君に伝えよう
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5.
ーーやっと話が終わった…
キース団長との話が思ったよりも長引いてしまい彼女の事が気がかりだった。だが、行ったことで収穫はあった。
ーー彼女を自分の隊に入れることが出来る
団長からの呼び出しはその事についてだった。そのため今彼女が所属している隊と自分の隊への説明や段取りを含めた話し合いが思いのほか長くなったのだ。
早く彼女へ伝えたくて僅かに弾む胸を落ち着かせながら自分の執務室へと急ぐ。
部屋に着くと自分の部屋だが一応ノックをする。だが、中から返事はない。どこかへ行ってしまったのかと少し落胆しながら扉を開けるとソファーに寄りかかるようにして居眠りをしている彼女の姿が目に入った。
中に入り扉を閉めるともう一度ソファーに目を向ける。渡していた資料の数枚が床に散らばっており残りは彼女の手元に残っている。それも何かの拍子で落ちてしまいそうなほど危うい。それをそっと彼女の手から抜き取り床にある資料も拾って机に置いた。そして眠っている彼女の隣に座って声をかけてみる。
「ハル?」
自分の声は彼女に届いている様子はなく肩が規則的に上下に動きすぅすぅと寝息が聞こえてくる。今この部屋には二人きりで彼女は眠っている。その寝顔を食い入るように見つめた。気持ち良さげに眠っている彼女に触れたくなったが起こしてはいけないと思い立ち上がると目を通しておこうと思っていた資料を持ちまた彼女の隣に腰かけた。
しばらくその資料を眺めていたが左側に重みを感じて視線を向けると彼女が寄りかかってきていた。不安定なそれを安定させるために彼女との距離を縮めて肩に頭がしっかり乗るように姿勢を整えた。すると彼女は顔を擦り付けてすり寄ってきたではないか。
このまま見ていると邪な気持ちが芽生えてきそうになるため視線を逸らす。だが、もっと彼女を見たい気持ちもありチラリと目を向けると頬に髪の毛が垂れ下がってきていた。
それを指で優しく撫でるように払いのけ彼女の顔がよく見えるようにする。
彼女は自分の肩にもたれかかり寝息を立てて眠っている。それだけだが心が穏やかな気持ちになりこの瞬間が幸せだった。しかし人間欲が出るものでもっと先に進みたい気持ちが頭の中を占めていく。
遠く外からは新兵達の鍛錬する声が微かに聞こえる。それ以外は静かな部屋に彼女の穏やかな寝息と自分の鼓動の音が少しずつ速まるのを体で感じていた。
トクントクントクン…
自分の鼓動を感じながら髪を退けた手を彼女の肩に置き自分の顔を少しずつ近付ける。そしてその小さな唇にそっと重ねた。
髪型を変えた彼女を見た時からずっと落ち着きはなかった。眠っている彼女はとても無防備で愛おしく気持ちを抑えることなど出来なかった。
彼女の唇は柔らかく気持ちがいい。
もっと彼女を感じたかったが一旦唇を離して彼女を見れば薄っすらと瞼が開いていた。起こしてしまったかと一瞬ヒヤリとしたがまた瞼が閉じられ眠ってしまう。
ーー気付いていない
口付けをしたというのに彼女はまた眠ってしまいそれがもどかしく感じた。自分の存在に気付いてほしくてもう一度唇を重ね今度は先程よりも少しだけ強めに口付けをする。下唇を唇で挟みちゅっと優しく吸い上げる。それを数回繰り返したのちに彼女から声が漏れた。
ーー起きたか
どうやら彼女は起きたようで少しだけ顔を離し確認する。彼女は目を見開いて驚いていた。すぐ目の前に彼女の顔があり少しずつ頬を染めて焦っている様子を眺め彼女も視線を逸らさずにただ二人で見つめ合った。
先に動いたのは彼女で距離が近いからか顔を離そうと後ろへ仰け反らせる。しかし既に後ろにはスペースがないためオロオロし始めその様子が普段の彼女からは想像出来ず思わず口元が緩んでしまう。
「そんなに慌てるものか?」
クスリと笑うと彼女は本格的に顔を真っ赤にさせている。
「あ、慌てます!なぜ…その…!」
「これでも分からないのか?」
「どういう……?」
慌てる彼女の手を握りそこへ口付けをした。
「もう隠す必要はないだろう」
彼女を真っ直ぐに見つめる。
