最強少女






ふざけてます?
いいえ、真剣です。



第十一章 不思議な友情





豪炎寺がすまなそうにタクシーに乗り込む。
けれどみんなは笑顔で送り出す。
豪炎寺も少しだけ明るい表情になった。

本人の手前、笑ってはいたが、やはり豪炎寺抜きで準決勝を戦うというのは不安らしい。
土門の励ましでみんなはやる気を取り戻した。


「よし!早速練習だ!!」

『おぉっ!!!』


そう叫んで円堂が駆け出す。
円堂を追って、みんなが走っていく。
零もその後を追った。

後ろで土門と木野が話をしている。
土門が少し困惑したような表情をしていたのは気づかないフリをした。


(お前も、自分を憎むなよ・・・?)





***





部室に戻り、次の対戦相手について話を聞く。
尾刈斗か秋葉名戸か。

しかし、秋葉はこの大会最弱のチームらしい。
自然と尾刈斗に警戒心を向ける流れとなった。

それもそのはず。
秋葉はメイド喫茶に入り浸っているというのだ。
目金が異常な反応を見せたが、そこはあえてスルーした。


「大変です、大変ですー!!」

「どうした?音無。」

「今、準決勝の結果がネットにアップされてたんですけど・・・。」


音無から告げられた結果は衝撃的なものだった。
尾刈斗の敗北。
みんなが秋葉を警戒する。


「これはいってみるしかないですね。メイド喫茶に。」


みんながわけがわからないといった表情で目金を見た。

胡散臭いというか、勢いといえばいいのだろうか?
それとも、巧みな話術か?
とにかく、もっともらしい理由をこじつけた。


「これは試合を有利に進めるための情報収集なのですよ!!」

「なるほど・・・。よし!行ってみようぜ!」


円堂の単純一途という長所を恨んだ瞬間だった。


(うえ~・・・。いきたくねぇぇぇ・・・。)





***





『お帰りなさいませ、ご主人様。』


かわいらしいメイドたちが頭を下げて出迎える。
零が半ば引きずられ気味に扉に前に立つ。


「十三名様ですね?こちらにどうぞ。」

「あ、十二名でいいです。私は付き添いなので。」

「何言ってるんです?ここまできて・・・。」

「テメェが無理やりつれてきたんだろ?」


メイドたちが困惑したような顔をしたので零は仕方なしに店に入った。

席に座るとお冷を出した少女が言った。


「お嬢様、無理やりつれてこられたんですかぁ?かわいそ~。」

「でも、ちゃんと付き添ってるなんてお嬢様、優し~。」


少女たちは零の端正な顔立ちを気に入ったのか、やたら絡んでくる。


「ご機嫌取りは結構だ。」


零が厳しい口調で言った。


「「きゃ~!お嬢様かっこいい!痺れる~。」」


零は額の前で両手を組んだ。


(何なんだろう、この子達・・・。)


