。
「班長、……」
声をかけるがその閉じられた瞼が開かれる事は二度となかった。
新兵の頃からずっと面倒を見てくれ彼の事を年の離れた兄のように慕っていた。時に厳しく、時には優しく…本当に家族のように。
調査兵団にいれば仲間がずっと隣にいるとは、限らない……自由を手に入れるため、人類の活動領域を広めるため壁外へ出る。
それが調査兵団。
もう何人も同期をなくしている上に今、兄と慕った彼を失った。いつも覚悟しているが目の前にするとやはりその悲しみは深い。
その日の夜。
古城の眺望台から夜風に当たり星空を見上げていた。そして何故自分がここにいるのかを考える。
「何をしている」
その時背後から声がし驚く。
慌てて振り向けば人類最強の兵士、リヴァイ兵士長が立っていた。突然目の前に憧れの人物が現れ慌てふためく。
「いえ、あの…なんでも、ないです…」
「ならもう寝ろ」
彼はそれだけ言うと踵を返している。
「リヴァイ兵長!」
咄嗟に彼を引き止めたが何故そうしたのか自分でも分からなかった。彼は立ち止まり体を半分だけ横に向けるとジロリとこちらを見る。
「なんだ」
彼の低く素っ気ない声が耳に木霊し体に緊張が走る。
「あの……」
「早く用件を言え」
その言葉に拳を握りしめ真っ直ぐと彼を見つめた。
「あの、今日は助けて頂きありがとうございました」
「…お前はそうかもしれないがアイツはそうは思ってねぇだろうな」
アイツ、とはきっと班長の事だろう。
「どうでしょうか…でも私は班長を一度は見捨てようとしました…それに比べたら兵長は助けた上に壁内に帰還できた…命は、助からなかったけど…」
「…遠くから見ていたが…あれはそうするしかねぇだろう。助けようとして二人命を落とすよりも一人でも多く生き残れる選択肢があるならそちらを選ぶ」
たとえ仲間を見捨ててでもな、鋭い視線が体に突き刺さるような感覚がした。
「私は…もう仲間を失いたくありません…」
命を賭していった仲間達の顔を思い浮かべながら兵長に伝えた。
「兵長は、辛くないのですか…」
泣かないつもりだったが堪え切れず頬を伝う涙。兵長は視線だけ下に動かした。
「…辛い、だけじゃ済まされねぇな」
助けても救えなきゃ意味がねぇ、そう言って自分に背を向けると去って行く彼の後ろ姿を見つめる事しか出来なかった。
ーーー
それから数日後。
壁外調査の後、時折隊編成の為兵士の異動がある。今回も異動がいくつかあるようで分隊長に呼ばれて執務室へ向かう。そこにはリヴァイ兵長が居て驚いた。二人に敬礼すると分隊長が書類を手に自分に向き直った。
「君を呼んだのは言うまでもない。隊編成についてだ。君はこれから調査兵団特別作戦班へ異動だ」
「えっ…?特別、作戦班…ですか?」
一瞬聞き間違えじゃないかと耳を疑った。
「討伐12体、討伐補佐45体。戦績は充分だ」
腕組みをしたまま壁にもたれていた兵長が口を開く。特別作戦班に異動になるなんて調査兵団の兵士にとっては名誉なこと。でも今の自分に自信がなかった。
「ですが、自分に務まるか…」
「ならば兵士を辞めろ」
「—— っ!」
冷たい視線に冷たい言葉。
それは今の自分には堪えるものがあった。
「お前なら出来る、そう言うとでも思ったか?」
腕組みをしたまま自分に歩み寄る兵長。
「戦う気力がねぇんなら辞めるんだな」
「兵、長…」
せっかく自分を認めてくれたのに喜べなかった自分が悔しくて悔しくて目頭が熱くなる。
「リヴァイ兵長。ほどほどにしてやって下さい、」
そこへ分隊長の声が挟まる。
「あ?テメェはコイツのなんだ?親か?」
「い、いえ…」
「こっちは命を賭け神経削って尽力している。それなのになんだ?コイツは腑抜けになってるじゃねぇか」
そんな奴に兵士は務まらねぇ、と吐き捨てた兵長。堪え切れなくなり一筋の雫が頬を流れた。
「申し訳、ありません…」
自分が不甲斐ない。
本当なら嬉々として彼についていきたい。自分はここで終わってしまうのか。退団届けを書かなければ、そんなことを考えていた。
「オイ、」
彼の目が見れず俯いていると不意に声をかけられた。
「何故ここにいる」
唐突に聞かれたそれ。
「人類の自由を、手に入れるため…」
「それもそうだがテメェがここにいる理由だ」
—— 自分がいる理由、
そんなの一つに決まってる。
