主の命であるならば






 本日、審神者たちは合同訓練を行うこととなった。
 場所は演練場。
 今回の訓練は少し前に起きた『演練場襲撃事件』のような、もしもの襲撃に備えたものである。
 今日行われるのは”襲撃によって審神者を失った本丸の刀剣達を率いる”訓練だ。
 遡行軍が襲撃時に置いて、真っ先に狙うのは審神者である。
 審神者を前にした遡行軍は形振り構わない。自分が折れることも厭わない。
 故にその勢いとすきをつかれたことにより、襲撃時に置いて審神者を失うことは少なくは無いのだ。
 審神者にとっては他の本丸の刀剣達を率いて指示を出すための訓練で、刀剣達にとっては他の本丸の審神者の指示に従うための訓練である。

 けれどこの訓練には大きな穴がある。
 審神者との関係が良好な本丸であるほど、刀剣達は最悪の想像などしたくないし、主以外の命令に従いたくないと強く思うのだ。
 逆に主が好きだからこそ、主の評価を落としてはならないと素直に従う本丸もある。椿の刀剣達がそうだ。
 しかし、椿が訓練で率いることになった本丸は前者の類の本丸で、椿を見る目は驚くほど冷たい。


「何でこんな小娘に従わなきゃなんねぇんだよ……」
「仕方ねぇだろ。そういう趣旨の訓練なんだから」


 和泉守が漏らした悪態に、獅子王が苦笑する。
 宥めるような物言いだが、彼もまた椿を認めてはいない。値踏みするような視線を隠しもしないのだから。


「俺たちは勝手にやるから、あんたは指示を出すフリでもしててくれよ」


 にこにこと笑いながら、御手杵が椿の隣を通り過ぎる。
 そんな御手杵を、椿が「待て」と鋭く制した。


「指揮官は私だ。勝手は許さない」
「でも、あんたは俺たちの主じゃねぇだろ?」
「ああ、そうだとも。君たちは君たちの主の刀だ」
「だったら……」
「しかし、その主より命が下ったはずだ。私に従え、と」


 ぐ、と御手杵が言葉に詰まる。
 畳み掛ける様に、椿が言った。


「よって君たちは今、私の駒だ。私の命に従い、私の手となり足となれ。分かったな?」


 所有するような発言に、和泉守たちが目を見開き、息を飲む。
 そんな刀剣達をよそに、椿は浮かべていた強気な笑みを消し、ふわりと微笑んだ。


「まぁ、しばらくの辛抱だ。私は君達を所有する気は無いからな」


 さぁ行こうか、と踵を返す。
 所定の位置に向かう椿の背を呆然と見つめ、それから苦々しい表情で顔を見合わせる。


「……悔しい。ちょっとときめいた」
「「それな」」


 少し遠くなった椿の背を、獅子王たちは複雑な表情で追いかけるのだった。







 そんなやり取りを見ていた刀剣達は苦言を呈す。


「姐様、他の本丸の刀剣達までたらすのはやめて、お願いだから」


 代表は小夜であったが、本丸一同、心からの声だった。




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