最強少女
これはサバイバルか何かですか?
第九章 地下の秘密特訓場
「よーし!行け行け!左だ!もっとプレッシャーかけろ!!」
円堂が指示を出す。
零にボールが回る。
シュートを放つが熱血パンチで止められた。
橋の上から歓声が上がる。
何人かがそちらを振り返った。
「なんか、最近ギャラリー増えてないか?」
半田の呟きに零も橋の上を見た。
「どうした、どうした。動きとめるな。」
円堂がゴール前から駆け上がってきた。
零は肩をすくめると、風丸が不意に言った。
「もしかして、ついにできたのかな?」
「何が?」
「俺たちのファンだよ。」
その言葉に驚き、円堂がボールを落としかける。
しかし、すぐに喜び始めた。
「さぁ、練習、練習!必殺技にもっともっと磨きをかけるぞ!!」
零が口を開きかけたときだった。
リムジンがフィールドに突っ込んできたのは。
車から降りた夏未は険しい表情で言った。
「必殺技の練習は禁止します。」
彼女の言葉に円堂がいきり立つ。
彼の襟首を持ち上げ零が言った。
「放せよ、豪風!てか、お前結構力あるんだな!?」
「悪いかよ。てか、阿呆かお前は。無名のチームが連勝を続けて他校の偵察隊がつかねぇわけがねぇだろ。」
その言葉に絶叫される。
悲しいことに、彼らにはファンもスパイも個人にはいたかもしれないがいなかった。
弱小といわれるチームはたいていこんなものだ。
いきなり音無が立ち上がった。
「偵察されてるとなると、必殺技の練習はライバルにこちらの手の内を見せちゃうことになるんですね!」
「そのとおりよ。だから、禁止します。」
夏未の言葉に豪炎寺がうなずいた。
「確かに必殺技を研究されるのは不利だ。」
円堂が反論しようとするのを零が口をふさぎ、止めた。
「必殺技だけがサッカーじゃねぇんだよ。まず、お前たちには基礎的な技術が足りてねぇ。基礎がしっかりしてれば、応用である必殺技は強力になるんだよ!」
必殺技は二の次!わかったか?
口をふさいでた手を離したずねた。
「だったら!誰にも見られない練習場で練習しよう!必殺技のさ!!」
零がこめかみを押さえる。
豪炎寺が困ったように言った。
「そんな場所、どこにあるんだ。」
「でもさぁ、必要だろ?」
そんな円堂を見て、夏未が盛大なため息をついた。
***
「あいつら闇討ちでもしたら消えてくれるかな。」
毎日毎日飽きもせず偵察を続ける連中を見て、零がとんでもないことを言い出した。
この分では当分必殺技の練習はできない。
さすがに頭にきたらしい。
目が据わっている。
「落ち着け豪風。そんなことしたら・・・。」
「阿呆か。んなことするかよ。」
一緒に柔軟をしていた豪炎寺が、少し焦った様に言った。
私はどんな目で見られているんだ、と思いながら零は肩をすくめた。
(てか、そんなことすんなら口外する気もなくなるくらい肉体的に追い詰めるから別に平気なんだけどな。)
零が息をつく。
それから続けた。
「負けるのはいやなんだ。あいつらだってそうだろうし、大会の出場経験がないから不安だと思う。必殺技だって付け焼刃だ。」
不安を取り除いてやりたい。
そういうと豪炎寺は微笑んだ。
「優しいんだな。」
「・・・・まさか。私のは偽善だよ。」
零の細い肩が更に細く見えた。
豪炎寺が零に声をかけようとする。
しかし、その瞬間、土門が叫んだ。
「オイ!なんか変なのが来たぞ!!」
土手の上に大型のトラックが二台。
中にはアンテナやらの機械類がつめこまれている。
その中心には二人の少年がいた。
(杉森威に下鶴改・・・だったか?)
