ジャミルの友達が姐さんだったら 3






 時は少し遡る。そのときフロイドは、植物園に居た。


「ねぇねぇ、トド先輩。起きてるんでしょ?」


 フロイドは、植物園の日当たりの良い場所で寝転がるレオナに声を掛けていた。横になるレオナの背後であぐらを掻いて、左右に揺れながら「ねぇねぇ、」と再度声を掛ける。


「どうして東方の国ってところの人間がいるって分かったの?」
「………………」
「何か特徴とかあんの? 鱗があるとかさぁ」
「………………」
「ヒントだけでも良いからさぁ、教えてよ、先輩」
「………………」
「ねぇってばぁ~」
「ああもう、うるせぇな! 知らねぇっつってんだろ! そんなに知りたきゃテメェらで探せ!!」


 がばり、と勢いよく起き上がりながら、レオナは歯を剥き出しにしてうなり声を上げる。
 彼はフロイドの求める答えを知っている。しかし、東方の国とはあまり関わりたくないのだ。かの国と関わった一件が、彼の中でまだ尾を引いていた。
 眉間に皺を寄せ、明らかに不機嫌である表情でフロイドを睨め付けるも、彼は少し肩を落としただけで殆ど響いていないようだった。


「そうするつもりだったんだけどさぁ、何か嫌な予感がするんだよね」
「ああ?」
「何かぁ、ジェイドが山に行くって言うんだけど、調べてみたら他の山より事故死が多いっぽいんだよね」
「………だから何だ」
「その山、東方の国にある立ち入り禁止の山と同じ名前ってことで、結構有名なんだって」


 ―――――これ多分、事故死じゃないよね?
 眉を下げ、とろりと垂れた目尻を更に垂れさせて、フロイドがほんのり不安を滲ませた顔で尋ねる。
 東方の国では立ち入り禁止にされている。それと同じ名前の山。他の山より事故死が目立つ。何とも嫌なことを想起させる言葉の羅列だった。
 チッ、とレオナが鋭く舌を打ち、スマホを取り出す。彼は迷いなく一件の連絡先を呼び出し、すぐに電話をかけ始めた。
 3コール目で電話に出た相手に、レオナは挨拶もそこそこに単刀直入に尋ねた。


「おい、***山って知ってるか」
『―――――』
「チッ、やっぱりそうか……」


 詳しい内容は聞こえなかったものの、電話の相手は山の名前を聞いて驚いているようだった。


『―――――』
「ああ? いや、俺じゃねぇ。オクタヴィネルの奴がその山に登っちまったらしい。一応、東方の国ではなく、近隣の国にある方みてぇだが……。東方の国で立ち入りが禁じられているって事は、何か意味があるんだろ? そんな山と同じ名前の山なんざ、嫌な予感しかしねぇ」
『―――――』
「やっぱりそうなるか………」


 それからしばらく会話を繰り広げ、ようやく通話が終了する。気になりつつも大人しく待っていたフロイドは、レオナが不満そうな顔でこちらを見てくるのを、何か解決策が見つかったのだと、期待を乗せた瞳で見つめ返した。


「今から来るのは、東方の国の神職に就いてる奴に伝手がある奴だ。お前から話を聞いて、そいつの判断で渡りを付けることになる。天秤に乗ってるのはテメェの兄弟の命だ。それを考えてものを言え」


 後はテメェで交渉しろ。そう言って、レオナは再び地面に寝転がった。
 やっぱり知ってるんじゃんとか、命が掛かっているとはどういうことだとか、言いたいことは多々あった。けれど、野生の本能と言うべき部分が、ジェイドの危機を察知してしまっている。彼の言うとおりにしなければ、自分は半身を失ってしまうのだと、漠然とした予感が確かにあった。だからフロイドは、彼の言うとおりに大人しく座り込んだ。





 そうして、やってきた相手に、フロイドは心底驚いた。相手は、同じバスケ部に所属するジャミル・バイパーであった。
 灯台下暗し。そんな陸の言葉がフロイドの脳内に過ぎった。




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