パラレルカラー






(何でこんなことになってんだろ・・・。)





俺は今、グリーンのウィンディに乗ってる。
んで、グリーンにしがみついてる。
今、手を離したら、頭打って死ねるかなぁ・・・・。








2.「小さな黄色」







まぁ、そんなこんなでトキワのもりについたわけですが・・・・。
緑生い茂りすぎだろ、ここ。
こんなとこ、山ん中以外で見たことねぇぞ。
黒い帽子をかぶりなおしながら、俺は思った。





「ありがとう、ウィンディ。」

『どういたしまして。』




ウィンディはうれしそうに笑って、ボールの中に吸い込まれた。
イーブイはいつも連れて歩いているらしい。
代わりにイーブイを出した。




『やぁ、またあったね。
 グリーンのベッドを占領したり、グリーンにこんな手間を取らせるなんて、君は一体、何様のつもりだろうね。
 君の図々しさは本当、あいつによく似ているよ。』




う、おぉ・・・。
イーブイが腹黒ぇ・・・。ボールから出た瞬間これかよ。
お前、どんだけグリーン好きだし。
てか、あいつって、レッドのことか、おい。




「どうした?イーブイ。」

『何でもないよ。』




イーブイの態度が180度変わったし。
こいつ、すげぇ。




「さて、俺のポケモン貸してやるから、
 この森のポケモンを一匹捕まえてみろ。」




そういって、グリーンはからかうように笑う。
それから、ボールを5つ取り出した。




「今の俺の手持ちは(いつもはカイリキーがいるけど)ウィンディ、ピジョット、サイドン、ギャラドス、ナッシー。
 そして、イーブイだ。どいつがいい?」




笑顔で尋ねるグリーンに、俺は一つうなずくと、グリーンの足元を指差した。
そこにはイーブイがいる。
イーブイはきょとんと、呆けた顔で俺を見上げている。




「意外だな、何でだ?」

「嫌がらせ。」

「は?」




そういうと、グリーンは間抜けた声を出した。
イーブイを見やると、案の定、俺を睨みつけていた。




『いい度胸してるね、君・・・・。』




イーブイは怒りでひきつった笑みを見せた。




***




俺はとりあえず、森の中を延々と歩いた。
ただ、なんとなく歩を進める。
別に目的とかはない。
ただ、目についた、道ならぬ道を進むだけ。




「・・・・お前、わざと険しい道進んでね?」




グリーンの呟きに振り返る。
グリーンは引きつった笑みを浮かべていた。




「・・・別に。」





俺がそっけなく返すと、グリーンは苦笑した。




「うわっ!」




グリーンが声を上げる。
俺の足元にいたイーブイが何事かと、全力でグリーンに駆け寄る。




(あ・・・。)




ピチューだ。
どうやらグリーンの頭の上にピチューが落ちてきたらしい。
感電したか、なんかで目を回してる。
時間差で俺の上にも落ちてきた。




「なんだ、ピチューか・・・。
 何が落ちてきたかと思った・・・。」




俺はとりあえず、ピチューを木の下に降ろして先に進む。
グリーンは慌てて俺を追いかけてきた。
正直はぐれてほしい。さっき、リュックの中にサバイバルナイフ入ってたの見つけたから。




「なんか捕まえたいポケモンでもいんのか?」

「別に。」

「そればっかだな。」




返すのが面倒になって口を閉じる。
てか、本当にどっかいってほしいんだけど。
典型的だけど、あれやってみっかな・・・。




「・・・あ。」

「え?」




俺の向かう方とは反対側を見て、声を上げる。
グリーンも、イーブイもそっちを見やった。
俺はその瞬間、全力で走りだす。

後ろでは、逃げる俺に気づいたグリーンが叫んでる。
なにいってるのかわかんないけど。


俺なんかどうなったっていいよ。
死んだって誰も悲しまない。


ほら、消えろと言わんばかりに、



足元が消えた。




***




崖から谷間に落ちたらしい。
でも、そこまで深い谷間でなくて、いたる所を岩や地面に打ち付けただけだった。
・・・・死ねなかった。


死ねたらよかったのに。




(結局痛い思いだけ、か。)




まぁ、リュックの中にナイフあるんだけど。

リュックの中からナイフを取り出す。
手首なんか切ったって死ねないんだから、俺は首を切ろうと思う。




(さよなら、世界・・・。)




「さよなら」なんて、いう奴いないから。
俺は世界に「さよなら」を言う。




(さよなら・・・・。)




ナイフが、


俺の首に埋まった。




***




『何してるの?』




え、誰。

てか、タイミング悪。空気読め。
もうちょいナイフを深く入れようとした時に声をかけられた。


ホント、何。

辺りを見ると、そこにはピカチューがいた。
なんかやけに小さいな。
標準の40センチより小さいと思う。
30センチくらい?