「巨人を、倒すため、です…」
初めて巨人を見た時、人が、その大きな口に入っていくのを見た。そして耳を覆っても聞こえてくる絶叫に、血が飛びちる様子も…地獄だった。その時、コイツらが憎いと思った。なんでこんな目に遭わなければならないのかと。訓練兵団に所属していてそれを見るまでは憲兵に行くつもりだった。でも考えは変わった。巨人を倒す、それを目標にしてきた。
「何故だ」
「巨人が憎い、から…巨人に勝ちたい、」
想いを伝えた瞬間、当時の気持ちを思い出して拳を強く握りしめた。
「…悪くねぇ。行くぞ」
「えっ、」
「早くしろ。アイツらにお前を紹介する」
さっさと行くぞ、そう言って分隊長の執務室を出て行く兵長。分隊長に挨拶をして急いで兵長の後を追いかけた。さっきまで辞めろとか言ってたのにどうしてだろうかと謎ばかり生まれる。
「コイツらが今の俺の班のヤツらだ」
「よろしく!」
「よろしくな」
「よろしく」
三人の兵士と挨拶をする。
—— この人達がリヴァイ班…
「ハルです。
これからよろしくお願いします」
涙の跡に気付かれるんじゃないかと考えたけど今更だ。しっかり前を見据えて先輩達に敬礼した。
「お前ら行くぞ」
「はいっ」
先輩達と馬に乗って近くの森へ。これから演習だという。
「いいな、お前ら。演習だからと言って気を抜くんじゃねぇ。怪我はするなよ」
「「はいっ!」」
「まずはお前の実践を見せてもらう」
それからは森の中を立体機動で宙を駆け、初めは緊張したが神経を研ぎ澄ませ、グリップを力強く握り模型巨人の頸を削いでいく。
「悪くない」
一言。兵長から一言もらったのが嬉しかった。後はみんなの訓練を、動きを見て、どんな風に合図をして連携を図り、巨人を仕留めていくか眺めていた。さすがリヴァイ班。動きに全く無駄がなかった。自分もこれからはこの人達と戦うのだと考えるとふつふつとやる気がみなぎってきた。
—— ここに来る前と気持ちが全然違う
兵長達を見てそう思った。
その日の夕刻。
訓練から馬で本部に戻る際に兵長が近くにいたので声をかけてみた。ずっと気になってる事がある。
「兵長、」
「なんだ」
「聞いてもいいですか?」
「…答えるかどうかは分からねぇぞ」
並走している兵長は視線だけこちらを向けた。答えるか分からない、それでも聞きたいし伝えたい事もあった。
「私に兵士を辞めろと言ったのに何故自分を紹介してくれたのか疑問に思っていて…」
馬で駆けながら話し出す。
「確かに私は自分に自信を失くしていました。でも兵長やみんなの事を見て巨人を倒したい、そう強く思いました。ヤツらが憎い。同期や先輩達の仇をとりたい、と…」
また目頭がじんわりと熱くなるが堪えて兵長を見る。
「ありがとうございます。私、頑張ります」
そう言って笑ってみたが上手く笑えているだろうか。今度は兵長に失望させたくない。兵長は何も言わず前を見据えたままだ。
「無理に笑うな」
「—— っ」
チラリとこちらを見ると短く呟いた。
「泣きたいなら泣け。今の面が一番胸糞悪りぃ」
「す、すみま…」
「あの時の目だ」
「目…?」
唐突に、本当にいきなりそんな事を言った兵長。訳が分からず涙も引っ込む。
「何故巨人を倒したいか」
「あ、」
「憎いと言ったな」
「はい」
「あの時の目が悪くねぇと思った。それだけだ」
「兵長、」
あの時、兵長が尋ねてくれなかったら自分はここには居なかったかもしれない。兵士を辞めて家に帰っていたかもしれない…やっぱり兵長は冷たいだけじゃないかもしれない。
「兵長、どこまでもついていきます」
心の底から思った。
この人について行きたい、と。兵長に自分はもう大丈夫だと分かってもらえるように笑った。
「ついて来られるならな」
「はいっ!」
チラリと自分を見ると小さく、本当に一瞬だけ口元を緩めた兵長。ついて来られるなら、彼はそう言った。ならば死に物狂いになってついていくしかない。
馬のスピードを速めて先を行く兵長の背中を見る。その背中には自由の翼がはためきとても大きく見えた。
—— ついて行きます、貴方の背中に
彼は小柄で背は他の男性よりも低いがその体に秘められた力は一個旅団並み。調査兵団の大事な戦力。
そして今日から自分の上司になった。
私の憧れの人。
彼の背中
fin.
