Birthday story 2019*
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4.
10月14日
今日はいよいよ団長の誕生日。午後から任務のためいつでも渡せるようにポケットにプレゼントを仕舞い、執務にあたった。だが、こういう時に限って用事もなく、団長に出会わない。姿を見かけてもすぐにどこかへ行ってしまい渡せずにいた。
──これはもう諦めるしかない。
日が沈んで外は夕暮れから夜の闇が訪れようとしていた。仲間の兵達も任務を終えて帰る中、自分はまだ書類の整理をする。腕に抱えた資料を整理したら帰ろう、プレゼントは明日でもいいか、廊下を歩きながら小さく息を漏らせば曲がり角で誰かとぶつかり資料を散らかしてしまう。
「わぁ!ごめんなさい!ボーッとしてしまって…怪我はないですか?!」
資料をかき集めて顔を上げるとそこに居たのは一番会いたかった人物。
「…エルヴィン、団長」
「何やら考え事をしていたようだが」
「大丈夫です!団長、すみません…」
少し俯きがちに敬礼をすれば名前を呼ばれる。
「君はこれから暇か?」
「はい、これを済ませたら今日は終わりです」
「ならば少し茶を飲もう」
団長からお茶に誘われ嬉しい反面緊張もする。だがこんなチャンスは滅多にない。一緒に団長室に入ればお茶が既に用意されていた。不思議に思いながらもソファーに座りお茶を口にする。
「美味しい…」
「そうだな」
「香りもいいですね」
「ああ。これはリヴァイに貰った茶葉だ」
「兵長に?」
兵長からもらった、恐らく誕生祝いだろう。これはチャンスだ、ここぞとばかりにポケットから小袋を取り出して団長へ差し出す。
「ずっとしまっていたので袋がぐちゃぐちゃになってしまいましたが…よかったら受け取って下さい」
「私にか?」
「はい。お誕生日おめでとうございます。それからいつもありがとうございます。感謝の印です」
「そうか…」
団長は黙って受け取るが浮かない表情だ。それを見るに余計なお世話だった、分隊長の言葉が頭を過る。
「ご迷惑をおかけしてすみません…私は失礼しますね」
「待ってくれ。迷惑など、感じていない」
団長に手首を掴まれて浮かしかけた腰をまた下ろす。
「誕生日だというがどうも素直に喜べなくてな」
「…はい」
団長が言わんとしていることが分かった気がした。
「生を受けてからこの残酷な世界の中で生きていかねばならない…私だけではない。それは皆同じだが」
団長の話に静かに耳を傾ける。
「特に調査兵団の兵士となってからは現実を目の当たりにした。何故自分は生まれてきたのだと、考える事もあった…そして団長となった今は歳と共に罪をも重ねているのだと…だから常に死の覚悟はしている」
紡がれていく言葉に泣きそうになりながら掴む団長の手に自分のを重ねる。彼の言葉に何も応えられずにいると徐に手を持ち上げられた。
手首に唇を寄せ、その柔らかな感触と熱がそこから全身に広がっていく。涙が一気に引き逆に心拍数が上昇。上手く呼吸が出来ないままソファーに縫い付けられたように体が硬直する。
「だが私は…君と出逢った。心臓を捧げることに悔いはないが…出来れば生き伸び君とこの世界の行く末を見たい、君と共に生きたいと思うようになった。生まれてきてよかった、と」
団長の言葉に、驚く。ただただ驚きを隠せない。まさかそんな風に思ってくれているなんて…。引いた涙が再び溢れジャケットを濡らす。
「私も…団長と共に生きて、いきたいです」
ゆっくりと、思いついた言葉を伝えていく。
「団長やみんなと…共に闘ってこれからを生きていきたい。私も人類の勝利の為なら心臓を捧げる覚悟は出来ています。ですが…やはり死にたくはないです。怖いです…でも…自分の目の前で仲間が死んでいくのは、もっと辛い…」
「此処に居れば誰しもが経験する。非情になる事も時には必要だ」
「分かっています。それでも自分は…」
「ああ。助けに行くだろうな。それがいつか身を滅ぼす事になるだろう」
「……っ」
団長のその言葉に胸が苦しくなる。自分はやはり優しすぎるのか、非情にならなければならないのか…ぐるぐると頭の中で渦を巻いていく。
「しかし君は、」
団長の声に我にかえり落とした視線を彼に向ける。
「損害を出さぬように工夫をしていた。その判断が今のところ吉と出ている。初めは危ない新兵がいると聞いてその頃からずっと君を見てきたが」
「えっ?!」
思わぬ発言に驚愕する。新兵の頃から、ということは3年も自分の事を…?
