地獄の鷹見さん家 5
「ホークス、最近羽根ん艶が良うなったね?」
「え? そうです?」
本日のホークス事務所は非常に穏やかだった。出動要請や市民からの通報もなく、珍しく事務所で書類作成に勤しめる程度には。
それでも、やることは山ほどある。少数精鋭に加えて、事件解決数は九州でもダントツに多いホークス事務所は、その分だけ報告書作成などの雑務も多かった。けれど、ちょっとした雑談を交わせるくらいには、緩やかに時が過ぎていく。
ふと、顔を上げた先。窓際の席で日差しを浴びて輝く剛翼が目に入り、サイドキックの一人が感嘆の声を上げた。けれど、ホークス自身に自覚はなく、きょとんとしている。
「そうですよ。それに、いつもなら町中を見回ってから帰宅するのに、ここしばらく、ほどほどで切り上げて帰宅されているようですし」
「なん? 彼女でも出来たと?」
サイドキックの言葉に事務員が乗っかり、もう一人の事務員も身を乗り出す。一人だけでなく、事務所のほぼ全員がホークスの変化に気付いていたことに、ホークスは少し驚いた。そんなに顕著に違いが現れていたのか。はたまた彼等の察する力が高すぎるのか。そんなに分かりやすかったかなー、とホークスが頬を掻く。
年の離れた妹を引き取るに当たって、ホークスはヒーロー活動に支障が出ない範囲で、彼女の傍に居ることを決めていた。そのため、彼女の夕飯の時間までには帰宅し、一緒に食事を摂るように心掛けていたのだ。
始まったばかりの誰にも“内緒の家族”は、まだまだぎこちない。椿はどうしたって遠慮が抜けないし、住み慣れない広い家に一人きりということに不安が拭いきれていない。ホークスが帰宅すると一目散に駆け寄ってきて、ほっとしたような顔で「おかえりなさい」と微笑むのだ。
ホークスもホークスで、最近出来たばかりの妹という存在に戸惑いが隠せない。相手が歩み寄ってきてくれるから、ホークスがそれを受け入れることで上手く回っているけれど、自分から踏み出すことには躊躇いがあった。自分から誰かに歩み寄ろうとした経験があまりにも少なかったから、どうすればいいのか、どこまでなら許されるのか、その見極めを上手く出来る自信がない。
これがどうでもいい相手だったなら、戸惑いなんて一切なかった。仕事だったら自信を持って一歩を踏み出せた。けれど、相手はいつの間にか大事な存在になっていた妹で、世界でたった一人の家族で、自分の柔らかい部分をさらけ出せる唯一なのだ。失敗したくなんてないし、もう十分に傷付けられてきた彼女を、これ以上傷付けたくない。だから、自分から一歩を踏み出すために、まずは彼女との時間を大切にしようと考えたのだ。彼女がそうやって、ホークスを慈しんでくれるから。
「今うち、未成年の子がいるんですよ。小さな子供って訳じゃないんですけど、夜遅くまで一人にしておくわけにはいかないでしょう」
まだ中学生になったばかりの椿を慮り、そのように行動すると、自然と規則正しい生活を送るようになる。食事も椿が丹精込めて作ってくれるから、きちんとした食事を摂るようになった。眠たそうに目を擦る椿を寝室に送り、自分も寝室に向かう。おそらく、これは椿なりの甘えのようなもので、「おやすみ」と言い合って眠りにつきたいのだ。普通の家庭が、そうするように。そうやって見送り、見送られて。そのぬくもりを冷ましてしまうのが惜しくて、あたたかい心のままベッドに入る。そうすると、びっくりするほどよく眠れて、疲れを残すことなくすっきりと目覚めることが出来るのだ。
こうして振り返ってみると、随分と規則正しい生活を送るようになったものだと感心する。少し前の自分なら、食事を疎かにし、睡眠を削ってでもヒーロー活動に明け暮れていた。けれど、椿と過ごして気付いたのだ。普通の家族ってこんな感じなのかな。普通の家庭っていいなぁ、と。そういうありふれたやり取りをするのも、悪くないなと思ったのだ。
「俺が家に帰ると、出迎えとかもしてくれるんですよ。それがかわいくて……」
「「「………………はい???」」」
サイドキック達が指摘した羽根の艶は、健康な生活を送っている賜物だろう。羽根を一枚切り離し、指先でいじる。淡く微笑むホークスを他所に、職員一同はその身体を硬直させていた。
―――――未成年の子供がいる? ホークスの家に? それは事案というやつでは?