零は自分とは違う種類の生物にしか思えないと思った。


「はははっ。モテるね、豪風。」

「冷やかしも結構だよ、松野君。」

「まぁ、わからなくはないよ。豪風かっこいいし。」

「そこらの男じゃ太刀打ちできねぇもんな。」

「そりゃあ、どうも。」


松野と半田、染岡の言葉を軽く流し、零は渡されたメニューを除いた。


「・・・・・。」


ピンクのときめきミルクティー。
麗しの君ジャスミンティー。
魅惑のドキドキハーブティー。


「宇宙語は秘伝書だけで十分だ!日本語を書け!!」


零はメニューをテーブルに叩きつけた。

向こうではメニューを聞かれた円堂がメイド相手に困惑したように対応する。
一つ注文するのにドッと疲れたようだ。


「いけませんねぇ。メイド喫茶に来たら、彼女たちとに交流を楽しまなければ。」


零は切実にこれは本物のメイドじゃないといいたかった。
一応零の家にも召使や女中はいたのでどんなものかはわかる。
もっとつつましく従順なもののはずだ。


「緊張していては逆に彼女たちに失礼ですよ。ああ、僕はときめきピコピコケーキセットを。」

『な、馴染んでやがる・・・。』


さすがに全員が突っ込んだ。
お嬢様の零もたくさんの令嬢やらと交流していたため、メイドには馴染みがある。
しかし、こんな品のかけらもないと感じるメイドは初めてだ。


「ぜってーふざけてる。どこの世にこんなふしだらなメイドがいるってんだ。」


そう呟いた。
すると声が聞こえた。


「失敬な!彼女たちは僕たちの癒しの存在!!」

「じゃあ、もっとしっかりとした主従関係築き上げろよ。」


そこでふと自分は誰と話しているのかという疑問に駆られた。
目金ではない。
だとすれば・・・。


「ふむ。ツンデレ系?いや、ツンツン?ドSメイドというのもなかなか・・・。」


そこにいたのは野部流と漫画。
何を言っているのかは正直わからないが、どこか悪寒と不快感、虫唾が走るのを感じた。


「人を品定めするように見るんじゃねぇ・・・。」


零の低い声とあわせるようにして周りにいたメンバーからも黒いオーラが見えた。

けれど彼らはそれに気づかずに、興味なさ気に店内を見ていた目金のほうを向いた。


「ところで君、なかなか見所があるね。」


見下されているような口調に目金が振り返った。
怪しい二人は彼に見せたいものがあるらしい。

ストーリーが滞るのも面倒なので、零は大人しく彼らについていった。

地下につれてこられた零は呆然とした。


(ありえねぇ・・・。)


何故なら・・・。





***






そこではフィギュアを作ったり、熱心にゲームをする少年らの姿があったからだ。

しかも、そこらじゅうにゲームやら、フィギュアやらが飾られ、並べ立てられている。
目金がそれを見て、知識の片鱗を見せた。


「やはり君なら、ここにあるものの価値がわかったくれると思ったよ。」

「僕たちと同じオタク魂を感じたんでね。」


オタク魂というものは感じられるものらしい。
零は頭痛を通り越して胃痛がするのを感じた。


「ついていけねー・・・。」

「まったくだ。」


半田の呟きに零は思わず同意した。
しかも、今日は一日中、語り合うつもりらしい。

野部流と漫画が目金と握手を交わそうとする。
そんな三人の間に、円堂が割って入った。


「悪いけど、そんなことしてる暇はない。俺たちはもうすぐ大事なサッカーの試合があるんだ。」


すると二人は驚いた。


「おや?君たちもサッカーをするのかい?」

「僕たちも今、結構大きな大会に出ていてねぇ。」


しかし、名前までは覚えていないらしい。
そしてその大会がフットボールフロンティアで、彼らが秋葉名戸だとわかると、みんなは地上にまで届きそうなほどの驚きの声を上げた。





***






夕方の河川敷。
染岡の怒鳴り声が響く。
みんな、気がゆるんでしまっていて、練習にならない。
二年組は一年たちを染岡にまかせ、対秋葉に向けて、ポジションの確認をしていた。



