前途洋洋

「だから、お前ら二人が今ここにあるのは俺のおかげといっても過言じゃない」
 会場が沸いて、新郎も笑う。
 ユキと幸せになりたかった俺が、ユキと自分じゃない奴との幸せを祝う言葉を紡いできたスピーチもそろそろ終わりに近い。
 あの夜、離れていく背中を見ながら、もう友だちですらいられないと覚悟していた。それなのに、今こんなふうに大勢の前で友人代表として話しているのは、顕現させた俺の想いがユキと俺の中だけにしまわれて、二度と触れられることがなかったからだ。
 くるしいばっかりに二人がぶっ壊れることを願ってすらいた過去のせいで、自分でも驚くほど当時の温度や湿度や痛みを感じながら話しつづけた。

「出会いから今日まで、二人をずっとそばで見てきた俺の願いは――」
 笑ったり、目元をおさえたり、あいかわらず双子みたいな主役たちがまっすぐ俺を見る。
「どうか、幸せに。大切な二人にはこの先もずっと幸せでいてほしい。それが、俺の心からの願いです。ケンタ、ユキ、本当におめでとう」
 あの夜、言葉にして伝えかけた俺の気持ちを、腹から取り出して、舌の上で溶かして、言葉にのせた。形を変え、時を超え、こんな愛の言葉にして届けられてよかった。
 想っても、報われなかった。願っても、叶わなかった。望んでも、その形では隣にいられなかった。それでも、ユキ。お前が本当に笑っていられる場所にいられることを誰よりド派手に祝いたい。それほどまでに好きだったんだ。自分でもうんざりして苦笑いするほどな。
    
「ありがとうございました。宇髄様よりお祝いのお気持ちを頂戴しました。お二人への思いが伝わる、すばらしいご祝辞でした。つづきまして――」
 しずまり返っていた会場が、一転して盛大な拍手に包まれる。下げていた頭を上げると、ユキがあふれる涙をそのままにべそをかいている。あわてて涙を拭くケンタも、への字にした口を結んでいる。 
 あいつらガキかって。なんだかもうそんな二人を大切に思う気持ちがあふれて、幸せなれよ、ド派手にな、とマイクを通さずに呼びかけていた。
 今、俺の顔はこの会場で一番幸せそうに笑っているにちがいない。そう思いながら。
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