先程までぬくまっていたホークス事務所の空気が凍り付いた。ガタン!! と大きな音を立てて、職員が一斉に立ち上がる。
「未成年!? 今、未成年って言いました!?」
「事案やなかやろうね、ホークス!?」
「未成年はあかんばい、ホークス!!!」
あ、これ言葉間違えたかな。
流石ヒーロー志望、誰かを護りたいという志のもと集った同士である。倫理観がきっちりしている。そして、コンプライアンス違反にはとことん厳しい。
「違います! 遠い親戚の子です!」
110の数字を押しかけた職員達が、ピタリと動きを止めた。
「…………親戚の子?」
「そうです。誤解されると困るんで、簡単に説明しときます」
危うく通報されるところだったホークスは、苦く笑って着席を促した。顔を見合わせたサイドキックと事務員は、ゆっくりと腰を下ろした。手にした受話器やらスマホやらはそのままに。
そしてホークスの口から語られたのは、本当に簡単な概要だけだった。
今まで面識のなかった遠縁の子供。家庭環境に問題があり、ホークスが保護したこと。親に養育の意志がないことから、ホークスが後見人となり、養育の義務を請け負ったことを聞かされた。
保護した子供はまだ中学生になったばかり。一人で留守番の出来ない年齢ではないが、夜遅くまで一人にしておくわけにはいかないだろう。そのため、彼はここ最近、あまり遅くならないように気を付けて帰宅しているようだった。
「ホークスが、養育……」
「中学生なんて、一番難しい年齢じゃないですか。大丈夫なんですか?」
「え? 無理では?」
「みなさん、失礼すぎません???」
大胆不敵、不遜を絵に描いたような青年。軽薄そうに見えるが、仕事には真摯で、真面目な一面を持っている。ヒーローとしては尊敬できる働きぶりで、ビルボードチャートの評価も正当なものだ。けれども、時折見え隠れするのだ。人として大切なものが欠落していると感じられる部分が。それは多岐に渡る。休息を疎かにしてパトロールに出掛けたり、人が人らしく生きるために必要な余暇を蔑ろにしてまで人を救おうとする。
それはヒーローとしては正しい在り方なのかもしれない。けれど、助けるべき人を助ける前に、
胡乱な視線を向けられたホークスが、口をへの字に曲げる。そうやって不満を全面に訴えた。前科がありすぎるために強く反論出来ない彼の、精一杯の反抗だった。
「まだ様子見しなきゃいけないことはたくさんありますが、生活能力とか、そういったものは十分すぎるくらいに持ってるんで、そこら辺は教えることなんて何もないです」
「それはそれで問題なんやなか……?」
「そうですね。それだけ親が何もしてこなかったって事ですから」
はぁぁぁ、と盛大にため息をつき、指を組んだ手に額を押し付ける。呆れとも、やるせなさとも取れる態度に、職員達はひとまず受話器を置いた。
「いやもう、本当にびっくりするくらいしっかりした子ですよ。家事全般こなせるし、料理も上手なんですよね。夕飯にクリームコロッケとかスコッチエッグが出てきて、“これ、家で作れるんだ”って驚きましたよ」
「それ、相当料理上手ですね???」
「だと思います。朝も結構手が込んでて、ピザトーストとか、オムレツとか、きのことほうれん草のソテーとか。ミルクリゾットもめちゃくちゃおいしかったです」
「それ、主婦でもやらないレベルじゃないですか。むしろやりたくない……」
「俺が学生だった頃なんて、勝手にパン焼いて食べていけスタンスでしたよ」
「大体そんなもんでしょ」
「その子、保護してくれた恩返し的なあれで、無理してません?」
「俺もそれちょっと思ってて、無理しなくていいって言ったんですけど……」
「けど?」
