ジャミルの友達が姐さんだったら 10.5






 ボヌール・デスタンの自殺による影響は、やはり彼の所属寮であるポムフィオーレが一番大きいものだった。ボヌールと仲の良かったもの達は体調を崩し、同室の生徒達は不眠症を抱えることとなった。
 学園全体も、浮き足立っている。学生である彼等に、人の死というのは縁遠い事態なのだ。何かしら、思うところがあるのだ。
 また、彼の自殺の原因についても、様々な憶測が流れた。ヴィル・シェーンハイトの熱狂的なファンであったことや、ボヌールの様子が一変したのがルークがポムフィオーレに転寮してきた時期と重なっていたことから、彼等を怪しむ者も少なからず居た。追っかけが嫌になったヴィルに振られてショックを受けて死を選んだだとか、ヴィルとルークが出来ていると勘違いして自殺しただとか。
 けれど、そんな噂はすぐに収まった。怪しげなサイトの怪しげな魔法を試して、精神を病んだという噂が流れたからだ。同室の生徒が発見した彼の日記に、その経過が記述されていたという。口さがない噂を口にしていた彼等の興味は、“どんなサイトのどんな魔法で人が狂ったのか”に移っていった。


「まったく……。嫌になるわ」


 散々振り回されたヴィルは、それはそれは深いため息をついた。彼の顔色は、常とは比べものにならないほどに悪い。ボヌールが自身のファンであり、自分を慕ってくれていたことを、彼が一番よく分かっていたからだ。そんなボヌールの死は、ヴィルの心に暗い影を落とした。


「確かにアタシの職業上、娯楽として消費されるのは納得しているわ。そういう仕事だもの。けど、根も葉もない噂で消費されるのはまっぴらよ」


 強気な口調で吐き捨てる。少々語気が強くなるのは、致し方ないことだった。
 モデルとして人々の目を楽しませ、俳優として視聴者に夢と希望を与える。彼の仕事は、人々の心を満たす娯楽となることだ。故に、彼は自身が“消費されるもの”であることを理解している。
 けれど、彼とて人間である。学生であり、大人に庇護される側の人間である。理解は出来ても飲み込めないものがたくさんあって、理不尽に流されたくないと反発する心を持っている。だから、事実無根の噂を流されて、彼は大変ご立腹であり、同時に酷く傷付いてもいたのだ。自身の身の潔白は自分が一番よく分かっていたし、ボヌールが真に自分を慕っていたことを知っているから。


「あんたも散々だったわね」
「いや、私は………」


 ヴィルが、少し後ろに控えるように立っていたルークを振り返る。ルークは、静かに首を振った。
 彼はヴィルと違って、ボヌール・デスタンという男をよく知らない。それ故に、彼が何を思って危ないものに手を出したのか分からないのだ。自分を狙っていた理由も同様に。


「ボヌールは元々、どこか浮世離れしていたというか、夢見がちだったように思うわ。そんな子が、良くないものに惑わされてしまった……」


 やるせないものを抱えながら、ヴィルが目を伏せる。長い睫毛が、白い頬に影を落とした。それはヴィルのどうしようもない心の内を表しているようで、ルークは胸を締め付けられる。
 けれど、次に目を開けたとき、ヴィルの瞳はいつもと同じように輝いていた。


「アタシ達も気を付けなきゃね。今は情報化社会。世界中の情報がタブレット一つで検索できる。真実を見抜く目を鍛えないと」
「ああ、そうだね」


 打って変わって明るい声を出したヴィルに、ルークも微笑む。ヴィルは本当に強い男だと、美しい生き物であると、改めて理解しながら。




3/5ページ
スキ