最強少女






(どうしたんだ・・・?目の前が赤い・・・。)



序章 サッカーへの情熱





零は本家へ向かう車の中、シートに座ったままリフティングをしていた。
テーブルを二つほどおいてもまだ余裕のある車内を見渡してため息をつく。


(テーブルなんていらねぇからゴールおけよ。)


盛大にため息をつく零に運転席に座る男が声をかける。


「そんなにお暇ですかい?お嬢。」


サングラスに頬傷。
丸刈りにした頭。
黒いスーツを着た男は、まるでヤクザを絵に描いたような人物だ。

そんな男に平然と声をかける。


「ああ、暇だ。ったく、私はもう中二だっつーの。」


何故、支部の家から本家に行かなければならないのだ。
切実にそう思う。
その理由は父親にあった。

兄も姉も成人し、家を出て行ってしまった。
兄も姉もあまり父を好いておらず、父とは一切交流を持っていない。
まぁ、零も父を母ほど好いているわけではないのだが、残った一人娘を溺愛するようになったのだ。

しかし、そんな父が仕事の都合で海外に行くことになった。
それで、本家に住む母のところに仕方なく預けられることになったらしい。

別に離婚とかそんな理由で別居しているのではない。
本家には極道をやっていた祖父母が住み、その部下たちがいる。

しかも、そんな二人から生まれた母など、怒らせると日本刀片手に追いかけまわしてくる程の女性だ。
本家に住むといろいろな理由で強くなれる。
そんな理由から零を溺愛する父は彼女を連れ、支部から支部を渡り歩いているのだ。


(ホント、くだらねぇ理由。)


零的には、母の性格と見た目を強く受け継ぎすぎているため何とも思わない。
というか、父と並ぶとどこをとっても赤の他人にしか見えない。
むしろ父と遺伝子を掛け合わせていないのでは?


「それにしても、お嬢は本当にサッカーがお好きで。当主様そっくりですよ。」


零は天井すれすれまで蹴り上げたボールをキャッチした。
恋人でも見るかのような熱いまなざしを向ける。

彼女の母は若いころナデシコジャパンのキャプテンだった。
母は彼女の憧れでありライバルともいえる。
母に追いつきたい。
母を超えたい。
幼いころからずっとそう思い続けてきた。


「似てるだけじゃダメなんだ。私は母さんを超えてやるんだからな。」


闘争心をむき出しにした笑み。
ボールを持つ手に力がこもる。


「トバしますか?早く、ボールを蹴りたいでしょう?」

「おいおい、私を殺す気か?」


そんな冗談を投げ交わして笑う。
それはほんの数分前のことだった。




***




(ああ・・・。そっか。事故にあったんだ。)


零は目の前の赤い水たまりと、ピクリとも動かない体に事故にあったことを確信した。
寒くなったり温かくなったり、体の感覚が薄れていく。


(私は死ぬのか?)


別に死の恐怖はない。
人はいずれ死ぬ。
早いか遅いかの違いだ。


(短い人生だったな・・・。)


これを走馬灯というのだろうか?
家族の顔や学校の友人。
いかにもガラの悪そうな部下たち。
次々に浮かんでは消えていく。

名残惜しいとは思うが彼女は豪風家という誇りある家の娘。
それなりの覚悟と勇気はある。
いつでも旅立つ準備はできている。


(親不孝な娘で申し訳ないけど、二人の娘でよかった・・・。)


零は心の中で謝った。
けれど、一つだけ心残りがある。


(あーあ。まだ、サッカーしてたかったな。)


優勝経験だって、まだまだ母には及ばない。
母は成人前に世界の舞台に降り立ったのだ。
世界の舞台にも立てずに死ぬなんてまっぴらだ。


(まだ・・・。サッカーしてたい。)


そんな強い思いとは裏腹に意識は薄れていく。
自分の意識を保とうと必死に戦う。


(私は・・・。母さんを超えるんだ!!!)


彼女の意識はそこで途切れる。
意識なくしても彼女はこう願う。


死なんかに負けたくない。
私はまだ、サッカーをしてたいんだ。

と・・・・・。





END




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