裏側にて
「姐さんは見習いに甘いなぁ。少し妬けるぞ?」
昼食を終え、午後の研修に備えて準備をしていた時のことだ。今日の近侍である国永が私―――椿に声をかけてきたのは。
「だって可愛いんだ。私を慕ってくれるのが嬉しいんだ」
「そういうことを言っているんじゃないんだがなぁ」
国永が困ったように笑う。
研修もいよいよ大詰め。疲れが見えてきた見習いさんにしっかり休んでもらえるように、午後の準備に少し時間がかかるから、と言って、今日の休憩は少し長めにとることにしたのだ。国永が言いたいのは、そのことについてだろう。
気付いていながら、私は否定はせずに言葉をつづけた。
「都さんが私に構ってくれる理由が分かった気がする」
椿さん、と尊敬の眼差しで見上げてくる瞳が眩しい。
私もきっと、同じような顔で都さんを見ているのだろう。
―――何だか守ってあげたくなるんだよな。
くるくると元気に動き回る姿は小動物じみていて、見ていて微笑ましい気持ちにさせる。
けれど少し危なっかしいところがあって、目が離せない。
傍についていなければ、と思わせる何かがあるのだ。
「でも、守るのは私の役目じゃない。巣立ちの手助けが私の仕事だ」
彼女はずっと私の本丸で見習いをしているわけじゃない。
一ヶ月の見習い期間を経て、この本丸を旅立って行く。
「彼女は覚悟を決めたら強い子だ。でも、少し臆病で、自分に自信がない」
―――だから、
「彼女のもとには、彼女に寄り添い、彼女を守ってくれる刀剣が降りてほしいな」
―――出来たら、君の様な守刀がいいんだが。
真っ直ぐに前を見つめる瞳を思い出し、私は人知れず微笑んだ。
心の中で、紅紫苑に話しかけながら。