ジャミルの友達が姐さんだったら 10
ルーク・ハントは最近、自分の周囲で怪しい動きを見せる人物がいることに気が付いた。特に危害を加える素振りは見せないが、自身を嗅ぎ回るような行動に不快感を覚えていた。
次に感じたのは、持ち物に対する違和感である。例えばハンカチ。見た目に変化はない。けれど手に取ったときの感覚がいつもと違うのだ。
もしや、すり替えられたのだろうか。しかし、何のために、とルークは首をかしげる。
これで自分が世界的に有名なモデルだったり、好感度ナンバーワン俳優であったならば理解出来る。彼らが使う物と同じブランドを使いたい。彼らが使ったものを手にしたい。そういった考えを持つ者達がいることを、ルークはよく知っている。
しかし、ルークは一般人である。逸般人と書く方がしっくり来ようとも、彼らのような知名度はない。自分の持ち物を手にしたところで、何のステータスにもなりはしないのだ。そのことから、ルークの私物をすり替えた人間は、何か別の意図を持っていることが窺えた。
単純な嫌がらせではないだろう。嫌がらせならば、嫌がらせが行われていることを気付かせないように工作する必要が無い。もっと別の意図があるのだろう。
悪用方法など、いくらでも思い付く。持ち主に呪いを掛ける魔法に使う、犯罪を犯した現場に置いておく、などなど。特に最近は東方の国ブームが巻き起こっている。かの国は呪いなども盛んに行われていた時代があり、その種類は様々だ。試してみたいと考えている者も多いだろう。その対象として自分を選んだのだろうか、とルークはわずかに首を捻る。彼はサバナクローからの転寮生であり、それを快く思っていないものも少なくはないのだ。彼を認めていないものが、彼をポムフィオーレから排除しようとしているのだろうか。
(ふむ……。犯人の思惑が分からない以上、これ以上何かを取られるのは不味いな……)
今まで以上に気を付けなければ。ルークはその日から、持ち物の確認を徹底するようになった。また、授業で使用した机の周辺を確認し、髪の毛一本すら残さないほど徹底的に。
「あいつ、最近おかしくねぇ?」
「あいつって、ボヌールのことか?」
そんな話がルークの耳に入ったのは、持ち物がなくなり始めたことに気付いた1週間後のことだった。
―――――ボヌール・デスタン。ポムフィオーレ寮所属の2年生の生徒だ。
彼はヴィル・シェーンハイトの熱狂的なファンである。入学式で彼と同じ寮に配属されたことを神に感謝しながら噎び泣いたことで一躍有名になった過去があった。ルークと彼との接点は無いに等しいが、入学式の一件は彼もその目で見ていて知っていた。
「あいつがおかしくなったのっていつからだ?」
「ハントが転寮してきた辺りじゃないか?」
わずかに声を落として囁かれた言葉に、ルークは思案を巡らせる。自分のアイドルが誰かに付きまとわれていたら面白くないのも頷ける。それでも、ルークにヴィルとの付き合いを止めるつもりはないけれど。
彼からの嫌がらせだろうか、とルークは首を傾げる。けれど、ボヌールが自分の周囲を探るような気配に覚えが無かった。
ルークは狩人を自称するだけあって、周囲の気配を探るのを得意としている。誰かが近寄ってきたら、その気配をすぐさま察知することも可能だ。そんなルークに覚えが無いというのは、いささか不信である。
(彼のユニーク魔法かな?)
影を薄くする魔法だったり、意識を逸らさせる魔法も存在する。それらを得手としているならば、それは少々厄介なことだった。それがユニーク魔法ともなれば、なおのこと。
(さて、どう動くべきかな)
自分から飛び込むか、罠を仕掛けて待つか。様々な考えを巡らせながら、ルークはうっそりと笑った。