風丸夢






「あのね。私、風丸君と付き合うことになったの。」


風丸君と同じクラスの女が言った。
それだけ言って、女はどこかへ行ってしまう。

私は風丸君と中一の春から付き合ってる。
でも、誰も私と風丸君が付き合ってるなんて知らない。
でも、よく二人でお弁当食べたりしてるから自慢のつもりで来たんだろう。

ムカつく。
そして意味がわからない。


(なんなの、あいつ・・・。)


あの言葉は私だけのもののはず。
私以外には似合わない。
私だけの特別な言葉。


(許せない・・・!)


私は風丸君のところに向かった。
けれど、その時にはすでにあの女が隣にいた。
すごく親しげに話しかけている。
風丸君が汚れてしまいそう。

私はずかずかと教室に入り、女を突き飛ばして風丸君に言った。


「どういうこと、風丸君。」


風丸君はキョトンとしている。


「こんな女と付き合うことになったってどういうこと。」


すると風丸君は顔をしかめた。
心の底から嫌がっているような表情。
何を嫌がってるの?


「脅されたの?何のために?誰のために?」

「人聞き悪いわよ。」


女が風丸君の腕に絡みつく。
やめてよ。触らないでよ。
風丸君が穢れちゃう。


「風丸君が自分の意思で選んでくれたの。妙に仲のいいナナシさんじゃなくて、私をね。」


意味がわからない。訳がわからない。
一体、どういうこと。
風丸君もそんな表情。
ますますわからない。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ。意味がわからないんだが?」


すると女が目を見開く。
それからすぐに余裕を取り戻す。


「風丸君が言ったのよ?ナナシさんより私が好きって。」

「まさか。俺が好きなのはナナシだけだ。」


風丸君が綺麗に笑って言った。
女は動揺していて、その表情を見ていない。
なんてもったいない。
あぁ、でも、やっぱり見なくていいよ。
それも私だけの特別。


「昨日の放課後のことだよな?てっきりナナシのことが好きなのかって聞いてくるもんだとばかり思ってて・・・。」


最初から、話なんて聞いてなかったんだ。
風丸君がそう言った。

なんて無自覚なんだろう。
少し抜けてるというか、そんなところも愛しいと思う。

そんなことを考えてると、風丸君が私の隣に来た。


「円堂は知ってるんだ。というか、幼馴染だから気付かれちまったんだよな。」


そう言って苦笑する。


「俺たちが付き合ってること。」


真っ直ぐなまなざし。
はっきりと言ってくれた。

女には余裕なんてない。
信じられないという顔をしている。


「信じられないなら、聞いてこいよ。木野さんにも気付かれてるから。」


私は呆然とする女に笑いかけた。
私の、私だけの特別な言葉を汚い口で言った罰。
私は自信と誇りを持ってこう言ってやった。


「あのね。私、風丸君と付き合うことになったの。」


ほら、私にこそ似合う。
この言葉は私だけのもの。

今はこの言葉じゃないよね?
でも、わからせてあげなきゃ。
私にしか似合わないって。


「あのね。私、風丸君と付き合ってるの。」


ほら、私にこそ似合う。
ほら、私以外には似合わない。





END




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