「はあ・・・。駄目だ。みんな、気がゆるんじまってる。」



円堂がやる気のない一年たちを見てため息をついた。



「しかたないよ。あんな連中が準決勝の相手だもん。」

「ですが、仮にも準決勝まで勝ち進んできたチーム。油断は禁物です。」



そうかなぁ?
松野が呟いた。



「全然強そうに見えなかったぞ?」



半田の意見にも一理ある。
しかし、零は言った。



「そんな連中に負けたら、末代までの恥だ。」



零が冷たく吐き捨てるように言った。

空気が凍る。
その時、染岡の怒鳴り声が聞こえてきた。
零はゆっくりと立ち上がる。



「私も一年見てくるわ。シバき倒してくる。」

「しごき倒すなら、まだわかるが、シバき倒すは違うだろ!!」



風丸の突っ込みなど無視だ。
凍てついたオーラを放ちながら、一年たちのほうに向って歩き出した。



「・・・こんなんで準決勝大丈夫かな?」



円堂の最もな疑問には、誰も答えなかった。





***





試合当日。



「すまん、みんな。やはり私の買いかぶりすぎだったかもしれない。」



マネージャーたちをメイド服に着替えさせたりしている秋葉のメンバーを見て零がそう言い放った。


木野と音無はノリノリだ。
しかし、夏未は放心している。


真ん中にいるのが、もし自分だったら、きっと膝をついてしまっていただろう。
マネージャーでなくて、本当によかった。

零は切実にそう思った。



「君もこっちに並んで!」

「豪風さん!一緒に撮りましょう!」



GKの少年がカメラを構えた。
その目はどことなくギラついている
音無が屈託のない笑顔で大きく手を振った。

零はにっこり笑った。



「私、そういう目で見てる奴に写真撮られるの嫌いなんだよ。」



彼女を普通の夢主だと思わないほうがいい。
彼女は鋭い。

彼女に少女漫画のテンプレのようなセリフは期待しないことをお勧めする。



「ほら、さっさと行こうぜ?」



試合前から疲れるなんざ、御免だね。
零は円堂と豪炎寺にそう言って、二人の背中を押した。



「これが、準決勝の相手か・・・。」



豪炎寺が呟いた。
彼も円堂も疲れたような顔をしている。
それは零も同じだった。

三人は疲れたような顔でベンチに向った。





***





円堂からスタメンが発表される。
しかし、肝心の豪炎寺の代わりが決まっていない。



「豪風。FWやるか?」

「いえ、僕にやらせてください。」



目金がしゃしゃり出てきた。
零が心の中でそう思った。

彼は同じオタクと戦ってみたいのか、妙にやる気を感じる。



(試合出たかったなぁ・・・。)



みんな、目金のやる気に押されてしまった。
豪炎寺まで承諾してしまったとなると、もう何も言えることはない。



「ああ、そうだな。豪風を出すと、あいつら危なそうだし。」

「おい、ちょっと待て。そりゃあ、どういう意味だ?」

「そのままの意味だと思いますが?」

「よし、歯ぁ、くいしばれや、目金。」



夏未が反論したものの、円堂は目金のやる気を無下にする気はないらしく、結局豪炎寺の代わりは目金に決まった。



「別に殺しゃしねぇのに・・・。何だよ、危なそうって。」



不貞腐れたようにつぶやく零の頭がなでられる。



「後半は頼むって、円堂が言ってたぞ。」



豪炎寺の声にゴール前にいる円堂を振り向いた。
彼はこちらに向かって手を振っている。

零は立ち上がった。
同じくらい大きく手を振る。



「サンキュー、円堂!やっぱ、円堂、大好きだ!」



円堂は嬉しそうに笑った。






*   *   *   *   *   





前半は悲惨なものだった。

まるで御影の時のようだ。
ボールをキープしたまま逃げ回るサッカー。
それが零の苛立ちを最高潮にさせた。


ハーフタイムも、彼らは作戦を立てたり、フォーメーションの確認など、まるでする気もないかのようにゲームをしている。



「あいつら・・・どう料理してくれようか・・・。」



絶対後悔させてやる。
零は獣のような目で呟いた。





***





零は後半から、栗松と交代でフィールドに立った。
しかし、秋葉は前半とは違い、全員で攻めてきた。



(何で、ああいう奴らは悪知恵が働くんだか・・・。)



前半は体力温存のために捨てる。
何故、体力向上という考えに向かないのか。


スカーフを付けた少年からボールを奪おうと、松野が走る。
松野がボールを奪ったかに見えた。
しかし、彼は、ある必殺技を使っていた。



「アレェ!?」



ボールがスイカに変わっている。
フェイクボールだ。
反則だとは思うが、この世界ではギリギリセーフらしい。
もはや、何でもありだ。


漫画にボールが回る。
すると、一人の少年が漫画の足をつかみ構えた。



「ど根性バッドォ!!!」



ぜってぇ、サッカー技じゃねぇ。
そんな技に、さすがの円堂も反応が遅れた。



(マジかよ・・・・。)





***





試合が再開される。
染岡が攻め込もうとした瞬間、全員で守りの体制に入る。
けれど、染岡は次々に抜き去り、あっという間にゴール前に着いた。


漫画たちがゴール前で変身するかのようなポーズと取り、叫んだ。



「五・里・霧・中!!!」



土煙を巻き起こす必殺技。
染岡は構わずドラゴンクラッシュを放った。
しかし、どんなシュートもゴールには入らない。



(可笑しい・・・。あの技にあんな効力なかったはず・・・。)



零が不審に思う。
誰が蹴っても入らない。
もちろん彼女も蹴ったが入らなかった。



(何かあったはずなんだよ・・・。何か・・・。)



毒物混入や試合後のイベントばかり印象に残っていて何も覚えていない。
だが、確かにあった。
これはダメだろ、というような技が。



「まさか・・・。」



零のゲームでは一度も成功しなかった技。
けれど成功されたら誰もが腹の立つ必殺技。
それだと気付いた零はもちろん切れた。



「私にボール回せぇ!!!」



鬼の形相で叫ぶ零に染岡は素直にボールを回した。
彼の危機察知能力が正しく働いたのだ。



(渡さなかったら、殺される・・・!!)