「君を見て確かに危険だと思った。それは皆同意見だが実績を残しているのもまた事実。そんな君を羨ましく思い同時に嫉妬もした」
「団長が私に、ですか?」
「そうだ。リヴァイも言っていたな」
「兵長も?!」
驚きのあまりに声が裏返り団長が小さく笑っている。穴があったら入りたい気分だ。
「もっと君のことが知りたいと思うようになった。遠くからいつも見ていたよ…そして君の、優しい人柄に惚れ込んでしまったようだ」
「?!」
この世界に神様がいるのなら心から感謝したい。団長が自分に惚れ込んだ…?
「君と出逢ってから変わったと言われたよ」
リヴァイには気持ち悪いと言われるがな、と苦笑している団長。
「話が脱線したな。言いたい事は、礼を言うのは私の方だ。君に出逢えてよかった、今の自分があるのも君のおかげだ。ありがとう」
「そんな…」
自分がやってる事は間違いだと思っていた。だが、間違いの中でもどうにかできないかとしてきた事を団長はずっと見てきてくれていたのだ。それが嬉しくて涙が溢れる。
「…すみません」
「構わん。泣きたい時は涙を流すといい」
団長の言葉に涙が溢れて止まらない。すると団長は両手で顔を挟むと涙を舐めとっていく。
「だ、団長?!」
「…ふむ。やはりしょっぱいな」
そう言って流れる涙を舌で少しずつ舐めとる。そんな事をされては出るものも出なくなる。団長は涙が止まっても尚止まらない。
「待っ、だん、ちょ……んっ」
頬や目尻など舐められたがそのまま耳へと滑る彼の舌。
「ふッ……ゃッ、んん」
「やはり香りがいい」
美味しそうだ、なんて言うので心臓が暴れ出す。耳朶を甘噛みしてはちゅるりと舐める彼にどうする事も出来ない。
「プレゼントはありがたくいただくよ。この感じはペンか?」
「…っ!はい…ペン、です…」
耳元で響く低音の声に鼓膜が震える。
「大事に使う」
「…っっ!」
その声に脳が痺れおかしくなりそうだ。このままでは本当に食べられてしまう、でも団長になら、そう覚悟をした矢先のこと。
コンコンコン、
「?!」
「……」
またしても訪問者。まさかと思うがその人物は…。
「団長、モブリットですが。いらっしゃいますか?」
団長は静かに立ち上がると扉に向かった。速まる鼓動を抑え姿勢を正す。
「あれ?また君か。こんな時間まで任務を?」
「いえ…お茶を…」
「!!……団長。申し訳ありません…来る時を間違えたようで…」
「いや。逆に助かったよ」
不思議に思ったがモブリットさんが団長にプレゼントを渡すところを見て自分は部屋に戻る事を告げる。
「団長。本当におめでとうございます。これからもよろしくお願いします」
「ああ。ありがとう」
団長が開けてくれた扉を抜け敬礼する。しかし何故か近づく団長の顔。何かを囁き小さく微笑む彼。目の前で静かに扉が閉まるが、今言われた言葉を頭の中で反芻させると体温が一気に上昇した。本当かどうかは分からないが心の準備をしておこう、おぼつかない足取りで歩き出す。
──『一番のプレゼントは君だ。後で部屋に来てくれ』
その言葉の真意を知るのは二人だけの秘密。
一方、彼女が出た後の団長執務室では。
「団長。本当にすみません…」
「君が謝ることではない。本当に助かった」
「それならよいのですが…」
「はやり君に頼んで正解だった。ここ数日のタイミングは最高だ」
「いえ、自分は団長に頼まれた通りにしただけです」
「そうか。プレゼントありがとう」
「いえ。これからも団長についていきます」
敬礼するモブリットに微笑むエルヴィン。
……数日前。
──『モブリット。君に頼みがある。指定した日時に私の執務室を訪問してくれ』
──『構いませんが…私がですか?』
──『君にしか頼めない』
──『分かりました』
男同士で秘密の約束をしていたことは彼女が知る事は当分ないだろう。
fin
2019.10.14
10月14日
今日はいよいよ団長の誕生日。午後から任務のためいつでも渡せるようにポケットにプレゼントを仕舞い、執務にあたった。だが、こういう時に限って用事もなく、団長に出会わない。姿を見かけてもすぐにどこかへ行ってしまい渡せずにいた。
