風丸夢
「チッ・・・。」
小さな舌打ちの音。
別に、気にするようなものではない。
「エイリア学園、一体、いくつのチームがあるんだ?面倒な奴らめ。」
しかし、このときは舌打ちをした人物に問題があった。
黒那は、青ざめるのが自分でもわかった。
普段なら、そんなことを絶対に言わないような人物。
風丸の口から聞こえたのだ。
「か、風丸?」
「ん?どうした、黒那?」
黒那は、何かを感じ取りながらも、聞いてみた。
「い、今の、もしかして、風丸が言った?」
「他に、誰かいるか?」
「・・・いません。」
とりあえず、彼女に拍手を送ろう。
風丸の刺すような冷たさを持った、冷ややかな視線にも、逃げ出さずに耐えたのだ。
しかしそれは、ほんの一瞬で、すぐに、いつものような爽やかな眩しい笑顔になる。
「大丈夫だ。いつもは、100%営業スマイルで通してるからな。」
黒い。風丸が黒い。
一体、どんな教育をしたんだと言いたくなるくらい。
「父さんも、母さんも、外見だけの人だから。」
「遺伝って、恐ろしいものなんですね。
というか、読心術は禁止です。」
そういうと、風丸は笑った。
ドキッっと来るが、騙されてはいけない。
この殺人さえも犯せてしまいそうな悩殺スマイルに騙されて、ファンクラブの人数が五百人を突破したのだ。
100%営業スマイル。
たとえ、それが、どんなに人が良さそうに見えても決して騙されてはいけません。
それは、外見だけという罠にございます。
黒那は、風丸ファンなどに、そんな念を送った。
「黒那って、面白い奴だな。」
黒那は、綺麗と言わざるを得ない、笑顔に顔を赤らめた。
そんな、黒那を見て風丸は思った。
(なんで、気付かないんだろうなぁ・・・。)
風丸は、黒那が好きだ。
そして、黒那も気付いていないだけで、風丸が好きなのだ。
風丸は、黒那が自分に抱いてくれている思いに気付くまで待ってみよう。
そう思っている。
(それに、あたふたする黒那を見るのは退屈しないし、面白い。)
そう思っているのは、口に出さないで、本気の笑顔で風丸は笑った。
END