白色キセキ
「もう、2週間たつっすね・・・。」
「ああ・・・。」
あれから2週間が過ぎた。
けれど、病院からの連絡はない。
病院だから、携帯も使えない。
「・・・だあぁ!」
青峰が頭を抱える。
皆一様に同じ気持ちだ。
「・・・もう一度、病院に行こう。」
赤司の静かな声に、6人は強くうなずいた。
第4Q「one leg」
「面会謝絶・・・!?」
「ええ。白川君、ついこの前まで体調が悪かったみたいで、大事をとって、ね。」
受付のナースは、少しだけ申し訳なさそうに告げる。
いよいよ7人の顔は蒼くなる。
いつも冷静な赤司や黒子でさえ、言葉が出ない。
そんなとき、聞き覚えのある声が聞こえた。
「君たち・・・。」
虹介の担当医、水谷平だ。
「先生!キャプテンは・・・先輩は・・・。」
「彼の容体はすっかり良くなっているよ。
でも、まだ完全に治ったわけじゃない。
大事をとっての面会謝絶だよ。心配はいらない。」
水谷はそう言って笑うが、顔は暗い。
無理をして笑っているのが分かる。
「・・・本当に大丈夫なんですか・・・・?」
「ああ・・・。だが、熱が下がっても、また発熱を繰り返してね。
こんな不安定な時に君たちを呼べば、彼は無理をしてでも元気を装う。
それでは、また繰り返すだけだ。だから大事をとっているんだよ。」
水谷は決して目を合わせない。
「・・・・どうして、そこまで・・・うそまでついて・・・。
先輩は、本当に大丈夫なんですか!!?」
黒子が声を荒げる。
水谷は口を閉ざしたままだ。
「先生・・・!」
わずかに、水谷の口元が動く。
けれど、それはよく知った声によって、止められた。
「先生、もういいよ。」
自分たちの後ろ。
大好きな、あの人の声だ。
振り向いて、喜んだ。
ずっと心配していた彼は、元気な姿でそこにいる。
そして、
異変に気づいて絶句した。
悲しい笑顔の彼は、松葉づえをついている。
違和感を覚えて、足元を見た。
驚愕のあまり、涙すら出なかった。
大好きな彼の、片足が無かった。
***
「先生、ごめん。嘘つかせちゃって。辛い思いさせちゃって。
でも俺、ちゃんと言うから。」
「白川君・・・。」
水谷は悲しそうな顔で、無理をして笑っている虹介に何も言えなくなった。
けれど、その瞳には、確かな光が見える。
彼は覚悟したのだ。
「・・・みんな、ごめん。でも、黙って聞いてほしいんだ。」
声の出せない7人はのどが渇くのを感じた。
虹介の顔から、笑みが消えた。
「お前たちが先生のとこに尋ねたとき、俺の脚は化膿して、それで熱を出したんだ。
腱と筋肉とかもボロボロで、骨も粉々で、
隠してたけど、俺の脚はつぶれかけてたんだ。」
黒子たちは、体の芯が冷えていくのを感じていた。
ひゅ、と、息をするのも難しい。
「もし、可能が治っても、つぶれた足じゃあまともに歩くことはできない。
だから俺は、俺の遺志で、俺の脚を切ったんだ。」
また、お前たちと一緒に歩きたいから。
虹介の目は、どこを見ているのかもわからなかった。
桃井達でも、水谷でもない。
どこか遠くを見ているようだった。
未来でも、見ているのかもしれない。
彼らと歩む、幸せな未来を。
「足を切った後は幻肢痛がひどくて、とてもお前たちには会えなかった。
だから、先生には嘘をついてもらったんだ。」
本当にごめん。先生も、みんなも。
彼の眼には涙がたまっている。
けれど、それは決して流れはしなかった。
「俺のせいで、泣かせてごめん。傷つけてごめん。
お前たちは許せないだろうけど、あいつらのことを俺は許した。」
大好きな彼を片足にした5人のことだ。
正直にいえば、虹介と同じ目にあわせてやりたい。
それが本音だ。
けれど、本人が許しているのに、他者がそれを許さないのは筋違いだ。
「だからお前たちにも、あいつらを許してやってほしい。
お願いだ。お前たちに手を汚してほしくない。
だから、許せ・・・!」
そう言った彼の声は震えていた。
その言葉も、まるで自分に言い聞かせているようで。
涙がこぼれそうになるのを、吟じでとどめているのが分かる。
「お前たちの心に傷を負わせた俺のことは許さなくていい。
だから代わりにあいつらを許せ。
そして、これは俺のわがままだ。
誰になんと言われようと、お前たちには俺の言葉を信じてほしい。」
虹介は一度、言葉を切った。
そして、遠くでも、未来でもなく、
今、目の前にいる虹色を見つめた。
「これはお前たちのせいじゃない。
間違っても、自分を恨むな。
これは俺の、おれの守りたかったものを守った結果だ。
俺の誇りだ。
俺はお前たちを守れた俺を誇りに思っている。
だから、俺の誇りを穢してくれるな。
俺は、
お前たちの先輩でよかったと
心から思っている。」
もう、一度流れた涙は止まらなかった。
虹色は涙をこぼしながら、虹介に抱きついた。
本当は我慢していたかった。
たった一つ年上の彼は、涙も流さずに自分たちを抱きしめてくれて、涙をぬぐってくれる。
でも、我慢できなかったものはしょうがない。
自分たちが、誇り高い彼の分まで涙を流そう。
彼が涙を流さずに済むように。
***
その日、みんなは泣き疲れて、そのまま眠ってしまった。
大好きな彼が、暖かくてひどき安心したというのも眠ってしまった要因だろうが、
心身ともに張りつめた日々を送っていた疲れがあったのだろう。
冷たい廊下で一晩過ごしてしまったのがいけなかった。
皆一様に風邪をひいてしまった。
体中痛くて、熱くて寒くて、辛かったけど、ただ唯一救いだったのは、
大好きな先輩が
暖かな毛布で自分たちを包み、
抱きしめていたことだった。
countine.