ボールを受け取った零は飛び上がった。
全力でボールを蹴る。
シュートは打つ人が打てば、星の王子様的なものに見えるものだった。

星が尾を引く美しいシュート。
すいせいシュートだ。

彼女はすいせいシュートを放ってしまった。


けれど、シュートは明らかにゴールとはずれていた。



「ぎゃっ!!!」



先ほど写真を撮っていた少年の悲鳴。
シュートは彼にあたったらしい。

ボールは跳ね返り、染岡の足元に転がった。



「無理やりにでも、ゴールをこじ開けてやる!!」

「シュートを打ってはいけません!!」



スライディングでボールがはじかれる。
ボールはコートの外へ。

土煙がはれると、目金はゴールのところでゴールの引っ張り合いをしていた。



「貴様、何故わかった!」

「仮面ソイヤー第二十八話、怪人砂ゴリラの土煙の煙幕作戦。あれを思い出したのですよ。」



彼はそういった。

なるほど、あれはアニメが元ネタの必殺技だったのか。
しかし、それってどうだろう?
それにまんまとはめられるほうもだが・・・。



(もうやだ、秋葉名戸。)



零が肩を落とした。
こんなに萎える試合は初めてだ。



「これが君たちの勝ち方ですか!」

「僕たちは絶対に優勝しなければならないんだね!!」



救いようがない。
彼らは、この汚い勝ち方を自分たちの勝ち方だと思い込んでいる。
零は怒りを通り越し、どこか悲しいような、さみしいような気持ちになった。





***





半田からのスローイン。
目金が叫んだ。



「僕にボールを回してください!」



円堂にも回せと言われ、驚き、戸惑うが、目金の目は真剣なものだった。
半田はそれに押され、意を決してボールを投げた。
目金はしっかりとボールを受け取り、駆け上がった。



「ここは通さん!」



スカーフの少年が叫んだ。
店長兼監督とアイコンタクトを取るのを見て、零はため息をついた。



「正々堂々、悪に立ち向かう。それがヒーローでしょう!スイカとボールを入れ替えて、相手を欺くなど、ヒーローの技ではありません!!」



目金の説教が心に刺さったのか、彼は自分で仕掛けたスイカに転んだ。
そのまま目金は説教をたれながら駆け上がる。



(目金の説教が冴えわたってる・・・。)



怒涛のドリブルで目金はあっという間にゴール前に来た。
彼の説教は冴えわたるが、GKの少年だけはあきらめなかった。
目金は染岡にパスを出し、叫んだ。



「染岡くん!ドラゴンクラッシュを!!」

「だけど・・・。」

「僕に考えがあります!!」



そう言って、彼はさらに速度を上げ、走った。
染岡は彼を信じ、ドラゴンクラッシュを放った。



「ゴールずらし!!!」



GKの少年が技を発動させた。

─外れる。
誰もが思った。


その瞬間、目金がボールの前に顔を出し、シュートの軌道を変えた。
ゴールが決まり、同点になった。



「メガネクラッシュ・・・。」



彼はそう呟いて倒れた。



(あっぱれ・・・。)



零はついて行けねーと思いながらも拍手を送った。





***





「後は頼みますよ、土門君。」



担架に乗せられた目金は言った。
土門はうなずく。


秋葉に少年らが、何故そこまでして自分たちを正そうとしたのかと尋ねてきた。
自分を犠牲にしてまですることなのか、と。



「目を覚ましてほしかったのですよ。同じオタクとして・・・。サッカーも悪くないですよ。」



彼らは目を覚ました。
もう、卑怯なことはしない。
彼らは目金に誓った。



「俺たちだって、負けられねぇ!目金が体を張って同点にしてくれたんだ!みんな、絶対逆転するぜ!!」

『おぉ!!!』





*   *   *   *   *





全力を出すサッカー。
お互いが全力でぶつかる。

染岡のドラゴンクラッシュで一点をとり、2対1で雷門が勝利をおさめた。





***





試合が終了し、何故そこまで優勝にこだわっていたのかと尋ねてみた。

フットボールフロンティアに優勝すると、アメリカ遠征という特典が付いてくるらしい。
アメリカ限定フィギュアを買うつもりだったそうだ。



「さよなら、レイナ・・・。永久に。」



すると目金は絶対優勝し、フィギュアを買ってくることを約束した。



(不思議な友情だ・・・・。)



それは零にはよくわからない友情の形だった。



「すごいやつだったんだな、目金。」



円堂の純粋な意見には素直にうなずいた。



(・・・次は決勝か。)



相手はもちろん帝国だ。
零は笑った。



(楽しみだな。帝国。)



その目は勝利という獲物をむさぼる獣のようだった。











continue.




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