パラレルカラー
(どこだ、ここは・・・。)
何とも言えない、この空間。
空というべきか、宇宙というべきか。
(違う・・・。)
もっと別の、もっと現実からかけ離れているものだ。
そう、例えば─。
0.「灰色の救世主」
「ぐあっ!」
漫画みてぇにゴミ箱を散らしながら倒れる不良。
高校生だと思われる男を俺、夕凪美晴はぶっ飛ばした。
「テメェ!何しやがる!」
何しやがる。
なんて典型的なセリフだ。
俺はカツアゲされた正当防衛を行っただけだ。
(まぁ、八つ当たりっつう、私情も含まれてんだけど。)
怒りにまかせて殴りかかってくる不良の拳をよけて、腹に膝を入れる。
吐きそうになりながら後ずさる不良にもう一発。
横から前からうっとうしい。
まぁ、でも、殴ればすっきりする。
手ごたえ無さ過ぎて呆れるけど。
(一人やられたら諦めろっつの。)
世の中、諦めが肝心だ。
他がどう思っているのか知らないけど、少なくとも俺はそう思ってる。
俺は努力を笑う人間だからあきらめて。
とにかく、不良は片づけた。
多分だけど。
「このっ・・・!」
あれ?まだ息ある奴いたの(殺してないけど)
振り返ろうとした瞬間。
頭に激しい痛みと、顔に赤い液体が垂れてきた。
地面が、近づいてくる。
***
「やべぇよ、これ・・・。」
「お、俺が悪いのかよ!
先に手ぇ出してきたのはこいつだぞ!!」
「死んで、ないよな・・・?」
なんか、不良共がぺちゃくちゃ話してる。
意識は眠りに落ちる時みたいにうつろだけど、言葉を理解できるほどには鮮明だ。
不良どもには、俺が死んだように見えるらしい。
まぁ、そう見えなくはない。
目の前に赤い水たまりができてるしな。
出血多量・・・ってほどでもねーか。
まぁ、血ぃ出てるし、奴らには死んだ風に見えるのか。
「見える」じゃなくて「そう」なれたらいいんだけどな。
「と、とりあえず、ずらかろうぜ?
人に見つかったらやべぇよ・・・・。」
「そ、それもそうだな。」
うはっ、今時ずらかるとか、お前らどこまで典型だし。
草生やして笑いそうだわ、俺。
不良どもの足音が頭に響く。
うるせーな。もっと静かに走れねーのかよ。
悪態をついてると、目のかすかなぼやけに気づいた。
血ぃ流しすぎた?
このまま、誰にも見つかんねぇといいな・・・。
(・・・ん?)
今、なんか、どっかで聞いたことのあるような声・・・。
いや、鳴き声?が、聞こえたような・・・。
『鳴き声とは失礼な。』
あ、声で正解だったようです。
人の心を読むな、声の主。
てーか、誰だ、お前。
辺りに人はいないはず。
なら、何で声が聞こえる?
近くで誰かが誰かと話してんのか?
やべぇ、見つかっちまう。
そう思った瞬間。
血、いや、影からなんか出た。
何あの黒いの。
手・・・?
その手は俺をつかんで、
俺を影の中に引きずり込んだ。
***
(あれ・・・?)
どこだ、ここは。
頭も、もう痛くねぇし、意識もはっきりしてる。
なんて言えばいいのかわかんねぇ様な、この空間。
これは一つの世界なのか。
空と言えばいいのか、宇宙と言えばいいのか。
(いや、違うかな・・・。)
もっと別の、現実からかけ離れてて、もっと明確な・・・。
そうだ。
これは─。
『夢ではない。』
さっきの声だ。
そう思って、低い声を振りかえる。
「え・・・?」
ダーク・・・ライ?
どういうことだ。
てか、さっきといい、今といい心を読むな。
誰か、この状況を教えてくれ。
『今から、ご説明します。』
今度は違う奴の声が聞こえた。
誰だ、いや、今度はなんだ。
雄たけびにも似た声が耳をつんざく。
何なんだよ、もう。
振り返った先にいたのは、パルキアだし。
何なんだよ、もう。
なんか言ってるみてぇだけど分かんねぇし。
『おい、パルキア。原型じゃわかんねぇだろ。』
全身黒っぽい青に包まれた青年が現れた。
なんか、見たことあるカラーリング・・・。
『あなたこそ、最初からその姿では何なのか、分かってもらえませんよ。』
パルキアが人間になった。
今度は白っぽい紫に包まれた青年に。
ポケモンって人になれんの?
