指輪の代わりに
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2.
850年 ウォール・ローゼ某所
偽りの王政を失脚させ新兵だった少女を真の王として立てたのがつい最近のこと。調査兵団への圧力も少なくなったのだが、目まぐるしい情勢で壁内は未だ混沌としている。そんな中、調査兵団はウォール・マリア奪還作戦に向け新しい兵を迎い入れ、日々忙しくしていた。
この日自分は古いお城を改装して造られた旧調査兵団本部へと馬を走らせていた。ここにはエレンの巨人化実験のためにハンジさん達を含めた数人の調査兵と共に寝泊まりしているのだが、自分は伝達係としてこの旧本部と現本部を行き来している。団長のメモが胸ポケットに入っていると考えるだけで使命感、緊張感に併せて何故だか心が温かい。
「ハンジさん。お疲れ様です。実験の方はどうですか?」
到着した後にハンジさんを探し声をかける。
「ああ、君か。伝達ご苦労様。実験はいい感じだ。硬質化も安定して出来るようになったし、そろそろ新兵器にも応用が出来そうだ」
よほど嬉しいのかハンジさんの顔が徐々にニヤけ出す。このままではここで長時間足止めをくらいそうだ。
「丁度良かったです。団長からその新兵器の事で報告書にまとめるよう言い使ってきましたから」
「うげっ!報告書必要なのぉ?もう兵団は厄介者扱いじゃないんだし必要ないでしょー」
「駄目ですハンジさん。そうだとしてもちゃんと記録には残しておかないと」
今後の為にもなるんです、両手を腰に当ててハンジさんを見上げる。
「分かったよ。書けばいいんでしょ、書けば。但し、期限ギリギリになるかもしれないから気長に待っててくれとエルヴィンに伝えてくれ」
「…そう言うだろうと思って団長からこれを」
胸ポケットにしまっていたメモをハンジさんに渡す。それを見た彼女は目の色を変えて鼻息を荒くする。ハンジさんは報告書を早く仕上げるから手伝ってくれと腕を引っ張り走り出した。大声を出してモブリットさんを呼んでいる。
——ハンジがこれを見るとやる気が出るはずだ。君に迷惑をかけるかもしれないがよろしく頼む。
本当に団長の言った通りになり思わず笑みが溢れた。
数十時間後。
自分が旧本部に来たのは昼餉頃。今は空が白んで朝陽が昇ろうとしていた。あれからハンジさんの報告書を皆でまとめ上げ先程終わったところだ。もっと時間を要すると思っていたが思いの外早く終わる。団長には2、3日かかるやもしれない、と言われていたから余計に。
食堂でハンジさんとエレン、数人の調査兵が机に突っ伏して眠っていた。人数分の毛布を持って来ると皆の背中にかける。
「君は休まなくて平気なのかい?」
「モブリットさん…平気です。徹夜なんていつもの事なので」
「さすが団長の班の人間だ」
「モブリットさんこそ。ハンジさんの事をよく理解されている。今回は本当に助かりました」
そう。報告書が早く仕上がったのもモブリットさんがスケッチと共に詳細な記載を実験日からある程度まとめていてくれたから。
「報告書が必要になると踏んでいたからね。団長も知りたいはずだ」
「ええ。報告が楽しみだと言われてましたよ?」
モブリットさんと顔を見合わせて微笑む。早朝の静けさにみんなの寝息と時折ハンジさんの、巨人発見!、奇行種ひゃっほー!、など寝言が聞こえ吹き出してしまう。ハンジさんは寝ている時も巨人の事で頭がいっぱいのようだ。
「分隊長は相変わらずだ」
「本当ですね」
「だけど、こうしていられるのも今だけかもしれないな…」
「?何故ですか?」
「エルヴィン団長から次期団長はハンジ分隊長だと聞いたからさ」
その言葉を聞いて胸がざわついた。そんな噂をちらりと耳にしたが本当だったのか。団長は次の団長候補を決めている。それは役目の終わりが見えていると言うこと。だが、それは団長の近くにいる自分も薄々感じていたことでもあった。きっとウォール・マリア奪還作戦にも参加するに違いない。片腕を失った団長にとってそれは命取り。やはり団長は…。
