最強少女






受けてやろうじゃん。







第十四章 地区予選決勝・前篇








冬海の一件で、移動用バスが使えなくなり、雷門イレブンは電車を使うことになった。
円堂がお立ち台のように椅子の上に立つ。



「円堂?ここをどこと心得る?公共の場だ!」



そう言って足を払う。
円堂がこけるが気にしない。

零はこれから待ち受けるであろう、影山の罠のことを考えてピリピリしている。
普段より言動が荒い。
自分の向かい側に座る豪炎寺が呟いた。



「保護者だな。」

「黙れ、真っ白チューリップ。」



そういった瞬間、壁山が声を上げた。



「な、何すか、あれ!!」



窓の外を見ると、重々しい雰囲気を醸し出す建物。
帝国学園があった。



「あれが帝国学園です。そして中央に大きくそびえるのが決勝を戦うスタジアム。」



零もスタジアムを見た。



(ふぅん・・・。あれが・・・・。)





*   *   *   *   *





「気をつけろ!バスに細工を施してきた奴らだ!落とし穴があるかもしれない!壁が迫ってくるかもしれない!!」



そんなことを言う響木を先頭に、雷門メンバーは控室に向かう。

メンバーを心配するあまりの行動なのか、わざとなのかは怪しいところである。
呆れていいのやら、笑っていいのやら。
零は形容しがたい表情をしていた。


まぁ、なんやかんやで控室に着いた。
中から鬼道が出てきたことにはが驚いたが、彼はすぐに謝り歩み去った。



「鬼道!試合楽しみにしてるからなー!」



円堂の明るい声だけが響いた。





***





円堂がトイレから出てきた。
一向に控室が使えないのでトイレで着替えていた零とはち合う。



「ったく・・・。さっさと着替えてくれよな。一緒に着替えようとしたら怒るくせに。」

「ごめん、ごめん。」



円堂は苦笑する。
すると、鬼道が歩いているのを見つけた。
円堂が一人で追いかけ走り出す。



「ったく・・・。」



零はため息をつき、追いかけた。
角を曲がろうとすると、声が聞こえてきた。



「君に話がある。鬼道のことだ。」



零はとっさに立ち止まり、気配を消して話を聞いた。


その内容は、円堂の心に揺さぶりをかけるものだった。

鬼道と音無が兄妹であること。
鬼道が三年間、フットボールフロンティアで優勝しなければ、音無を引き取れないということ。
地区予選レベルで敗北してしまえば、彼自身も追い出されてしまうかもしてないということ。



「忘れるな。雷門が勝てば、鬼道たち兄妹は破滅する。」



そう言って肩をたたき、影山は歩み去った。
零はすぐさま円堂に駆け寄る。



「円堂。話は聞いた。」



次を言おうとする前に、響木がやってきた。
彼は二人に影山と何を話していたのかを問うたが円堂は答えなかった。



(・・・私は負けたくはないぞ、円堂。)





***





グラウンドに出た円堂は、まともにシュートも止められないほど落ち込んでいた。
円堂は顔を洗ってくるとだけ言い残してフィールドを去った。

零が心配そうな表情で円堂を見つめる。
けれど、すぐに首を振っていつもの表情に戻す。

その時あることに気がついた。
鬼道がいない。



「・・・天に唾すれば自分にかかる、ねぇ・・・。」



零は皮肉気味につぶやいた。
それから雷門と同じくアップをしている帝国側のコートに入って行った。
ぎょっとしたような視線を浴びるが気にしない。
彼女はまっすぐ、源田のところに向かった。



「おい、源田。鬼道はどこにいる。」

「お前は・・・!」

「私に驚く前に答えろ。」



源田は口ごもった。
言えないことでもないだろうに。

零はため息をついた。
そして、鬼道に言いたかったことだけを伝えた。



「あの馬鹿のことだ。どうせ、影山の罠だのを捜してんだろ?鬼道に言っとけ。「天に唾すれば自分にかかる」ってな。」



源田は戸惑っているような表情をしていたが、最後にはしっかりとうなずいてくれた。



「ギャアアアアアアア!!!」



ものすごい絶叫。
宍戸の悲鳴だ。



「まさかっ・・・!」

「おい!待て!!」



零は源田が止めるのも聞かずに全力で走った。
円堂もちょうど戻ってきたところらしい。
彼も宍戸に駆け寄ったうちの一人だった。


地面に倒れる宍戸の周りにはたくさんのボルトが刺さっている。
うまく宍戸をよけたらしい。

染岡がそれを拾い上げ悪態をついた。



「帝国はちゃんと整備できてんのか?」



零は天井を睨みつけた。
夜目に慣れた彼女の眼でさえ、ライトアップされた奥の闇は見えない。


零は手近にあったボールを蹴り上げた。


空を切るボールの音が聞こえる。
それからすぐにボールは天井に当たる。
そして、ボールよりもさらに切れのある音。
ボルトがまた落ちてきた。



『ギャアアアアアアア!!!』



周りにいた全員が絶叫し、全力で逃げる。
帝国でさえ唖然とした行動だった。

しかし、零は涼しい顔でボルトをキャッチした。


左手に収まったソレが物語る。



(落としてくる気か・・・。)



零は舌で形のいい唇をなめた。
ク、と口角があがる。



(受けてやろうじゃあねぇか。)



