最強少女
第二章「夢への発進!」開幕。
第五章 豪炎寺の決意
染岡が吠えながら松野からスライディングボールを奪う。
かなり強引だ。
しかも、ボールが奪えないとなると、服をひっぱてでもボールを奪おうとする。
そんな様子をベンチで見ていた円堂と半田は驚いた。
そのまま止まらずに走っていく染岡を見て、半田が叫ぶ。
「染岡!今のはファールだろ!?」
けれど彼は構わずに走っていく。
少し休憩を取ろうとしていた零をも突き飛ばす。
「うわっ!?」
いきなり突き飛ばされた零は肩を思い切り地面にぶつけてしまった。
「大丈夫か!?」
風丸の声に零は肩の様子を見る。
異常はない。
「・・・ああ。何ともない。」
それだけ返事をする。
風丸はよかった、と小さく呟き、キッと染岡をにらんだ。
彼が走りだす。
風丸が染岡に追いすがり言った。
「染岡!待てよ!」
そんな静止の声も聞かず、挙句突き飛ばしてシュートを放つ。
しかしシュートは決まらなかった。
彼は崩れ落ちた。
「どうしたんだよ?染岡。」
そう言いながら円堂と宍戸が染岡に駆け寄る。
半田は零に駆け寄った。
「大丈夫か?えっと・・・豪風?」
「ああ・・・。」
これ位の怪我で痛い、と言っているようでは、母には追いつけない。
弱音を吐くことのなかった母を思い出す。
母は本当に強かった。
しかし今は関係ない。
「そんなことより・・・。」
零が小さく言った。
「こんなんじゃだめだ!」
そう叫んで、拳をたたきつける染岡。
半田が心配そうに染岡を見る。
「焦ってるな・・・。」
「うん・・・。」
零の言葉にうなずく半田。
零は呟いた。
「良いストライカーになれると思うんだがな~・・・。」
零の言葉に半田がバッと振り向く。
「お前からはそう見えんの?」
「ああ。協調性は欠けてるがな。」
零はにやりと笑った。
「そっか・・・。」
半田が嬉しそうに言った。
そんな彼を見て零は言った。
「いい奴だな、半田って。」
「え?」
さっきとは違う、柔らかい微笑みを見せる。
「ま、一緒に応援していこうや。」
「おう!」
そんな微笑ましい光景を浮かべているときに、木野が皆を集めた。
(第二章の始まり・・・ってか?)
そう、音無が不吉を持ってきた。
***
皆がベンチに集まり、新聞部の音無に話を聞く。
円堂が尋ねた。
「尾刈斗中の怖い噂ってなんだよ?」
音無がメモ帳を見ながら言った。
「えと、怖い噂っていうのは・・・。尾刈斗中と試合した選手は三日後に全員高熱を出して倒れるとか。」
それは怖い噂というより、生物汚染か何かなのでは?と考える零。
確かに、別の意味では恐ろしい。
「尾刈斗中に風邪でもひいてるやつがいたんじゃないか?」
円堂がそんなことを言う。
木野がまじめに!と一喝する。
当然である。
そもそも風邪をひいた奴を試合に出すような監督はいるまい。
「尾刈斗中が試合に負けそうになると、すごい風が吹き出して、結局中止にになっちゃうとか。」
天変地異起こしてないか?的な突っ込みはだれも入れない。
きっと、この世界が超次元なため、許されることなのだろう。
「尾刈斗中のゴールにシュートを打とうとすると、足が動かなくなるとか。」
その言葉に零の目が鋭くなる。
これはゲームでも起きる現象だ。
「ほんとなんですかねぇ、キャプテン。」
「噂だよ、噂!」
宍戸が尋ねると円堂は笑った。
けれど、他の一年がやはり豪炎寺がいた方がいいのではないか、と話している。
こっそり話していたようだが、あいにくと染岡には聞こえていたらしい。
彼が一年たちをどなった。
「何だ、お前ら!豪炎寺なんかに頼らなくても、俺がシュートを決めてやる!FWならここにいるぜ!!」
そう叫ぶ染岡を見て半田が言った。
「おう!その勢いだ!なんか、豪炎寺、豪炎寺って、そりゃ染岡も怒るって。」
そう言って苦笑する。
そりゃそうだわな、と零もうなずく。
その日はその後、少し練習をして解散になった。
けれど、円堂は鉄塔で、染岡はそのまま河川敷で特訓を繰り返していた。
***
次の日。
零は円堂と二人で他愛のない話ををしながら、お互いの家へと続く道を歩いていた。
(そういや、夕香ちゃんでてくんの、まだなのか?)