──これはもう諦めるしかない。
日が沈んで外は夕暮れから夜の闇が訪れようとしていた。仲間の兵達も任務を終えて帰る中、自分はまだ書類の整理をする。腕に抱えた資料を整理したら帰ろう、プレゼントは明日でもいいか、廊下を歩きながら小さく息を漏らせば曲がり角で誰かとぶつかり資料を散らかしてしまう。
「わぁ!ごめんなさい!ボーッとしてしまって…怪我はないですか?!」
資料をかき集めて顔を上げるとそこに居たのは一番会いたかった人物。
「…エルヴィン、団長」
「何やら考え事をしていたようだが」
「大丈夫です!団長、すみません…」
少し俯きがちに敬礼をすれば名前を呼ばれる。
「君はこれから暇か?」
「はい、これを済ませたら今日は終わりです」
「ならば少し茶を飲もう」
団長からお茶に誘われ嬉しい反面緊張もする。だがこんなチャンスは滅多にない。一緒に団長室に入ればお茶が既に用意されていた。不思議に思いながらもソファーに座りお茶を口にする。
「美味しい…」
「そうだな」
「香りもいいですね」
「ああ。これはリヴァイに貰った茶葉だ」
「兵長に?」
兵長からもらった、恐らく誕生祝いだろう。これはチャンスだ、ここぞとばかりにポケットから小袋を取り出して団長へ差し出す。
「ずっとしまっていたので袋がぐちゃぐちゃになってしまいましたが…よかったら受け取って下さい」
「私にか?」
「はい。お誕生日おめでとうございます。それからいつもありがとうございます。感謝の印です」
「そうか…」
団長は黙って受け取るが浮かない表情だ。それを見るに余計なお世話だった、分隊長の言葉が頭を過る。
「ご迷惑をおかけしてすみません…私は失礼しますね」
「待ってくれ。迷惑など、感じていない」
団長に手首を掴まれて浮かしかけた腰をまた下ろす。
「誕生日だというがどうも素直に喜べなくてな」
「…はい」
団長が言わんとしていることが分かった気がした。
「生を受けてからこの残酷な世界の中で生きていかねばならない…私だけではない。それは皆同じだが」
団長の話に静かに耳を傾ける。
「特に調査兵団の兵士となってからは現実を目の当たりにした。何故自分は生まれてきたのだと、考える事もあった…そして団長となった今は歳と共に罪をも重ねているのだと…だから常に死の覚悟はしている」
紡がれていく言葉に泣きそうになりながら掴む団長の手に自分のを重ねる。彼の言葉に何も応えられずにいると徐に手を持ち上げられた。
手首に唇を寄せ、その柔らかな感触と熱がそこから全身に広がっていく。涙が一気に引き逆に心拍数が上昇。上手く呼吸が出来ないままソファーに縫い付けられたように体が硬直する。
「だが私は…君と出逢った。心臓を捧げることに悔いはないが…出来れば生き伸び君とこの世界の行く末を見たい、君と共に生きたいと思うようになった。生まれてきてよかった、と」
団長の言葉に、驚く。ただただ驚きを隠せない。まさかそんな風に思ってくれているなんて…。引いた涙が再び溢れジャケットを濡らす。
「私も…団長と共に生きて、いきたいです」
ゆっくりと、思いついた言葉を伝えていく。
「団長やみんなと…共に闘ってこれからを生きていきたい。私も人類の勝利の為なら心臓を捧げる覚悟は出来ています。ですが…やはり死にたくはないです。怖いです…でも…自分の目の前で仲間が死んでいくのは、もっと辛い…」
「此処に居れば誰しもが経験する。非情になる事も時には必要だ」
「分かっています。それでも自分は…」
「ああ。助けに行くだろうな。それがいつか身を滅ぼす事になるだろう」
「……っ」
団長のその言葉に胸が苦しくなる。自分はやはり優しすぎるのか、非情にならなければならないのか…ぐるぐると頭の中で渦を巻いていく。
「しかし君は、」
団長の声に我にかえり落とした視線を彼に向ける。
「損害を出さぬように工夫をしていた。その判断が今のところ吉と出ている。初めは危ない新兵がいると聞いてその頃からずっと君を見てきたが」
「えっ?!」
思わぬ発言に驚愕する。新兵の頃から、ということは3年も自分の事を…?