「本人曰く“お腹いっぱい食べていいって言われたので、食べたいものを作っています”って。なんで、多分、負担にはなってないと思います……」
「「「………………」」」
事務員とサイドキックが、揃って顔を覆った。
ヒーロー活動をしていると、どうしたって辛い現実と向き合わなければならないときがある。様々な現場で、悲惨な現実を目にしてきた。けれどやはり、子供が辛い目に遭っていたという事実は、彼等の心に重くのし掛かる。子供がいる職員も複数いるため、尚更である。
ああ、ホークスの保護した子供とやらは、お腹いっぱい食べることすら出来なかったのか。何それ、ちょっと今すぐ山盛りのご飯を届けたい。
「まぁ俺としても、鶏ガラみたいな腕とか見ると胸がぎゅっとするんで、食事に関しては完全に任せてます。今のところは本人も楽しそうですし、何もさせないって言うのも、精神的に落ち着かないでしょうし」
「鶏ガラ……」
「ああ、うん……。それがいいでしょうね……」
椿がお腹を押さえたとき、ぶかぶかの洋服がベコッとへこんだのは、ホークスのトラウマになりそうな光景だった。細い細いとは思っていたけれど、まさかあんなに細いとは思わなかったのだ。細いと認識している上で、更に着太りしていただなんて、そんな事実は知りたくなかった。
「ああ、そうだ。次の土曜日、
「構わんばい。ばってん、まちっと詳しか話ば聞かしんしゃい」
「そうですね。もうちょっと詳細を聞いておかないと、初手で悪印象を抱かれかねませんし」
「……あの子に嫌われるって、相当だと思うんですよね」
椿は相当心が広い。最後まで、散々痛めつけてきた母親のことまで慮っていた子供だ。彼女に嫌われる人間を、上手く思い描くことが出来ない。
「えっと、俺が保護したのは羽飼椿ちゃん、中学一年生の女の子です。個性は俺と同じ『剛翼』。母子家庭で、母親からの虐待を受けていたようです。食事もまともに与えられておらず、空腹に耐えられなくなったら頼み込んでお金を貰っていたとか」
「「「………………」」」
「今は綺麗に生え揃っていますが、剛翼を毟られたりしていたみたいです。保護するまでに何度か顔を合わせていたんですが、綺麗に生え揃っているのを見たのは、うちに来てからが初めてです」
「「「………………」」」
「他には、服や学用品なんかも揃えて貰えなくて、兄姉のいるご家庭に頭を下げてお下がりを貰っていたって話です」
「「「………………」」」
身体に残る痣から身体的虐待があったのは確実だ。家事や炊事を丸投げしていた上に、衣類や教科書の類いも与えられなかった。学用品を買い与えても、たいして懐が痛まない程度には、お金に余裕があるはずなのに。
他にも、病院に連れて行ってもらったことがないという発言から、ネグレクトが確定している。きっと、もっと他にもあっただろう。ようやく安寧を得られるようになったばかりで傷をえぐるのは憚られて、詳しい話は聞いていないが、ある程度の想像は付く。
カウンセリングに通わせる必要もあるだろう。けれど、辛い出来事を口にすることで、返って心に負荷を掛ける結果となることもあるから、慎重に動かなければならない。もう少し様子を見て、負担にならないようであれば病院に連れて行く算段を付ける。所謂“保健室登校”も視野に入れて、学校とも話し合わなければ。
「注意事項とかってあります? 大声出すつもりとかはないんですけど、大声が駄目とか。触れられること自体が駄目って子もいるじゃないですか」
「それが……今の段階では特に見受けられません。俺がたまたまトラウマに触れていないだけの可能性もありますけど」
「何もないのは逆に怖いなぁ……。でも、羽根を毟られていたって事なら、剛翼には触れない方が良いですよね? 背後に立ったり、後ろから声を掛けるのも止めておきます」