2019.5.2
シリアス/流血+
私には憧れの人がいる。
その人は小柄で背は他の男性よりも低いがその体に秘められた力は一個旅団並み。
彼は調査兵団の大事な戦力。
ーーー
「ハル!補佐をしろ!」
「はいっ!」
今は壁外調査中で馬で班長と駆け抜けているところに背後から巨人が迫って来ている。信煙弾を発射させるがもう陣形が崩れ対処するしかない。
「ハルは踵を削げ!」
「了解!」
馬の背に乗りアンカーを巨人の足へ噴射させワイヤーを引き寄せると勢いよく巨人に刃を向けた。
「こんのぉお!!!っふんっっ!」
班長が気をそらせているうちに自分のブレードが踵を削ぎ巨人がバランスを崩し膝をつく。頸を班長がとらえ斬りつけようとしたその時、木の影から10m級の巨人が勢いよく飛び出し班長が足を噛まれた。
「うっ!!」
「班長っっ!!」
自分の馬を呼んで飛び乗るように跨り班長の元へ向かおうとするが制される。
「こっちに来るな!お前まで死ぬぞ!逃げるんだっっ!!」
「そんなっ!!班長!!」
「いいから行けっ!っっ!うあぁぁあ!!」
「班長っっーーー!!」
班長の足が噛み砕かれ血飛沫が舞う。巨人の手に捕まり今にも捕食されようとしているそれを涙を流し眺めることしかできなかった。自分にはどうする事も出来ず思い切り目を閉じる。次に目を開けた時には馬を蹴りその場から背を向けた。
数十メートル離れた時、後方でドシン、ドシンと二回大きな音が。振り返ると先程まで班長を掴んでいた巨人と踵を削いだ巨人二体が倒れていた。蒸気を上げているのを確認し慌てて班長の元へと駆けつける。近付くにつれ見えてくるそれ。その脇には小柄な彼の姿があり一瞬で誰か分かった。
「リヴァイ兵長っ!!」
馬で近寄ると彼は班長に手を貸し立たせていた。
「こいつを乗せてずらかるぞ。急げっ!」
「はいっ!」
班長を見ると顔を歪め痛みに耐えている様子だった。本隊と合流し壁内へと無事帰還した。
「班長っ!班長っ!」
診療所へと着いたが班長の顔色はよくない。足からの流血が止まらずダラダラと流れ出ていた。班長が寝ているベッドは血で真っ赤だ。巨人に思い切り捕まれ骨は粉砕し恐らく内臓も損傷している可能性があると医師は言った。そんな…、絶句し目からは涙がとめどなく零れ落ちた。
「ハル…うっ……」
「班長っ!」
「新兵の時から、面倒見てきたが…よくここまで、成長した……」
「そんな!私はいつも班長に助けられてばかりでっ…!」
班長の手を掴むと思い切り握り締める。
「いや、…もう十分ベテランだ……後は…まかせた……」
「班長っっ!」
班長は呼吸が浅くなっている口元を小さく動かし笑うと呼吸の音が小さくなってやがてそれも聞こえなくなった。そして握り締めた手にズシリと重みが伝わる。
「班長、……」
声をかけるがその閉じられた瞼が開かれる事は二度となかった。
新兵の頃からずっと面倒を見てくれ彼の事を年の離れた兄のように慕っていた。時に厳しく、時には優しく…本当に家族のように。
調査兵団にいれば仲間がずっと隣にいるとは、限らない……自由を手に入れるため、人類の活動領域を広めるため壁外へ出る。
それが調査兵団。
もう何人も同期をなくしている上に今、兄と慕った彼を失った。いつも覚悟しているが目の前にするとやはりその悲しみは深い。
その日の夜。
古城の眺望台から夜風に当たり星空を見上げていた。そして何故自分がここにいるのかを考える。
「何をしている」
その時背後から声がし驚く。
慌てて振り向けば人類最強の兵士、リヴァイ兵士長が立っていた。突然目の前に憧れの人物が現れ慌てふためく。
「いえ、あの…なんでも、ないです…」
「ならもう寝ろ」
彼はそれだけ言うと踵を返している。
「リヴァイ兵長!」
咄嗟に彼を引き止めたが何故そうしたのか自分でも分からなかった。彼は立ち止まり体を半分だけ横に向けるとジロリとこちらを見る。
