ジャミルの友達が姐さんだったら 15






 スカラビア寮の窓から見える夜空は、満天の星で満たされていた。萌葱の腹に背中を預け、ツバキは星を見つめていた。
 課題を終えたジャミルが、パタリと教科書を閉じる。椅子から立ち上がってツバキの隣に腰を下ろすと、萌葱が尻尾を絡ませてくる。くすぐってくる尻尾をやわく握り込み、反対の手で腹の毛を撫でた。クルクルと、萌葱の喉が鳴った。


「学生が葬式に出るときって、制服だよな?」
「一般家庭ならそうだろうな。お前の家は格式が高いから、きちんとしたものを着るんだろう?」
「実家関連の葬式ならな。でも、今回は学校関連だから、どちらを着るべきかなぁ、と」


 ようやく口を開いたかと思えば、とジャミルが呆れを滲ませた顔でぼんやりと空を眺めるツバキに目を向けた。葬式なんて、ツバキは嫌というほど出ているだろうに。それこそ、いちいち葬式なんて上げていられないし、出席していられないくらいに。
 彼女がアカデミーに入学してから、一体幾人が亡くなっただろう。何人が死亡判定を受け、遺骨すらない葬式が執り行われたことだろう。だが、ツバキは、その全てを欠席している。喪主を務める側も、神職に理解がある者達ばかりだ。わざわざ大勢の人を呼んで、盛大に見送ったりはしない。全てに出席していてはキリがないことも、そんな暇がないことも、彼等は重々承知している。


「………ところで、そっちの学園で死人でも出たのか? それとも、これから葬式を上げることを予見したのか?」
「まだ……。ただ、このままだとそうなるだろうな、と……」


 受け答えこそしっかりしているものの、彼女はどこか上の空だった。これは、良くないことが起こる前兆だ。長くツバキの隣にいたジャミルだから、それをはっきりと感じ取れた。このままだと死ぬことになるのは、彼女が葬式に出席しても良いと思える程度には情のある相手なのだ。知人というには近く、友人と言うには一歩及ばない。そんな曖昧で、けれど捨て置くには気が引けるような相手なのだろう。
 けれど、それだけではない気がした。それだけの情があるのなら、ツバキは蜘蛛の糸ほどの救いを垂らすくらいのことはするだろう。それすらしないということは、ツバキは相手を見限ってしまったのだ。自分の手には負えないと、諦めてしまったのだ。そんな自分に、彼女は嫌悪のような絶望を覚えている。
 それでいいのに、とジャミルは肩を竦めた。だって、そうしなければキリがない。全てを救うなんて偉業は、人の身では不可能なのだから。だから、取捨選択をしなければならない。そうしなければ、ツバキの方が潰れてしまうのだから。


「ロイヤルソードアカデミーの制服って、喪服にならなそうだよなぁ……」
「まぁ、葬式と言えば、黒が一般的だからな」
「あの白い制服で葬式に出るのは気が引けるし、用意しておかないとなぁ……」


 心ここにあらず。そんな様相のツバキに、どうしたものかな、とジャミルが嘆息した。


「…………そっちで何があった?」
「ああ、うん……。いつもの綺麗事だよ。この世界に存在するものは、すべからくトモダチになれるんだとさ」
「うわ……」


 ジャミルの口から、心の底から嫌悪するような声が漏れた。盛大に引きつった顔をチラリと視界の端に捉えたツバキが微苦笑する。
 気持ちは分からなくもない、というのがツバキの心情だ。思想が違い過ぎる相手と直面すると、どうやって処理して良いのか分からなくなるものだ。理解しようと試みて、けれど上手く受け止めきれない。でも、突っぱねるのも違う気がして、別のアプローチで情報を落とし込もうとして、やっぱり失敗する。そうやって努力して、その結果は理解不能というどうしようもない答え。別の惑星の未知の生き物を見つけてしまったような、奇妙な感覚。けれど、そこにドキドキやわくわくは存在せず、ただただ悍ましいの一言に尽きる。同じ星の同じ言語を話しているのに、まるで意思疎通が出来ないのだ。それは下手な怪異なんかよりも性質タチが悪く、凄まじい嫌悪感に襲われる。ツバキのかつてのクラスメイトは、彼女にとってそういう存在になってしまったのだ。


「…………ま、もういいさ。見切りは、付けたから」


 もう、どうでも良かった。だって、いくら言葉を届けても、心を配っても、彼はそれを受け取らなかったのだ。
 彼にツバキの言葉は届かなかった。彼の心を揺らすことが出来なかった。それが事実。それが全てだ。だから、もうどうでもいい。どうにでもなってしまえばいいのだ。




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