パラレルカラー






「おーい!ミハルー!!」




グリーンの声が聞こえた。
イーブイとピジョットがいる。


多分、空から俺を探してたんだ。
一度ボールに入れたピカチューをもう一度、外に出す。
ピカチューは晴れて俺のものだ。


ピカチューの頭をなでながら、ふと、空を見上げて思った。




(ああ、きれいだな。)




空なんて見上げたの、いつぶりだっけ。

まして、空が、きれいだなんて。







3.「赤色の幼馴染」







「お前、何急に逃げ出してんだよ。
 そっちは崖だっつってんのに、すげぇスピードで走ってくし、
 馬鹿か、馬鹿なのか!?」




すげー勢いでまくしたてるグリーン。
俺は半ば聞き流しながら、膝の上のピカチューの頭をなでている。
俺が説教なんて聞いてないとわかっているのか、グリーンは俺の前に座った。




「まぁ、無事でよかったよ。」




そう言って、頭をなでられた。
俺はガキか。


ふと、俺の手の中に居るピカチューを見て、グリーンは言った。




「ゲットしたのか。」

「ああ。」

「小さいな。生まれてすぐ進化したのか?」




グリーンはピカチューをまじまじと見つめた。
ピカチューは不思議そうに見返す。
ふいに、ピカチューがはねた。
俺の顔まで登ってきて、すがりつく。




(何・・・。)




ふいに殺気に気づいてそちらを向く。
そこには全身の毛を逆立てたイーブイがいた。
すんげーいい笑顔してるけども。




『本当、いい度胸してるよね。
 グリーンに手間を取らせるなんて。
 いい加減にしてくれるかな?
 しかも、グリーンに頭なでられてさ・・・。』




ただのやきもちじゃねーか。
どんだけグリーン好きだ、お前。




「イーブイが妬いてるよ・・・。」

「え?」

「俺の頭なでたから・・・。」




そういうと、グリーンはイーブイを見つめた。
イーブイの頬は心なしか赤い。




「そんなことで焼くなよ、イーブイ。」




そういってグリーンはイーブイの頭をなでまわした。
イーブイはうれしそうだ。

けど、それはすぐに止まった。




「・・・お前、何でわかった。」




・・・え?




「言葉がわかるわけでもあるまいし・・・。」




え?え?




『たしかに普通の人間は僕らの言葉分かんないよね。
 君みたいな異質な人間は初めてだよ。』

『僕もミハルが初めて!』

「気づくのも、いうのも遅すぎ。」




・・・あ。
ヤベ、思わず口をついてしまった。
グリーン、固まってるし。




「・・・・まさか、話せるのか?」




そのまさかです。
パラレルワールドでも、これは一緒なんですね、分かりません。




***




「ポケモンの言葉がわかる人間なんて要るんだな。」




トキワのもりを歩きながらグリーンが言った。




「なんか、お前、俺の幼馴染に似てんなぁ・・・。」




グリーンが懐かしむように目を細めた。
レッドのことだ。
グリーンは俺にレッドを重ねてる。
全然違うと思うぞ。




「そいつもさ、ポケモンと話せる感じなんだよ。
 つっても、自分の手持ち限定だけど。」




そういって、グリーンは苦笑した。
けど、笑い声はすぐに止む。
その表情は少し悔しそうだ。




「それで・・・。」




俺が一つうなずくと、グリーンはきょとんとした。




「イーブイは俺が嫌いらしい。その理由はお前にそんな顔をさせる奴に似てるから。」




そういって、俺はピカチューの頭をなでた。
こんなに長文を話したのは久しぶりだ。
そう思っていると、いきなりイーブイが体当たりしてきた。

けど、イーブイは何も言わない。
多分、ただの八つ当たりだ。




「イーブイ。」




グリーンがイーブイを呼ぶ。
イーブイは、すぐにグリーンに駆け寄った。




「それはあいつにかましてやらなきゃ。
 ミハルにやるのは筋違いだろ?」




イーブイは耳を垂れて俺を見た。
俺がひらひらと手を挙げると、イーブイはグリーンにすり寄った。




「あいつなら、どんなとこでも生き延びてそうだしな。」




ぶっ!

た、たしかに・・・。
てか、あいつ雪山で半そでだしな。




「・・・何笑ってんだよ。」




おおう。
俺が笑ってるのをよく笑ってるってわかったな。
俺声ださねーから、ただ震えてるようにしか見えねーのに。




「笑い方までそっくりか、お前。」

「・・・そいつ、心配する必要ないね。」




グリーンはまた苦笑した。
けど、さっきみたいな暗い表情じゃない。
イーブイが嬉しそうにグリーンにすり寄った。


ぴょん、と、ピカチューが俺から飛び降りた。
それから、イーブイのもとにかけていく。




『笑ったね!』

『うん。』

『よかったね!』

『・・・うん!』




二匹はうれしそうに笑った。




***



「それで、お前これからどうすんだ?」




唐突にグリーンが言った。

どうする?
え、どうしよ。




「・・・考えてなかったな。
 まぁ、最初のポケモンもゲットしたんだし、
 トレーナーとして旅にでも出たらどうだ?」




トレーナーカードも持ってるし。
グリーンの言葉に俺は眉を寄せた。
ものっっっそい、面倒臭い。
旅とか疲れんだけど。




「こういうとこは違うな。あいつバトルオタクだし。
 自分の母親に心配かけても帰ってこねーし。」




それが現在進行形と。
随分だな、レッド。




「お前はきっと、強くなる。俺の勘だけどな。」




グリーンはそう言って笑った。
さすがは育てる者、とでもいうべきか?





『僕、強くなれるの?』

「ん?・・・経験を積めばね。」




そうつぶやくと、ピカチューは目を輝かせた。




『なりたい!強くなりたい!そしてね、ミハル守るの!!』




あー、うん。
かわいいな、こいつ。
嬉しいよ。




「ありがと。」




そういって、ピカチューを抱え、頭をなでた。
ピカチューは嬉しそうに俺にすり寄ってくる。
うん、ピカチューを仲間にしてよかった。
俺、結構可愛いもの好きだし。




『ね!旅に出ようよ!僕、ミハルの住む世界を見てみたい!』




ピカチューにそう言われて、俺は目を丸くした。
こいつ、実はパルキアとかから送り込まれた奴じゃないか?
でも、そんなこと言ってなかったしなぁ。
まぁ、別にどうでもいいか。




(旅・・・か。)


「出てみようかな・・・。」

「旅にか?」

「うん。」

「そっか・・・。」




グリーンはどこか嬉しそうに言った。
ジム戦はする気ねぇけど。




「まずは仲間集めをするよ。」




そう言って、俺はもう出口に差し掛かった道を走りだした。




「ありがと、もういくよ。」

「おう!またな!」

「うん。」




グリーンは笑ってた。
イーブイは俺に声をかけてくれることはなかったけど、尻尾は振ってくれた。

何かをしようと思うなんて、本当に久しぶりだった。
誰かとこんな風に過ごしたのも、全部久しぶりで、初めてだったかもしれない。




(ここから・・・。)




ここから、はじまるんだ。俺の世界を救う旅は。
俺のスタートは、この日、この場所から。










continue.




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