風丸夢
彼女は家を失った。
彼女は家族を失った。
彼女は大切なものを失った。
彼女は愛を失った。
彼女は悲しみを知った。
彼女は死を知った。
彼女は大切なものを知った。
彼女は愛を知った。
俺は無力だ。
俺は彼女の救いになどなれない。
彼女はたくさんのものを失いすぎた。
彼女はたくさんのことを知りすぎた
だから彼女はいつもあることを希う。
「あ!流れ星!」
見てみて、風丸!
彼女はそう言って俺に笑いかけた。
なんてきれいに笑うんだろう?
家族の死から五年がたった。
彼女の笑みは、家族の死後、更に美しく、儚く深いものになった。
「ほらほら、風丸。早く、お願いしなきゃ。」
彼女はそういった。
胸の前で指をからめ、強く握る。
ゆっくりと目を閉じた。
彼女はきっと・・・。
彼女がゆっくりと目を開けた。
「風丸、まだ、お願いしてないでしょ?」
何でわかったんだろう?
俺は苦笑した。
俺も目を閉じる。
叶うならば、彼女に幸せを・・・。
俺はそう願った。
彼女はたくさんのものを失いすぎた。
彼女はたくさんのことを知りすぎた。
俺が目を開けると、彼女は俺の目の前にいた。
「何をお願いしたの?」
「教えない。お前も教えてくれないだろ?」
そういうと彼女は侵害だ、とばかりの表情をする。
「聞いたら教えてくれたのか?」
そう尋ねると彼女は笑った。
「ううん。教えない。秘密!」
俺は前を歩く、彼女の背中を見つめた。
今振り向かれたら、俺はきっと笑えない。
きっと、彼女はこう願ったんだろうな。
私が先に死にますように。
END
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