そんなことを考える。
ふと円堂が立ち止まった。
彼が見ている方と見てみる。
反対側の歩道をこちら側に歩いてくる、豪炎寺が目に付いた。
どうやら、彼の妹、豪炎寺夕香の見舞いらしい。
(なるほど・・・。こんな形で、病院に行くことになるのか。)
さすがにゲームのようにストーカーまがいなことをするのはアレである。
少しほっとした。
「なぁ・・・。」
円堂が話しかけてきた。
彼を見る。
「一緒に来てくれないか?」
その言葉に肩をすくめ、ため息をつく。
「いいぜ?」
その返事に円堂は嬉しそうにうなずいた。
追い返されそうになっても、さすがの豪炎寺だって彼女には勝てないと考えたのだろう。
正しいというか、賢明な判断である。
それから二人は豪炎寺を追って、信号を渡り、彼の入って行った稲妻総合病院へと入って行った。
***
病院の中に入ったはいいが、途中、二人は豪炎寺を見失ってしまった。
円堂が病室の並ぶ道をふらふらと歩いていく。
(やっぱゲームみたいに単純な作りじゃねぇわな?)
ゲームしか知らない零は苦笑した。
ふと視界に見慣れた文字が並んでいることに気づく。
そちらを向く。
(えーっと・・・なんというか、見つけてよかったのか?)
豪炎寺夕香と書かれたプレート。
彼女は目的の病室を見つけた。
円堂に言うか、否かを迷っていると、ガラリ、という音がする。
豪炎寺が病室から出てきたのだ。
そのドアの前にいた円堂が驚く。
そんな円堂につられ、豪炎寺も驚いていた。
円堂があたふたと慌て始める。
「いや、その・・・。ん?」
言い訳をしようとしていた口が止まる。
円堂の視線の先で、女の子が一人、病室のベッドで寝ていた。
しかし、豪炎寺がその子を隠すようにドアを閉めた。
「何しに来た。」
豪炎寺が低く言う。
その表情はあまり、愉快そうなものではない。
「えっと、お前がここに入るの見たからさ。怪我とか病気かなって・・・。」
サッカーやめたのも、それでかなって思って。
円堂が目をそらしながら言った。
「いや、もちろん、お前があの一度だけだって言うのはわかってる!俺も誘いに来たわけじゃないんだ。」
円堂の声のトーンが下がる。
目に見えて落ち込んでいるのだ。
「何か俺、心配でさ・・・。悪いと思ったんだけど・・・。なんていうか・・・。」
ごめん!
そう言って深々と頭を下げる。
(おーい・・・。悪いと思ってんなら何故、私に来いと言った。)
零が心の中で突っ込みをいれる。
まぁ、来てしまった以上、同罪だし、この際どうでもいい。
(そんなことより・・・。)
円堂は豪炎寺が何も言わないのでゆっくり顔を上げる。
ふと、目に入ってきたのは病室のプレートだった。
「入院してるのって・・・。」
円堂が呟く。
「妹だ。」
豪炎寺が目を伏せていった。
彼はため息をつかんばかりに言った。
「まったく・・・。お前には呆れるよ。」
そう言って病室のドアを開ける。
「入れよ。」
その言葉に円堂は戸惑い気味にうなずいた。
豪炎寺が零を見る。
彼女から少し目をそらし、複雑そうな顔をする。
零は見るからに不機嫌そうに病室を見る。
先に入った円堂が死んだように眠る夕香を目にし、驚いて目を見開いている。
しかし彼女の目に止まっているのは円堂ではなく、夕香だった。
「お前は何度私に言わせれば気が済むんだ?」
二人が零を見る。
低い声。冷たいまなざし。
それはすべて、豪炎寺に向いていた。
「それでいいわけねぇんだよ。」
妹を言い訳に使うな。
それだけ言って、零は踵を返した。
円堂が慌てて、引きとめる。
「ちょっ・・・!豪風!!」
けれど零は円堂をもにらみつけた。
「悪いが私は機嫌が悪い。それに、逃げることしかできねぇ腰抜けのいいわけなんざ、聞く気も起きん。私は帰らせていただくぜ。」
