最強少女
青き竜は炎を纏いて赤きに染まる。
第六章 俺たちの一点は
「これで豪炎寺はサッカー部の一員だ!」
円堂が入部届けを見て、嬉しそうに言った。
「皆、仲良くやろうぜ!」
「豪炎寺修也だ。」
皆が嬉しそうにする。
けれどその中で一人、輪を乱す人物。
染岡だけは豪炎寺の入部に反対した。
それこそまさに断固拒否だ。
「ストライカーは俺一人で十分だ。」
「結構つまらないことにこだわるんだな。」
「つまらないことだとぉっ!?」
豪炎寺の襟をつかんで睨みあう。
険悪なムード。
今にも殴り合いになりそうだ。
ドアのそばにいた零には外の音が聞こえた。
これは使える、とにやりと笑った。
「ほほえましいねぇ、お二人さん。そろそろマネージャーたちが来るぜ?喧嘩してていいのかい?」
それとも殴って止められたいか。
零が笑って尋ねると染岡は手を離した。
丁度その時、ドアが開いた。
「皆いるー?」
「これ見てください!」
木野と音無だ。
音無がDVDを見せた。
早速それをパソコンでみる。
尾刈斗中の試合だ。
妙な噂の絶えない中学。
試合中にもその妙な事が起こった。
足が動かないのだ。
上半身は動かせても、下半身だけが動かせない。
彼らと試合をしたものは皆こう言う。
尾刈斗中の呪いだ、と。
(呪いなんざ、否定する気も肯定する気も起きねぇよ。)
零は心の中で呟いてため息をついた。
***
試合当日。
尾刈斗中が来るまで、皆はアップをするなり、緊張をほぐすため雑談するなりしていた。
ふと、零は校門の方を見る。
何となく視線を感じたのだ。
そこには見間違いか?と思うほどの人物がいた。
ドレッドにゴーグルの少年と、褐色の肌に眼帯の少年。
言わずと知れた帝国のキャプテンと参謀。
鬼道と佐久間だ。
(まだ尾刈斗中の奴ら来てねぇし、別にいいか。)
そう思って二人の方に駆けていく。
「おーい、帝国二人ー!」
二人に声をかける。
二人は驚いたように零を見た。
しかし、すぐに佐久間は威嚇するような表情になった。
何かしてしまっただろうか?
しかし、身に覚えがない。
「おい。どうしたんだ、こいつ。」
鬼道に尋ねる。
すると鬼道は案外簡単に答えを返してくれた。
「ああ。この前の練習試合でいきなり乱入してきた誰かに、片手でシュートを止められたことが相当ショックだったらしい。」
あの後、しばらく声も届かないほど落ち込んでたぞ。
その言葉に零は悪いことをしたな、と頬をかく。
「あ、まだ自己紹介してなかったな。私は豪風零だ。よろしく。」
鬼道は一瞬驚き、答える。
「鬼道有人だ。こっちは佐久間次郎だ。」
それより行かなくていいのか?