『血が出てるよ?大丈夫?』




ぴょこんと、膝の上に乗ってくる。
こいつ警戒心ねぇな。




「・・・大丈夫。」




てか、死のうとしてたし。




『そっか!よかった!』




ピカチューはそう言って笑った。




『あにね、あのね?
 あっちのほうにおいしいきのみがあるの!一緒に食べよ?』

「俺はいい・・・。」




そういうと、ピカチューは耳を垂れさせた。
少しうつむいて、ぺたんと座る込んでしまった。




『じゃあ、持ってくるから待っててね!一緒に食べよ!』




急に耳をピン、と立てたを思ったら、
ピカチューはそう言って駆けて行った。
幼いな、あいつ。てか、俺の言葉無視しやがったし。
てか、何で、ここの世界の奴は、どいつもこいつも俺の意思を無視するんだ。




(いや、待てよ・・・。)




そのおかげで俺は一人だ。
今なら、誰にも見つからずに死ねる。

今なら。今のうちに。



死ねる。



再度、ナイフに手をかける。
切り痕の付いた首筋に、刃先を押しつける。




(あ、れ・・・?)




俺が今死んだら、
さっきのピカチューはどうなる?

あんな小さいやつが、人の死を受け入れられるのか?

また、もどってくるって言った。
一緒にきのみ食べようって・・・。




(どうしよ・・・・。)




今、俺、死んじゃいけねぇじゃん。




***





『持ってきたよ!』




ピカチューが両手にこぼれそうなほどたくさんのきのみを持ってきた。
りんごかな。
てか、そんなに食えねーよ。




「・・・さんきゅ。」




そう言って、小さな頭をなでてやると、ピカチューは嬉しそうに頬をすりよせてきた。
頭をなでられるのが好きなのか、心なしか嬉しそうだ。




『僕、頭なでられるの好き!』




好きなようです。
分かりやすいな、こいつ。




(でも、厄介な奴だ・・・。)




俺が死をためらったのは初めてだ。
本当、厄介だ。




『はい!』

「ん。」




りんご(らしきもの)をもらって一口かじる。
甘い。さっぱりした甘さがうまい。
ピカチューは甘いものが好きなのか、ガツガツ食ってる。
喉詰まらせんなよ。




『ね、ね!名前なんて言うの?』

「俺・・・?」

『うん!』

「ミハル・・・だけど。」

『ミハル!』




ピカチューは嬉しそうに俺の名を連呼する。
何が楽しいんだか。




『ね、ミハル。・・・怪我いっぱい、痛くないの?』




ピカチューが俺の上に乗ってくる。
俺の傷を見て、今にも泣きそうな顔をした。

首とか手首とか、体のいたる所を切りつけたことがある。
足も腕も切り傷だらけだ。でも、死ねなかった。
いつも何かに阻まれるんだ。
だから、今まで、死ねなかった。




「・・・うん。」




もう、治ったものだ。
傷は消えてないけどな。
ピカチューは俺の傷にすり寄ってくる。
いいやつだ。




(・・・・・。)



「なぁ、ピカチュー。」

『・・・何?』

「俺の、仲間になるか?」





***




『なか・・・ま?』




俺はうなずいた。
ピカチューは言葉の意味を理解していないのか、首をかしげた。

何度も同じ言葉を反芻する。
俺が頭をなでてやると、ピカチューは耳をピン、と立てた。




『なる!ミハルの仲間!』




ピカチューは俺に抱きついてきた。
6キロはあるらしいけど、こいつは小さいからそこまで重くはない。
軽々と受け止められた。




『ミハル、大好き!』




おお・・・。大好きか。
初めて言われたぜ、そんな言葉。




「よろしくな。」

『うん!』




ピカチューはもう一度、俺に抱きついてきた。




(かわいいなぁ・・・。)




俺はもう一度、ピカチューの頭をなでた。


俺の手持ち、第一号、初めてのポケモンにして仲間。
ピカチューをゲットした。











continue.




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