「そうしてくださると助かります」
少数精鋭で回すホークス事務所の面々。どのような方面でも有能で、頼りがいのあるメンツが揃っている。
そして、来る土曜日。想像よりも遙かに細く小さく見える女の子が現れたものだから、ホークス事務所は精神的ダメージにより一時壊滅状態に陥るのだが、それは少し未来の話である。
***
ホークス「もう少し詳しく話しますね」
サイドキック「まだ何かあると……!?」
ホークス「さっき、食事の話したでしょ? 椿ちゃん、初めのうちは固形物をあんまり受け付けなくて……。おかゆとかくたくたに煮たうどんが精一杯だったんですよ……」
事務員「ひぇ……」
ホークス「今は揚げ物も食べられるようになったんです。物凄い回復と進歩じゃないですか???」
事務員「よかった……よかった………」
ホークス「ええ、本当に。このまま鶏ガラを卒業してくれることを祈ってます」
***
事務員「待って。待って???」
サイドキック「ほっっっそ………!!!」
事務員「ホークスがオールマイトやエンデヴァーくらいムキムキに見えるんですけど、そんなことあります???」
事務員「体格差えぐい……!!!」
サイドキック「ご飯食べしゃしぇな……!!!」
ホークス「落ち着いてください。椿ちゃんが俺の後ろから出てこれなくなってるじゃないですか。あと、ご飯はしっかり食べてきましたから」
椿「あの、ホークス……」
ホークス「んー?」
椿「私、お邪魔だったのでは……?」
ホークス「んーん、大丈夫だよ。彼等には君の顔を知っておいて貰わないと、何かあったときに対処出来ないし。それは彼等も了承済みだよ」
椿「……そっか。彼等も、ヒーローですもんね」
ホークス「そうだよ。だから、何かあったときには、遠慮せず助けを求めてね」
椿「……はい」
「「「………………」」」
サイドキック「ホークスが保護者しとう……」
事務員「凄い……。ちゃんと保護者に見えますよ、ホークス」
ホークス「失礼すぎる。俺、一応ここの所長ですよ?」
椿「…………ふふ、」
ホークス「ちょっとー? 何笑ってるのー?」
椿「ふふふ、仲良いなって……。あったかい場所ですね」
ホークス「……そうかな」
椿「少なくとも、私にはそう見えます」
ホークス「……そっか」
***
ある日、椿を寝室に送り、自分もベッドに潜り込んだホークスは、綿羽が微かな音を拾っていることに気が付いた。どうやら心音のようで、とくとくと規則正しい音が聞こえる。椿が、自分の剛翼を抱えているのだと、すぐに気が付いた。
剛翼は切り離してしばらくすると、個性としての効力を失い、ただの赤い羽根になる。そうなった自分の羽根と勘違いしたのだろうか。
血を分けた妹とは言え、最近までお互いの存在を知らなかったほぼ他人同士。相手は多感な時期の女の子。些細な物音すら察知してしまう羽根が部屋にあるのは嫌だろう。さて、どうするべきか。
椿は羽根を握り込んでいるのか、その手から抜け出すのは難しそうだった。効力を失うまでそのままにしておくか、椿が寝入った頃に回収するか。どうしたものか、と考えているうちに、椿の呼吸が深くゆっくりしたものになる。
落ち着いた心音。ゆったりとした呼吸音。聴いているうちに、ホークスの瞼もゆっくりと落ちてくる。回収しないと、と思うのに、もう少しこのままでいたいとも思ってしまう。
いつ抜け落ちた羽根かは定かではないが、翌日まで効力が残るようなことはないだろう。自分も寝てしまえば問題ないか、とホークスは忍び寄ってきた夢の気配に身を委ねた。
ホークスが眠りに落ちてから、どれくらいの時間が過ぎただろう。ふと、剛翼がざわりと嫌な気配を感じ取った。
(…………なんだ?)
