政府刀剣と姐さん+おまけ
俺―――――小竜景光は浮かれていた。舌鼓を打つ料理が猫舌ならば悲鳴を上げるような熱さであるにも関わらずものともしないほどに。
けれどそれも仕方ない。だって……。
「……美味しい」
だって目の前に、幸せそうに頬を緩ませる姐さんがいるのだから。
今日は非番で、よほどの重要案件が舞い込まない限り、一日をフリーで過ごせる珍しい日だ。
それは当然だろうと思われるかもしれないが、悲しいかな。俺の所属する部署は政府で最も忙しい部署の一つである監査部なのだ。連日徹夜に休日出勤は当たり前。ブラック本丸を摘発する前に政府内の改革を行うべきだと思う。
閑話休題。
それで俺が何に浮かれているかというと、久々の休日だからと言うわけではない。休みが久々すぎてどう過ごせばいいか分からなくて、駄目元で姐さんを食事に誘ったのだ。するとどうだろう。その日は姐さんも休みで、俺は姐さんと共に過ごすという至福のひとときを手に入れることとなったのだ。
こんなの浮かれないわけがない。浮かれすぎて約束の一時間も前に待ち合わせ場所に着いてしまったが、そんなことは些末なことだ。姐さんも十分前に来てくれたし、一時間なんて誤差だろう。
そんなわけで、俺は俺のおすすめの定食屋に姐さんを誘ったわけだが、これが大正解だった。
姐さんは食べることが大好きだ。一般的な女性の1.5倍は食べる。体を動かすのが好きで、素振りや筋トレ、刀剣男士との稽古を日課としているから、その分お腹が空くというのもあるだろうけれど。
俺のおすすめの定食屋は打刀以上の刀剣男士に人気の店で、メニューはガッツリ系が中心だ。
姐さんは食べ応えのあるメニューを好むようだったから、絶対好きだろうなと、この店にしたのだけれど、思った通り、とても喜んでくれた。
長船らしくない? 女性を連れて行く店じゃない? 俺は相手の好みに合わせるタイプの長船だから。相手が喜んでくれればそれでいいのだ。
姐さんはとんかつ定食。俺は唐揚げ定食だ。
分厚いとんかつを姐さんは嬉しそうに頬張っている。
「サクサクの衣に柔らかいお肉から溢れ出す肉汁がたまらないな。凄く美味しい」
「ふふ。気に入ってくれた?」
「ああ。キャベツはシャキシャキ。トマトも瑞々しくて新鮮で、甘みが合って美味しい。お味噌汁も具材がたっぷり入っていて、食べ応えがあっていいな」
「そう。ここの定食屋は付け合わせも侮れないんだよ」
「ああ。それにごま豆腐を使ったお味噌汁は初めて食べたけど、美味しいな。うん、良い発見が出来た」
美味しい、美味しいと言いながら食べ進めていく姐さんに、店主も嬉しそうに笑っている。
自分の作ったものを綺麗に、嬉しそうに食べてくれたら嬉しいよね。しかも、至福と言わんばかりの美味しそうな顔をされたらたまらない。見ているこっちも幸せだ。
「今日は連れてきてくれてありがとう、小竜」
「俺が一緒にご飯を食べたかっただけだよ」
「“だけ”じゃない。美味しいものを一緒に美味しいと言って食べられるのは、とても幸せなことだよ。私は今、とても幸せだ。だから、本当にありがとう」
「―――――、」
息が、止まりかけた。いや、冗談ではなく。
俺、口説かれてる???
姐さんはきっとそんなことこれっぽっちも思っていないだろうけれど、待って??? ただの日常会話が口説き文句にしか思えない姐さんマジ姐さん。
「食べ応えもあって、味も美味しくて、その上価格も安いなんて最高だな」
そう言って姐さんは俺が復活できないのを良いことに、お会計まで済ませてしまった。
これまさか、俺に払わせないための手口??? この人、そこら辺の長船よりよっぽどスマートじゃない???
って、そうじゃない。
「いや、姐さん!? 誘ったの俺だし、俺に払わせてよ!?」
「意外に野暮だな。また誘ってほしいから、その口実だと分からないのか?」
―――――次は私から誘うのも良いな。
なんて、くっと口角を上げる姐さんの男前さと言ったら。俺なんかでは太刀打ちできないくらいに格好良くて、俺は白旗を揚げて降伏したのだった。
