ジャミルの友達が姐さんだったら 11






 ジャミルはカリムに送られてくる贈り物の選別をしていた。彼への贈り物は基本的に実家であるアジーム家に送られてくる。アジーム家ほどの家ともなると、彼等に取り入って甘い蜜を啜りたいと考える不届き者や、商売敵による嫌がらせが混じっていることも多い。そのため、一旦使用人達で中身を選別し、問題なしと判断されたものだけがアジーム家の人間の手に渡るのだ。
 それはアジーム家だけではない。ある程度名の知れた家だったり、資産家や名家と呼ばれるような家柄ならば、それが当然のこと。故に個人宛に直接送るのは暗黙の了解で禁止されている行為である。しかし、稀に個人カリム宛てに直接送ってくるようなものが居るのだ。その暗黙の了解を破る無作法者からの荷物の選別は、当然ながら従者たるジャミルの仕事だった。


「全く……。どうしてどいつもこいつも俺の仕事を増やすんだ……」


 深いため息をつきながら、ジャミルがマジカルペンを取り出す。以前は厚手の手袋などはしていたものの、手に持って直接確認を行っていたのだが、ツバキの話を聞いてからは、どうしても気が抜けなくなってしまったのだ。
 ツバキもツバキで、地位が約束されている立場だ。それを妬ましく思う人間も居る。その上、彼女は“歴代最高“と称される審神者だ。その評判はすでに広がっている。同業他社からすれば、厄介この上ない商売敵だ。今のうちに排除したいと考えるものも居るだろう。彼女も彼女で、命を狙われる立場であった。
 「箱に触れた途端、毒針や毒の塗られた鉤爪が飛び出してきたことがある」とあっけらかんと笑うツバキの顔を思い出し、ジャミルは背筋が寒くなる思いだった。その話を聞いて以来、ジャミルは不用意に贈り物に触れられなくなってしまっていた。アジーム家を守る者達を狙って、意図的に仕組まれることだって無いとは限らないのだから。
 しかし、どうして東方の国の人間は、そんな恐ろしい方法を思い付くのだろう。あまりに巧妙で、その上で殺意が高すぎる。絶対に殺してやるという強い意志を感じる罠だ。もう十数年はかの国に関わっているというのに、何年経っても新鮮な驚きに見舞われる。良い意味でも、悪い意味でも。


(親切ないい人も多いし、決して悪い国ではないんだけどなぁ……)


 神々に苦労を掛けられても、厄介な悪霊に迷惑を掛けられても、ジャミルは東方の国に対して、悪い印象は持っていないのだ。何なら永住しても構わない程度には気に入っている。ただ、敵に対する報復が恐ろしすぎて、二の足を踏んでしまうのも確かだった。
 ツバキがマシに思えるのはバグだよな、と失礼なことを考えながら、荷物の選別を進める。半分ほどの検分は終わったが、その大半がアジーム家に送って、然るべき対処をして貰わなければならない品々だった。


「ん……?」


 検品をしていてジャミルが首を傾げたのは、一通のメッセージカードだった。魔法で引き寄せて確認してみても、差出人などの記述はなく、カリムへの感謝が綴られていた。
 ああ、いつものか、とジャミルが肩を竦める。カリムは誰かが困っていたら真っ先に駆け寄って手を差し伸べるようなお人好しなのだ。このカードの差出人も、きっとそうしてカリムに助けられた相手なのだろう。差出人の記述がないことは気掛かりだったが、呪いや魔法の類いは感じられない。無害と判定した贈り物の一つに紛れ込ませた。そして次の品の検品に移り、ジャミルは顔を引きつらせた。かの国からの贈り物だったからである。


「しかも俺宛てじゃないか……」


 カリムへの贈り物に紛れ込んで、ジャミル宛ての品々が届くこともあった。彼宛てに送られてくるのは、カリムのついでに送られてきたものだったり、カリム暗殺に邪魔だと判断した刺客からの劇物が殆どだ。中にはきちんとした贈り物もあるけれど、どうしてもそういった億劫な品物が多かった。けれど、その中でも最上位に分類されるのが東方の国からの贈り物だった。
 東方の国からの贈り物は、大きく分けて三種類に分類される。
 一つは親友であるツバキの実家―――――清庭家からである。清庭家は古く続く家柄だけあって、季節の行事や伝統を重んじる。そのため時候の挨拶として何かしらを送ってくるのだ。これはジャミルが幼い頃からの習慣で、ジャミルからも季節ごとにお返しをしているものである。季節の食べ物だったり、貴重な資料だったり、ジャミルが貰って嬉しいものを送ってくれるので、届くのを楽しみにしていたりする。残念ながら、今回は違っていたけれど。
 ちなみに、ツバキを至上とする者達からの贈り物も、これに分類されている。彼女を愛する者達は、“ツバキの愛するものごと愛してこそ、ツバキを真に愛するものである”という理念で動いているので、ジャミルも大切に扱われているのだ。そのため、彼等もジャミルが喜ぶような品々を贈ってくれるのだ。こちらも嬉しい贈り物である。だが、今回の贈り物はこの類いではない。
 次は神々のお気に入りであるジャミルへ取り入ろうとする神職関係者。神々のお気に入りという肩書きは、東方の国の神職関係者には大変有効なステータスなのだ。それがあるのとないのとでは、扱いが随分と変わってくるのである。それだけ価値のあるジャミルを抱き込みたいと考える者は多く、高価な品々で懐柔しようとしたり、何かしらの術式を仕込んで意のままに操ろうとしたり……。兎にも角にも、うんざりするような思惑を染み込ませた呪いのような品々が送られてくるのである。
 最後はジャミル本人、あるいはジャミルを通してツバキを害したいと考える不届き者である。普通の荷物に見せかけた呪具だったり、呪詛が封じられていたり、殺意に殺意を塗り重ねたようなものを送ってくるのだ。今回はこの類いのものだった。


「これは……呪い、か?」


 瞳に魔力を集中させて、贈り物に掛けられた術式を読み解いていく。箱を開けることをトリガーに、呪いが広がる仕組みのようだった。どのような呪いかは分からない。ただ、込められた呪詛は本物だ。自分の手に負えるものではないことは確かだった。


「…………呪詛返しの依頼出すか……」


 呪詛返しは清庭家の範疇ではない。呪いの専門家―――――呪術師に依頼を出さなければならない。
 しかし、呪いの種類によっては祓い屋の管轄になってくる。妖などを用いて呪いを振りまくつもりならば、その大元である妖を退治しなければならないからだ。


「…………どうしてもツバキを介さなければならないのがネックだよなぁ」


 今度何か贈ろう、とツバキの好きそうなものをピックアップしながら、メッセージアプリを開いた。




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