ジャミルの友達が姐さんだったら 15.5
ツバキの様子が可笑しかった日から、数日が経った。ツバキの様子はすっかり以前のように戻り、何事もなかったかのようにナイトレイブンカレッジに入り浸っている。そのことにほっとしつつ、けれど同時に流れた不穏な噂にジャミルは眉を顰めた。―――――ロイヤルソードアカデミーの一年生が一人、行方知れずの身となった。これが最近、ナイトレイブンカレッジを賑わせている噂である。
やれ誘拐されただの、やれ恋人と駆け落ちしただの、根も葉もない荒唐無稽な話題があちらこちらで広がっている。数日と立たないうちに、もとの噂の原形すら留めない有様だった。対岸の火事、それも憎きライバル校のことであるから、ナイトレイブンカレッジの生徒達は無責任に囃し立てている。それに顔を顰めるものも居るけれど、真偽の程は定かではない。あくまで噂話として楽しんでいるのだ。
けれど、ロイヤルソードアカデミーに在籍する身内を持つジャミルとしては、他人事では済ませられない。更に言うなら、自分達も被害に遭いかねないのだ。何故ならツバキの様子が可笑しかった日、彼女は言葉の端々に不穏な空気を漂わせていた。故に、ジャミルだけが、事の次第を察していた。ロイヤルソードアカデミーの生徒は、人為らざるものに拐かされたのだ、と。そうなることを予見していたから、彼女は葬式云々の話をしていたのだ、と。
「……そう言えば、例の葬式の話はどうなったんだ?」
寝落ちたカリムの隣でマンカラに興じながら、ジャミルが尋ねた。寝ているかリムを起こさないために潜められた声は、囁くような微かなものだった。美しい石に指を掛けたツバキが、一瞬ジャミルの顔を見やる。けれどすぐに視線を落とし、指先で石を弾いた。
「まだ執り行われていないよ。身体が見つからないからな」
現在は捜索中だと、ツバキは淡々と告げる。ジャミルがツバキの顔色を窺ったが、その顔は平時のものと変わらない。心を痛めていないことに安堵して、ジャミルが石を手に取った。
「…………神隠しか?」
「いいや、拐かされたのは事実だろうが、神ではない。
捜索に加わっても良いのだけれど、と独り言のように呟いたツバキは、でもなぁ、と気だるげに首を傾げる。
―――――縁を切ってしまったから、探すのに苦労しそうなんだよなぁ……。
その言葉に、ジャミルの動きが一瞬止まった。
「ジャミル?」
「……いや、何でもない。そいつのことは放っておけ。むしろ、そいつを探しに行こうとする者が二次被害に遭う方が拙いんじゃないか?」
「ああ、そうだな。そちらの対処をしないと……」
「そもそも、関わらない方が良いだろう。君のことだから、やれるだけのことをやったんだろう? なら、十分に義務は果たしている。自業自得で居なくなった奴のことなんて捨て置け」
「……それもそうだな」
あっさりと見切りを付けたツバキに、ジャミルは悟った。その相手に対する感情すらも、ツバキは斬り捨てたのだ、と。そいつは一体何をしたのだか、と呆れ果てる。そんな風に、ツバキが誰かを見捨てるなんてよほどのことだ。まさか、化け物とオトモダチになりたいとでも言ったのだろうか。まさかな、とジャミルが内心で苦笑する。人の理を理解しないもの達と分かり合うことの難しさを身を持って知っている彼は、そんな思考をした自分に呆れてしまった。思ったより疲れているのかもしれないと考えたジャミルは早々にゲームを終わらせて、もう一回を強請るツバキをあしらい、マンカラを片付けるのだった。