例えその目に映らなくとも






「おやすみ、みんな」


 そこにいるかどうかも分からないが、部屋を見渡しながら挨拶を告げる。
 先輩である都の石切丸に解呪を施してもらったが、今のところ効果は無い。
 この手の呪いに限らず、呪いの全般は術者に溶かせるのが一番早いのだ。どのような呪いを掛け、どのような効果をもたらすのか、その全てを知っているから。
 しかし、椿に声を掛けた者が術者であるとは限らない。下手に手を出せば、こちらが罰を与えられる。そのため、少しずつ解いていくしかないという結論に達したのだ。
 これから呪いが解けるまで、毎日解呪を施してくれるということになったが、その効果が出るのがいつになるのかすら分からない。
 分からないことがもどかしく、触れたいのに、話したいのに、それが叶わないとなると酷く憂鬱な気分だった。


「早く、みんなの顔が見たいな……」


 今日一日、刀剣達は椿が寂しくないように、自分達の存在を主張し続けた。わざと音をたてたり、服を引っ張ったり、時にはぎゅう、と抱きしめることで存在を示した。
 だからそこにいることを疑わずに済んだのだが、やはり寂しいものは寂しい。
 そこにいるのに顔が見えない。声が聞こえない。触っているのかどうかさえもわからないのだ。
 寂しくて、悲しくて、虚しくて、ただひたすらにもどかしい。


「早く、元に戻るといいな……」


 小さく呟いて苦笑する。
 まだたった一日なのに、胸にぽかりと穴が開いた様な感覚を覚える。
 自分が思っている以上に、刀剣達の存在は大きいのだ。胸を占める割合のほとんどが、彼らで構成されているのだろう。


(駄目だなぁ、私は……)


 布団を握る手に、力がこもる。
 役人に対する怒りとか、呪詛に気づくことすら出来ない自分への不甲斐無さで握りしめた拳が震える。
 負の感情で頭がいっぱいになった、その時。

 ―――かしゃん、
 軽い金属音が、隣で響く。
 かしゃ、かしゃん。
 見れば、自分を囲むようにして、刀剣男士の本体が置かれていた。


「みんな……」


 嬉しさに顔がほころび、笑顔が咲き誇る。


「ありがとう」


 そっと刀を撫でて、椿は布団に潜り込む。
 ―――明日には元通りになっているといいな。
 そんな、せんないことを思いながら。



* * *



「さて、姐さんは寝たかい?」
「ああ、ぐっすりと」
「姐様、大分参ってたね……」
「あねさまはぼくたちのことがだいすきですからね」
「それで、五虎退。役人の顔は覚えているね?」
「もちろんです。あの役人が術者かどうかは分かりません。ですが、あの人間は姐様を”下女”と呼んで蔑みました。あの人間を斬るのに、それ以上の理由が要りますか?」
「要らないな。それだけあれば十分だ」
「行くぞ」


 国広の一言を皮切りに、刀剣達が闇に溶けていく。
 翌朝、目を覚ました椿が真っ先に浮かべた表情が満面の笑みだったことから、事の顛末は察していただけるだろう。




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