零が御影専農のキャプテンとエースを見つめてため息をついた。
(洗脳されてるあいつらは、どことなく祖父母様に似てるんだよな・・・。)
零が肩を抱いた。
それからすぐに彼女は柔軟に戻った。
二人が自分を見ていたような気がしたのは勘違いだということにしておいた。
***
零たちはシュート練習をしている。
けれど零はあまり良い顔色はしていなかった。
どことなくボーっとしている。
彼女の番になっても零は動かない。
不審に思った円堂が零に駆け寄った。
「大丈夫か?豪風。」
円堂が声をかけて、やっと我に返った。
「え、あ、すまん。ボーっとしてた。」
「珍しいな、豪風がボーっとしてるなんて。具合でも悪いのか?」
「いや、大丈夫だ。ちょっと考え事してた。」
円堂はじっ、と零を見て、そっか!と笑った。
しかし、笑顔はすぐに消えた。
なかなか必殺技を使わない彼らにしびれを切らしたのか、御影の二人がフィールドに下りてきたのだ。
「御影専農のキャプテンだよな。練習中にグラウンドに入らないでくれよ。」
珍しく喧嘩腰な円堂。
しかし二人はそれを華麗にスルーた。
「何故、必殺技の練習を隠す。」
「いまさら隠しても無駄だ。すでに我々は君たち全員の能力を解析している。」
二人はどこまでも淡々と言った。
零が悲しそうに二人を見つめる。
「評価はDマイナスだ。我々には100パーセント勝てない。」
杉森の言葉に円堂は笑った。
「勝負はやってみなくちゃわからないだろ?」
「勝負?これは害虫駆除作業だ。」
その言葉にみんなが切れた。
しかし、みんな内心不安だった。
真っ先に切れると思われた、零と円堂が妙に静かだからだ。
しかも、みんなの怒声を止めたのは意外にも円堂だった。
円堂が燃えている。
「落ち着けよ、円堂・・・。」
零がそう呟くが彼には聞こえていない。
零はため息をついた。
それから一番後ろに行って、淡々とした口調に耳をふさいだ。
これ以上聞いているといやなことしか思い出せない。
兄と姉が家を出て行ってしまったこと。
祖父母にボロボロにされたこと。
二人が父を嫌い、本家にいる母に会えなかったこと。
家族全員がそろったことなど一度もない。
そして杉森と下鶴。
二人は祖父母に洗脳された部下たちを思い出す。
零にはそれが悲しくて仕方がなかった。
(祖父母様を嫌いになれたら楽になれるかな・・・?)
零はとうとうしゃがみこんでしまった。
吐き気がする。
頭が痛い。
眩暈がする。
立っていられない。
そんな零の肩を誰かがたたいた。
肩に置かれた手を目で追っていく。
そこには半田の心配そうな顔があった。
「大丈夫か?豪風・・・。」
彼が隣にしゃがむ。
零は精一杯の笑顔でうなずく。
「無理に笑うなよ・・・。顔色もよくないし。具合でも悪いのか?」
零は首を振る。
しかし、何も答えはしない。
「・・・豪風が元気なさそうなの、はじめて見たから心配でさ。無理はすんなよ?」
零は少し気が楽になり、うなずいた。
「ありがとう。少し、いやなことを思い出しただけだ。」
零はそういって立ち上がった。
気丈な振る舞いを忘れない。
颯爽と歩き、プログラム入力失敗中の円堂の元に向かった。
だが、今の零が言ったところで、何も変わることはなかった。
***
ゲームではなかったイベント。
杉森・下鶴対円堂の決闘。
お互いのシュートを止められるかどうかで勝敗を決めるというもの。
普段の零なら止められたのだろうが、精神的に弱っている彼女に止めることはできなかった。
結果は雷門の負け。
完全にコピーされたファイアトルネードは止められず、豪炎寺のオリジナルファイアトルネードは容易く止められてしまった。
(何で止められなかったんだ・・・。)
零の心は沈む一方だった。
(こんなんで勝てるわけないじゃん・・・・。)
* * * * *
学校に戻り、対御影の作戦会議をすることになった。
しかし、零は半田や壁山たちと練習をしていることにした。
今、会議に加わっても、何の役にも立てない。
「豪風さん。」
ふと、声をかけられる。
振り返ると、そこには夏未がいた。
「・・・元気がないように見えるけど、頼みごとをしても大丈夫かしら?」
零がうなずく。
すると夏未が言った。
「みんなを校舎裏に集めてくれるかしら?」
***
校舎裏。
昼間なのに薄暗いその場所は妙な雰囲気をかもし出している。
目を引くものは土で作られた鎌倉のような物しかない。
(まさか、な?)
