最強少女






次は監督探しですか。







第十三章 新監督を探せ







「こうなったら、みんなで監督を探すんだ!こんなことでフットボールフロンティアをあきらめてたまるか!」



円堂の言葉に零はうなずいた。
けれど、やみくもに探しても無意味だ。



「誰か、運動部の顧問で頼めないかなぁ?」



半田の提案に壁山が賛成した。
確かにいい意見だ。
しかし、物語的にそうされては困る。



「いい考えだとは思うが、監督になってくれると思うか?自分の担当の部活で手いっぱいだろ。」

「だよなぁ・・・。」



すると、染岡が夏未を見ていった。



「雷門夏未が頼めば誰かやってくれるんじゃないか?そもそも、あんたが冬海を追い出さなきゃ、こんなことにはならなかったんだ。」



責任とってもらおうじゃないか。

あの雷門夏未にものを言うとは。
数名が染岡に拍手を送る。



「冬海先生を顧問にしたままで、みんな試合なんかできて?」



見下したような笑み。
それにはさすがに押し黙った。



(ま、私には関係ないんだけど。)



零はふう、と小さく息を吐いた。



「しかし、まぁ、いささか短絡的でしたねぇ。せめて、代わりの監督を立ててから追放してもよかったんじゃないでしょうか。」



二人の間に火花が散る。
ここでとやかくいっても仕方ない。
しかし、帝国と戦えるような人間など、そうそういるだろうか?



(はよ、気付けや、鈍感男共。)



そう思った時、豪炎寺が言った。



「円堂。雷雷軒の親父はお前のお爺さんを知っていた。ということは・・・。」



円堂が嬉しそうにそうか!と叫んだ。



「偉いぞ、豪炎寺。よく気づいた。」



さっさと先に進みたかった零は思いっきり豪炎寺の頭をなでた。
背の高い彼女に上から押さえつけられるように頭をなでられてはたまったものではない。



「・・・・やめてくれないか。痛いんだが。」



初めこそ照れていたが、最後は痛みに顔をゆがめていた豪炎寺だった。





***





響木はなかなか説得に応じてはくれなかった。
いつまでたっても埒が明かない。



(強情な・・・。)



零はここに来て何度目になるか分からないため息をついた。



「豪風の娘。お前のお袋さんはどうした?」

「豪風でいいです。・・・・ここ数年、親父にも母さんにも会ってませんが?」



響木は一瞬目を見開いたが、すぐに落ち着きを取り戻し、そうか、とだけ呟いた。



「豪風・・・?」



円堂が心配そうに零を見つめた。
零はきょとん、としていたが、すぐに理由がわかった。



(一般家庭じゃあ考えられねぇことだもんな・・・。)



