神様に愛されている神様たちの話
「あ、が……ッ! おごぉ゛お゛……ッ!!」
一人の人間が、悶え苦しんでいた。
喉を掻き毟り、口の中に手を入れて、必死に何かを掻き出そうとしているようだった。
男は口から、現のものとは思えないほどに美しい蓮の花を咲かせていた。その体からは葉と実を生やして。
花に水を吸われているのか、その男の肌はだんだんと干からびて、枯れ木のようになっていく。
そんな様子を、見目麗しい少年たちが呆然と見つめていた。美しくも傷を負い、薄汚れた少年たちだ。
そんな少年たちのさらに後ろから、草木の化身を思わせる異形が、形を失いつつある男を、無感動に見下していた。
「――愚かなり」
異形が呟く。
その男は確かに愚かであった。彼は神を虐げたのだ。末席ながらも、立派な神を。
男は審神者という職についていた。物に眠る想いや心を目覚めさせる力を持つ者のみがなれる特別な職だ。そうして目覚めさせた付喪神を従え、歴史を改変しようと目論む敵と戦うことこそが、彼の仕事だった。
しかし、彼は勘違いしてしまったのだ。見目麗しい刀剣の付喪神にかしずかれ、自分こそが頂点なのだと。
思いあがった男は刀剣達を傷付けた。自分こそが頂点なのだから、何をしても許される、と。
けれど男はただの人間だ。この世の理の中では、ただひたすらに矮小な存在でしかなかったのだ。
――男は神の怒りに触れた。
「ヒッ、ひっ、ひっギイイイイイ!!!」
じゅるじゅると蓮に水分を吸いつくされた男は、断末魔の悲鳴を上げた。
「――花と散るがよかろ」
ざらり、と人間が崩れ落ちる。ざらざらと砂の様に吐かなくなった男は、風に吹かれて空へと散った。
男がいた場所には、水のない地面に、だがしかし美しく咲き誇る蓮の花だけが咲いていた。