何なんだ、これは。
『それは俺たちがパラレルワールドにあてられたからだ。』
「パラレルワールドて・・・・。」
俺らの世界のこと言ってる?ディアルガさん。
てか、心読むなよ。
『俺たちの世界のパラレルワールドだ。』
あ、そうですか。
ポケモンの世界にはパラレルワールドがあるそうです。
『その世界はポケモンが人間になれるらしい。何故だかわかるか。』
いいえ、わかりません。
『その世界に救世主がいないからだ。』
***
「救世主が・・・いない?」
つまり、ゲームで言うレッドやゴールドが。
アニメで言うサトシがいないってこと?
『世界を救う者がいないから、ポケモンたちを助けてくれるものがいないから。
ポケモンたち自身が人間と化せるを手に入れたのです。』
パルキアが芝居がかった身振りで言った。
『お前がここにつれてこられた理由は、
お前に世界を救ってほしいからだ。』
『ポケモンたちだけでは、世界は救えない。
けれど、あなたならそれができる。』
んなこといわれてもな。
ストーリーも人物もからっきしなんだけど。
てか、人選ミスったな。俺は面倒は嫌いなんだ。
てか、俺、生きてんのかもわかんねーし。
いや、死んでてくれたほうがありがてーけど。
『・・・おい、聞いてるのか。』
痛いです、ディアルガさん。
ほっぺたつねんないで。
ちょ、マジ痛い。
「聞いてンらけど。」
『なら、リアクションを取れ。お前は無表情すぎる。』
生まれつきなもんで。
『たしかに、もうちょっと驚くなりしてほしいですね・・・。』
パルキアがそう言って俺の顔を覗き込んできた。
まじまじ見んな。
イラってきて、思わず腹に膝蹴りを入れてしまった。
『ぐふっ!!』
パルキアが整った顔をゆがめる。
いい気味だ。
『いいリアクションだ。』
『リアクションですか、今のが!!』
ディアルガがボケでパルキアがツッコミか、なるほど。
てか、話を進めろよ、面倒くせぇ。
『話を戻すぞ。とにかく、お前にはパラレルワールドを救ってもらうためにポケモンの世界に飛んでもらう。』
『必要最低限のものはあとでお送りします。』
『まずは仲間を集めろ。』
いや、俺、行きたくねぇし。
てか、俺、意思表示してねぇんだけど。
OKサイン出してねーよ?
まず、お前らのこと信用してねーし。
てか、今、どの時期。
「時間軸どれくらい?R団いる?」
『ああ。R団が一度壊滅してから、三年がたっている。』
金銀辺りね・・・。
てか、R団潰されてんならレッドはいるってことじゃん。
お前が救世主になれよ。お前最強じゃん。
『彼の使命は救世主ではなく、頂点であること、です。』
へぇ・・・(心読まれるのはあえてスルーの方向で)
あ、でも、あいつ「レッド死亡説」っつー都市伝説になってたな。
え?死んでんの?死んでねーの?
こいつの口ぶりじゃあ生きてんな・・・。
パルキアを見ると、彼は優しく微笑んだ。
『あなたなら大丈夫ですよ。
きっと、世界を救えます。』
『たとえ、時空や次元が異なっても、存在する世界は一つだ。
どうか、救ってやってくれ。』
『ご武運を祈っています。』
そう言って二人(?)は、俺に跪いた。
何で俺に傅いてんの、お前ら神だろ。
『お前の旅路に幸多からんことを・・・。』
ずっと、黙っていたダークライが俺の手を引いた。
二人も立ち上がり、俺の道を作ってくれる。
(俺に拒否権はねーのか・・・。)
俺はあきらめて、ゆっくりと歩を進めた。
十歩もいかないうちに、俺は眠るように意識を手放した。
(俺・・・いつになったら死ねんのかなぁ・・・。)
そんな事を思いながら。
continue.