唇を固く結び、視線を落とす。肩に手をおかれ顔を上げればモブリットさんが小さく微笑んでいた。
「団長には君が必要だ。そして君にも団長が必要…そうだろう?」
「モブリットさん、どうして…」
「君達二人を見てそう感じただけだ。団長はあまり感情を表には出さないが君と話している時はとても柔らかい表情をしている…君は特別なんだ、」
「…っ!…だけどそれは、長く調査兵をしているからであって…」
「それもあるだろう。ただ、それとは違う何かを感じるんだ。こういうのは女性の方が勘がいいんじゃないか?」
そう言って笑うモブリットさん。もしモブリットさんの言うように特別な感情があるというなら…自惚れてもいいのだろうか…期待してもいいのだろうか…彼が自分と同じ想いを秘めているとしたら私は…。
「君は菓子を作るのが得意だとハンジさんに聞いたよ?」
「…はい。本当に時間がある時、材料が揃った時に作って食べてもらって…」
「僕も食べたよ。君が作っていたとは知らなかったな。団長も美味しいと喜んでいた…。確かここにも十分な材料が昨日届いた筈だ」
モブリットさんが厨房を抜けて食糧庫へ歩き出す為自分も後を追う。確かによく見ると十分な材料がある。でも何故こんなに揃っているのか。
「僕は他の報告書をまとめるから君は団長に何か作るといい。喜ぶよ」
「…しかしここの食料を使って良いのですか?」
「ああ。ついでに僕達も食べれば問題ないだろ?多少は保存もきく」
そうじゃないか?、モブリットさんが悪戯な笑みを浮かべていた。生真面目な彼のそんな姿を見るのは初めてで思わず呆けてしまうが…次の瞬間にはお腹を抱えて笑ってしまう。
「失礼だな…」
「すみません…。でもありがとうございます。材料使いますね」
そうして材料を持つと厨房に入り作業に取り掛かる。団長の喜ぶ姿を想像し、そっと想いも込め生地を練り込んでいく。クッキーなど多めに量を作り、終わる頃には太陽も昇りきっていた。
「おはよー…」
「あ、おはようございます。ハンジさん」
「いい匂いがするねぇ。また君のお菓子が食べられるとは」
「モブリットさんから材料を使っていいと言われたのでお言葉に甘えました」
「こんなことなら毎日頼みたいくらいだよ」
なんて言って、早速クッキーを頬張るハンジさん。その背後からエレン達も起きて目を輝かせていた。
「いい匂いがすると思ったら!俺甘いもん好きなんすよ!」
「どうぞ、食べて」
いただきます!、うめぇ!、美味しそうに食べるエレン達に頬も緩む。
「ああ、良かった。まだ出てなかったね。良かったらこれで包むといい」
モブリットさんが慌てた様子で食堂へやって来て、これを、と何かを手渡された。それはお菓子を包む包装紙と淡い青色のリボンだ。
「モブリットさん、これ…!」
「いいんだ。使ってくれ」
このご時世、こんな良いものを揃えるなんて難しいはずなのに…それに何故こんな僻地にここまで揃っているのか流石に疑問に感じる。
「さぁさぁ。それを包んで早く届けてくれ!報告書も忘れずに頼むよ!」
疑問をぶつけるまもなくハンジさんに急かされお菓子を包み、報告書と共に慌てて馬に乗る。
「エルヴィンによろしく頼むよー!」
走らせた馬の背後から大きな声でハンジさんから声をかけられる。振り返るとハンジさんとモブリットさんが居て、大きく手を振り返し彼の元へと向かった。
「…上手くいくでしょうか」
「さぁ。それはあの二人次第だろう」
「材料入手するの大変だったんですからね。団長にしつこく理由を聞かれたんですから…それに言い出したのは分隊長ですよ?」
「悪いねモブリット!二人を見ていたらもどかしくなったんだよ。エルヴィンはきっと次の奪還作戦で…だから余計にね。大きなお世話だと言われるだろうけど。さて、と。じゃあ私達はシーナに向かうよ!技工科と技術班の連中と新しい武器の研究だ!」
