ジャミルの友達が姐さんだったら 14
何か、夢を見ていた気がする。柔らかな布団の中で目を覚ましたジャミルは、まだ完全に夢から覚めきらない状態で、ゆっくりと目を瞬かせた。消毒液と、薬品の匂い。その中に混じる井草の香り。ナイトレイブンカレッジではないことがわかり、ジャミルは周囲に視線を巡らせた。障子に襖、桐の箪笥。施された結界と、様々な術式。そこに巡る魔力には覚えがあった。ああ、清庭の家か、と納得したジャミルはほっと息をつく。ここなら安全だと、彼は身をもって知っているのだ。
ふと、襖の向こうに、人の気配がした。様子を見に来たのだろうか、と身を起こそうとするが、身体に力が入らない。何があったんだっけ、と普段よりも随分とゆっくりとした思考の中で、眠りに落ちる前のことを思い出す。けれど、身体は休息を欲していて、思考しようにも頭が働かない。
すら、と襖が開いて、音を立てないように人が入ってくる。誰かな、と視線を向けると、丁度相手と目が合った。
「ああ、ジャミルくん。目を覚ましましたね」
「おばさん……?」
相手はツバキの母―――――清庭家当代当主である
「声が掠れていますね。お水を用意してあるから、飲みましょう」
背中に手を差し込まれ、身を起こされる。その優しい手に甘えながら、コップに注がれた水を飲む。喉が渇いていたのか、冷たい水が酷く美味しかった。
ボタンの手を借りながら、もう一度布団に横たわる。布団を掛けて貰い、乱れた髪を梳かれる。そのまま眠りに落ちてしまいたかったが、忙しいはずの人が、何故自分を看病しているのだろう、と疑問が浮かぶ。重い瞼を何とか持ち上げて、ボタンを見上げた。
「おれ、なんで……?」
「詳しい話は次に目を覚ましたときにしましょう。今はゆっくり休んでくださいね」
「ん……」
「おやすみなさい、ジャミルくん」
「おやすみ、なさい……」
もう少し粘っても良かったが、ツバキ同様に頑固なボタンが教えてくれるはずもない。そのことをよく心得ているジャミルはあっさりと追求を諦めて、身体が求めるままに眠りの世界に落ちていった。
ジャミルが眠りに落ちるのをしっかりと見届けて、ボタンがもう一度ジャミルの髪を撫でる。
愛する娘の、一番の友達。大切な親友。ツバキが年相応に、子供らしく振る舞える、唯一の場所。そうであるから、ボタンにとっても、ジャミルは特別な子供だった。大切な子供だった。
そんな子が傷付けられて許せないのは、彼女も同じだった。目が覚めて、どんなに安心したことか。
「椿様にご報告致しますか?」
「ええ、お願い。あの子のことだから、心配で夜も眠れていないでしょうから」
「かしこまりました」
廊下に控えていた部下達に指示を出し、ボタンはジャミルの頬を撫でる。早く傷が癒えることを祈りながら。
「早く良くなってくださいね、ジャミルくん。椿も、カリムくんも。私も、とても心配しているのですからね……」
ツバキも、カリムも、きっと寂しがっているだろう。彼等は存外寂しがり屋で、一人では生きていけない子供達だから。
今にも泣きそうな顔で寄り添っている二人を容易に想像できてしまって、ボタンは固く目を閉じた。