「あの時の返事を今ここでする」
あの時?返事?、と混乱している彼女を他所に自分の腕の中に引き寄せた。
ーー今、君に伝えよう…
「先日、菓子をありがとう。それから…その時の返事だが私も君の事を想っているよ」
それって…、と腕の中から声がするが力を込めて抱きしめ話せないようにする。「苦しい…」と掠れた声が聞こえても気持ちをぶつけるように力いっぱいに抱きしめた。今自分の腕の中に彼女がいる。
ーーやっと手に入れる事ができる
「ハル。君が好きだ」
腕の力を緩め体を離すと俯いている彼女。
気持ちを伝えたというのに彼女は何も言わないため顎に手を添えて顔を見ようと持ち上げる。目に涙を溜め困った表情の彼女と目が合いどうしたのかと不思議に思う。
ーーまさかもう自分に気持ちがないという落ちか…
彼女の気持ちを耳にしてから1ヶ月は経っている。たった1ヶ月だが自分の中ではとても長く感じていた。もしかするとその間に自分に対する気持ちが離れてしまったのではないかと悪い方へと思考が向いてしまう。そう考えている内に彼女の瞳からは涙が頬を伝う。その涙を指で静かに拭った。
「今のは本当ですか…?」
「嘘をついてどうする」
「そう、ですよね…でも信じられなくて…」
「冗談にして欲しいのか?」
「そんな!冗談は、嫌です…」
彼女は涙を流しながら笑っている。
「私も返事を…分隊長?」
返事をするというので人差し指を彼女の唇に当て先を言わないようにした。それを不思議そうに見ている彼女。
「君からの気持ちは既に聞いている」
もう隠さずともよいと踏んで真実を伝えることに。
「1ヶ月前のあの時、私は狸寝入りをしていたからな」
そう告げた途端、彼女の顔は真っ赤になり両手で隠してしまった。
「あの時…起きていたのですか?」
「そもそも眠ってなどいない」
「そんな…恥ずかしすぎます…」
何故起きて下さらなかったのですか、と声を震わせながら訴えている。
「起きるタイミングを逃してしまってな…」
すまない、と謝罪をする。
彼女は何も言わず顔を隠したままだ。
そこで彼女へのお返しとして用意したものを渡すことにして席を立つ。引き出しにしまっていた袋を取り出して彼女の元へ戻る。
「これを君に」
そう声をかけると顔から手を外しこちらを見る。
そして袋を彼女に差し出すと遠慮がちに受け取ってくれた。
「これは?」
「先日の菓子のお返しだ。今日はお返しをする日だそうだよ」
「だから特別な日なのね…」
なるほど、と友人が言っていたことに納得したのだろう。
「あの…開けても構いませんか?」
「あぁ」
彼女がどんな反応をするのか見たくて了承した。
カサカサと袋を開けていく彼女の手元を見る。
「これは…」
手に取り出したのは小さな小瓶に入っている液体だ。
「蓋を開けてみてくれ」
そう伝えるとポンッと小さく音を立てて蓋を開け顔に近づけている。その瞬間、彼女の顔が満面の笑みに変わるのを見てこちらも表情が緩む。
「これっ…!凄くいい香りがしますっ!」
「よかった。香りは人の好みで違うだろうからどうかと悩んだ」
「私この香り好きです!」
それもそのはず。コロンが好きなことは聞いたが香りについては彼女の友人に聞いたのだから間違いない。が、それでもやはり自信はなかった。
「早速付けてみてくれないか?」
頷いた彼女はポケットからハンカチを取り出してそこに1滴垂らすと手首と首筋につけている。近くにいても漂ってくるその香り。花の良い香りがして彼女にピッタリだった。
ーー間違ってはなかったな
小さく笑うとその香りを楽しみたくて顔を近づけた。
「わっ。分隊長近いですよ?」
「せっかくだからもっと近くで楽しもうと思ってな」
「で、でも…んっ…鼻が当たってくすぐったいです…」
「そうか。だがまだちゃんと確認は済んでない」
「確認って……待っ、んっ…」
香りを嗅ぐように首筋に顔を埋めて口付けをしていく。
「やっ…ぶん、隊長……」
「エルヴィンだ」
「でも…」
「もう恋人同士じゃないか」
そう言うと反応がないので顔を見てみると真っ赤にしている彼女。
「夢じゃないですよね…」
「夢じゃないな」
「ほっぺたつねって下さい」
