最強少女 日常編






八十年後に星はあるだろうか?
私はふと、そんな哲学的思考をめぐらせた。





「八十年後の未来」





フットボールフロンティア決勝。
それは私が知っているシナリオではなく、私が現実にいたころに、もう少しで放送される予定だった、劇場版のシナリオだった。


八十年後の未来からやってくる来訪者。
王牙学園・・・だったと思う。



(こっから、どう発展すんのかねぇ・・・。)




私は意外にも冷静だった。
それはきっと、この世界が「超次元だから」で済まされる、イナズマイレブンの世界だからだ。


私は河川敷で星を見ながらため息をついた。
自主トレのランニングでたまたま通りかかったとき、空を見上げてふと気づいた。

いつもいつも、狭いと感じていた東京の空が、意外にも広かったことに。



(星は田舎のほうがたくさん見えるけど・・・。)



先進国たる日本で田舎というのは、いささか失礼だが、交通機関なんかが発達した、都市と比べてしまうとなんともいえない。



「・・・八十年後ってどんな風になってんのかな?」



オーガについては何も知らない。
世宇子と戦うよりもずっと厄介だ。



「ホント、どうすっかねぇ・・・。」



ふと、視線に気づいた。
誰かが私を見ている。
しかも、そこらの奴が気配を消そうとしているのではない。



(上手いな・・・。手練か・・・。)



一瞬、緊張してしまった。
とりあえず、厄介ごとには慣れているが、面倒だ。
気づかないフリをして、やり過ごそう。
緊張がばれなければいいんだが・・・。

そう思って、また空を眺めた瞬間だった。


ズリッと言う道路を踏みしめる音が聞こえた。
わざとだ。
ばれている。私が気配に気づいたことが。



(ちっ・・・。強いな、こいつ・・・。)



ここで気づかないフリをしては、いけない。
敵に背を向けていては殺られる。
そう感じるほどに強い。



(私も全盛期じゃないからな・・・。)



弱くなったなと思いながら振り返った。



「お前・・・何者だ。」





***





お前のが何者だよ。
出てくるなり、険しい顔で問うてくる銀髪にそういいたくなった。



(アレ・・・?)




どこかで見たか?
いや、確実に見たことのある顔だ。




(そうだ・・・。)




劇場版のポスターだ。
アレのど真ん中に映っていた、赤いユニフォームの奴だ。

たぶん、オーガのキャプテンか何かだ。
劇場版の主要人物には違いない。
やべぇ、どうしよう・・・。



「もう一度問う。お前は一体、何者だ。」

「お前が先に名乗れや。」



何なんだ、こいつは。
そう思ったら、そいつは言った。



「俺は、チーム「オーガ」のキャプテン、バダップ・スリードだ。」



うっそ、こいつ、意外と素直だ!



「豪風零だ。」



そう答えると、バダップは怪訝な顔をした。
何が不満だ、何が!



「・・・お前のような人間はいなかったはずだ。」



・・・・・・・。
八十年後から来たってことはタイムマシンでも持ってんですか?
つまり、某猫型ロボットのようなことができると?
まさか、過去も覗けたり?


つまり、それは、繰り返される現在にいきなり介入したということになる。
つまり、それは、どういうことだ?

未来から過去を観察していたら、いきなり私が現れました?
現在は繰り返されている?
パラレルワールドは本当にあった?
やばい。混乱してきたぞ。



「・・・・お前は、この時間軸・・・いや、この世界の人間か?」



厳しいな。
痛いとこ突かれた。


バダップは警戒している。
未知のものとして私を恐れている。
私を。私の存在を。



(まぁ、不気味な存在ではあるわな?)



そうため息をついた。



「・・・・さぁ、な。・・・それにしても、今日は星がきれいだ。」



やけになって、そう呟いた。
すると、バダップは意外にも空を見上げた。

脅迫されているとでも思ったのだろうか?
それくらい素直だ。

こいつの性格なんざ微塵も知らんが、何故か、やけに素直に思える。

というか、まず、その軍服が気になるんだが?
まさか、言われたことに逆らえないとか?
はっはは!やめてくれよ、そんなん。


私は、もう一度ため息をついた。



(なんか、疲れた・・・。)



土手に座ると、背中に視線を感じた。
攻撃される心配はなさそうだが、一言言いたい。

どんだけ警戒してるんだ、お前。



「視線が痛いし、気になるんで、できれば消えるか、隣に座ってくれません?」



そういうと、バダップは隣に座った。
それでも、視線は痛い。
じっ、とこっちを見てる。



(もう、あきらめよう・・・。)



