前途洋洋

「さて、ここからのお時間はご来賓のみなさまよりご祝辞を頂戴したいと存じます。まずは、お二人が出会ったM美術大学のご友人でいらっしゃいます宇髄様、よろしくお願いします」
 さあ、どうぞ前までお越しください、とバラエティ番組さながらのテンションの高い声と共に、周囲の視線が俺に集まる。
 拍手と歓声を浴びながら歩くと、視線の先にある巨大なスクリーンには二人の男と一人の女が顔を寄せ合って笑う写真が大映しになっていた。そして、持ち手に白い花とリボンがつけられたマイクスタンドの前に案内され、一礼する。
 左に視線をやると、一段高いところに座った主役たちと目が合った。グレーのタキシードを着たケンタが片手を小さく上げ、まっ白いドレスに身を包んだユキが顔の横で手を振った。肩先が触れそうな距離で顔を寄せ合い、とにかくうれしそうに笑う姿は双子みたいに見えた。
「ただいまご紹介にあずかりました、新郎新婦の友人の宇髄天元と申します。二人とは――」
 場内を見回すと、携帯やカメラを自分に向ける人たちの顔の上半分は撮影機器で隠されていて、誰もかれもその下から口角を上げて笑う口元をのぞかせていた。
 ここにいる誰にとっても、うれしい日。
 今日という日を祝し、よろこびが満ちあふれる空間。
 開始早々、数あるエピソードでも鉄板のネタに会場が笑いにつつまれた。そして、ゲストより一段高いところに座った二人もそっくりな顔をして笑っている。
 スピーチの依頼を受けてから、マナーや形式を調べた。短すぎても長すぎてもいけなくて、四〇〇字詰め原稿用紙三枚程度が望ましいとか、具体的なエピソードは必須だとか、笑いと感動を盛りこむとなお良しとか、いろいろ書いてあった。ここまでの反応を見るにうまく話せているようだ。
「お前らと一緒にいた、この五年――」
 こいつらと出会ったのは五年前。俺らが十九になる年だ。五年分の思い出も想いも、そんな地味な文字数に集約できるわけない。この会場内で自分だけが異質な気がするのに、俺の口からは祝いの言葉がとめどなく流れ出る。そして、その言葉が脳内にしまってある思い出を否応なしに引っ張り出していた。
 ユキと先に出会ったのは俺だったんだ。
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