「なんだ」
彼の低く素っ気ない声が耳に木霊し体に緊張が走る。
「あの……」
「早く用件を言え」
その言葉に拳を握りしめ真っ直ぐと彼を見つめた。
「あの、今日は助けて頂きありがとうございました」
「…お前はそうかもしれないがアイツはそうは思ってねぇだろうな」
アイツ、とはきっと班長の事だろう。
「どうでしょうか…でも私は班長を一度は見捨てようとしました…それに比べたら兵長は助けた上に壁内に帰還できた…命は、助からなかったけど…」
「…遠くから見ていたが…あれはそうするしかねぇだろう。助けようとして二人命を落とすよりも一人でも多く生き残れる選択肢があるならそちらを選ぶ」
たとえ仲間を見捨ててでもな、鋭い視線が体に突き刺さるような感覚がした。
「私は…もう仲間を失いたくありません…」
命を賭していった仲間達の顔を思い浮かべながら兵長に伝えた。
「兵長は、辛くないのですか…」
泣かないつもりだったが堪え切れず頬を伝う涙。兵長は視線だけ下に動かした。
「…辛い、だけじゃ済まされねぇな」
助けても救えなきゃ意味がねぇ、そう言って自分に背を向けると去って行く彼の後ろ姿を見つめる事しか出来なかった。
ーーー
それから数日後。
壁外調査の後、時折隊編成の為兵士の異動がある。今回も異動がいくつかあるようで分隊長に呼ばれて執務室へ向かう。そこにはリヴァイ兵長が居て驚いた。二人に敬礼すると分隊長が書類を手に自分に向き直った。
「君を呼んだのは言うまでもない。隊編成についてだ。君はこれから調査兵団特別作戦班へ異動だ」
「えっ…?特別、作戦班…ですか?」
一瞬聞き間違えじゃないかと耳を疑った。
「討伐12体、討伐補佐45体。戦績は充分だ」
腕組みをしたまま壁にもたれていた兵長が口を開く。特別作戦班に異動になるなんて調査兵団の兵士にとっては名誉なこと。でも今の自分に自信がなかった。
「ですが、自分に務まるか…」
「ならば兵士を辞めろ」
「—— っ!」
冷たい視線に冷たい言葉。
それは今の自分には堪えるものがあった。
「お前なら出来る、そう言うとでも思ったか?」
腕組みをしたまま自分に歩み寄る兵長。
「戦う気力がねぇんなら辞めるんだな」
「兵、長…」
せっかく自分を認めてくれたのに喜べなかった自分が悔しくて悔しくて目頭が熱くなる。
「リヴァイ兵長。ほどほどにしてやって下さい、」
そこへ分隊長の声が挟まる。
「あ?テメェはコイツのなんだ?親か?」
「い、いえ…」
「こっちは命を賭け神経削って尽力している。それなのになんだ?コイツは腑抜けになってるじゃねぇか」
そんな奴に兵士は務まらねぇ、と吐き捨てた兵長。堪え切れなくなり一筋の雫が頬を流れた。
「申し訳、ありません…」
自分が不甲斐ない。
本当なら嬉々として彼についていきたい。自分はここで終わってしまうのか。退団届けを書かなければ、そんなことを考えていた。
「オイ、」
彼の目が見れず俯いていると不意に声をかけられた。
「何故ここにいる」
唐突に聞かれたそれ。
「人類の自由を、手に入れるため…」
「それもそうだがテメェがここにいる理由だ」
—— 自分がいる理由、
そんなの一つに決まってる。
「巨人を、倒すため、です…」
初めて巨人を見た時、人が、その大きな口に入っていくのを見た。そして耳を覆っても聞こえてくる絶叫に、血が飛びちる様子も…地獄だった。その時、コイツらが憎いと思った。なんでこんな目に遭わなければならないのかと。訓練兵団に所属していてそれを見るまでは憲兵に行くつもりだった。でも考えは変わった。巨人を倒す、それを目標にしてきた。
「何故だ」
「巨人が憎い、から…巨人に勝ちたい、」
想いを伝えた瞬間、当時の気持ちを思い出して拳を強く握りしめた。
「…悪くねぇ。行くぞ」
