ジャミルの友達が姐さんだったら 17






 事は滞りなく進められた。イタコのヨヒラが異界の主を降ろし、神主の空蝉が器となり、審神者のツバキが声を聞く。その声に沿い、紡ぎ屋一族の紬兄妹が新しい住処を整えていく。その間の護衛は祓い屋の美晴が行い、危険から遠ざけられていた。
 その他の雑務はジャミルが請け負ってくれた。水分補給のための飲み物や、作業の合間に栄養を補給するための食事の準備。資材の手配や、その他諸々。それらを用意するための資金を提供してくれたのはカリムだ。それらは後でまとめて、必要経費としてナイトレイブンカレッジに請求するものである。使用した分のみを請求するようクロウリーに申しつけられていたので、これ幸いとアジーム家の資産を使用して、良いものを使わせていただいた。後で泡を吹くことになっても、ツバキ達には与り知らないところである。
 作業はその道のエキスパート達が集まったこともあり、あっと言う間に進められ、三日ほどで終了することとなった。ナイトレイブンカレッジと接合した部分を切り離し、大きくなりすぎた異界を圧縮。それを異界の主の気に入った場所に運び込み、主の望む形に整える。そうして出来上がった主だけの社は、なかなかに見事な出来栄えだった。とは言うものの、異界に住まうもの達と現世に住まうものでは感性が異なるため、詳しい言及は避けて然るべきだろう。ただ、思わず言葉を失ってしまうような住まいであった。


「終わった~~~!!!」
「お疲れさんでした~」


 その場に寝転んだヨヒラを、美晴が間の抜けた声で労う。ヨヒラの隣に跪いた空蝉が、「お召し物が汚れてしまいますよ」とヨヒラを窘めながら苦笑した。
 ツバキが手を差し出し、ヨヒラがその手を握る。その手を引いて、ヨヒラの身を起こした。ひょい、と軽い動作でヨヒラが立ち上がる。パッと表情を綻ばせ、満面の笑みを浮かべる。


「ねぇねぇ、このまま解散なんてさみしいことしないでしょ? 打ち上げしよ、打ち上げ!」


 遠い異国の地まで呼び寄せておいて、仕事が終わったら即解散、なんて事はしない。そこまで薄情ではないし、形だけでも労いは見せておかねばならないのだ。それが体裁を整えただけのものであっても。
 もちろん、ツバキもこのまま解散するつもりはなかった。彼等は気の置けない同業者であり、積もる話もある。店も既に抑えており、ヨヒラの提案に笑って頷く。


「賢者の島でおすすめのレストランを予約してあります。18時からの予定です」
「やったぁ! 椿ちゃんのおすすめなら絶対大当たりじゃん! 楽しみ~」
「18時まで、まだ時間がありますね。僕は少々疲れてしまったので、それまでホテルで身体を休ませていますね」


 空蝉の言葉を皮切りに、それぞれが己の希望を述べていく。美晴は空蝉と同じく休息を望み、ヨヒラは観光を希望した。紬兄妹は食べ盛りの妹達が食事を所望し、結局は夕食まで自由に過ごすという形で落ち着いた。各自が思い思いの現場に向かうのを見送って、椿はジャミル達を振り返る。さて、自分たちはどうしようか、と声をかけようとして、ふと思い出す。そう言えば、まだヴィルにお礼を貰っていないな、と。


「ツバキ~。オレ達はどうする? どっか遊びに行くか?」
「それも良いんだが、実は少し寄りたいところがあって……」
「寄りたいところ?」
「ああ。実は、ヴィル・シェーンハイトに用があって」
「ヴィル先輩に?」
「ああ」


 ツバキの言葉に、カリムとジャミルが目を丸くする。ヴィルとツバキの接点など、何も思い付かなかったからだ。けれど、思い当たる節のあったジャミルがあっと声を上げた。


「そういえば、ヴィル先輩が体調を崩して休んでいるという噂が流れていたな……。もしかして、それと関係があるのか?」
「そうだ。実は彼も、ナイトレイブンカレッジと接合してしまった異界に迷い込んでしまった一人でな。見回りの際に発見し、保護したんだ。折角だからお見舞いに行こうかと」
「………今回、ナイトレイブンカレッジに生成された異界のランクは?」
「A+だな。ヴィル・シェーンハイトの瘴気耐性はAランク相当だから、ギリギリ持ちこたえていたよ」


 Aランク相当の瘴気耐性を持つ者は、魔法士でも少ない。魔力を持たない一般人ならば、まず持ち得ない耐性だ。神職など、その道の専門家になるための最低ランクに位置づけられているレベル帯だった。
 ヴィル・シェーンハイトはおそらく、次の寮長に選ばれる。ポムフィオーレは毒薬生成の腕で寮長が選ばれるという。彼には毒の作り手として、そう目されるだけの実力があった。その上、瘴気耐性まで備えているなんて。やはり只者ではない、とジャミルが内心で舌を巻く。


「なら、みんなでお見舞いに行こうぜ! 確か、異界に迷い込んで体調を崩した奴は、島の一番大きな病院に移されてるって話だからな!」


 オレのクラスメイトも入院してるんだ、とカリムが僅かに眉を下げた。
 賢者の島には、いくつか大きな病院がある。しかし、元々規模の小さい島なので、入院病棟が設けられている病院は少ないのだ。中でも一番大きな病院はナイトレイブンカレッジの麓近くにあり、今回の一件で出た体調不良者達は、みんなそこに集められていた。


「なら、何かお見舞い品を購入してから病院に行くか。流石に、君と繫がりがあることを明かすことは出来ないから、病院内では別行動になるが……」
「いいのか?」
「構わない。カリムのクラスメイトの実家がアジーム家の良い商売相手になりそうでな。今のうちに粉をかけておいて損はないだろう?」


 ニッと口角を上げたジャミルにカリムは不思議そうに首を傾げ、ツバキが小さく苦笑した。
 誰も異論は無い。ならば行くか、と予定を決めて、ツバキ達はお見舞い品を見繕うために商店街に足を向けた。




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