彼女の頼みだ。頬を少しつねると顔を歪めて痛みを感じているようだった。
「夢じゃない…」
「夢がよかったのか?」
「まさかそんな…!嬉しくて…幸せです」
ふわりと笑った彼女を見ておでこをくっつけた。
「やっと君に触れることが出来た」
そして鼻先をくっつけて真っ直ぐ見つめる。
「君が欲しくて堪らない」
彼女の手を握りしめる。
「もう遠慮はなしだ」
覚悟してくれ、彼女は赤面したままコクリと頷く。それを確認したのち、もう一度彼女と口付けを交わす。今度は長くゆっくり互いの熱を分け合うように。
2月14日。
お菓子を持って行ったはずなのに眠っている彼に呟いた想い。
それを図らずも聞いてしまった彼。
3月14日の今日。
彼のお返しとともにやっと想いが通じ合う。
ーー君に伝えよう、私の想いを。
ーーーーーー
「これを君に」
「あ?なんだこれは」
「彼女と恋仲になれたのだ。君のおかげでもある」
ほんの気持ちだ、と小袋を彼に差し出す。
それを怪訝そうに眉間に皺を寄せて見ているリヴァイ。
「……」
何も言わない彼。
何かを探るようにじっとその小袋を見つめていたため彼がその袋を受け取るであろう言葉を口にした。
「要らないのか。内地で買ったものだったんだが…貴族御用達の店で人気の茶葉のようだが…」
「もらおう」
彼はそれを聞くとスッと受け取るのを見てクスリと小さく微笑む。
「君の彼女にも礼を伝えてくれると助かる」
「…覚えていたらな」
「今度四人で出かけてみるか」
「なんでてめぇと…反吐が出る」
「ははっ。冗談だ」
彼とこんな話をしたがそれを彼女に話したのかはたまた彼女たちの話でまとまったのかどういう経緯かは知らないが後日四人で街へ出かけることになる。
「チッ…こんなガキみてぇなこと…」
「まぁそう言うな」
「リヴァイー!」
「エルヴィン!」
少し先を行く彼女達に満面の笑顔で名前を呼ばれ「早く!」と手招きをされる。
「まぁ…悪くねぇな」
「そうだな」
彼女達に追いつくと並んで歩き出す。
君に伝えよう
fin.
2019.3.14
ーーやっと話が終わった…
キース団長との話が思ったよりも長引いてしまい彼女の事が気がかりだった。だが、行ったことで収穫はあった。
ーー彼女を自分の隊に入れることが出来る
団長からの呼び出しはその事についてだった。そのため今彼女が所属している隊と自分の隊への説明や段取りを含めた話し合いが思いのほか長くなったのだ。
早く彼女へ伝えたくて僅かに弾む胸を落ち着かせながら自分の執務室へと急ぐ。
部屋に着くと自分の部屋だが一応ノックをする。だが、中から返事はない。どこかへ行ってしまったのかと少し落胆しながら扉を開けるとソファーに寄りかかるようにして居眠りをしている彼女の姿が目に入った。
中に入り扉を閉めるともう一度ソファーに目を向ける。渡していた資料の数枚が床に散らばっており残りは彼女の手元に残っている。それも何かの拍子で落ちてしまいそうなほど危うい。それをそっと彼女の手から抜き取り床にある資料も拾って机に置いた。そして眠っている彼女の隣に座って声をかけてみる。
「ハル?」
自分の声は彼女に届いている様子はなく肩が規則的に上下に動きすぅすぅと寝息が聞こえてくる。今この部屋には二人きりで彼女は眠っている。その寝顔を食い入るように見つめた。気持ち良さげに眠っている彼女に触れたくなったが起こしてはいけないと思い立ち上がると目を通しておこうと思っていた資料を持ちまた彼女の隣に腰かけた。
しばらくその資料を眺めていたが左側に重みを感じて視線を向けると彼女が寄りかかってきていた。不安定なそれを安定させるために彼女との距離を縮めて肩に頭がしっかり乗るように姿勢を整えた。すると彼女は顔を擦り付けてすり寄ってきたではないか。
このまま見ていると邪な気持ちが芽生えてきそうになるため視線を逸らす。だが、もっと彼女を見たい気持ちもありチラリと目を向けると頬に髪の毛が垂れ下がってきていた。
それを指で優しく撫でるように払いのけ彼女の顔がよく見えるようにする。