「えっ、」
「早くしろ。アイツらにお前を紹介する」
さっさと行くぞ、そう言って分隊長の執務室を出て行く兵長。分隊長に挨拶をして急いで兵長の後を追いかけた。さっきまで辞めろとか言ってたのにどうしてだろうかと謎ばかり生まれる。
「コイツらが今の俺の班のヤツらだ」
「よろしく!」
「よろしくな」
「よろしく」
三人の兵士と挨拶をする。
—— この人達がリヴァイ班…
「ハルです。
これからよろしくお願いします」
涙の跡に気付かれるんじゃないかと考えたけど今更だ。しっかり前を見据えて先輩達に敬礼した。
「お前ら行くぞ」
「はいっ」
先輩達と馬に乗って近くの森へ。これから演習だという。
「いいな、お前ら。演習だからと言って気を抜くんじゃねぇ。怪我はするなよ」
「「はいっ!」」
「まずはお前の実践を見せてもらう」
それからは森の中を立体機動で宙を駆け、初めは緊張したが神経を研ぎ澄ませ、グリップを力強く握り模型巨人の頸を削いでいく。
「悪くない」
一言。兵長から一言もらったのが嬉しかった。後はみんなの訓練を、動きを見て、どんな風に合図をして連携を図り、巨人を仕留めていくか眺めていた。さすがリヴァイ班。動きに全く無駄がなかった。自分もこれからはこの人達と戦うのだと考えるとふつふつとやる気がみなぎってきた。
—— ここに来る前と気持ちが全然違う
兵長達を見てそう思った。
その日の夕刻。
訓練から馬で本部に戻る際に兵長が近くにいたので声をかけてみた。ずっと気になってる事がある。
「兵長、」
「なんだ」
「聞いてもいいですか?」
「…答えるかどうかは分からねぇぞ」
並走している兵長は視線だけこちらを向けた。答えるか分からない、それでも聞きたいし伝えたい事もあった。
「私に兵士を辞めろと言ったのに何故自分を紹介してくれたのか疑問に思っていて…」
馬で駆けながら話し出す。
「確かに私は自分に自信を失くしていました。でも兵長やみんなの事を見て巨人を倒したい、そう強く思いました。ヤツらが憎い。同期や先輩達の仇をとりたい、と…」
また目頭がじんわりと熱くなるが堪えて兵長を見る。
「ありがとうございます。私、頑張ります」
そう言って笑ってみたが上手く笑えているだろうか。今度は兵長に失望させたくない。兵長は何も言わず前を見据えたままだ。
「無理に笑うな」
「—— っ」
チラリとこちらを見ると短く呟いた。
「泣きたいなら泣け。今の面が一番胸糞悪りぃ」
「す、すみま…」
「あの時の目だ」
「目…?」
唐突に、本当にいきなりそんな事を言った兵長。訳が分からず涙も引っ込む。
「何故巨人を倒したいか」
「あ、」
「憎いと言ったな」
「はい」
「あの時の目が悪くねぇと思った。それだけだ」
「兵長、」
あの時、兵長が尋ねてくれなかったら自分はここには居なかったかもしれない。兵士を辞めて家に帰っていたかもしれない…やっぱり兵長は冷たいだけじゃないかもしれない。
「兵長、どこまでもついていきます」
心の底から思った。
この人について行きたい、と。兵長に自分はもう大丈夫だと分かってもらえるように笑った。
「ついて来られるならな」
「はいっ!」
チラリと自分を見ると小さく、本当に一瞬だけ口元を緩めた兵長。ついて来られるなら、彼はそう言った。ならば死に物狂いになってついていくしかない。
馬のスピードを速めて先を行く兵長の背中を見る。その背中には自由の翼がはためきとても大きく見えた。
—— ついて行きます、貴方の背中に
彼は小柄で背は他の男性よりも低いがその体に秘められた力は一個旅団並み。調査兵団の大事な戦力。
そして今日から自分の上司になった。
私の憧れの人。
彼の背中
fin.
2019.5.2
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