違和感を覚えて、ホークスが目を覚ます。まだ部屋は暗く、夜明けは遠い。
剛翼が音を拾っているのは、椿の部屋だ。荒い呼吸音、どくどくとはち切れんばかりの鼓動。震える手で、縋るように綿羽を握りしめる感覚。小さな羽根が掠れた声を拾った瞬間、ホークスは部屋を飛び出した。
「椿!」
ノックをするのも忘れて、ホークスが椿の部屋に飛び込む。椿はベッドにはいなかった。どこに、と視線を走らせると、クローゼットが中途半端に開いていた。クローゼットの扉に、赤い翼が挟まっている。自分より少し小さな剛翼が、微かに震えているのが見て取れた。
「…………椿ちゃん」
クローゼットの前にしゃがみ込み、そっと声を掛ける。椿からの返事はなく、ホークスは辛抱強く返事を待った。しばらくの沈黙の後、返事の代わりに、そろそろとクローゼットの扉が開いた。
椿は頭を抱えるようにして、身を縮込ませていた。典型的な防御姿勢を取る姿に、心臓が握りつぶされたような心地になった。きっとそうやって、理不尽な暴力をやり過ごしてきたのだ。
腕の間からホークスを伺う椿の瞳には、僅かな怯えの色が見える。ゆらゆらと揺れる瞳は、普段の力強い光を湛えた金色と同じものとは思えない。
焦点の合わない目に映るのは一体誰なのか。聞くまでもないことだった。
「…………何もしないから、そこから出てこない?」
「…………ホークス……?」
「そう、俺だよ。おいで」
ようやっと、椿と目が合う。そろそろと腕をおろし、ゆっくりと身を起こす。椿の白い顔は更に白く、血の気が引いていた。呼吸は荒いままで、握りしめられた剛翼から伝わる心音は、依然として早鐘を打っている。
―――――怖い夢を見たのだ。現実と区別がつかないくらいに、鮮明な夢を。
ホークスがそっと手を伸ばす。戸惑いがちに椿がその手を握り、恐る恐るクローゼットから抜け出した。そのまま、ホークスが椿を抱きかかえる。骨張った身体は恐ろしいほどに細く、ゾッとするくらい軽かった。
抱きかかえた身体は、酷く冷たい。微かに震える身体は、寒さではなく恐怖で身が竦んでいた。
抱えられた椿が、困惑したように眉を下げる。どうしていいのか分からないと言った表情で、ホークスの綿羽を握りしめている。身を預けることもせず、腕を回すこともせず、椿はただ身を固くしていた。
ホークスも、抱っこのされ方を知らない子供だった。彼女も自分と同じように、抱っこをされることなく大きくなった子供なのだ。だから、抱えられたとき、どうしていいのか分からずに動けなくなってしまう。
剛翼で包むようにして、身を預けさせる。ホークスに寄りかかることで安定した体勢にほっとしたのか、僅かに力が抜けたのが分かった。
椿を抱えたまま、ベッドには戻らず、部屋を後にする。そして自分の寝室に戻り、椿と共にベッドに潜り込んだ。
大きな翼を持つホークスでも持て余すほど大きなベッドは、同じ翼を持つとは言え、小柄な椿と一緒に寝転んでも余裕があった。冷えた身体をあたためるように胸に抱き寄せると、椿が伺うようにホークスを見上げた。
「ホークス……?」
「……今日は、一緒に寝よう。大丈夫、俺がついてるから。もう何も怖くないよ」
「………………」
腕の中で、椿が小さく頷いたのが分かった。そろそろと、小さな手がホークスの服を掴む。服を抓んだ指先が、きっと今の椿に出来る精一杯の甘えだ。
そうやって
こうやって二人は、少しずつ家族になっていく。
***
椿「…………聞いて貰ってもいいですか?」
ホークス「…………昨日の話?」
椿「……うん。夢を、見たんだ。母さんの夢を」
ホークス「……うん」
椿「私は、母さんのことをよく知らない。あの人がどうして心を壊してしまったのか」
ホークス「…………」
椿「でも、あの人にとって、私は負担で。より深く心を傷付けてしまう存在で……」
ホークス「…………」
椿「夢の中で、あの人に言われたんだ。“お前は人を不幸にするのが上手だ”と。“兄さんのことも、きっとお前が壊すんだ”と」
ホークス「………俺は、そんな簡単に壊れたりしないよ」
椿「そう、なんだと思う。あなたはきっと、とても強い人だから。でも、傷付かないわけではないだろう?」
ホークス「傷が付かないように受け流すことも出来るし、傷を癒やす術も知ってるよ。だから、心配要らない」
椿「心配は、させて欲しいなぁ……」
ホークス「なら、俺にもさせてね? クローゼットに隠れるくらいなら、俺のところにおいで。また、夜中に部屋に飛び込むことになるから」
椿「ふふふ、ごめんなさい。助けて貰えるの、初めてだから。もしかしたら、わざと隠れてしまうかもしれない」
ホークス「そっか。なら、それでもいいよ。何度でも、助けに行くから」
椿「うん。ありがとう、ヒーロー」
