ジャミルの友達が姐さんだったら 10


「ああ、どうしよう……! もうすぐ10日が経ってしまう……!」


 ボヌール・デスタンは爪を噛みながら、自室の中を彷徨いていた。カツカツと、ヒールが高い音を立てる。そんな自分の足音すらも煩わしい。
 ボヌールは、とあるおまじないをしていた。成りたい人に成れるおまじないだ。そのおまじないは一日に二度、合わせ鏡の前で鏡の中の自分に向かって「あなたは誰ですか?」と尋ね、10日置きに、“成りたい”と願う人の持ち物を貰う。これを100日間繰り返すのだ。そうすれば、変身薬などを使わなくても、成りたい人に成れるという。そんなおまじないを続けて、そろそろ一ヶ月が過ぎようとしている頃だった。“成りたい“と願った相手に、この行動がバレてしまったのだ。相手は、髪の一本すら落とさなくなった。


「何か、何か手はないものか………」


 ヒントを得ようにも、肝心のサイトはいつの間にか閉鎖されてしまっていた。自分の記憶を頼りにするしかない状況だ。幸いにも、ボヌールは記憶力は悪くないと自負している。深呼吸して、心を落ち着けて、サイトの内容を思い返す。失敗しないように、何度も何度も繰り返し読んでいたのだ。そう簡単に忘れるものではない。


「………………あ……」


 “10日置きに、成りたい人から受け取って
 美しい涙、綺麗な髪、自慢の指先
 それで毎日着飾るの“

 サイトの一説が、脳裏に浮かぶ。


「そうだ……。別に、“もの”でなくてもいいんだ……」


 そう呟いて、ボヌールは視線を彷徨わせる。そして目に付いたものに、彼は笑った。彼が所属する美術部で使用しているナイフである。
 とても正気とは思えない顔でナイフを持ち、ボヌールは寮を抜け出した。


「ああ、ヴィル様・・・・……! すぐにあなたに相応しい姿になりますから……!」




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