そう言ってフィールドを示される。
フィールドにはもう、尾刈斗連中が集まり、何人かはもう、整列を始めていた。
「うわっ!ヤベ!じゃあな、鬼道、佐久間!」
そう言って零はフィールドに向かって走った。
***
整列が完了し、監督同士が握手を交わす。
尾刈斗中監督の地木流が真っ直ぐ豪炎寺のところに来る。
「君が豪炎寺君ですね?帝国戦で君が打ったシュート、見せてもらいましたよ。」
豪炎寺以外に興味はない。
彼はそう言っている。
「いやはや、まったくもって素晴らしかった。今日はお手柔らかにお願いしますね?」
すると地木流は訳がわからないという表情をする。
「はぁ?これは滑稽ですね。我々は豪炎寺君と戦ってみたいから練習試合を申し込んだんですよ?」
弱小チームである雷門中など、興味ありません。
地木流はそう言って肩をすくめる。
どこまでも馬鹿にしている。
「何ィッ!?」
染岡がいきり立つ。
しかし、その瞬間、円堂が止める。
「やめろ、染岡!」
円堂が染岡の肩をつかみ言った。
地木流は嫌味な笑みを浮かべてる。
「せいぜい豪炎寺君の足を引っ張らないようにしてくださいね?」
そう言って踵を返す。
しかし、彼は知らなかった。
雷門には猛獣がいることを。
「失礼ですが、地木流監督。」
零が一歩前に出た。
「先ほどの言葉。一つ残らず訂正していただきたい。」
すると彼が振り向いた。
そして目を光らせる。
「君ですか・・・。帝国に啖呵を切った少女というのは。」
何故知っているのかはスルーしておく。
ここで突っ込んではいけない気がした。
「それほどの実力があるのか・・・いやぁ、楽しみですねぇ。」
零はにっこり笑う。
「それは今から見せてやらぁ。さっさと訂正しろ。」
鋭く吊り上った眼に気圧される。
しかし、彼は謝罪の言葉の一つもない。
むしろ彼女の地雷を踏んでしまった。
「何故です?本当のことでしょう?」
その言葉に地雷は爆発した。
「こいつらの努力をしらねぇテメェが、好きかって言っていい道理はねぇんだよ!!」
それだけ言って踵を返す。
「地面の味を覚えたくなかったら、勝敗を見て地に這いつくばるんだな。」
***
そして、試合は開始された。
開始早々、雷門はゴール前まで攻められた。
「喰らえ!ファントムシュート!!」
しかし、円堂も負けてはいなかった。
ゴッドハンドでシュートを止める。
「皆!落ち着いてこうぜ!」
風丸が上がり少林寺にパスを出す。
少林寺が豪炎寺にパスを出そうとするが三人ものマークの付く彼にパスを回すのはリスクが大きい。
「こっちだ!少林!!」
染岡の声にノーマークの彼にパスを出す。
そのまま彼はゴール前までボールを持ちこんだ。
彼のシュート・ドラゴンクラッシュがゴールを割った。
(これで調子に乗らないといいが・・・。)
しかし案の定・・・。
「大したこと無さそうな奴らでやんす。」
「ビビりすぎてたんだよ、俺たち。」
零は肩を落とした。
「よし!ガンガン攻めようぜ!」
半田が元気よく言った。
彼女は近くにいた半田を一発殴る。
「何すんだよ!?」
「勝負は最後まで何が起こるか分からない。調子に乗りすぎると足元すくわれて、敗北するぞ。」
そういうと半田は押し黙った。
しかしまぁ、今日の染岡は調子がいいようで、あっという間に2点目を奪った。
「ぃやったぁ!やったぜー!」
半田が飛び上がって喜ぶ。
皆が喜びの歓声を上げる。
そんな中、零と豪炎寺は浮かない顔をしていた。
***
「まさか、豪炎寺君以外にもあんなストライカーがいたとは予想外でしたよ。雷門中のみなさん!」
地木流が立ち上がりそう言ったかと思うと彼の人格変貌が始まった。
(来る・・・!)
第二章最大にして最悪の難関。
ゴーストロック。
「マーレーマーレーマレトマレー・・・。マーレーマーレーマレトマレー・・・。」
怪しすぎる呪文に零はこけそうになった。
それに突っ込まない、メンバーにも突っ込みたいがあえて突っ込まない。