彼女はそれだけ言って、振り返ることなく病院から去って行った。
(自分を憎むな、罪を憎め。誰もお前が悪いなんて思っちゃいねぇ。)
***
次の日。
チャイムが鳴り、部室に向かう。
「おーい!豪風ー!!」
「おう、円堂、半田にマックス。」
零は円堂たちと他愛のない話をしながら、部室に向かって歩いていく。
部室に着き、ドアを開ける。
ドアを開けた瞬間・・・。
「新聞部の音無春奈!今日からサッカー部マネージャーやります!」
零が試合以外でのイベントを思い出す。
そういやあったなぁ、こんなイベント。
などと一人思い出していて、サッカー部の魅力と入部の理由について力説する音無の話など聞いていなかった。
「豪風さんもすごくかっこよかったですよ!帝国に啖呵切るなんてすごいです!!一年にはファンもいますよ!!」
「へぇ~・・・・・。って、ふぇあっ!?」
あまりの驚きにおかしな声をあげてしまった。
帝国からゴールを奪った豪炎寺ならわかるが、まさか自分にファンができているとは思わなかった。
(・・・まじ?)
とりあえず一通り語った音無はこう言った。
「新聞部の取材力生かして、皆さんのお役に立ちたいと思います!よろしくお願いします!!」
そう言って頭を下げる。
「ってわけ・・・。」
木野が押され気味に言った。
一拍遅れて円堂が我に帰る。
「あ、ああ。よろしく!」
円堂の後ろで半田が松野に耳打ちする。
「音無って・・・。」
松野も同意のようで・・・。
「やかましの間違いじゃないの?」
容赦のない言葉。
零は聞こえないふりをする。
二人の会話は笑顔の音無には聞こえていなかった。
***
河川敷。
染岡は一人シュート練習をしていた。
それなりのシュート。
しかし、彼のシュートはことごとく外れる。
落胆したかのように、彼は地に這いつくばった。
そんな彼に声がかかる。
「染岡!がんばってるな!」
染岡が振り向いた。
そこには雷門イレブンがいる。
彼は立ち上がった。
「円堂・・・。へっ。うまくいかねぇよ・・・。なんか行けそうなのに決まらねぇ。これじゃストライカー失格だな。」
気の強い彼がそんなことを言うとは。
円堂が真剣な表情になった。
* * * * *
円堂と染岡、零の三人は土手に腰をおろしていた。
他のメンバーは風丸を先頭に走り込みをしている。
円堂が隣で寝転ぶ染岡に声をかける。
「無理すんなよ、染岡。今故障されちゃかなわないからな。」
「タイヤで無茶な特訓してるお前に言われたくねぇよ。」
その言葉に円堂も笑って目転ぶ。
「俺、この間、皆で試合できてすっげー嬉しかったんだ!」
「私はこれから一緒に試合するんだけどな。」
零の言葉に円堂が笑う。
それから続けた。
「やっとサッカーらしくなってきたって思ったんだ!お前はどうだった?」
染岡を見て円堂は言った。
染岡が勢いをつけておきあがる。
「うらやましかったんだよ。」
「何が?」
「豪炎寺だよ。」
染岡の真剣な表情に円堂も表情を引き締める。
「あいつ、出てきただけで、何かオーラが違ったんだよ。一年生があいつ呼んでくれって言うのわかる。」
零は空を見上げた。
ほんの少し口角を上げる。
(こいつ・・・。)
零は口に出さずに考える。
「あいつがシュート決めた時、あれが俺だったらってさ。」
「そっか・・・。」
染岡の表情が更に真剣なものになった。
「豪炎寺には負けたくない。俺もあんなシュート、打てるようになりたいんだよ!」
零がニッと笑った。
「合格だな。」
「は?」
染岡が間の抜けた声を出す。
「ストライカー選抜試験。」
「はぁ?」
零は意味のわからないというような表情の染岡に言った。