彼女は自分の肩にもたれかかり寝息を立てて眠っている。それだけだが心が穏やかな気持ちになりこの瞬間が幸せだった。しかし人間欲が出るものでもっと先に進みたい気持ちが頭の中を占めていく。
遠く外からは新兵達の鍛錬する声が微かに聞こえる。それ以外は静かな部屋に彼女の穏やかな寝息と自分の鼓動の音が少しずつ速まるのを体で感じていた。
トクントクントクン…
自分の鼓動を感じながら髪を退けた手を彼女の肩に置き自分の顔を少しずつ近付ける。そしてその小さな唇にそっと重ねた。
髪型を変えた彼女を見た時からずっと落ち着きはなかった。眠っている彼女はとても無防備で愛おしく気持ちを抑えることなど出来なかった。
彼女の唇は柔らかく気持ちがいい。
もっと彼女を感じたかったが一旦唇を離して彼女を見れば薄っすらと瞼が開いていた。起こしてしまったかと一瞬ヒヤリとしたがまた瞼が閉じられ眠ってしまう。
ーー気付いていない
口付けをしたというのに彼女はまた眠ってしまいそれがもどかしく感じた。自分の存在に気付いてほしくてもう一度唇を重ね今度は先程よりも少しだけ強めに口付けをする。下唇を唇で挟みちゅっと優しく吸い上げる。それを数回繰り返したのちに彼女から声が漏れた。
ーー起きたか
どうやら彼女は起きたようで少しだけ顔を離し確認する。彼女は目を見開いて驚いていた。すぐ目の前に彼女の顔があり少しずつ頬を染めて焦っている様子を眺め彼女も視線を逸らさずにただ二人で見つめ合った。
先に動いたのは彼女で距離が近いからか顔を離そうと後ろへ仰け反らせる。しかし既に後ろにはスペースがないためオロオロし始めその様子が普段の彼女からは想像出来ず思わず口元が緩んでしまう。
「そんなに慌てるものか?」
クスリと笑うと彼女は本格的に顔を真っ赤にさせている。
「あ、慌てます!なぜ…その…!」
「これでも分からないのか?」
「どういう……?」
慌てる彼女の手を握りそこへ口付けをした。
「もう隠す必要はないだろう」
彼女を真っ直ぐに見つめる。
「あの時の返事を今ここでする」
あの時?返事?、と混乱している彼女を他所に自分の腕の中に引き寄せた。
ーー今、君に伝えよう…
「先日、菓子をありがとう。それから…その時の返事だが私も君の事を想っているよ」
それって…、と腕の中から声がするが力を込めて抱きしめ話せないようにする。「苦しい…」と掠れた声が聞こえても気持ちをぶつけるように力いっぱいに抱きしめた。今自分の腕の中に彼女がいる。
ーーやっと手に入れる事ができる
「ハル。君が好きだ」
腕の力を緩め体を離すと俯いている彼女。
気持ちを伝えたというのに彼女は何も言わないため顎に手を添えて顔を見ようと持ち上げる。目に涙を溜め困った表情の彼女と目が合いどうしたのかと不思議に思う。
ーーまさかもう自分に気持ちがないという落ちか…
彼女の気持ちを耳にしてから1ヶ月は経っている。たった1ヶ月だが自分の中ではとても長く感じていた。もしかするとその間に自分に対する気持ちが離れてしまったのではないかと悪い方へと思考が向いてしまう。そう考えている内に彼女の瞳からは涙が頬を伝う。その涙を指で静かに拭った。
「今のは本当ですか…?」
「嘘をついてどうする」
「そう、ですよね…でも信じられなくて…」
「冗談にして欲しいのか?」
「そんな!冗談は、嫌です…」
彼女は涙を流しながら笑っている。
「私も返事を…分隊長?」
返事をするというので人差し指を彼女の唇に当て先を言わないようにした。それを不思議そうに見ている彼女。
「君からの気持ちは既に聞いている」
もう隠さずともよいと踏んで真実を伝えることに。
「1ヶ月前のあの時、私は狸寝入りをしていたからな」
そう告げた途端、彼女の顔は真っ赤になり両手で隠してしまった。
「あの時…起きていたのですか?」
「そもそも眠ってなどいない」
「そんな…恥ずかしすぎます…」
何故起きて下さらなかったのですか、と声を震わせながら訴えている。
「起きるタイミングを逃してしまってな…」
すまない、と謝罪をする。
彼女は何も言わず顔を隠したままだ。
そこで彼女へのお返しとして用意したものを渡すことにして席を立つ。引き出しにしまっていた袋を取り出して彼女の元へ戻る。