試合中に余計なことに体力を割いていられない。
そんなことを考えているうちにも、尾刈斗メンバーは攻めあがってくる。
ゲームでは見られなかった次々に換わるフォーメーション。
目が疲れる上腹が立つ。
味方のマークについてしまうなど散々な目にあっている。
(こういうときにスピニングカットとかで吹き飛ばせたらすっきりしそうだ・・・。)
ディフェンスラインの近くに立つ零の目の前にはボールを持った三途がいる。
回りの指示など耳に入らないほど彼女はストレス発散を考えていた。
「一丁、やってみるかな・・・?」
零は飛び上がった。
思い切り足を振りかぶる。
地面を切り裂き、切り裂かれたところから衝撃波の壁が生まれる。
(目玉焼き作れるようになるのに二週間かかった私が一発で必殺技かよ・・・。)
はじかれたボールは幽谷に回ってしまったが、彼女の頬は上気していた。
(ヤバイ、すっげぇうれしい・・・。)
零は笑いながら幽谷を追いかけた。
しかし、あの技が発動した。
「ゴーストロック!!!」
その声とともに体は動かなくなる。
否、彼女は動けた。
(催眠術にも相性はある。私に効くかよ。)
催眠術は暗示にかかりやすい人間。
つまり、疑いを持たない素直な人間にかかりやすい。
雷門のメンバーなど格好の餌食だ。
単純一途で素直な円堂がかからないはずもなく、ゴールはあっさりと決まった。
(こいつらにはあとで人を疑うことを教えよう・・・。)
そう考え、やめた。
(特に円堂にはやめておこう・・・。)
それが彼らのいいところだ。
そして弱点でもある。
(疑い、嫌われ、一人になるのは私だけじゃあない・・・。)
彼女は清々しい笑みで笑った。
***
試合は雷門から。
点を取られたのが悔しかったのか、いきなり染岡が一人で攻めあがった。
豪炎寺の静止の声も聞かない。
しかたなしに一緒になって攻めあがる。
染岡はどんどん相手を抜き去りゴール前にいる。
けれど彼のシュートは決まらない。
尾刈斗中GK・鉈の必殺技、ゆがむ空間だ。
(私にシュート技があれば、こいつをゴールにねじ込めるのに・・・。)
ボールは幽谷に回る。
風丸の指示でディフェンスラインが下がった。
けれど、彼にあわてた様子はない。
止められることはないという絶対的自信がある。
それは過信ともいえる。
(あいつ、シバきてぇ・・・。)
またしても皆の足が止まる。
幽谷に点を取られ、得点は2対2。
あっという間に三点目もとられてしまい、前半は終了した。
そこには歓声はなく、虚しいほど小さなざわつきがあった。
***
部室に戻っても、皆に暗い表情は変わらない。
壁山が呪いだ、怖いだとわめき散らす。
「そういえば、あの監督が呪文をつぶやき始めてからだよな。尾刈斗中が変な動きしだしたのって。」
「いわれてみれば、確かに。」
「じゃあ、あの呪文に秘密が?」
あれほどのパフォーマンスをされて気づかないほうがおかしい。
というか、今まで気づかなかったのか。
「答えは試合中に見つけるしかないな。」
円堂が続ける。
「とにかくボールをとったらすぐFWに回して、シュートチャンスを増やすんだ!まだまだ一点差!必ず逆転しようぜ!!」
皆がうなずく。
「頼んだぜ。豪炎寺、染岡。」
「ああ!今度こそ決めてやる!!」
そう宣言する染岡に対し、豪炎寺はずっと何かを考えているようだった。
そんな彼に零は声をかける。
「おーい、口下手君。」
「口下手で悪かったな。」
豪炎寺がそれだけ言って、また考え込む。
零は肩をすくめて小さくいった。
「そんなんじゃ誤解受けちまうぜ?一度受けた誤解という溝はなかなか埋まるもんじゃない。」
豪炎寺が振り向いた。
けれど彼女は、それに気づかないフリをして部室から出て行った。
(後半が始まる・・・。)
零は空を仰いだ。
***
後半の始まりを告げるホイッスル。
豪炎寺がいきなり、少林寺にバックパス。
皆は豪炎寺に講義の怒声を浴びせる。
(あの馬鹿、なんにもわかってねぇ!)