「ま、待って下さいよ!分隊長!」
850年 ウォール・ローゼ某所
偽りの王政を失脚させ新兵だった少女を真の王として立てたのがつい最近のこと。調査兵団への圧力も少なくなったのだが、目まぐるしい情勢で壁内は未だ混沌としている。そんな中、調査兵団はウォール・マリア奪還作戦に向け新しい兵を迎い入れ、日々忙しくしていた。
この日自分は古いお城を改装して造られた旧調査兵団本部へと馬を走らせていた。ここにはエレンの巨人化実験のためにハンジさん達を含めた数人の調査兵と共に寝泊まりしているのだが、自分は伝達係としてこの旧本部と現本部を行き来している。団長のメモが胸ポケットに入っていると考えるだけで使命感、緊張感に併せて何故だか心が温かい。
「ハンジさん。お疲れ様です。実験の方はどうですか?」
到着した後にハンジさんを探し声をかける。
「ああ、君か。伝達ご苦労様。実験はいい感じだ。硬質化も安定して出来るようになったし、そろそろ新兵器にも応用が出来そうだ」
よほど嬉しいのかハンジさんの顔が徐々にニヤけ出す。このままではここで長時間足止めをくらいそうだ。
「丁度良かったです。団長からその新兵器の事で報告書にまとめるよう言い使ってきましたから」
「うげっ!報告書必要なのぉ?もう兵団は厄介者扱いじゃないんだし必要ないでしょー」
「駄目ですハンジさん。そうだとしてもちゃんと記録には残しておかないと」
今後の為にもなるんです、両手を腰に当ててハンジさんを見上げる。
「分かったよ。書けばいいんでしょ、書けば。但し、期限ギリギリになるかもしれないから気長に待っててくれとエルヴィンに伝えてくれ」
「…そう言うだろうと思って団長からこれを」
胸ポケットにしまっていたメモをハンジさんに渡す。それを見た彼女は目の色を変えて鼻息を荒くする。ハンジさんは報告書を早く仕上げるから手伝ってくれと腕を引っ張り走り出した。大声を出してモブリットさんを呼んでいる。
——ハンジがこれを見るとやる気が出るはずだ。君に迷惑をかけるかもしれないがよろしく頼む。
本当に団長の言った通りになり思わず笑みが溢れた。
数十時間後。
自分が旧本部に来たのは昼餉頃。今は空が白んで朝陽が昇ろうとしていた。あれからハンジさんの報告書を皆でまとめ上げ先程終わったところだ。もっと時間を要すると思っていたが思いの外早く終わる。団長には2、3日かかるやもしれない、と言われていたから余計に。
食堂でハンジさんとエレン、数人の調査兵が机に突っ伏して眠っていた。人数分の毛布を持って来ると皆の背中にかける。
「君は休まなくて平気なのかい?」
「モブリットさん…平気です。徹夜なんていつもの事なので」
「さすが団長の班の人間だ」
「モブリットさんこそ。ハンジさんの事をよく理解されている。今回は本当に助かりました」
そう。報告書が早く仕上がったのもモブリットさんがスケッチと共に詳細な記載を実験日からある程度まとめていてくれたから。
「報告書が必要になると踏んでいたからね。団長も知りたいはずだ」
「ええ。報告が楽しみだと言われてましたよ?」
モブリットさんと顔を見合わせて微笑む。早朝の静けさにみんなの寝息と時折ハンジさんの、巨人発見!、奇行種ひゃっほー!、など寝言が聞こえ吹き出してしまう。ハンジさんは寝ている時も巨人の事で頭がいっぱいのようだ。
「分隊長は相変わらずだ」
「本当ですね」
「だけど、こうしていられるのも今だけかもしれないな…」
「?何故ですか?」
「エルヴィン団長から次期団長はハンジ分隊長だと聞いたからさ」
その言葉を聞いて胸がざわついた。そんな噂をちらりと耳にしたが本当だったのか。団長は次の団長候補を決めている。それは役目の終わりが見えていると言うこと。だが、それは団長の近くにいる自分も薄々感じていたことでもあった。きっとウォール・マリア奪還作戦にも参加するに違いない。片腕を失った団長にとってそれは命取り。やはり団長は…。