「これを君に」
そう声をかけると顔から手を外しこちらを見る。
そして袋を彼女に差し出すと遠慮がちに受け取ってくれた。
「これは?」
「先日の菓子のお返しだ。今日はお返しをする日だそうだよ」
「だから特別な日なのね…」
なるほど、と友人が言っていたことに納得したのだろう。
「あの…開けても構いませんか?」
「あぁ」
彼女がどんな反応をするのか見たくて了承した。
カサカサと袋を開けていく彼女の手元を見る。
「これは…」
手に取り出したのは小さな小瓶に入っている液体だ。
「蓋を開けてみてくれ」
そう伝えるとポンッと小さく音を立てて蓋を開け顔に近づけている。その瞬間、彼女の顔が満面の笑みに変わるのを見てこちらも表情が緩む。
「これっ…!凄くいい香りがしますっ!」
「よかった。香りは人の好みで違うだろうからどうかと悩んだ」
「私この香り好きです!」
それもそのはず。コロンが好きなことは聞いたが香りについては彼女の友人に聞いたのだから間違いない。が、それでもやはり自信はなかった。
「早速付けてみてくれないか?」
頷いた彼女はポケットからハンカチを取り出してそこに1滴垂らすと手首と首筋につけている。近くにいても漂ってくるその香り。花の良い香りがして彼女にピッタリだった。
ーー間違ってはなかったな
小さく笑うとその香りを楽しみたくて顔を近づけた。
「わっ。分隊長近いですよ?」
「せっかくだからもっと近くで楽しもうと思ってな」
「で、でも…んっ…鼻が当たってくすぐったいです…」
「そうか。だがまだちゃんと確認は済んでない」
「確認って……待っ、んっ…」
香りを嗅ぐように首筋に顔を埋めて口付けをしていく。
「やっ…ぶん、隊長……」
「エルヴィンだ」
「でも…」
「もう恋人同士じゃないか」
そう言うと反応がないので顔を見てみると真っ赤にしている彼女。
「夢じゃないですよね…」
「夢じゃないな」
「ほっぺたつねって下さい」
彼女の頼みだ。頬を少しつねると顔を歪めて痛みを感じているようだった。
「夢じゃない…」
「夢がよかったのか?」
「まさかそんな…!嬉しくて…幸せです」
ふわりと笑った彼女を見ておでこをくっつけた。
「やっと君に触れることが出来た」
そして鼻先をくっつけて真っ直ぐ見つめる。
「君が欲しくて堪らない」
彼女の手を握りしめる。
「もう遠慮はなしだ」
覚悟してくれ、彼女は赤面したままコクリと頷く。それを確認したのち、もう一度彼女と口付けを交わす。今度は長くゆっくり互いの熱を分け合うように。
2月14日。
お菓子を持って行ったはずなのに眠っている彼に呟いた想い。
それを図らずも聞いてしまった彼。
3月14日の今日。
彼のお返しとともにやっと想いが通じ合う。
ーー君に伝えよう、私の想いを。
ーーーーーー
「これを君に」
「あ?なんだこれは」
「彼女と恋仲になれたのだ。君のおかげでもある」
ほんの気持ちだ、と小袋を彼に差し出す。
それを怪訝そうに眉間に皺を寄せて見ているリヴァイ。
「……」
何も言わない彼。
何かを探るようにじっとその小袋を見つめていたため彼がその袋を受け取るであろう言葉を口にした。
「要らないのか。内地で買ったものだったんだが…貴族御用達の店で人気の茶葉のようだが…」
「もらおう」
彼はそれを聞くとスッと受け取るのを見てクスリと小さく微笑む。
「君の彼女にも礼を伝えてくれると助かる」
「…覚えていたらな」
「今度四人で出かけてみるか」
「なんでてめぇと…反吐が出る」
「ははっ。冗談だ」
彼とこんな話をしたがそれを彼女に話したのかはたまた彼女たちの話でまとまったのかどういう経緯かは知らないが後日四人で街へ出かけることになる。
「チッ…こんなガキみてぇなこと…」
「まぁそう言うな」
「リヴァイー!」
「エルヴィン!」
少し先を行く彼女達に満面の笑顔で名前を呼ばれ「早く!」と手招きをされる。
「まぁ…悪くねぇな」
「そうだな」
彼女達に追いつくと並んで歩き出す。
君に伝えよう
fin.
2019.3.14
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