零は舌打ちした。
「闇雲に向かっていっても勝てない。まだだ。まだ、早いんだ。」
そう答える豪炎寺に染岡は舌打ちをする。
「腰抜けめ!少林、来い!」
そう叫んで走り出すが、尾刈斗のディフェンスに道を阻まれた。
どうやら、染岡を抑えるつもりらしい。
少林寺が半田にパスを出す。
しかし、半田はマークのついている染岡にパスを出した。
けれど、そのボールは屍によりコートの外に押し出されてしまった。
「くそっ・・・!」
染岡が悔しげな声をあげる。
半田の周りに一年たちが集まった。
「半田先輩!何で豪炎寺先輩にパスしないんですか!」
「豪炎寺さん、ノーマークだったのに!!」
「だって、あいつにボール回したって、シュートしないだろ!!」
仲間割れ。
相手にとっては好都合。
頭に血が上って、そんなことも忘れているらしい。
(見苦しい・・・。)
零はそんな様子を険しい顔で見守っていた。
***
宍戸からのスローイン。
少林寺に回す。
染岡が走り出すが、彼は豪炎寺でないとゴールは決められないと染岡にボールを回さない。
零の顔が鬼に近づく。
染岡が舌打ちをして、豪炎寺の隣についた。
「ボールをよこせ!」
「やめろ、染岡!確かめたいことがあるんだ!」
けれど、染岡はかまわずにボールを奪い、がむしゃらにシュートを放った。
仲間割れなど、相手の思う壺だというのに・・・。
染岡のシュートは、やはりゆがむ空間に止められた。
一年たちの落胆したような声。
絶望した表情で崩れ落ちる染岡。
先ほどまで冷静にあきれていた風丸が、零の表情の変化を見て取った。
「ぅおあっ!?お、おい、豪風!?」
零がとうとう切れてしまった。
「いい加減にしろ、テメェら!!!」
グラウンドどころか、雷門中全体に響くような怒声。
彼女の表情はなんと形容したらいいのかわからないほど恐ろしかった。
「サッカーの勝利は自分ひとりで得られるものじゃねぇ!そんなこともわからねぇてめぇらがフットボールフロンティアに出るだと!笑わせんな!!」
零はギッと一年たちをにらんだ。
「ほんの数日前にできた付け焼刃の必殺技がファイアトルネードに劣るのは当然だろうが!!」
「「す、すいません!!」」
零は染岡の前に立った。
「お前は努力してドラゴンクラッシュを手に入れたんだ。誇っていい。自分の努力を信じていい。そして、仲間を信じるんだ!」
無理やりに染岡を立たせ、自分のポジションに戻る。
毅然として歩き、堂々たるその構えは王のようだ。
そんな彼女を見て円堂が笑う。
きつくグローブを占めなおし彼はいった。
「絶対に止めてみせる!!」
***
ころころと入れ替わるフォーメーション。
腹立たしいほど耳につく怪しげな呪文。
彼らの固い意思とは裏腹に、弱い体はゴーストロックにかかってしまう。
皆の足が動かなくなる。
(原理はわかってんだけど、これはあいつらが解決しなきゃいけねぇことだ。てか、わざと催眠術にかかった振りしなきゃいけねぇのが腹立つなぁ。)
自分の意思と間逆のことをしなければならないというのはかなりのストレスになる。
するとパチン・・・という小さく乾いた音がした。
「ドッカーン!!!」
円堂の叫びを聞いて皆の体が自由になった。
けれど、零はハーフウェーラインのすぐそばにいる。
(間に合わない・・・!)
けれどそんな心配は不要だった。
円堂が拳を強く握り、力をこめる。
「熱血パンチ!!!」
円堂がファントムシュートをはじいた。
風丸や壁山が周りに集まる。
零もそちらに向かった。
どうやら、ゴーストロックの説明をしているようで、真剣な表情をしている。
「つまり!俺たちは目と耳をごわんごわあんにされていたんだよ。」
零がこけた。
いったいどんな説明をしたんですか。
風丸がこめかみを押さえる。
「つまり、視覚・聴覚に訴える催眠術ってところだな。」
見かねた零がそう説明した。
「催眠術?」
「それで、キャプテン、ゴロゴロドカーンって・・・。」
「そんなことより、僕の台詞とらないでくださいよー!!」
叫ぶ目金に零は心の中で知るかと呟いた。
いかんせん、彼はこんなキャラである。
「で、さっきの叫び声で止まれって言う暗示を打ち消し、金縛りをといたんだよ。」
「そんな単純な秘密だったなんて・・・。」
木野の言葉に零はうなずいた。
「単純だからこそ、気づかれやすい。だから、あの監督は、わざと挑発したんだ。」
