白色キセキ
「この馬鹿息子!!!」
第2Q「うさぎ」
女性の声が、白い病室に響く。
虹介の母親である。
白川家は母子家庭だ。
女手一つで育てられた虹介は、母に頭が上がらない。
ベッド際のすわり、完全にうつ向いている。
「みんなに心配かけて!
目に入れても痛くない、かわいい後輩たちを泣かせてんじゃない!!」
スパン、と良い音が鳴る。
虹介の脳天を思い切りたたいたのだ。
「か、母さん・・・。俺、額割れてんだけど・・・。」
包帯を巻かれた額に手を添える。
叩かれたのは脳天だが、痛みは額にまで広がったらしい。
苦しげな声を上げ、悶絶している。
「自業自得でしょうが!」
「う゛っ・・・!!」
もう一度叩かれる。
本当は止めなければならないのだが、虹介の唯一頭の上がらない相手だけあって、みんな怖くて止められない。
ふう、と小さくため息をついて、母が笑顔になった。
「でも、後輩を守ったのは偉かったぞ!」
「うん。」
頭を撫でられ、虹介も嬉しそうに笑う。
もう一度、笑いかけてから母は7人を振り返った。
「私これから先生の話を聞かなきゃならないから、虹介のこと頼んでいいかな?」
「はい!」
「任せてください!」
「よろしくね、みんな。」
『はい!!!』
母は手を振りながら病室を去る。
虹介も手を振り返し、それから黒子たちを振りむいた。
「悪いな、みんな。」
「いいんすよ。それに守られてばっかじゃ癪っす!」
「そうそう、後輩は先輩に頼られるとうれしいんスよ?」
虹介の言葉に黄瀬と青峰が笑顔で言った。
そうすれば、彼の表情が一気に和らぐ。
「何かしてほしいことはありますか?」
「おなかすいたら言ってください!私、りんご持ってきました!」
黒子の言葉に桃井が荷物をあさる。
出てきたのは大きな重箱で、蓋を開ければ中からナイフとフォークの刺さったそのままのリンゴが出てきた。
それには虹介も思わず絶句した。
「・・・これはねぇな。」
「ああ・・・。」
「青峰君、ミドリン、酷い!!」
二人がそろって顔をしかめれば、桃井が唇をたがらせて反論する。
苦笑しかできなかった虹介を誰もとがめたりはしない。
「俺が切ったげよっかー?」
虹介の隣にしゃがみ込んで、彼を見上げていた紫原が、自分を指して言う。
細かい作業は苦手だが、彼が意外に器用だと知っている虹介がうなずく。
「頼むよ。」
「何個?」
「2つくらいかな。」
「りょーかーい。」
突き刺さっていたナイフでリンゴを切る。
慣れているのか、ナイフはよどみなく動く。
そして、あっという間にリンゴ2つ分のウサギが完成した。
「上手ですね。」
「うん、うさぎにしてみたー。」
すごいでしょー、と笑う紫原。
微笑ましい、と病室がなごむ。
「おー、うまそー。」
「でしょー。はい、あーん。」
「ん。」
差し出されたウサギをそのままかぶりつく。
太陽を十分に浴びたであろうリンゴは程よく甘い。
「あ、ずるい!」
「次、俺!」
「僕もしたいです。」
「ほら、順番。」
抗議の声を一喝すれば、すぐに一本の列が完成する。
そんな光景を目にし、虹介は思わず噴き出した。
(ああ、幸せだな・・・。)
次々に差し出されるリンゴを食べながら、虹介は笑った。
countine.