零は小さく笑って、円堂の背中を叩いた。



「何泣きそうな顔してんだよ。単身赴任と海外出張だよ。」

「・・・でも、一人だろ?」

「私の面倒見てくれてた人たちも忙しいからな。」



零はカンラカンラと笑った。



「それより、響木の旦那。どうしても引き受けてはくれねぇのかい?」



笑ってはいるが真剣なまなざし。
この娘を相手にするのは厄介だ。
響木はそう感じ取り、その後、零を相手にすることはなかった。

結局、この日は全員仲良く追い出されてしまった。





***





河川敷。
メンバーは練習をしていた。
けれど、壁山は座り込んでいる。

監督が見つからなければ、いくら練習しても意味がないと落ち込んでいる。
円堂が励ますが、今日の壁山はしつこかった。

引きずりまわされても、監督が見つかるという確証を求めていた。
そんな二人を見て零は呆れたように笑った。

ふと、視線を感じた。
土門もそれに気づいたらしく、橋の上を厳しい表情で見つめている。
零はそれを目で追った。

橋の上には鬼道がいた。

円堂が走る。
零もそのあとをついていった。



「よぉ、鬼道。久しぶりだな。今日はどうした?」

「冬海のことを謝りたくてな。それに土門のことも・・・。」



そういって、鬼道は暗い顔をする。



「何暗い顔してんだよ。あんな奴のことなんざ忘れちまえ。それよか、暇ならサッカーやろうぜ。」



鬼道は呆然とするが、円堂は笑った。



「あはは!零らしいや!」



そんな二人を見て鬼道は微笑する。



「うらやましいよ。お前たちが。それに比べて、俺たちは・・・。」

「んなもん、お前が帝国を作り替えりゃあいいだけだろ。」



唐突に言われた言葉に、鬼道は呆然とした。



「お前は強い。それは事実だ。お前ならやれる。私は正々堂々と戦いたい。」



新監督の件なら、どうにかして見せる。
すると、鬼道は言った。



「・・・ありがとう。お前たちとの試合、楽しみにしている。」

「じゃあ、さっそく一緒に練習しようぜ!」

「俺は敵だぞ。」



円堂の言葉に鬼道は一歩後退する。
円堂と零は顔を見合わせた。



「そんなもん、関係ないよな。」

「ああ。」



そんな二人を見て、鬼道はしばらく呆然としていた。
しかし、不敵に笑う。



「そのうちな・・・。」



彼はそれだけ言って歩み去った。

零たち二人はそんな鬼道を見送って笑った。





***




決勝まで、あと二日。
メンバーのモチベーションも下がっているため、練習にも身が入らない。

円堂と零はもう一度響木に監督になってくれるよう、掛け合いに行こうとした。


しかし、校門を出て、すぐに声をかけられる。
二人がそちらを見ると、そこには刑事・鬼瓦がいた。





*   *   *   *   *





「お前たち・・・イナズマイレブンの悲劇は知ってるのか?」



鉄塔に来た三人。

鉄塔に来て、唐突に鬼瓦は尋ねた。
円堂は首を振る。

鬼瓦はそうか、と呟き、語り始める。



「四十年前のフットボールフロンティアで、全国制覇をかけた決勝戦は、雷門中と大会初出場の新星帝国学園だった。」



ポツリポツリと語られる話は恐ろしいものだった。



「信じられないことに、決勝戦へ向かう雷門イレブンの乗ったバスが、ブレーキの故障で事故を起こし、選手たちは怪我をしてしまった。」



彼の眼に、暗い雲のようなものがかかった気がした。
その瞬間を零は見逃さなかった。



「それでもみんな、歩いてでも這ってでも会場に行こうとした。なのに、試合を棄権するという一本の電話が会場に入ったというんだ。」



その結果、帝国は不戦勝。
それ以来、四十年もの間、帝国は無敗を誇っている。



「誰がそんな電話を?」

「まだわからん。」



彼はきっぱりと言った。



「あの電話の裏には何かある。俺はその真相を調べるために刑事になったのさ。」



急な話で困惑させちゃったかな?
その言葉に円堂は苦笑する。



「いえ。貴重なお話、ありがとうございます。」



零が頭を下げていった。



「刑事殿。響木の旦那はイナズマイレブンですよね?」



すると、鬼瓦は笑った。
その瞬間、二人は走り出した。
少し行ってから立ち止まって振り返る。



「「ありがとうございました!!」」





***





「またお前らか。何度来ても答えは変わらんぞ。」



雷雷軒。
零と円堂は響木の説得をしていた。

昔のことを聞いたといっても適当に受け流される。
だんだん腹が立ってきた。


零はダン!という大きな音を響かせて椅子に足をかけた。



「いっぺん試合できなくなっちまったからってなんだよ!?たったそれだけのことであきらめちまったのか!!?」

「そうだ!人生まだまだ終わってねぇぞ!!!」



二人は叫んだ。
腹の底から力を込めて。

それから零は静かに言う。



「旦那。あんたはそんなにちっぽけな人だったのかい?私はあんたにあきれるばかりだ。」



零の静かな言葉に円堂も彼女を見た。
それから一度眼を伏せた。


次に開かれた時。
それはまるで別人のように変わっていた。

鋭い瞳の中心に響木を捕える。



「勝負だ。響木正剛。」



その声に空気はピン・・・と張り付いた。

空気が凍るような感覚が肌で感じられる。


本当に餓鬼なのかさえ怪しい。
響木はこの大人びた少女を畏怖の念を込めて見つめた。



「ちょっと待った!」



そこに空気の読めない声が降ってきた。
いや、これはむしろ空気をあえて読んでいない。

円堂が零に言った。



「俺が勝負する。」



零が眉をひそめた。



「何・・・?」

「だぁかぁらぁ!俺が勝負するの!!」



円堂は零にさえひるまずに反論した。
零の額に青筋が立つ。
引きつった笑顔で零は笑った。



「いぃい度胸じゃあねぇか。なぁ、円堂。」



誰に向かって物を言っている。
彼女の眼はそう言っていた。



「俺が勝負したい!」

「旦那はキーパーだぞ?私が妥当だろ。」



二人がにらみ合う。
いつまでたっても決まらない。



「じゃあ、じゃんけんだ!」

「おお!やってやろうじゃあねぇか!!」



じゃんけんを始める二人を見て響木は思う。

さっきのはただの勘違いだったのでは、と。



(ただの餓鬼だな・・・・。)





***






「くっそ~・・・。」



結局零はじゃんけんに負けてしまい、勝負するのは円堂になった。

三本中三本。
すべてのシュートを止められたら、円堂の勝ちというルール。


しかし、GKだった響木はシュートも強かった。
現役の円堂でさえ、ギリギリ弾けるほどのシュート。
当時は鍛えぬかれた下半身でゴールを守っていたのだろう。



(FWでもイケるんじゃないだろうか。)



そして、二本目のシュート。

先ほどのシュートとは比べ物にならないほど強かった。
離れていても肌で感じるこの風圧。
最後の一本に余力を残していると考えると恐ろしくなってくる。


しかし、円堂もしっかりと止めた。
熱血パンチでシュートをはじいたのだ。



(・・・よう、止めたわ。)



改めてこの世界のすごさを実感する。


そして最後の一本。
三本目は二人とも余力を残すことはなかった。

渾身のシュートに会心のゴッドハンド。

シュートの風圧も比べられるようなものではない。
円堂の迫力だってそうだ。



(どっちが勝つ?)



しばらくの小競り合いののち・・・。

打ち勝ったのは円堂だった。


響木は笑った。



「こいつは驚いた。大介さんがピッチに帰ってきやがった!」



響木は円堂の前に立ち、尋ねた。



「おい、孫!お前、名前なんて言うんだ?」

「円堂守!」

「守か・・・。いい名前だ。」



ラーメン屋雷雷軒店主・響木正剛は、雷門中イレブン新監督・響木正剛となった。











countine.




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