そう思い、殺意をむき出して笑う。
零は酷く好戦的だった。





***





整列が完了し、順に握手を交わしていく。
零が鬼道と握手を交わした。
少し手をひかれる。
何事かと思えば、彼は耳元でこう言った。



「ありがとう。お前のおかげで、全てがわかった。」

「いやいや・・・。余計なおせっかいをかけた。」

「そんなことはない。」



ゴーグル越しだがはっきりとわかる。
彼の真剣な目に驚いたが、彼女はすぐに笑った。

鬼道が円堂に耳打ちするのを見て、零は自分のポジションに就いた。

自分はつくづく余計なことしかしないなと思いながら。





*   *   *   *   *





試合開始のホイッスルとともに、鋭く空を切る音が聞こえた。
巨大な鉄骨がいく本も落ちてきたのだ。
フィールドは土煙に包まれる。
帝国も驚きのあまり、声が出ない。


煙がはれ、会場全体が驚いた。
死んでいてもおかしくはない雷門イレブンが全員無事なのだ。



「目に砂入った・・・。」



零が平和なことを呟いた。
どうやら全員無事のようだ。
しかし、こちらの声が出ない。



「背番号順に番号言ってけー。ほら、円堂、いちー。」

「え!?あ、い、いちっ!」

「え、あ、に!」



全員が律儀に返事をする。
やっていることは正しいが、気が抜ける。
人数を確認すると、帝国を向いた。



「帝国は全員無事かー?」



声をかけると、ぎこちなく零を見る。
向こうも全員無事なようだ。
怪我をしている様子もない。



「・・・無事、みたいだな・・・・って、あ?」



鬼道がいない。
円堂もそのことに気づき駆け寄ってくる。



「豪風・・・。」

「ああ。」



二人でうなずきあい、帝国のほうへと走る。



「佐久間!鬼道はどこだ!」

「お前は・・・。鬼道なら、そこに・・・。」



そう言いかけて止まった。

鬼道が、いない。



「鬼道なら総帥のところだ。」



源田が寺門を伴ってゴールからこちらに向かってきた。



「場所は?」

「・・・ついてこい。」



響木を伴い、五人は影山のところに向かった。





***





「総帥!これがあなたのやり方ですか!!」



鬼道の叫び声が聞こえた。
影山の笑いを含んだ声もだ。
鬼瓦が数々の犯罪の証拠を見せても、影山は笑っている。



「俺たちはもう、あなたの指示には従いません!」

「俺たちも鬼道と同じ意見です!」



鬼道たちが言葉を吐き捨てるように影山に言った。



「勝手にするがいい。私にも、お前たちなど、もはや必要ない。」



そのとき、小さなため息が聞こえた。
声の響く室内で、それは大きく反響した。

一番後ろで壁にもたれていた零がため息を漏らしたのだ。



「私さ。あんたのこと、私よりずっと善人だと思ってんだ。」



衝撃の言葉に全員が目を見開く。
零は気にも留めずに続けた。



「確かにぶん殴りたくなるようなこと、たくさんしてるけど、そこまで悪い人間じゃあないと思ってる。」



淡々と、淡々と。
無表情に、彼女は言った。



「あんたを信じてくれる人はきっといるよ。」



まるで、自分に言い聞かせるように紡がれる言葉。

気高さの中に、わずかな儚さを醸し出す彼女を、あの影山でさえ静かに見つめていた。



「ちゃんと、罪を償ってよ。罪を償ったあんたの率いるチームと、私は闘ってみたい。」



あんたは私より全然表の人間なんだから。
私なんかよりも豚箱にいる時間は短いはずだ。

そう言いたいのは呑み込んで。



「刑事殿。証拠不十分とかで、出てこないようにお願いしますよ。」



鬼瓦にそう言って、零は影山を視界から消した。


影山はそのまま刑務所につれて行かれた。
最後に不敵な笑みを浮かべて。



「やっぱ、むかつくなぁ、あいつ。」



そのつぶやきに、円堂が隣に立った。



「俺は信じてるから・・・。お前のこと・・・・。」



そう、やっと聞こえるような声で言った。

零は少し驚いたが、ふっ、と笑った。



「ありがとな、円堂・・・。」



同じくらいの声で囁いて。





***





「響木監督。円堂、豪風。本当にすいませんでした。」



いきなり頭を下げてくる鬼道を、二人は何事かと見つめた。



「総帥がこんなことをしたんです。試合を・・・。」



次がわかった零はいち早く動いた。


ゴンッ!

という、派手な音がした。
まるで、骨同士がぶつかり合ったような鈍い音だ。


零が鬼道に拳骨をかましたのだ。
やられたほうも、見てたほうもギョッとした。


零が冷たい目で軌道を見ていると、響木が円堂と零の肩に手を置いた。



「判断はお前たちに任せる。提案を受け入れるのも、試合をするのもお前立ち次第だ。」



円堂は笑った。
零もポケットに入れていた手を出し、円堂の肩に置いた。

円堂は零を見て笑い、うなずいた。



「やるに決まってんだろ!俺たちはサッカーをしに来たんだ!お前立ち帝国学園とな!!」

「・・・感謝する・・・・・!」



修復の終わったフィールドで両校は再び入場した。
両校のキャプテンたちは、自信と誇りに満ち溢れた表情をしていた。










continue.




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