もう無視しとこう。
こいつ、ぜってー、私が何なのかわかるまで、帰る気なさそうだし。



(ああ、ホント、星がきれいだ・・・。)





***





それから、約十分ほど、無意味に時間をすごし、無意味に星を眺めていた。


一際輝く、一等星を見て、アレは円堂かな?とふと考える。
その周りには、たくさんの星がか細い光を放っている。
あれはきっと、私たちだ。



(あ・・・。ちがう・・・。あの中に私はいない。)



私は瞬きもせずに、その星を眺めた。


我ながら馬鹿馬鹿しいことを考える。
嘲笑してから我に返った。

視線を感じない。
バダップがいつの間にか、私が見ていた星を目で追っていた。



(飽きたのか・・・?)



私を見ていても、面白いことなんてない。
私はもう一度空を見上げた。


バダップのことを思い出し、ふと考える。

八十年後の未来の空に、星は瞬いているのだろうか?
哲学はあまり好んでいないが、ふと思ったことだ。

何故、こんなことを考えたのか、自分でもわからない。



「久しぶりだ・・・。」



バダップが唐突に呟いた。



「こんなに無意味に時間をすごしたのは。」



お前、きっちりしてそうだもんな!



「星を見たのも・・・久しぶりだ。」



まして、誰かと一緒になんて。
バダップは独り言のように言った。

独り言だったのかもしれない。
私が隣にいたから独り言にはならなかっただけだ。


私も久しぶりだと思った。
いつも課題や自主トレで、こんな風に空を眺めたことなんてなかった。
小さい頃に兄貴と夜に散歩に出かけて以来かもしれない。
誰かと一緒に星を見るのは・・・。


星は好きだ。宇宙も好きだ。
母さんが好きだったし、無限の可能性と謎を感じる。

どこまで続いているんだろう?とか。
いつからあるのだろう?とか。
考えてみれば、少しゾッとするが、何故か気になった。


私は小さく笑った。
すると、バダップはいぶかしげに私を見る。



「・・・何を笑っている。」

「いや、別に?私も同じだよ。久しぶりに星を見たんだ。」



誰かと一緒に。
バダップは瞬きくらいの間、目を見開いた。
けど、すぐに無表情になった。



「私を何者かと聞いたな?私はお前と変わらない人間だ。ただちょっと、謎は多いけどな。」



この回答でも何か不満かい?
そうたずねると、バダップは一度目を伏せて立ち上がった。

何だ。
もう帰るのか。
詰まらん。

しかし、まぁ、相手にも都合はある。
私は片手を上げ、それを左右に振った。



「じゃあな、バダップ。おやすみ。」

「・・・お前もな、豪風零。」



バダップは小さく呟いた。
私にはしっかりと聞こえていた。


私は振り返ることのない背中を見送った。

涼しくなった左側の肩を抱いて、私はもう一度空を見上げた。
やっぱり、今日は星がきれいだ。



「八十年後・・・か。」



そのとき、空にはどんな星が輝いていて、どんな人々がどんなサッカーをしているのだろう?



「私は存在しているのかな・・・?」



私はふと考えた。
私は、この世界で星になるのか。
母たちと同じ墓に入るのか。



「馬鹿馬鹿しい・・・。」



我ながら阿呆なことを考える。



「八十年か・・・。長いな。」



八十年後に星はあるか?
そんなの決まっている。

誰にもわかる訳ない。

私は馬鹿で阿呆か。


私は嘲笑して立ち上がる。



「生きてやろうじゃねぇか!」



それを確かめるために!





***





八十年後の未来。
バダップたちはそこに帰ってきた。

円堂守という少年から勇気をもらい受けて。



「バダップ。」



一人の老婆が声をかけた。

いくつだろうか?
七十は超えているだろうが、その声は若々しく、透き通っている。
背も高く、腰も曲がっていない。
堂々としていた。

実年齢がわからない。
本当は五十かそこらなのでは?
そう思ってしまうほどだった。
若者にさえ無い、気高い美しささえ感じる。



「・・・?」



バダップがいぶかしげに老婆を見た。



「八十年前の世界は・・・。いや、サッカーは楽しかったかい?」



老婆は拳で胸を叩いた。
その仕草にバダップは目を見開いた。



「八十年前の勇気と出会いが、未来を変えたのさ。」



老婆は笑った。
八十年前と変わらない笑みで。


空では暮れかけた夕日の合間から、星が微笑みかけてくれているかのように、優しく輝いていた。



「今日は星がきれいだ・・・。」



零の言葉にバダップは微笑んだ。







最強少女、永久不滅。

彼ら、彼女らの伝説は、今も語り継がれている。




END




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