死ぬほど病弱な審神者の話
「今日からこの本丸の審神者になりました。よろしくお願いします」
新しい審神者は、酷く脆い印象を受けた。
色が抜け落ちてしまった様な髪。日の光を浴びたことがないのかと思わせるような白い肌。そこいらの女性よりも細い体。淡い色合いの着物が、よりその儚さを助長させていた。
けれど、そんな病的な体よりも印象的なのが『赤』だった。口元から着物のあ地ことまでを彩る『赤色』である。獣が骨までしゃぶったようなありさまに、審神者を追い返そうと考えていた刀剣達はあんぐりと口を開けて固まった。
けれど当の青年は、朗らかに笑うのみである。何これ怖い。
「審神者様! 貴方は寝ていてください! さっきから動くたびに血を吐いていらっしゃいます! これ以上ご無理をされれば死んでしまいますうううううううううううう!!!」
「はっはっはっ。そう言われ続けて早二十年。今まで一度たりとも死んだことなど無いよ。綺麗な川と美しい花畑なら何度か拝んだことはあるけれど」
「それ見たらアカンやつうううううううううううううううううううううううううう!!!!!」
審神者のサポート役としてついてきたこんのすけが泣き叫ぶ。
しかし原因たるその人は、儚い装いをべったりと赤く染め上げてなお、楽しげに笑っている。最早ホラーである。
「こいつぁ、驚きだぜ……」
「何あいつ、怖い……」
鶴丸が口元を引きつらせ、和泉守が涙目で震える。
戦でのちは平気でも、病魔によって引き起こされた吐血はまた別物である。
「そんなことより、まずは手入れをしなくては。病は気からというだろう? いつまでも傷を負っていて、心など晴れるものかい」
「今、恐ろしくあなただけには言われたくない言葉を言われた気がします」
「手入れ部屋はあっちかな?」
「話聞いてくださいよ。合ってます、合ってますけど、貴方は動いちゃだめええええええええええええええええええ!!!」
口から血を吐いたとは思えないほどの軽さで立ち上がる。
そして二、三歩歩いたところで、
「ごふぅっ!!」
口から鮮血が飛び散った。
「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?!?」」」
美しい着物や白い肌を汚す大量の血に、思わず刀剣達は悲鳴を上げた。
つい先ほどまでほけほけと笑っていた青年が突然吐血したのだから、当然である。
「さ、審神者様あああああああああああああああああ!!?!?」
「今日は風が冷たかったからねぇ。何ぞ新たな病でももらったかな?」
「どんだけ病弱なんですか、あんたあああああああああああああああああああああ!!?」
「言うほどじゃないよ。月に二、三回、三途の川を拝む程度だよ」
「年中死にかけてんじゃねぇか!!!!!」
「あっはっはっ」
敬語も忘れて叫ぶこんのすけに青年が大口を開けて笑う。口の中は恐ろしく赤黒かった。
そうしているうちに、花からも赤い液体が流れ落ち、刀剣達はもはや半泣きである。
「おや、鼻血まで出てきてしまったよ。何か拭くものはあったかな?」
『口からの血もどうにかしようよ!!?!?』
あまりにのんびりとした対応に、こんのすけと刀剣達の叫び声が重なった。
――新しい審神者が来た。
風に当たれば病をもらい、三歩歩けば吐血する、恐ろしく病弱な審神者であった。
ちなみに、口の周りが血だらけなのがデフォである。