ジャミルの友達が姐さんだったら 10
清庭家は審神者を多く排出する一族である。分家筋にあたる一族も、みな神職に関わる職業に就くものが多かった。
しかし、それ以外にも数多くの部門が存在している。マジカメなどのSNSが普及している昨今では、特に力を入れているのがサイバー課である。開国して100年、海外から多くの人々が訪れ、その興味関心が東方の国に向いている。そのためか、一部ではなかなかの盛り上がりを見せているのだ。
しかし、どんな国よりも神との距離が近い国。そうであるからして、万が一にも間違った情報が流れてしまえば、取り返しのつかないことになりかねないのである。故に、巡回は必須。そのためネットの海では、毎日のように情報の訂正と削除が繰り返されているのだ。
「…………あん?」
今日も今日とてネットの海を航海していたサイバー課の一人が、無視出来ない情報を見つけた。その内容を見て、眉間に深い皺が出来る。それを見た近くの席の者達が、わらわらと集まった。
「おい誰か、訴訟を起こせ」
突然落とされた物騒な一言に、少し離れた席の者達も続々と集まってくる。
彼が見ていたのは、一つの個人サイトである。世界各国のおまじないを集めたサイトで、女性人気の高いサイトだった。
なんだなんだと集まった面々が内容を読んで、彼と同じような鬼の形相になる。書かれていたのは、とんでもない邪悪そのものだったのだ。
***
~変身薬要らず! これであなたも成りたい人に!~
とっておきのおまじないをお教えします!
これは東方の国の人からこっそり教えて貰った秘密のおまじないです!
神秘の島と名高い東方の国直伝のおまじない!
信憑性と効果は抜群ですよ♪
その内容がこちら!
↓ ↓ ↓
真夜中の2時15分、鏡を合わせて尋ねるの
「鏡の中の君は誰?」
そしたら鏡が答えるの
「成りたい人を答えてちょうだい」
「私はあなたの成りたいあなた」
夕暮れ時の5時15分、鏡を合わせて尋ねるの
「鏡の中の君は誰?」
そしたら鏡が答えるの
「成りたい人を答えてちょうだい」
「私はあなたの成りたいあなた」
10日置きに、成りたい人から受け取って
美しい涙、綺麗な髪、自慢の指先
それで毎日着飾るの
これを100日繰り返すとあら不思議
あなたはすっかり成りたいあなた
~詳しい解説~
“真夜中の2時15分、鏡を合わせて尋ねるの”の一文から解説していきます。
これは深夜の2時15分に「合わせ鏡」を行ってくださいということです。
この合わせ鏡というのを簡単に説明すると……
鏡で自分の姿を写すと、正面だけが写りますよね?
でも、背中側も見たい!ってなりません?
そんなとき、もう一つの鏡を用意して、二つの鏡で正面と背面を見ることはないですか?
あれを合わせ鏡というんです!
次に“「鏡の中の君は誰?」”
これは普通に鏡の中の自分に対して「あなたは誰ですか?」と尋ねてくださいということです。
次は一気に解説していきます。
“そしたら鏡が答えるの
「成りたい人を答えてちょうだい」
「私はあなたの成りたいあなた」“
これは「あなたは誰ですか?」と尋ねたあとに、変身したい人の名前を告げてくださいという意味です。
「あなたは誰ですか?」と尋ね、「私は○○です」と答えてください。
“10日置きに、成りたい人から受け取って
美しい涙、綺麗な髪、自慢の指先
それで毎日着飾るの“
これは10日置きに、成りたい人から日頃身につけているものを貰ってくださいということです。
そして、それを毎日持ち歩いてください。
物は何でもいいようですが、出来るだけその人が身につけていたものがいいようです。
その方が成功率が上がるのだとか!
もちろん、貰えるなら髪の毛だったりが貰えたらいいんですけど、難しいですからね……(汗)
“これを100日繰り返すとあら不思議
あなたはすっかり成りたいあなた“
これを100日繰り返せば、あなたは成りたい自分になっています!
ここまで解説して思いました。
100日間はちょっと大変そうだと……(汗)
でも、難しい手順はありません!
それに、本当なら禁忌薬とされている変身薬が要らないんです!
それを考えると「これくらいなら……」と思いませんか?
気になった方は是非お試しあれ!
***
内容を見たサイバー課の面々は、みな一様に絶句した。しばしの沈黙の後、一人は天を仰ぎ、一人は目頭を抑え、一人は頭を抱えた。そして次の瞬間、瞬時に自分のデスクに着き、彼らは動き出した。
「今すぐ通報しろ」
「閉鎖に追い込んでやらぁ!!!」
「うちの国を何だと思ってんだ、あ゛ぁん? 東方の国って付ければ閲覧数上がるからか、お゛ぉん???」
「ただでさえやっちゃいけない合わせ鏡に"お前は誰だ"までやっちゃうとか死にたいんか???」
「しかもそれをやる時間〜〜〜! 何で丑三つ時と逢魔が時にやるの、ふざけてんの???」
「どう見てもなりたい自分に成るおまじないじゃなくて、成り代わられるおまじないですねぇ!!!」
「こんなもんテロだろ」
「もしかしてうちの国、ネガキャンとかされてる???」
「あまりにも悪質過ぎ。こんなんやったら悪霊大放出じゃん」
「これは人間の仕業ですか???」
「何? 最近のおばけちゃん達はSNSまで使いこなすの? やめてよ、仕事が爆増するから」
「東方の国の神職って、世界一忙しい仕事だと思っています」
夜中の2時15分。丑三つ時と呼ばれるこの時間帯は、陰の気が最も強いとされている。人為らざるもの達が活発になる時間帯であり、おまじないには向かない時刻であるのだ。それがおまじないではなく、呪いなら別であるが。
そして夕方の5時15分。逢魔が時と呼ばれる時間帯である。魔物に遭遇するとされる時間帯で、こちらもおまじないには不向きな時間だ。
合わせ鏡をやってはいけない理由としては、縁起や風水的に良くないためである。鏡の中に別の鏡が映り込み、異質な空間が作られてしまう。そのため気が滞留し、霊障害や魔が発生してしまうのだ。それの派生として、悪魔の通り道だとか、自分が死んだときの顔が映ると言われている。
そして鏡に向かって「お前は誰だ」と問い掛けることの何がいけないのか。一つはゲシュタルト崩壊によるパニック発作を引き起こしかねないことである。これはその人物の精神状態や思い込みなどが原因であるとも言われている。しかし、まだきちんとした解明はされていない。
一つは、自分の身体を捨てたと見なされる可能性があるということである。悪霊と呼ばれるもの達にとって、生きた人間の身体は宝も同然。自分の身体を自分ではないという発言を繰り返していれば、目を付けられる可能性が高い。
また、自分を自分と認識しないということは、その分、意識と身体が乖離してしまうということだ。その認識のズレが大きければ大きいほど、人は無防備になる。そんなときにゲシュタルト崩壊を起こし、パニックになど陥ってしまえば、身体を狙う奴らの思う壺である。つまりこのおまじないは、身体を明け渡す準備を整える行為に他ならないのだ。成りたい人になど成れるはずもない。成りたい自分に成る前に、自分の身体を奪われてしまうことだろう。
こんなおまじないを遊び半分でやられてはたまらない。サイバー課の面々は即刻記事を削除するために動き出した。