「ストライカーに大切なのはパワーとかそんなんじゃない。こいつには負けたくねぇって言う、対抗心、敵対心なんだよ。」
まぁ、協調性なんかも大切だがな。
彼女は笑った。
円堂が勢いよく立ちあがる。
「よし!お前のシュート、完成させようぜ!そいつで尾刈斗中に勝つんだ!!」
「無理だよ。試合まで、あと何日あると思ってんだ?」
円堂が染岡の肩に手を置く。
「だから頑張るんじゃないか。」
「お、お前、口で言うのは簡単だけどさ。」
弱気な彼に円堂はいった。
「豪炎寺になろうとするなよ。お前は染岡竜吾だ。お前にはお前のサッカーがあるだろ?もっと自分に自信を持てよ!」
円堂の言葉に染岡は呆然としたまま呟く。
「俺のサッカー、か・・・。」
そして表情が変わる。
その表情は明るい。
「よし!やってやろうじゃねぇか!!」
そう言って立ち上がる。
「俺のサッカー!俺のシュート!!」
***
宍戸から半田にパスを出す。
壁山が半田からボールを奪えずにそのまま松野にわたってしまう。
目金に言ったかと思えば影野がとる。
少林寺の空中キックから染岡にボールが回る。
染岡がゴールに向かってボールをける。
零には青い炎のようなオーラが見えたような気がした。
そのシュートは、円堂にたやすく止められてしまう。
もう一度シュートを放つが、またも同じく。
(やっぱ、そう簡単にはできねぇか・・・。)
零は肩をすくめた。
ふと、零が誰かの視線を感じた。
辺りを見回し、イナズママークの入った橋に人影を見つけた。
(豪炎寺・・・。)
豪炎寺のそばに一台のリムジンが止まる。
どうやら豪炎寺は、雷門中理事長の娘にして、生徒会長の雷門夏未と話しているらしい。
豪炎寺が帰ろうとする。
しかし、彼は立ち止り、夏未と会話を続ける。
しばらくして、夏未が車を発進させた。
丁度その時、染岡にボールが渡る。
(来た・・・!)
零はシュート誕生を見逃すまいと近くに駆け寄った。
染岡の咆哮とともに青いドラゴンが吠えた。
円堂はそのシュートに気圧され動けず、すぐ横を通り抜け、シュートが決まった。
全員が呆気にとられる。
「すっげー・・・。」
「今までのシュートとまるで違う。」
栗松と風丸が呟いた。
それはだれが見ても歴然のこと。
「今、何か、ドラゴンがガーッて吠えたような・・・。」
半田が手でドラゴンの口を表現する。
「僕もそんな感じがしましたよ。」
少林寺が半田の言葉に呟いた。
「てか、半田、何そのかわいい表現。」
零が何となく突っ込みを入れる。
半田が頬を真っ赤にした。
「可愛いってなんだよ!?」
「私の感想だ。それより染岡!やったな!!」
「オイ、聞けよ!!」
半田の叫びなどほとんど受け流す。
円堂が染岡に駆け寄った。
「染岡!すっげぇシュートだったな!!」
その言葉に染岡が自信を持って、堂々と言った。
「これだ!これが俺のシュートだ!!」
円堂が肩に手を回し言った。
「ああ!やったな!」
皆が周りに集まり祝福する。
零も笑顔でそれを見守る。
「よし!このシュートに名前つけようぜ!!」
「あ、それいいねぇ!」
円堂の提案に松野が第一に賛成する。
皆が自分のことように嬉しそうに笑い、色々な名前を提案していく。
時々、突っ込みたくなるような名前が聞こえるがスルーした。
(一人は皆のために・・・。皆は一人のために・・・か。)
零はそんなことを考え、笑う。
ふと、背後で足音がした。
(来たか・・・。)
零は気付かないふりをする。
どうせ、誰かが気付くから。
円堂は彼に気付いた。
「豪炎寺・・・。」
皆も驚いたり、嬉しそうな表情で豪炎寺を見る。
「円堂・・・。俺、やるよ。」
その言葉に全員が喜びの歓声を上げた。
豪炎寺が零を見た。
「もう、腰抜けなんて言わせないからな。」
その言葉に零は笑った。
END