唇を固く結び、視線を落とす。肩に手をおかれ顔を上げればモブリットさんが小さく微笑んでいた。
「団長には君が必要だ。そして君にも団長が必要…そうだろう?」
「モブリットさん、どうして…」
「君達二人を見てそう感じただけだ。団長はあまり感情を表には出さないが君と話している時はとても柔らかい表情をしている…君は特別なんだ、」
「…っ!…だけどそれは、長く調査兵をしているからであって…」
「それもあるだろう。ただ、それとは違う何かを感じるんだ。こういうのは女性の方が勘がいいんじゃないか?」
そう言って笑うモブリットさん。もしモブリットさんの言うように特別な感情があるというなら…自惚れてもいいのだろうか…期待してもいいのだろうか…彼が自分と同じ想いを秘めているとしたら私は…。
「君は菓子を作るのが得意だとハンジさんに聞いたよ?」
「…はい。本当に時間がある時、材料が揃った時に作って食べてもらって…」
「僕も食べたよ。君が作っていたとは知らなかったな。団長も美味しいと喜んでいた…。確かここにも十分な材料が昨日届いた筈だ」
モブリットさんが厨房を抜けて食糧庫へ歩き出す為自分も後を追う。確かによく見ると十分な材料がある。でも何故こんなに揃っているのか。
「僕は他の報告書をまとめるから君は団長に何か作るといい。喜ぶよ」
「…しかしここの食料を使って良いのですか?」
「ああ。ついでに僕達も食べれば問題ないだろ?多少は保存もきく」
そうじゃないか?、モブリットさんが悪戯な笑みを浮かべていた。生真面目な彼のそんな姿を見るのは初めてで思わず呆けてしまうが…次の瞬間にはお腹を抱えて笑ってしまう。
「失礼だな…」
「すみません…。でもありがとうございます。材料使いますね」
そうして材料を持つと厨房に入り作業に取り掛かる。団長の喜ぶ姿を想像し、そっと想いも込め生地を練り込んでいく。クッキーなど多めに量を作り、終わる頃には太陽も昇りきっていた。
「おはよー…」
「あ、おはようございます。ハンジさん」
「いい匂いがするねぇ。また君のお菓子が食べられるとは」
「モブリットさんから材料を使っていいと言われたのでお言葉に甘えました」
「こんなことなら毎日頼みたいくらいだよ」
なんて言って、早速クッキーを頬張るハンジさん。その背後からエレン達も起きて目を輝かせていた。
「いい匂いがすると思ったら!俺甘いもん好きなんすよ!」
「どうぞ、食べて」
いただきます!、うめぇ!、美味しそうに食べるエレン達に頬も緩む。
「ああ、良かった。まだ出てなかったね。良かったらこれで包むといい」
モブリットさんが慌てた様子で食堂へやって来て、これを、と何かを手渡された。それはお菓子を包む包装紙と淡い青色のリボンだ。
「モブリットさん、これ…!」
「いいんだ。使ってくれ」
このご時世、こんな良いものを揃えるなんて難しいはずなのに…それに何故こんな僻地にここまで揃っているのか流石に疑問に感じる。
「さぁさぁ。それを包んで早く届けてくれ!報告書も忘れずに頼むよ!」
疑問をぶつけるまもなくハンジさんに急かされお菓子を包み、報告書と共に慌てて馬に乗る。
「エルヴィンによろしく頼むよー!」
走らせた馬の背後から大きな声でハンジさんから声をかけられる。振り返るとハンジさんとモブリットさんが居て、大きく手を振り返し彼の元へと向かった。
「…上手くいくでしょうか」
「さぁ。それはあの二人次第だろう」
「材料入手するの大変だったんですからね。団長にしつこく理由を聞かれたんですから…それに言い出したのは分隊長ですよ?」
「悪いねモブリット!二人を見ていたらもどかしくなったんだよ。エルヴィンはきっと次の奪還作戦で…だから余計にね。大きなお世話だと言われるだろうけど。さて、と。じゃあ私達はシーナに向かうよ!技工科と技術班の連中と新しい武器の研究だ!」
「ま、待って下さいよ!分隊長!」