冷静さを失わせるために。
目金が落ち込むが気にしない。
地木流が高らかに笑った。
「ひゃははは!やっと、気づきやがったか!だが、もう遅いぜ!!」
「まだ、終わっちゃいない!俺たちの反撃はこれからだ!!」
そう叫んで、ボールを蹴り上げた。
「FWにボールを回すんだ!少林!!」
「でも、キャプテン!染岡さんのシュートじゃ・・・!」
「あいつを信じろ!少林!」
円堂は静かに言った。
「あの監督の言うとおり、俺たちはまだまだ、弱小チームだ。だから、一人ひとりの力を合わせなくちゃ強くなれない!」
「円堂・・・。」
零は少しだが、感動していた。
本家に住めば、いろいろな意味で強くなれる。
しかし、それは圧倒的な代償を支払わねばならない。
人を信じてはならない。独りでも、強くあらねばならない。
円堂のいうような感情を持つなどもってのほか。
ありとあらゆる拷問や、殺しに脅迫、心理戦に武器の使い方。
ひと以下の行いを繰り返すうちに感情は打ち消される。
それは最も非人道な洗脳だ。
それ位しなければ裏の世界でやっていけない。
けれど、悲しいことに、彼女と彼女の母は強い意志を持っていた。
人として最低の行いをすべて自分の意思で行わなければならなかった。
それを行わせた先代当主である祖父母のことは愛しているが、計り知れない恐怖を植えつけられた。
だから、円堂の言い分が感動するほどうれしかったのだ。
円堂がこんなに頼もしく思えたのは初めてだった。
***
「俺たちが守り!お前たちがつなぎ!あいつらが決める!俺たちの一点は、全員でとる一点なんだ!!」
そのたった一言に全員が動かされた。
全員でいっせいに駆け上がる。
少林寺が染岡にボールを回す。
彼は驚いたように少林寺を見た。
彼は親指を立てて笑っていた。
屍がボールを奪おうとするが、今度は取らせない。
うれしそうに笑って駆け出した。
(いい表情してやがる。)
零もうれしそうにフィールドをけって走り出す。
「無駄無駄ァ!鉈がゴールを守る限り!俺たちの勝利は確実だぁ!!」
ゆがむ空間を見た染岡が苦しそうにする。
それを見て、豪炎寺は何かを確信した。
「奴の手を見るな!あれも催眠術だ!平行感覚を失い、シュートが弱くなるぞ!!」
「お前・・・!ずっと、それを探ってたのか!」
染岡が悔しそうに目をそらす。
(やっぱり、すげぇやつだぜ。それに比べて、俺は・・・俺は!)
染岡から、ボールを奪おうと、DF二人が立ちはだかった。
けれど彼はかまわずシュートの体制にはいる。
皆が驚きの声をあげる中、零は笑っていた。
染岡がドラゴンクラッシュを放つ。
それはカーブを描き空へ空へと向かう。
「どこ狙ってんだよ、染岡!!」
半田が叫ぶ。
呆気にとられている尾刈斗のDFを抜き去り、豪炎寺が飛んだ。
それを見て、円堂は悟った。
「違う!シュートじゃない!パスだ!!」
零が大きく息を吸った。
豪炎寺が染岡のドラゴンクラッシュにあわせファイアトルネードを放つ。
青い竜は炎に包まれ、赤く染まる。
赤い竜は赤々と燃え上がりながら鉈ごとゴールネットに突き刺さった。
これで、同点だ。
零がゴール前にいる二人に向かって叫んだ。
「かっけぇぞ、ツートップ!!」
零は楽しそうに笑った。
***
「やってくれたな。染岡、豪炎寺!」
二人の肩に手を置いて円堂がいった。
試合は終わった。
4対3で雷門が勝利を収めた。
最後はやはり、二人の新・必殺技。
つい先ほど目金によって名づけられた、ドラゴントルネードがゴールを割ったのだ。
「お前たちのドラゴントルネードが教えてくれたよ。一人じゃできないことも、二人で力をあわせればできるようになるんだってな。」
肩に置かれた円堂の手を、染岡がそっと下ろした。
「エースストライカーの座は譲ったわけじゃないからな。」
豪炎寺が染岡の言葉に微笑し、肩をすくめた。
「それにしても、零もすごかったな!なんていう技なんだ?」
てっきり忘れられていると思っていたので、少々驚きはしたものの、笑って答えた。
「スピニングカットって言うんだ。」
そっか、と笑ってから円堂は真剣な表情で彼女の前に立った。
「よーし!フットボールフロンティアに乗り込むぞぉ!!」
『おぉ!!!』
この明るい世界の裏。
潜む影は動き出す。
そんなことを、彼らは知らない。
END