零はもしそうであったら楽しみだ、と少し元気が沸いた。
「「豪風。」」
豪炎寺と半田が同時に声をかけてきた。
二人は驚き、顔を見合わせる。
「どうしたんだ?」
零がたずねると、豪炎寺にすまなそうな視線を送りながら半田が言った。
「えと・・・。もう、大丈夫なのか?」
彼女は一瞬キョトン、とした表情になりうなずいた。
すると豪炎寺が呟くように言った。
「さっきの・・・、偽善っていうのは・・・?」
零の表情が一瞬だけ曇る。
それから無表情に囁いた。
「そのまんまの意味だ。」
そういった瞬間、すさまじい悲鳴が上がった。
三人が顔をしかめる。
耳が痛い。
土の鎌倉の扉の中から出てきた夏未に驚いたらしい。
夏未が髪を払い言った。
「みんなそろったわね。」
数人は呆然とし、数人は呆れている。
零には夏未の立つ後ろに地下へと続く階段が見えた。
(あ、やっぱり・・・。)
零の表情が明るいものに変わった。
***
暗い階段を下りる。
降りた先には扉があった。
扉が自動で開き、明かりがつく。
「ここは?」
「伝説のイナズマイレブンの秘密特訓場よ。」
その言葉に絶叫するメンバー。
零は嬉しそうに辺りを見回す。
「随分と楽しそうだね。」
松野が言った。
零は嬉しそうにうなずく。
周りにいた奴らに、ほほえましいというような目で見られたような気がしたが、気づかなかったということにしておいた。
(気のせいじゃないのがちょっと悲しいけど・・・。)
* * * * *
そしてイナビカリ修練場を使った特訓は始まった。
始まってすぐ、あちこちから悲鳴が上がった。
けれど、零は何度もこけて、その度に死にそうになり叫んでいるがすごく楽しそうに笑っている。
(よかった・・・。)
そんな零を見て、心からほっとする。
それが誰かはまだ言わない。
***
やっと一連の特訓が終わった。
みんなボロボロだ。
これはもはや、特訓とかではない。
命がけのサバイバルだ。
「結局、新・必殺技はできなかった・・・。」
半田が呟いた。
「元気出せ。イナズマイレブンと同じ特訓を乗り越えたんだぜ!」
円堂の言葉に豪炎寺と零がうなずいた。
「そのとおりだ。この特訓は無駄にはならない。」
「ああ。それにすごく楽しかった。久しぶりに疲れたよ・・・。」
零の言葉に小さな笑いの渦が起こった。
「よーし!試合まで一週間!毎日続けるぞぉ!!」
『おぉ~・・・。』
円堂への返事は小さかった。
けれど力ない手はちゃんと挙がっていた。
* * * * *
そして一週間がたった。
試合当日。
メンバーは御影のサッカー場を見て驚いていた。
アンテナがあり、レーダーがある。
代表して半田が呟いた。
「これ・・・。ほんとにサッカー場か?」
誰もが思った。
否、円堂は思っていなかった。
「アンテナがあろうとなかろうと、サッカーには関係ないさ。」
「いや、確かに関係はないが。」
なら何故ある。
零が即座に突っ込んだ。
関係ない以前の問題だ。
「てか、ここ、軍事施設か何かだろ。ぜってー悪の根城か要塞だ。」
そのもっともな突込みには誰も触れない。
気を取り直して円堂が言った。
「いくぞ!」
『おお!!!』
***
零はさっさと着替えて控え室を出た。
御影の選手なら誰でもいい。
とにかく出会えればいい。話せればいい。
曲がり角を曲がろうとした瞬間。
そこには誰かがいた。
零は無意識にサッカー仕込の鮮やかなターンでその人物をよけた。
「すいません、大丈夫・・・。」
顔を上げる。
そこには驚いたような顔をした下鶴がいた。
「下鶴改・・・。」
零も驚く。
下鶴はすぐにいつもの無表情に戻った。
そして彼はそのまま歩み去ろうとする。
「ちょっ・・・待て、改!」
零が彼の手をつかみ、引き止めた。
彼はまた驚いた。
「ちょっと話そうぜ?」
「・・・何故。」
零の表情が曇る。
けれど手を握る力は強くなる。
「・・・・なぁ、そんなサッカーしてて楽しいか?」
彼は首をかしげた。
意味がわからない。
そんな表情をしている。
「そっか。わかんないか。」
零は儚い笑みを浮かべていた。
「楽しいサッカーしようぜ?」
次の瞬間には、いつもの獰猛な笑みで塗り固められていた。
END