「君を見て確かに危険だと思った。それは皆同意見だが実績を残しているのもまた事実。そんな君を羨ましく思い同時に嫉妬もした」
「団長が私に、ですか?」
「そうだ。リヴァイも言っていたな」
「兵長も?!」
驚きのあまりに声が裏返り団長が小さく笑っている。穴があったら入りたい気分だ。
「もっと君のことが知りたいと思うようになった。遠くからいつも見ていたよ…そして君の、優しい人柄に惚れ込んでしまったようだ」
「?!」
この世界に神様がいるのなら心から感謝したい。団長が自分に惚れ込んだ…?
「君と出逢ってから変わったと言われたよ」
リヴァイには気持ち悪いと言われるがな、と苦笑している団長。
「話が脱線したな。言いたい事は、礼を言うのは私の方だ。君に出逢えてよかった、今の自分があるのも君のおかげだ。ありがとう」
「そんな…」
自分がやってる事は間違いだと思っていた。だが、間違いの中でもどうにかできないかとしてきた事を団長はずっと見てきてくれていたのだ。それが嬉しくて涙が溢れる。
「…すみません」
「構わん。泣きたい時は涙を流すといい」
団長の言葉に涙が溢れて止まらない。すると団長は両手で顔を挟むと涙を舐めとっていく。
「だ、団長?!」
「…ふむ。やはりしょっぱいな」
そう言って流れる涙を舌で少しずつ舐めとる。そんな事をされては出るものも出なくなる。団長は涙が止まっても尚止まらない。
「待っ、だん、ちょ……んっ」
頬や目尻など舐められたがそのまま耳へと滑る彼の舌。
「ふッ……ゃッ、んん」
「やはり香りがいい」
美味しそうだ、なんて言うので心臓が暴れ出す。耳朶を甘噛みしてはちゅるりと舐める彼にどうする事も出来ない。
「プレゼントはありがたくいただくよ。この感じはペンか?」
「…っ!はい…ペン、です…」
耳元で響く低音の声に鼓膜が震える。
「大事に使う」
「…っっ!」
その声に脳が痺れおかしくなりそうだ。このままでは本当に食べられてしまう、でも団長になら、そう覚悟をした矢先のこと。
コンコンコン、
「?!」
「……」
またしても訪問者。まさかと思うがその人物は…。
「団長、モブリットですが。いらっしゃいますか?」
団長は静かに立ち上がると扉に向かった。速まる鼓動を抑え姿勢を正す。
「あれ?また君か。こんな時間まで任務を?」
「いえ…お茶を…」
「!!……団長。申し訳ありません…来る時を間違えたようで…」
「いや。逆に助かったよ」
不思議に思ったがモブリットさんが団長にプレゼントを渡すところを見て自分は部屋に戻る事を告げる。
「団長。本当におめでとうございます。これからもよろしくお願いします」
「ああ。ありがとう」
団長が開けてくれた扉を抜け敬礼する。しかし何故か近づく団長の顔。何かを囁き小さく微笑む彼。目の前で静かに扉が閉まるが、今言われた言葉を頭の中で反芻させると体温が一気に上昇した。本当かどうかは分からないが心の準備をしておこう、おぼつかない足取りで歩き出す。
──『一番のプレゼントは君だ。後で部屋に来てくれ』
その言葉の真意を知るのは二人だけの秘密。
一方、彼女が出た後の団長執務室では。
「団長。本当にすみません…」
「君が謝ることではない。本当に助かった」
「それならよいのですが…」
「はやり君に頼んで正解だった。ここ数日のタイミングは最高だ」
「いえ、自分は団長に頼まれた通りにしただけです」
「そうか。プレゼントありがとう」
「いえ。これからも団長についていきます」
敬礼するモブリットに微笑むエルヴィン。
……数日前。
──『モブリット。君に頼みがある。指定した日時に私の執務室を訪問してくれ』
──『構いませんが…私がですか?』
──『君にしか頼めない』
──『分かりました』
男同士で秘密の約束をしていたことは彼女が知る事は当分ないだろう。
fin
2019.10.14
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